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二章・色々な日々

怒られました

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 遊園地のアトラクションは、ジェットコースターにメリーゴランド、観覧車など、定番のものは全てそろっている。
 中隊長さんは普通のデートと言っていたから、そんな奇をてらったものを選んだりしないだろう。
 それにしても、中世ファンタジーな世界なのに なんでごく当然のように遊園地があるんだろう?
 いや、深く考えるのはよそう。
 今、考えなければならないのは中隊長さんとの勝負。


「では、まずはあれから乗ろうか」
 最初に中隊長さんが迷うことなく案内したのは、コーヒーカップ。
 大きなコーヒーカップに乗って、中心にあるハンドルで回転させるというもの。
 勝った!
 わたしは内心ガッツポーズを取る。
 中隊長さん、優しいものを選んで良い雰囲気にしようと考えたに違いない。
 だけどコーヒーカップにはマニアな楽しみ方があるのよ。
 ヒロインちゃんが笑顔で、
「お二人で乗ってください。私は護衛さんたちと一緒にいますから」
「ええ、そうさせていただくわ」
 ヒロインちゃんは良い雰囲気にするために二人っきりにしようと思ったみたい。
 だけど、これで遠慮なくアレができる。
「中隊長さん、私にハンドルを回させていただけますか」
「もちろんだ」
 中隊長さんは わたしが積極的だと思ったようだ。
 でもねぇ……うふふふ……
 無数のコーヒーカップが楽しげな音楽とともに動き出したと同時に、
「うぉおりゃあああ!」
 わたしはハンドルを思いっきり回した。
「うわ!」
 中隊長さんは慌ててコーヒーカップの縁に捕まった。
 コーヒーカップのマニアな楽しみ。
 それはハンドルを勢いよく回してしゃれにならない遠心力を発生させること。
「逆回てーん!」
 わたしは慣性がつき始めた頃合いを狙って、ハンドルを逆に回した。
「うわわわ!」
 中隊長さんがコーヒーカップからふり落とされそうになる。
「もういっちょ逆回てーん!」
「うわわわわわ!」
「あははは! 中隊長さーん! 楽しいですねー!」
「そ、そうだな!」
 中隊長さん、無理して相づち打っているのがわかる。
 出だしは私の勝ちよ。


「次はあれに乗りましょう」
 わたしが指差したのは、遊園地の定番ジェットコースター。
「ああ、良いとも」
 中隊長さん無理して笑っているみたい。
 そしてジェットコースターに乗った わたしたち。
 どの席に座っても良いというので、最前列にした。
 ジェットコースターの最前列。
 それはジェットコースターで一番スリルのある席。
「うふふふ……」
 ジェットコースターは少しずつレールを上昇していき、そして下降に入った途端、
「キャー!!」
 一気にスピードを上げた。
「アハハハー!!」


「ふぅー。すごかったですね、中隊長さん」
「ああ、すごくスリリングだったよ。次は静かな乗り物にしないか?」
 中隊長さん、連続でスリルのある乗り物に乗るのはたった二回で限界に来たみたい。
 ならば次は、
「メリーゴーランドにしましょう」


 わたしはメリーゴーランドの馬の上に立っていた。
 波乗りしているサーファーのように。
「あはははー! どうですかー! すごいでしょー!」
「さすがにそれは従業員に怒られると……」
「片足立ちまでしちゃいまーす!」
「や、やめるんだ! ホントに怒られる!」


 怒られました。


「そろそろお昼ご飯の時間ですね」
「そうだな。実はもう予約を入れてあるんだ。園内では一番の店だと……」
 わたしは中隊長さんの話を聞いていなかった。
 レストランエリアの案内にある一件の店の看板に意識が集中していたのだ。
 それは大きな丼の絵だった。
 ドンブリのイラスト?
 どうして中世ファンタジーな世界に、前世でしか存在しないはずのイラストが?
「中隊長さん、これは?」
「ああ、最近 異国からきたコックが開いたそうだ」
「行ってみましょう!」
 私は中隊長さんの返事を待たずにそこへ走った。
 そして店の前にあるメニュー表を見ると、なんと! カツ丼とウドンがあった!
「ここにしましょう! ここで食べましょう!」
「え? ああ、わかった」
 店に入ると私は早速注文する。
「カツ丼大盛りと肉うどん!」


 ガツガツムシャムシャズルズルズル。
 ああ、なんて懐かしい味。
「美味しいですね、中隊長さん」
「ああ、そうだな」
 この世界でまた前世の日本の食べ物が食べられるなんて。
 勢いに任せて食べ尽くす。
 ふぅー、満腹満腹。
 食べ終わった わたしは疑問に思う
 どうして前世の日本の食べものがこの世界に存在するのか?
「あの、店員さん。料理のことでお伺いしたいことが」
「なんだい? お嬢さん」
「これらの料理は誰が考えたものなのですか?」
「先々代だよ。最初は普通の料理出してたんだけど、三十歳を過ぎたあたりで、色んな料理を開発しだしてね。国じゃ有名になって、それで違う国にも出店しようって話になって、この遊園地にね」
 三十歳を過ぎてから日本と同じ食べ物を開発しだしたってことは、まさか、
「その方は故郷におられるのですか?」
「ああ、故郷で眠ってる。三年前に亡くなったんだ」
 確かめることはできないのか。
 残念だ。


 満腹状態での激しいアトラクションはリバースする可能性があるので、さすがにやめとこう。
 それで選んだのはホラーハウス。
 ゆっくりと進む乗り物に乗って、数々の恐怖体験をするというもの。
「バァー!」
 骸骨が上から突然、現れたり。
「イヒヒヒヒヒ!」
 吸血鬼が変な笑い声を上げたり。
「来ますわ。きっと来ますわ。来たー!」
 井戸から長い髪のワンピースの女が出てきたり。


 お腹も落ち着いたところで、再びスリリングなアトラクション。
 バンジージャンプ。
 いやー、前世でも好きだったのよね。
「待つんだ。バンジージャンプは、何というか、その……」
 逃げ腰の中隊長さん。
「あれぇー? 中隊長さん、怖いんですかぁー?」
 わたしは意地悪な質問をする。
「いや、そういうことではなく」
「いいですよ、怖いなら中隊長さんは見物しててください。わたしは彼女と楽しんできますから」
 わたしはヒロインちゃんを連れて上へ。
「そうではなくて、君はスカートだから、下着が見えてしまうと……」
 わたしは中隊長さんが引き留めるのも聞かずに上がっていった。
 飛び降り台から見る下の景色。
 おお! 高い!
 わたしは命綱が足に装着されると、思いっきりジャンプする。
「バンジー!」
 一気に落下した わたしは中隊長さんに手を振る。
「どうですかー! 中隊長さんもやりませんかー!?」
「見えてる! 見えている! 下着が!」
「アハハハー!!」


 疲れてきたし、次で最後にしよう。
 それに中隊長さんも、キスとかしようなんて考えてないだろうし。
 さて、最後はなにが良いだろう。
「中隊長さん、最後はなにが良いですか?」
 中隊長さんは わたしに愛しそうな瞳を向けて言った。
「最後は観覧車にしよう」


 ……あれ?
 なんか良い雰囲気になっちゃってるんだけど、なんで?
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