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二章・色々な日々

正座

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 わたしたちはムーンキャッスルの中を進む。
 入り口の方では、中隊長さんが戦っている音というか、男たちの悲鳴が聞こえるが、どうやら中隊長さんが優勢の様子。
 安心して任せられそうだ。
 そして わたしたちが二階に上がると、そこにいたのは、
「待っていたわ」
 不敵な笑みを浮かべた悪友だった。
 なぜ この女がここに?
「あんた まさか!?」
「そう、そのまさかよ。私は賢姫さまに付かせてもらったわ」
「どういうつもりなの?! 招集に応じないと思ったら賢姫さまに付いたなんて!? もうご飯 食べさせてあげないわよ!」
「ふふふ。実は賢姫さまから百年分のお食事券を提示されたの。つまり、もうあんたにペコペコ 頭を下げなくても 飯にありつけるってわけ!」
「この恥知らず! 今までタダ飯食わせてやった恩を忘れるなんて!」
「ふん! なんとでも言いなさい! 恩よりも実よ! 百年分のお食事券のために、ここは通さないわよ!」
 そして悪友はボクシングのファイティングポーズをとった。
 ならば こっちは、
召喚サモン! ツインメスゴリラ!!」
「「ヌゥウウウン!!」」
 二人の屈強なゴリラクリソツの双子の女性を前に出した。
「お嬢様、ここは私たちにお任せください」
「恩知らずなど、捻り潰してくれましょう」
 おお!
 実に頼もしい。
「任せたわよ!」
 そして悪友は、なんか顔をみるみる内に青くして、
「え? その二人が相手なの? どう頑張っても あたし勝ち目ないんだけど」
 わたしは無視して、
「やっちゃって!」
「「ヌォオオオオオ!!」」
「ひぃいいいいい!」


 三階に到着した わたしたちを待っていたのは、
「うふふふ。ここを通すわけにはいかないわ」
 公爵令嬢さんだった。
「どうして貴女がここに?」
「実は賢姫さまに、このホテルのスペシャルスィートルームのチケットをプレゼントされましたの。貴女と一緒に甘い夜を一晩って。
 さあ、わたくしと一緒に来てくださるかしら。じっくりと女同士の良さを教えてさしあげますわ」
 ヒロインちゃんが前に出た。
「ここは私に任せてください」
 おお!
 ヒロインちゃんも頼もしい。
「任せたわ!」
 公爵令嬢さんは拳を構えてファイティングポーズをとり、怒りの声で、
「貴女、遊園地のときはよくもボディブローを三発も入れてくれましたわね。彼女を手に入れるチャンスだったのに。あの時の恨み、晴らさせていただきますわ」
 そしてヒロインちゃんも、なんか怒りの声で、
「私より出番が多いからって調子に乗らないでくれますか。貴女はズーレーでキャラが立ってるから使えますけど、私は個性がないから使いづらいって理由で、出番が少ないんです。だからここで貴女を始末して私の出番を増やします」
 なんかメタ発言してるけど、実に頼もしい。
 わたしはヒロインちゃんに任せて最上階へ向かった。
 それにしても今回のエピソード、メタ発言が多いわね。


 わたしは最上階のイニシャル・エス・エムのルームに突入した。
「うふふふ。来たわね」
 賢姫さまは女王様の笑みで待ち構えていた。
 その足下には亀甲縛りされた童貞オタク兄貴。
「マイシスター! 助けに来てくださったか!」
 わたしは賢姫さまに、
「賢姫さま! 勇者を解放してください!」
「そうは行きませんわよ。この方を調教して私の豚奴隷にするのですもの。そのために この部屋の料金は三日分 前払いしたのですから、その間はきっちりと調教させていただきますわ」
「無理矢理なんて真のイニシャル・エス・エムではありません。イニシャル・エス・エムは愛と信頼関係があってこそです!」
「ならば わたくしからこの方を奪ってみなさい。貴女の愛を確かめさせていただきますわ」
「いえ、イチミリたりとも愛してはいませんが」
 そこのところはハッキリさせとかないとね。
 賢姫さまは疑念の声。
「……ハ?」
「ハ? って、なにを疑問に思ったんですか?」
 賢姫さまは首を傾げ、
「あなた、勇者さまを愛しているから助けに来たのではなくて?」
「いえ、勇者が豚奴隷になると気持ち悪いので助けに来ただけで」
 賢姫さまは怒りの表情になり、
「愛してもいないのに来たというのですか!?」
 わたしはちょっと怖くて後退りして、
「だって、兄貴をこれ以上 変態にされるわけには。実の兄が豚奴隷っていうのは妹としてきっついです」
 賢姫さまは愕然として、
「兄!? 妹?! 勇者さまと貴女は兄妹ですの!?」
「そうですけど」
 賢姫さまは体をわなわなと震わせて、
「なんということですの。兄妹で愛し合うなんて……そんなの変態ですわ!」
「いや おまえが変態とか言うな」
「ますます貴女に勇者さまを渡すわけにはいきません。勇者さまをわたくしの豚奴隷にして、禁断の兄妹愛から救わねば」
 賢姫さまはムチを構えた。
「さあ、かかってきなさい!」
 わたしも戦闘態勢をとる。
「いざ!」
「尋常に!」
「「勝負!!」」


 そして、わたしたちは みんな 一列になって正座している。
 わたしも正座。
 中隊長さんも正座。
 正統派ヒロインちゃんと公爵令嬢さんは、お互い顔を腫らした状態で正座。
 悪友は顔を腫らしているだけではなく、服もボロボロになっている状態で正座。
 ツインメスゴリラは顔があまりに男らしいのでなにを考えているのかわからないが、それでも正座。
 十三人の黒服の男たちも神妙に正座。
 そして賢姫さまも気まずそうに正座。
 とにかく みんな正座。
 そして正座しているわたしたちの前にいるのは、ラブホの管理人のおばさん。
 おばさんは怒りを押し殺したムスッとした表情で、
「あんたたちが大騒ぎしてくれたせいで、部屋を借りてる人たちから、ものすごい苦情が来てるんだよ」
 全ての原因の賢姫さまが脂汗を流しながら、
「えっと、なんというか、すみません」
「ホテルからだけじゃなくて、近所からまで苦情が来たんだけどね」
「ホント すみません」
「賢姫さん、どういうことなのか説明してもらえるかい。この部屋 借りて、勇者さんを縛った状態で連れてきたとき、あんた あたしに、そういうプレイだって言ってたよね」
「いや、あの」
「合意無しでやるのは犯罪なんだよ。そのへんわかってるのかい」
「えっと、その」
「とにかく、ここまで大事になったら、ホテルの信用に関わるから、警察に通報するよ」
「ええっ!? 警察を呼ぶのですか?!」
「あたりまえだろ。偉い人だからってただで済ますわけにはいかないんだよ。言い訳は警察でするんだね」
「いや 待って! そんなことされたら わたくし 国に強制送還されてしまいますわ!」
「自業自得だね」
 
 
 こうして、ラブホの管理人のおばさんの通報で警察が到着し、わたしたちは事情聴取を受けることになった。
 結果、賢姫さまはお国へ強制送還。
 勇者は助かった。


 ……でも……


 お茶会にて。
「噂を聞きましたわよ。貴女、勇者さまを巡って、賢姫さまと恋の闘いを繰り広げたのですって」
「なんでもラブホテルに突入したとか。しかもイニシャル・エス・エムのルーム」
「まぁー、イニシャル・エス・エムのルームですって。わたくし そんな汚らわしいところになんて とても入れませんわ」
 貴族令嬢さんたちが わたしに皮肉を言いまくってる。
「いや、あの……」
 わたしが言い訳を考えている間にも、
「そんな特殊な所に簡単に入れるなんて、やっぱり経験者は違いますわね」
「それに、中隊長さんに気があるそぶりを見せておきながら、勇者さまにもなんて」
「貴女、王子と結構 楽しまれていたのではなくて?」
「「「オホホホホホ」」」
 すさまじい皮肉。
 なんかあれ以来、お茶会に誘われる回数が増えて、みんな私の話を根掘り葉掘り聞くんだけど、それがなんか皮肉っているというかなんというか。
 っていうか、いつまでこれ続くんだろう?
 あの変態童貞オタク兄貴のせいでー!!


 なんか世間的な立場が悪くなったとか。
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