13 / 94
二章・色々な日々
マイシスター
しおりを挟む
勇者がこの国に来るそうだ。
勇者。
五年前のこと、魔王が現れ、魔王軍の世界征服が始まったが、どこからともなく現れた勇者が単独で魔王を討ち滅ぼした。
勇者は英雄として世界中で称えられ、現在も魔物退治の旅を続けているという。
その勇者がこの国に来る。
そして わたしに会いたいというのだ。
なんと、勇者は わたしの描いたマンガのファンなのだそうだ。
それで作者に是非とも直接 会いたいと、この国に来るという。
感激だ。
勇者さまが わたしのマンガのファンだなんて。
王宮にて皆が揃う中、王さまに呼ばれた わたしも出席する。
勇者さまかぁ。
どんな人なんだろう?
わたしの隣にいる中隊長さんが、
「勇者に興味があるのかい?」
「もちろんです。魔王軍を単独で打ち破った、現代の生きる伝説。そんな人が わたしのマンガのファンなのですから」
「勇者様のご到着です」
勇者さまの登場を知らせる声。
そして現れたのは……
なんか平凡な容姿の男の人だった。
中肉中背の冴えない二十代後半くらいの男の人。
いえ、人は見かけによらない。
勇者なんだからきっと素晴らしい人のはず。
その勇者さまは国王さまにいきなり質問した。
「七つの竜の玉を集める話を描いている作者はどこにおられるでござるか?」
「そ、そこにおるが……」
わたしを示す国王さまも、ちょっと面食らったような感じ。
その勇者さまは わたしに視線を向けた途端、クワッ! っと表情が豹変し、
「見つけたでござる!」
ダダダ! と わたしのところへ走ってくる。
「ええ?! なに!? なになになに?!」
わたしのところに来た勇者は、そのまま わたしを抱きしめた。
「会いたかったでござるよ!」
「ちょっと!? なにをするんですか?! いくら勇者さまでも失礼でしょう! 国王さまもおられるのですよ!」
勇者は わたしを放すと、引くぐらいの歓喜の笑顔で、
「マイシスター!」
……え?
今の英語?
「勇者さま、どうしてあなたがその言葉を?」
「拙者でござる! 拙者でござるよ マイシスター! 愛しの兄でござる!」
今度は日本語でそう言う勇者。
兄って……まさか……
「童貞オタク兄貴?」
「そうでござる! そのとおりでござる! 愛しの兄でござる! 会いたかったでござるよ マイシスター!」
マジかよ。
悪友に続いて童貞オタク兄貴まで転生してたなんて。
「でも、なんで わたしだってわかったの? 前世とは容姿が全然 違うのに」
「勇者の力のおかげでござる。勇者の力は魂を見通すことができるでござる。だから愛しのマイシスターを見つけるために勇者の力を手に入れたでござる」
「魔王を倒すためじゃないの?」
「それはついで でござる」
ついで で魔王は倒されたのか。
「七つの竜の玉を集める話と聞いて、作者も転生者に違いないと思ったでござる。そして それが もしかするとマイシスターかもしれないと、この国に来たでござるよ。願いは神に届いたでござる!」
童貞オタク兄貴は わたしの前に跪くと、わたしの手を取り、
「さあ、愛しのマイシスター。拙者の童貞を受け取ってくだされ」
「いきなり何言い出すのよ!? この変態アホ兄貴!」
「拙者は前世の心残り、愛しのマイシスターと禁断の初体験を果たすために転生したでござる。
そのためにWEB小説とかでよくある転生物に全ての希望をかけて童貞を守ったのでござる。
そして 愛しいマイシスターと再会するために、愛の力で二十三回 転生したでござる」
「二十三回?! あんた二十三回も転生したの?!」
どういう執念よ!
「そのとおりでござる。その全てで童貞を守ったでござるよ、マイシスター」
「いくらなんでも諦めて童貞卒業しなさいよ!」
「あの……」
中隊長さんが不愉快そうに頬をピクピクとさせながら、
「さっきから異国の言葉で親しそうに話をしているが、君は勇者と知り合いなのかい? それに異国の言葉の中にマイシスターとあるが、それはどういう意味なのかな? なんだか不愉快な響きを感じるのだが」
童貞オタクアホ兄貴がこの世界の言葉で、
「マイシスターとは、親しい女性に呼びかける言葉でござる」
「し、親しい女性だと」
中隊長さんの表情が険しくなった。
そんな中隊長さんにアホ兄貴はさらに、
「マイシスターに拙者の童貞を受け取ってもらうためにこの国に来たでござるよ」
「ど、童貞を受け取ってもらうだと!?」
「その通りでござる。拙者の初体験はマイシスターと生まれる前から決めていたでござるよ」
「そんなことは俺が許さん! たとえ勇者であっても彼女は渡さない! 彼女は俺が幸せにする!」
「ふっ、部外者がしゃしゃり出てきたでござるな。
貴殿が何を言おうとも、これは運命でござる。
拙者の童貞をマイシスターに捧げ、そしてマイシスターの処女を手に入れるでござる。
これは生まれる前から決まっていたことなのでござるよ」
得意気な童貞オタクアホ兄貴に わたしは告げる。
「わたし 処女じゃないわよ」
「……え?」
呆けた顔になったアホ兄貴。
「ちょっと色々あって、処女じゃなくなったというかなんというか」
「そ、そんな……」
愕然として膝から崩れる童貞オタクアホ兄貴。
中隊長さんが勝ち誇った顔で、
「彼女が純潔ではないだけでそうなるとは。所詮 貴様の愛とはその程度のものだ!」
「……う……うぉおおおおお!」
アホ兄貴が気力を振り絞り立ち上がった。
「たとえマイシスターが処女でないにしろ 拙者はまだ童貞でござる! 拙者の童貞を捧げるのは愛しいマイシスターだけでござる!
勝負を申し込むでござる!
拙者と貴殿、どちらが彼女に童貞を捧げるか勝負で決めるでござる!」
「いいだろう。その勝負、受けて立つ!」
皆の前でなんか変な勝負が始まった。
っていうか、中隊長さん 童貞だったんだ。
勇者。
五年前のこと、魔王が現れ、魔王軍の世界征服が始まったが、どこからともなく現れた勇者が単独で魔王を討ち滅ぼした。
勇者は英雄として世界中で称えられ、現在も魔物退治の旅を続けているという。
その勇者がこの国に来る。
そして わたしに会いたいというのだ。
なんと、勇者は わたしの描いたマンガのファンなのだそうだ。
それで作者に是非とも直接 会いたいと、この国に来るという。
感激だ。
勇者さまが わたしのマンガのファンだなんて。
王宮にて皆が揃う中、王さまに呼ばれた わたしも出席する。
勇者さまかぁ。
どんな人なんだろう?
わたしの隣にいる中隊長さんが、
「勇者に興味があるのかい?」
「もちろんです。魔王軍を単独で打ち破った、現代の生きる伝説。そんな人が わたしのマンガのファンなのですから」
「勇者様のご到着です」
勇者さまの登場を知らせる声。
そして現れたのは……
なんか平凡な容姿の男の人だった。
中肉中背の冴えない二十代後半くらいの男の人。
いえ、人は見かけによらない。
勇者なんだからきっと素晴らしい人のはず。
その勇者さまは国王さまにいきなり質問した。
「七つの竜の玉を集める話を描いている作者はどこにおられるでござるか?」
「そ、そこにおるが……」
わたしを示す国王さまも、ちょっと面食らったような感じ。
その勇者さまは わたしに視線を向けた途端、クワッ! っと表情が豹変し、
「見つけたでござる!」
ダダダ! と わたしのところへ走ってくる。
「ええ?! なに!? なになになに?!」
わたしのところに来た勇者は、そのまま わたしを抱きしめた。
「会いたかったでござるよ!」
「ちょっと!? なにをするんですか?! いくら勇者さまでも失礼でしょう! 国王さまもおられるのですよ!」
勇者は わたしを放すと、引くぐらいの歓喜の笑顔で、
「マイシスター!」
……え?
今の英語?
「勇者さま、どうしてあなたがその言葉を?」
「拙者でござる! 拙者でござるよ マイシスター! 愛しの兄でござる!」
今度は日本語でそう言う勇者。
兄って……まさか……
「童貞オタク兄貴?」
「そうでござる! そのとおりでござる! 愛しの兄でござる! 会いたかったでござるよ マイシスター!」
マジかよ。
悪友に続いて童貞オタク兄貴まで転生してたなんて。
「でも、なんで わたしだってわかったの? 前世とは容姿が全然 違うのに」
「勇者の力のおかげでござる。勇者の力は魂を見通すことができるでござる。だから愛しのマイシスターを見つけるために勇者の力を手に入れたでござる」
「魔王を倒すためじゃないの?」
「それはついで でござる」
ついで で魔王は倒されたのか。
「七つの竜の玉を集める話と聞いて、作者も転生者に違いないと思ったでござる。そして それが もしかするとマイシスターかもしれないと、この国に来たでござるよ。願いは神に届いたでござる!」
童貞オタク兄貴は わたしの前に跪くと、わたしの手を取り、
「さあ、愛しのマイシスター。拙者の童貞を受け取ってくだされ」
「いきなり何言い出すのよ!? この変態アホ兄貴!」
「拙者は前世の心残り、愛しのマイシスターと禁断の初体験を果たすために転生したでござる。
そのためにWEB小説とかでよくある転生物に全ての希望をかけて童貞を守ったのでござる。
そして 愛しいマイシスターと再会するために、愛の力で二十三回 転生したでござる」
「二十三回?! あんた二十三回も転生したの?!」
どういう執念よ!
「そのとおりでござる。その全てで童貞を守ったでござるよ、マイシスター」
「いくらなんでも諦めて童貞卒業しなさいよ!」
「あの……」
中隊長さんが不愉快そうに頬をピクピクとさせながら、
「さっきから異国の言葉で親しそうに話をしているが、君は勇者と知り合いなのかい? それに異国の言葉の中にマイシスターとあるが、それはどういう意味なのかな? なんだか不愉快な響きを感じるのだが」
童貞オタクアホ兄貴がこの世界の言葉で、
「マイシスターとは、親しい女性に呼びかける言葉でござる」
「し、親しい女性だと」
中隊長さんの表情が険しくなった。
そんな中隊長さんにアホ兄貴はさらに、
「マイシスターに拙者の童貞を受け取ってもらうためにこの国に来たでござるよ」
「ど、童貞を受け取ってもらうだと!?」
「その通りでござる。拙者の初体験はマイシスターと生まれる前から決めていたでござるよ」
「そんなことは俺が許さん! たとえ勇者であっても彼女は渡さない! 彼女は俺が幸せにする!」
「ふっ、部外者がしゃしゃり出てきたでござるな。
貴殿が何を言おうとも、これは運命でござる。
拙者の童貞をマイシスターに捧げ、そしてマイシスターの処女を手に入れるでござる。
これは生まれる前から決まっていたことなのでござるよ」
得意気な童貞オタクアホ兄貴に わたしは告げる。
「わたし 処女じゃないわよ」
「……え?」
呆けた顔になったアホ兄貴。
「ちょっと色々あって、処女じゃなくなったというかなんというか」
「そ、そんな……」
愕然として膝から崩れる童貞オタクアホ兄貴。
中隊長さんが勝ち誇った顔で、
「彼女が純潔ではないだけでそうなるとは。所詮 貴様の愛とはその程度のものだ!」
「……う……うぉおおおおお!」
アホ兄貴が気力を振り絞り立ち上がった。
「たとえマイシスターが処女でないにしろ 拙者はまだ童貞でござる! 拙者の童貞を捧げるのは愛しいマイシスターだけでござる!
勝負を申し込むでござる!
拙者と貴殿、どちらが彼女に童貞を捧げるか勝負で決めるでござる!」
「いいだろう。その勝負、受けて立つ!」
皆の前でなんか変な勝負が始まった。
っていうか、中隊長さん 童貞だったんだ。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
変態王子&モブ令嬢 番外編
咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と
「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の
番外編集です。
本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。
「小説家になろう」でも公開しています。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる