悪役令嬢に転生した18禁同人誌作家は破滅を回避するために奮闘する

神泉灯

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二章・色々な日々

トライアスロン

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「さあ! 始まりました! 勇者VSエリート中隊長の童貞対決!
 愛しの彼女に童貞を捧げることができるのはどちらか!?
 解説は第一王女の私がお送りさせていただきます」
 十二歳のツインテール王女さまがノリノリでマイクを手に解説している。
 場所は王国競技場。
 国王さまが場を納めるために、勝負を仕切ると言って、この競技場を使うことになった。
 そして貴賓席に わたしが座ることに。
 この試合の景品みたいな者だから当然だろうけれど、王妃さまのお隣の席ってのは勘弁して欲しい。
 緊張する。
 変な汗が出る。
 だって、この人の息子さんが修道院に入った原因って私だし。
 しかもその理由 大嘘だし。
 でもって禁断の兄弟愛に目覚めちゃってるし。
 王妃さまは わたしに慈しみの微笑みを向けている。
「うふふふ。愚息のせいで貴女に辛い思いをさせてしまいましたが、貴女を幸せにしたいとする殿方が二人もいて、安心できました」
「そ、そうですね、ホント」
 なんかこの人の微笑み、真実を見透かされているみたいで怖いんですけど。
 バレてないよね?


 王女さまが大勢の観客の前でマイクを片手に実況している。
「さぁー! みなさんが気になる勝負方式はぁー……ダラララララ……ダン!
 トライアスロン!
 国王こと私の父が、勇者相手に剣での勝負は話にならない。そこで、アスリート競技によって決めよとの言葉で勝負方式が決定した!
 これならばエリート中隊長にも勝算はありそうだ!
 さて、競技開始前に選手にインタビューしてみましょう。
 中隊長さん、相手は勇者ですが、勝算のほどは?」
「相手が勇者であろうと彼女への愛は誰にも負けない! 彼女を幸せにするのは、この俺だ!」
「燃えています! エリート中隊長さん! 愛しの彼女への愛で燃えさかっています! 実にイケメンです!
 次に勇者にインタビューしましょう。
 勇者さま、意気込みのほどをお聞かせください」
「愛しのマイシスターとおせっくしゅするのは拙者でござる!!」
「ストレートすぎます! 欲望丸出しです! 聞いただけで耳が汚れそーです! この人 ホントに勇者なんでしょーかー!?」


「さて、トライアスロンの内容を簡単に説明しましょう。
 水泳、一・五キロ。
 自転車、四十キロ。
 長距離走、十キロ。
 以上の順番で行い、一着が勝利者となります。
 さあ、スタートラインに両者並びました。
 愛しの彼女に童貞を捧げることができるのはどちらか!?
 今! 男の戦いの火蓋が切って落とされる!」


 競技場の屋内にある大型プールで水泳が行われ、競技場の大型スクリーンにその様子が映し出されている。
 っていうか、なんでファンタジーな世界なのに、当然のようにマイクとかスクリーンとかあるんだろう?
 まあ、そんなことどうでも良い。
 今は勝負の行方だ。
 中隊長さん、お願いですから勝ってください。
 わたし、近親相姦なんて嫌ですからね。
 処女膜の再生完了時期になったら、童貞 受け取ってあげますから。


「両者、同時にプールに飛び込みました。
 双方 なかなか達者な泳ぎです。
 しかし勇者 わずかに遅れている模様。
 エリート中隊長さんが優勢のようだ。
 二人の距離が少しずつだが確実に開いていく。
 お父様、これはどう思われますか?」
「うむ。ターンの時に特に顕著に差が出るが、どうやら勇者殿はターンがやや苦手のようだ。水泳の訓練を正式に受けたことがないのだろう。
 しかし、我が王国軍は鎧を着込んだ状態での水泳訓練を行っておる。
 あの若き中隊長もしかり。
 勇者の方が基礎体力はあるが、中隊長の水泳技術はそれを上回っておるのだな」
「なるほど。お父様、解説ありがとうございます」
 っていうか、国王さまもなにやってるんですか。
 王女さまが、
「おっと! 中隊長さん、勇者に半周の差を開けてプールから上がり出た! そのまま屋外に走り自転車に乗る!
 勇者! 遅れてプールから上がった! 屋外に出て自転車に乗った! しかし中隊長さんに大きく後れを取ってしまったぞ! 中隊長さんに追いつけるのか!?
 ここからは個別に追跡車が追います。二人の様子をスクリーンでご覧ください」
 スクリーンが画面分割されて二人の様子を映し出す。
「おぉっと! 勇者! 速い! 速い速い! すさまじい勢いだ! 水泳での遅れを取り戻すかのように勢いよくペダルを立ちこぎしている!
 それに引き換え、中隊長さんはややのんびりとしたペースというか、座ってペダルをこいでいますね。お父様、これはどういうことでしょう?」
「体力の配分の問題だ。
 トライアスロンは競技全体に使う体力の配分が重要なのだ。
 自転車の次には長距離走が控えておる。だから下半身への負担を軽減するために、座った状態でペダルをこぐのだ。
 しかし、そのことは勇者もわかっておるはず。
 水泳の時を注意して観ておればわかったことだが、二人とも基本的に足を使わずに泳いでおった。
 これは後に足腰への負担が増えることから、下半身の体力を温存していたのだ。
 だが勇者は今、立ちこぎという下半身への負担が大きくなることをしておるな。
 後に長距離走があるというのにだ。
 わかった上でやっておるとなると、なにか秘策があるやもしれぬな」
「なるほど。欲望丸出しとはいえ仮にも勇者。何かあると考えるのが自然でしょう」


 そうしているうちに、童貞オタク兄貴が中隊長さんを追い抜いた。
「フハハハハハ! マイシスターに童貞を受け取ってもらうのは拙者でござる! 貴殿はのんびりしているうちに寝取られるが良い!」
「クッ! その余裕、やはりなにか策があるのか。だが勝つのは俺だ! 貴様に勝利して彼女に童貞を捧げてみせる!」
 中隊長さんも立ちこぎを始めた。


「おおっと! 中隊長さんも立った! お父様これはいったい!?」
「勇者相手に体力の配分を考えてはいられないと賭に出たのだろう。しかし、これは危険が大きい。
 勇者は秘策があるようだが、中隊長のほうは無謀でしかない。
 この勝負、勇者の勝ちだ」
 ……マジで?
 ちょっと待ってよ。
 このままだと前世の実の兄の童貞を受け取るハメになるわけ?
 冗談じゃない!
 私 近親相姦に喜ぶ変態じゃないからね!
 ……あ、そうだ。
 逃げれば良いじゃん。
 なーんだ、逃げればいいんだ。
 逃げれば、実の兄の童貞なんて受け取らずに、万事解決。
 それじゃあ 早速 お花を摘みに行くとでも言って……
「いけませんよ」
 王妃さまがにっこり笑顔で言った。
「……あの、王妃さま? わたし まだなにも言ってませんよ」
「ええ、そうです。貴女がなにか言う前に釘を刺しました。いけませんよ」
 と、にっこり笑顔。
 この人、やっぱり見抜いてるんじゃ?


「「「オオォオー!!!」」」
 突然、観客たちが声を上げた。
 なに?
 よそ見している間に なんか起こったの?
 実況の王女様が解説してくれた。
「なんとぉ! パンクです! 勇者の自転車の前輪がパンクしてしまいました!」
「うーむ、これは完全に不測の事態であるな。
 トライアスロンでは自転車競技の際、車体修理も自分で行わなければならぬ。基本的な修理機材は自転車に積んであるが、修理している時間、レースが中断されるわけではない。そのまま続行となる。
 これは勇者、中隊長に大きく引き離されるぞ」
「勇者の勝利かと思われたが、幸運は中隊長さんに味方した!
 しかし! 勇者には秘策がある模様!
 レースの行方はまだわかりません!
 勝つのはどっちだ!?」


 ホントにどっちが勝つの?
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