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三章・いきなりですが冒険編
せいじょ
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わたしは いつものように、悪友と一緒に館でお茶をしている。
しかし、いつもと違うのは、悪友の方がお茶菓子を持参してきたことだった。
「お疲れ様。これ、下町のケーキ屋の新作よ。甘いもの食べて、長旅の疲れを癒やしなさい」
そう、いきなりの報告だが、わたしは長い旅をして帰ってきたところなのだ。
「いやー、ホント きつかったわ。
大魔王討伐の旅なんて、温室育ちの公爵令嬢のすることじゃないわね」
何気なく さりげなく 大魔王討伐の自慢をすると、悪友はあきれ顔で、
「あんた 一人で討伐したわけじゃないでしょうに」
「まあ、中隊長さんとか勇者の童貞オタク兄貴とか、仲間がいたけどさ」
悪友は好奇心で瞳に輝かせて、身を乗り出してくる。
「それで、大魔王討伐の旅はどんな感じだったの? 詳しく教えてよ」
「そうねぇ。まずは、わたしが女神に聖女にされたことから話そうか」
わたしは悪友に、旅の物語を話し始めた。
わたしが聖女になったのはこんな感じだった。
館の庭で、一人でアンニュイな午後ティーをしていたとき、その人物は現れたのだった。
「愛と美と正義の女神! ここに 見んんんんん参!!」
ビシッ! と いう感じの擬音でも付きそうなポーズをとって 名乗りを上げたのは、十歳くらいの女の子だった。
ロリコンが大喜びしそうな 美少女だった。
なにごとなのかと、私はポカンとしたけど、少しして理解した。
「ああ、ごっこ遊びね。
こら、ここは勝手に入っちゃダメなのよ。友達のみんなと遊んでなさい」
わたしはその子を抱っこすると、門の所へ運ぼうとした。
「こ、こら! 放さんか! 私を誰だと思っている!?」
ジタバタと暴れて抗議する女の子に、わたしはやんわりと答える。
「ごっこ遊びをしている子供でしょ。でも、人のお家に勝手に入っちゃダメなの。さあ、友達のところに行きなさい」
「私はホントに女神なのだ!」
女の子は強引に わたしの腕から離れると、背中から光り輝く一対二枚の白い翼が現れた。
「ええぇ!? 貴女 ホントに女神なの?!」
驚くわたしに、女神は憤慨した。
「だから そう言っているであろう!」
そして女神は威厳たっぷりに、
「このエレガントで美しく神々しい姿をよく見るのだ。まさに愛と美と正義の女神そのものではないではないか」
「ロリコンが喜ぶ姿にしか見えません」
「失礼な奴だな貴様!」
「それで、その女神さまが わたしに何の用でしょうか?」
「無礼者に神罰を与えに来たと言ってやりたいが、それだと話が進まないので、さっさと用件を言ってしまおう。
おまえには本日付けで せいじょ になって貰う」
「せ、せいじょ!?」
驚愕する私に、女神は得意気に、
「ふっ、感激しているようだな。まあ、無理もない。この愛と美と正義の女神である私に、せいじょに選ばれたのだからな」
「せいじょ というのはどっち意味の せいじょ ですか?!
聖なる女の聖女なのか!? 男どもの性処理をする性女なのか!?」
女神は納得したように、
「うむ、さすがは前世で18禁同人誌作家をしていただけのことはある。せいじょという言葉にお下劣な下ネタを突っ込んでくるとは。
安心せい。聖なる女の聖女だ」
わたしは感激のあまり涙する。
「ありがとうございます、女神さま。わたしの清く正しくビューティホーな身と心を認め、世界中のみんなから崇拝され ちやほやされる、一生安泰な暮らしを保障してくださり、感謝 感激 雨あられ」
女神は心底 あきれた顔で、
「そこまで都合の良いことを、最初に思いつく貴様を、聖女にして良いものかどうか悩みどころだが、しかし貴様しか、今回のことを解決できそうな人材がおらんしな」
「解決って、わたし なにかしないといけないんですか?」
「当たり前だ。聖女とは世界を救済する者のことだ。だからおまえに世界を救って貰う」
なるほど。
わたしにしかできないことと言えば一つしかない。
「つまり、わたしのマンガで世界中の人々を感動の渦に巻き込むとか、そういう感じのことですね」
「大魔王 討伐だ」
「全力で断らせていただきます」
「貴様、一秒もかけずに断りおったな」
こめかみに血管が浮かんでいる女神さまに、わたしはブンブンと首を振る。
「いやいやいや。大魔王討伐なんて無理に決まってるじゃないですか。わたし 温室育ちの公爵令嬢ですよ。そんなこと勇者やってる童貞オタク兄貴にやらせれば良いじゃないですか」
「あのダメ勇者一人では勝てぬ相手なのだ」
わたしは怪訝に、
「勝てないって? 魔王なら兄貴が一度 倒したじゃないですか」
「魔王ではない。倒して貰いたいのは、大魔王だ。魔王と大魔王は別だ。そして大魔王は魔王よりレベルは上なのだ。
しかも大魔王は魔王も復活させ配下に加えた。
勇者も苦戦した魔王と、その魔王より強い大魔王。ハッキリ言って勇者一人では勝ち目がない。
だから貴様に、大魔王討伐パーティーを編成して貰い、大魔王討伐の旅をしてもらう。
理解したか?」
なるほど。
事情は理解した。
ならば わたしの返事は決まっている。
「断固拒否の構えで」
女神は嘆息して、
「しかたがない。貴様がどうしても断るというなら……」
「断るというなら?」
「王子に陵辱されたのが大嘘だったことを全世界にバラす」
「あんたホントに女神なのかー!?」
こうして悪役令嬢は聖女になりましたとさ。
しかし、いつもと違うのは、悪友の方がお茶菓子を持参してきたことだった。
「お疲れ様。これ、下町のケーキ屋の新作よ。甘いもの食べて、長旅の疲れを癒やしなさい」
そう、いきなりの報告だが、わたしは長い旅をして帰ってきたところなのだ。
「いやー、ホント きつかったわ。
大魔王討伐の旅なんて、温室育ちの公爵令嬢のすることじゃないわね」
何気なく さりげなく 大魔王討伐の自慢をすると、悪友はあきれ顔で、
「あんた 一人で討伐したわけじゃないでしょうに」
「まあ、中隊長さんとか勇者の童貞オタク兄貴とか、仲間がいたけどさ」
悪友は好奇心で瞳に輝かせて、身を乗り出してくる。
「それで、大魔王討伐の旅はどんな感じだったの? 詳しく教えてよ」
「そうねぇ。まずは、わたしが女神に聖女にされたことから話そうか」
わたしは悪友に、旅の物語を話し始めた。
わたしが聖女になったのはこんな感じだった。
館の庭で、一人でアンニュイな午後ティーをしていたとき、その人物は現れたのだった。
「愛と美と正義の女神! ここに 見んんんんん参!!」
ビシッ! と いう感じの擬音でも付きそうなポーズをとって 名乗りを上げたのは、十歳くらいの女の子だった。
ロリコンが大喜びしそうな 美少女だった。
なにごとなのかと、私はポカンとしたけど、少しして理解した。
「ああ、ごっこ遊びね。
こら、ここは勝手に入っちゃダメなのよ。友達のみんなと遊んでなさい」
わたしはその子を抱っこすると、門の所へ運ぼうとした。
「こ、こら! 放さんか! 私を誰だと思っている!?」
ジタバタと暴れて抗議する女の子に、わたしはやんわりと答える。
「ごっこ遊びをしている子供でしょ。でも、人のお家に勝手に入っちゃダメなの。さあ、友達のところに行きなさい」
「私はホントに女神なのだ!」
女の子は強引に わたしの腕から離れると、背中から光り輝く一対二枚の白い翼が現れた。
「ええぇ!? 貴女 ホントに女神なの?!」
驚くわたしに、女神は憤慨した。
「だから そう言っているであろう!」
そして女神は威厳たっぷりに、
「このエレガントで美しく神々しい姿をよく見るのだ。まさに愛と美と正義の女神そのものではないではないか」
「ロリコンが喜ぶ姿にしか見えません」
「失礼な奴だな貴様!」
「それで、その女神さまが わたしに何の用でしょうか?」
「無礼者に神罰を与えに来たと言ってやりたいが、それだと話が進まないので、さっさと用件を言ってしまおう。
おまえには本日付けで せいじょ になって貰う」
「せ、せいじょ!?」
驚愕する私に、女神は得意気に、
「ふっ、感激しているようだな。まあ、無理もない。この愛と美と正義の女神である私に、せいじょに選ばれたのだからな」
「せいじょ というのはどっち意味の せいじょ ですか?!
聖なる女の聖女なのか!? 男どもの性処理をする性女なのか!?」
女神は納得したように、
「うむ、さすがは前世で18禁同人誌作家をしていただけのことはある。せいじょという言葉にお下劣な下ネタを突っ込んでくるとは。
安心せい。聖なる女の聖女だ」
わたしは感激のあまり涙する。
「ありがとうございます、女神さま。わたしの清く正しくビューティホーな身と心を認め、世界中のみんなから崇拝され ちやほやされる、一生安泰な暮らしを保障してくださり、感謝 感激 雨あられ」
女神は心底 あきれた顔で、
「そこまで都合の良いことを、最初に思いつく貴様を、聖女にして良いものかどうか悩みどころだが、しかし貴様しか、今回のことを解決できそうな人材がおらんしな」
「解決って、わたし なにかしないといけないんですか?」
「当たり前だ。聖女とは世界を救済する者のことだ。だからおまえに世界を救って貰う」
なるほど。
わたしにしかできないことと言えば一つしかない。
「つまり、わたしのマンガで世界中の人々を感動の渦に巻き込むとか、そういう感じのことですね」
「大魔王 討伐だ」
「全力で断らせていただきます」
「貴様、一秒もかけずに断りおったな」
こめかみに血管が浮かんでいる女神さまに、わたしはブンブンと首を振る。
「いやいやいや。大魔王討伐なんて無理に決まってるじゃないですか。わたし 温室育ちの公爵令嬢ですよ。そんなこと勇者やってる童貞オタク兄貴にやらせれば良いじゃないですか」
「あのダメ勇者一人では勝てぬ相手なのだ」
わたしは怪訝に、
「勝てないって? 魔王なら兄貴が一度 倒したじゃないですか」
「魔王ではない。倒して貰いたいのは、大魔王だ。魔王と大魔王は別だ。そして大魔王は魔王よりレベルは上なのだ。
しかも大魔王は魔王も復活させ配下に加えた。
勇者も苦戦した魔王と、その魔王より強い大魔王。ハッキリ言って勇者一人では勝ち目がない。
だから貴様に、大魔王討伐パーティーを編成して貰い、大魔王討伐の旅をしてもらう。
理解したか?」
なるほど。
事情は理解した。
ならば わたしの返事は決まっている。
「断固拒否の構えで」
女神は嘆息して、
「しかたがない。貴様がどうしても断るというなら……」
「断るというなら?」
「王子に陵辱されたのが大嘘だったことを全世界にバラす」
「あんたホントに女神なのかー!?」
こうして悪役令嬢は聖女になりましたとさ。
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