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二章・色々な日々

ムーンライトキャッスル

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 拙者、勇者でござる。
 賢姫殿が隣に座ってなんか話しているでござる。
「勇者さま。北方の国に広がる森の木々は万年緑樹で、冬も緑を生い茂らせているのですわ。きっと今も素敵な景色なのでしょうね。いつか二人で見に行きたいですわ」
「……そうでござるか」
 現在の状況を説明するでござる。
 拙者が目を覚ますと、三角木馬とか拘束具とか色々ある、年齢制限に抵触する部屋で、縛られた状態でござった。
 犯人は賢姫殿。
 ヤバいでござる。


 悪役令嬢の わたしはいつものメンバーに招集をかけ館に集まって貰った。
 集まったメンバーを紹介しよう。
 中隊長さん。
 正統派ヒロインちゃん。
 ツインメスゴリラ
 悪友は来なかった。
 あの女、緊急事態だってのに連絡も返さないで。
 今日はご飯抜きね。


 中隊長さんが戸惑っているというか、事態がまるで理解できてないようで、
「あの勇者がピンチとはどういうことだい?」
「これを見てください」
 わたしがみんなにみせたのは、賢姫さまからの挑戦状。


 どちらが勇者のご主人様にふさわしいか勝負。
 ムーンライトキャッスルにて待つ。


 説明しよう。
 ムーンライトキャスルとは、夜になるとライトアップされ幻想的な雰囲気を醸し出すお城。
 ようするにラブホ。
 イニシャル・エス・エムのルームがあることで有名。


「賢姫さまは本気で変態勇者を豚奴隷にするつもりなんです」
 中隊長さんは理解できないようで、
「勇者を豚奴隷にするとはどういう意味だい?」
「卒業式のとき、王子がわたしにしたことを みんなに言いましたよね。それと同じことをするつもりなんです」
「なんだと!? 勇者は賢姫さまにそんなことをするつもりなのか! なんというやつだ! 君を巡るライバルだとはいえ、魔王を倒した勇者だから、それなりに認めてはいたというのに、そんな下劣な男だったとは! 見損なった!」
「違います。逆ですよ、逆」
「逆?」
「賢姫さまが勇者にするんです」
 中隊長さんはやはり理解できないように首を捻る。
「……え?」
「だから、女の賢姫さまが男の勇者を快楽調教して豚奴隷にするんですよ」
 それでも中隊長さんは首を何度も捻って、
「……え?……いや、え?」
「あー! もう! わからなくて良いです! とにかく変態勇者を助けに行きますよ! 
 いくら変態とはいえ 兄は兄です。実の妹と禁断の、エス!イー!エックス! をしたがる変態が豚奴隷になったら救いようがありません。
 これ以上 変態になる前に救出しないと!」
「ちょっと待ってくれ。女が男を陵辱するということも理解できない上に、君とあの勇者が兄妹という事実も理解できないのだが。というか、今 初めて聞いたのだが」
「そんなこと どうでもいいんですよ! わたしだって好きであの変態の妹やってるわけじゃないんですから! とにかく助けに行きますよ!」


 ヒロインちゃんが手を上げる。
「ハイ!」
「どうしたの? ヒロインちゃん」
「私も参戦させていただけるんですよね?」
「もちろんよ。戦力は一人でも多い方が良いからあなたを呼んだの」
「ありがとうございます。わたし なんだか全体的に出番が少なくて、このまま忘れ去られてしまうんじゃないかって怖かったんです。張り切って頑張らせていただきます」
「メタ発言になってるけど、意気込みだけは伝わってくるわ。頑張ってちょうだい」


 そして わたしたちは出陣した。


 わたしたちはムーンライトキャッスルに到着。
 しかし、外の入り口で待ち構えていたのは、十三人の屈強な黒服の男たち。
 最上階の窓には賢姫さま。
 女王様スタイルで。
 繰り返そう。
 女王様スタイルだ。
 具体的には各々想像してください。
 知らない人は調べてください。
 ただし未成年者は調べちゃダメ。
「オーホッホッホッ! 待っていたわ! やはり愛しの勇者さまを助けに来たようね!
 勇者さまはわたくしと一緒に最上階の部屋にいるわ! だけど  それぞれの階には わたくしの配下の者が待ち構えている! それを倒さなくては最上階に到達することはできない! 最初はわたくし直属の部下たち!
 さあ! あなたはここまでたどり着くことができるかしら!?」
 黒服の男たちは筋肉ムキムキ。
 それが十三人も。
 さあ、どうする?
 中隊長さんが前に出た。
「ここは俺に任せて先に行ってくれ」
 おお!
 頼もしい。
 中隊長さん、スーパーイケメンです。
「頼みました! さあ! みんな 行きますよ!」
 わたしたちは中隊長さんに任せてムーンライトキャッスルへ乗り込んだ。


 俺は彼女たちが城に入ったのを見届けると、剣を抜いた。
 黒服の男たちの人数は十三人。
 自分一人では勝ち目はないだろう。
 しかし彼女のために俺は最後まで戦い抜いてみせる。
「さあ、かかってこい!」
 俺が啖呵を切ると、黒服の男たちは、
「「「ヒイッ!」」」
 なぜか怯えて後ずさった。
 俺は少し戸惑ったが もう一度 啖呵を切る。
「どうした? かかってこい!」
 黒服の一人がおどおどしながら、
「いや、かかってこいって、あなた 剣を持ってるじゃないですか」
「それがどうした?」
「私たち 素手なんですよ」
 ……え?
「素手って、なにも武器を持っていないのか?」
「賢姫さまの命令で、男は黙って素手喧嘩ステゴロだと」
「……そうか」
 俺は迷わず男たちに斬りかかった。
「「「ひいぃいいい!!!」」」
 男たちは逃げ回り始め、降伏させるのに さしたる時間はかからなかった。


 なんか簡単に最上階に行けそうな感じ。
 盛り上がらないなぁ。
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