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一章・事の発端
おまけ2・王子のその後
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卒業式から三ヶ月後、王子から わたしに手紙が来た。
文面は短く、一度会って話がしたい、と だけしか書かれていなかった。
聞いた話では修道院は過酷な生活環境だと言う。
ゲームでは、悪役令嬢はそれが原因で病死するくらいだ。
となれば、王子が考える事は一つ。
わたしに復讐すること。
この手紙は罠への誘いかもしれない。
だが、無視するのもまずい。
相手の手の内が分からないからだ。
修道士になったとはいえ元は王子。
どんな伝手があるかわからない。
相手を知らなければ対策の立てようもない。
ここは危険を冒してでも会いに行く必要がある。
わたしはみんなに王子に会いに行く事を一応告げて置いた。
みんな、王子がなにするかわからないからと止めたが、護衛を連れて行くということで納得してもらった。
わたしも王子が直接的な手段に出る事を警戒している。
護衛は当然だ。
そして修道院に来た わたしは、面会室で王子と二人きりで再会する。
「やあ、久しぶりだね」
王子は、以前からは想像もできないほど、爽やかな笑顔だった。
なんか、怖い。
あの捻くれた顔しか見せなかった王子が、なぜ陥れたも同然の私にこんな爽やかな笑顔を見せるのか。
なにかある。
絶対なにかある。
扉の向こうの廊下には、わたしの護衛が二人、待機している。
わたしが大声を上げれば、扉を蹴り破って助けに入るはずだ。
問題は、声を上げる間もなく、王子が凶行に及ぶかもしれない事。
油断するな。
ちょっとでも隙を見せたら命取りだ。
王子が不審な動きを見せたら、すぐに大声を上げる用意をしておかなければ。
「お久しぶりです、王子」
「もう、王子と呼ばないでくれ。今の俺は王子ではなく、一介の修道士だ」
「わかりました」
わたしたちは椅子に座り、テーブルを挟んで対面する。
わたしは王子が話す前に、先に わたしから仕掛ける。
「卒業式の日の事は申し訳ありません。あれは 少しやりすぎたと反省しております。もっと違うやり方があったのではないかと、今は考えておりますの」
これは牽制。
正式な謝罪ではないが、謝っているように見せかけている。
言葉の裏に、もっと穏便に王子を陥れる事もできたと含ませてもいる。
まあ、実際にはそんな方法 思いつかなかったのだけれど、王子にそう思わせることはできる。
さあ、王子はこの言葉にどう反応する?
「謝る必要はない。君は何も悪くないのだから。
むしろ謝るのは俺の方だ。本当に申し訳ない。
婚約者である君に冷たい仕打ちをしてきたばかりか、君をないがしろにして他の女の子と付き合ったりして。
それどころか 最後には、君をありもしない罪で裁こうとし、追放しようとした。
自分は最低の人間だ」
なに?
いったいなんなの?
わたしに怒っているそぶりを全く見せず、寧ろ心から反省しているかのような態度。
逆に怖いよ。
なにを企んでいるの?
探りを入れよう。
「ですが、それを言うなら私もです。
貴方が わたしに不埒な行為をしたとほのめかしました」
言質を取られないように、あれが嘘だと断言はしていないところがミソ。
「いや、俺の方に全ての責任がある。
正直に言うと、俺は君を利用していたんだ。君との婚約は、婚約を迫る他の女性を遠ざけるためのものだった。君という正式な婚約者がいれば、声高に婚約者にしてくれとは言えなくなる。
そして、本当に愛する人を見つけた時は、適当な理由を付けて婚約破棄するつもりだった。
君はそれに気付いて、卒業式の日にあれをした。君があんな事をするのは当然の事だ」
まずい。
わたしのほうから卒業式の事が、全部 嘘だと喋らせようとしているみたい。
それが狙いか。
という事は、この部屋には盗聴器の様な物が仕掛けられている。
卒業式の話をするのは危険だ。
話を変えよう。
「ところで、修道院での生活はどうですか? 聞いた話では厳しいそうですが」
「ああ、厳しいな。以前は王子という地位によって贅沢な暮しが保証されていた。
だが、それらは全てなくなり、今は質素の一言に尽きる暮らしだ。
自分が今まで どれほど王子という地位に甘えていたか、思い知らされたよ」
なんか、内心の不満がチラッと出たような。
この修道院は、貴族や王族を受け入れることで有名な修道院で、普通の修道院よりは、生活はそれほど厳しくない。
だけど、贅沢な生活をしていた王子にとって、たいした違いはないようだ。
ここは取引を持ちかけよう。
「もしよろしければ、わたしから国王様に、貴方を修道院から出しても問題はないと、進言いたしましょうか?
貴方が心から反省したと わたしから言えば、修道院を出る事ができるかもしれません。
もちろん、わたしとは今後 一切 関わり合いを持たないことが条件ですが」
つまり、復讐しないと約束すれば、修道院から出られるようにするということ。
「いや、その必要はない。俺は生涯 ここで暮らすと心に決めた。神に誓ったと言っても過言ではない」
え?
出るつもりはない?
どういうこと?
わたしから卒業式の日の事が全部 嘘だと白状させて、修道院を出て、わたしに復讐するつもりじゃないの?
王子は わたしの疑問に答えるように、
「ここの暮らしは厳しいが、多くの学びがある。学園にいた時よりも有意義に過ごしているんだ。
先輩の修道士たちや、俺の面倒を担当している修道士から、本当に多くを学んでいるんだ。
俺が多くを学び、そして目覚めたことを伝えたくて、君をここに呼んだんだ」
王子の瞳の奥に深い闇が見えた気がして、わたしは背筋が凍り付くほど慄然とした。
……わたし、ミスをした。
取り返しのつかないミスを。
この修道院は特別で、王族や貴族を入れることを専門的に行う。
ということは、食事などの生活面での優遇だけではなく、性的な事情も優遇されている。
この修道院、性処理させる女性を入れているんだ。
「フフフフフ」
王子が含み笑いしている。
わたしをもてあそぶのを楽しみにしているかのように。
違う。
ように、じゃない。
楽しみにしているんだ。
私をこの修道院に呼んだのは、わたしを陵辱するため。
卒業式の時に私がでっち上げた行為の全てを現実に行うため。
いえ、それどころか、他の修道士たちも一緒に。
護衛なんて二人だけじゃ意味ない。
この修道院にいる修道士全員が、武器を持って襲いかかってくれば、あっという間に殺されてしまう。
そして わたしを監禁する。
わたしが帰ってこないことを両親には、帰宅途中で野盗に襲われたとでも伝えておけばいい。
後は時間をかけてたっぷりと わたしを嬲る。
卒業式の時に わたしが言ったことを全て。
ここの修道士から学んだということも。
時間をかけて徹底的に。
わたしはここに来た時点で、罠にはまってしまっていた。
もう わたしはここから出ることができない。
逃げられない。
「……あ……あ……」
わたしは体が震えるのを止めることができなかった。
「どうしたんだい? 体が震えているよ」
愉悦の笑みを浮かべている王子に、私は質問しようとしてしまっている。
「……な、何に?……」
王子が何に目覚めたのか、聞いてはいけないのに、わたしの口から質問が出ようとしている。
「何に、とは?」
「……何に、目覚めたのですか?」
「フフフ……フフフフフ……
君には本当に感謝している。
君のおかげで俺はここに入る事ができて、そして目覚めることができたのだから。
俺が目覚めたもの。
それは……」
「そ、それは?」
「兄弟愛さ」
なんか変な言葉が出た。
王子はうっとりとした顔で、
「ああ、可愛い彼の大きな瞳。ふっくらとした唇。ふわふわした栗色の髪。
可愛い彼の全てが愛おしい。
君のおかげで俺は可愛い彼に出会うことができて、そして兄弟愛に目覚めたんだ」
王子の瞳は完全に恋していた。
「いやぁあああああ! 王子がイケない道に目覚めてしまいましたわー!」
「ハッハッハッ、君はなにを言っているんだい? イケない道なんかじゃない。イッてもイッてもおさまらないイキッぱなしの道だよ」
「すでにやってしまった後!」
「いやあ、兄弟愛がこんなにも素晴らしいとは」
「待ってください! 兄弟愛とは一体なんだと教わったんですか!?」
「修道院は禁欲的な生活を旨とする」
「それは存じておりますが」
「つまりシコるのも禁止されていてね」
「シコるって……」
「ようはオナニーのことだ」
「ハッキリ言わないでください」
「自慰の禁止は制限魔法をかけられるほど徹底されている」
「え、でも、男の人って女と違って溜まるんですよね。股間にある二つの玉にどんどん溜まっていくんですよね。それを出さないと大変なことになるって……」
「その通りだ。二十四時間アソコがギンギンになって大変なことになる。興奮状態がずっと続き、何日も一睡もできないほどだ。女性の君にこの苦しみは理解できないだろう。
しかし、それでも制限魔法によって自分でヌクことはできない。
だが他の兄弟にヌいてもらうことは認められている。いや、推奨されている。
この修道院ではその相手を見つけなくてはならない。
自分の溜まった白い欲望を他の兄弟によって優しく吐き出してもらう。
その相手を見つけ、そして その証としてロザリオを弟に贈る。
それがこの修道院で行われる、兄弟愛制度」
「なんですのよ! その 聖母さまが見てるBLバージョンアダルトオンリーみたいな話は!」
「いやあ、可愛い彼の優しい手。そして口。お尻の穴の時の感触はたまらない。
卒業式の時に、君がお尻の穴でもできるという話をしていた時から興味があったのだが、あんなにも良いものだとは」
「わたしのせい!? わたしのした話が原因なんですか!?
ダメです! いけません! 女性のアソコの方がもっと気持良いですから!
さては女性としたことないんですね! わかりました! わたしとしましょう! わたしとヤッテ女を知るのです!」
「それは無理だよ。だって、女性の君には僕に入れてくれる太くてたくましいアレがないから」
「しかも入れてもらう方だったー!」
「可愛い彼はとてもテクニシャンで、僕は攻められっぱなしさ。いつも僕は可愛い彼に 可愛い声を上げさせられてしまうんだ」
「そんな高度なBLにはついていけませんわー!」
ドンドンドン!
廊下から扉を叩く音が聞こえた。
「お嬢様! 何事ですか!」
まずい。
わたしが大声を上げてしまったから不審に思われた。
王子がイケない道にお目覚めになられたと知られたら、私に責任が追及されてしまうかもしれない。
ごまかさなくては。
とりあえず、扉を開けて廊下の護衛に、
「な、なんでもありませんの。ちょっと話が弾んで声が大きくなってしまっただけですわ」
「なにもないのですか? 悲鳴のような声でしたが」
「いえ、本当になにもありませんから」
「さようでございますか。ですが、なにかあったらすぐに声を上げてくださいませ、お嬢様」
「ええ、ありがとう」
とりあえず、護衛はごまかした。
再び王子と対面。
「いやぁ、君には本当に感謝しているよ。君のおかげで俺は兄弟愛に目覚めることができたのだから。
この事を君に知って欲しくて呼んだんだ」
「なんか、申し訳ありません」
「ハッハッハッ、謝る必要はないんだって」
「いやホント、マジでスンマセン」
「とにかく、皆にも言っておいてくれ。俺は生涯ここで兄弟たちと共に暮らしていくと」
「そ、そうですか。わかりました」
王子との面会が終わり、わたしは館に帰った。
「どうでした? あのゲス王子の様子は? なにかされたりしませんでしたか?」
ヒロインたちが王子はどうだったのか聞いてきたけど、
「なんというか、兄弟愛に目覚めたので、ずっと修道院の兄弟と一緒に暮らす決意をしたそうです。なんか幸せそうでした」
わたしは誤魔化して報告するしかなかった。
ヒロインはなにやら信じられないように、
「あのゲス王子が。そんなに素晴らしい指導を受けたというのですか」
「まあ、ある意味 指導を受けたのですわね。ある意味 受けですし。ある意味ですけど」
とりあえず、王子から復讐される心配はなくなったとかなんとか。
文面は短く、一度会って話がしたい、と だけしか書かれていなかった。
聞いた話では修道院は過酷な生活環境だと言う。
ゲームでは、悪役令嬢はそれが原因で病死するくらいだ。
となれば、王子が考える事は一つ。
わたしに復讐すること。
この手紙は罠への誘いかもしれない。
だが、無視するのもまずい。
相手の手の内が分からないからだ。
修道士になったとはいえ元は王子。
どんな伝手があるかわからない。
相手を知らなければ対策の立てようもない。
ここは危険を冒してでも会いに行く必要がある。
わたしはみんなに王子に会いに行く事を一応告げて置いた。
みんな、王子がなにするかわからないからと止めたが、護衛を連れて行くということで納得してもらった。
わたしも王子が直接的な手段に出る事を警戒している。
護衛は当然だ。
そして修道院に来た わたしは、面会室で王子と二人きりで再会する。
「やあ、久しぶりだね」
王子は、以前からは想像もできないほど、爽やかな笑顔だった。
なんか、怖い。
あの捻くれた顔しか見せなかった王子が、なぜ陥れたも同然の私にこんな爽やかな笑顔を見せるのか。
なにかある。
絶対なにかある。
扉の向こうの廊下には、わたしの護衛が二人、待機している。
わたしが大声を上げれば、扉を蹴り破って助けに入るはずだ。
問題は、声を上げる間もなく、王子が凶行に及ぶかもしれない事。
油断するな。
ちょっとでも隙を見せたら命取りだ。
王子が不審な動きを見せたら、すぐに大声を上げる用意をしておかなければ。
「お久しぶりです、王子」
「もう、王子と呼ばないでくれ。今の俺は王子ではなく、一介の修道士だ」
「わかりました」
わたしたちは椅子に座り、テーブルを挟んで対面する。
わたしは王子が話す前に、先に わたしから仕掛ける。
「卒業式の日の事は申し訳ありません。あれは 少しやりすぎたと反省しております。もっと違うやり方があったのではないかと、今は考えておりますの」
これは牽制。
正式な謝罪ではないが、謝っているように見せかけている。
言葉の裏に、もっと穏便に王子を陥れる事もできたと含ませてもいる。
まあ、実際にはそんな方法 思いつかなかったのだけれど、王子にそう思わせることはできる。
さあ、王子はこの言葉にどう反応する?
「謝る必要はない。君は何も悪くないのだから。
むしろ謝るのは俺の方だ。本当に申し訳ない。
婚約者である君に冷たい仕打ちをしてきたばかりか、君をないがしろにして他の女の子と付き合ったりして。
それどころか 最後には、君をありもしない罪で裁こうとし、追放しようとした。
自分は最低の人間だ」
なに?
いったいなんなの?
わたしに怒っているそぶりを全く見せず、寧ろ心から反省しているかのような態度。
逆に怖いよ。
なにを企んでいるの?
探りを入れよう。
「ですが、それを言うなら私もです。
貴方が わたしに不埒な行為をしたとほのめかしました」
言質を取られないように、あれが嘘だと断言はしていないところがミソ。
「いや、俺の方に全ての責任がある。
正直に言うと、俺は君を利用していたんだ。君との婚約は、婚約を迫る他の女性を遠ざけるためのものだった。君という正式な婚約者がいれば、声高に婚約者にしてくれとは言えなくなる。
そして、本当に愛する人を見つけた時は、適当な理由を付けて婚約破棄するつもりだった。
君はそれに気付いて、卒業式の日にあれをした。君があんな事をするのは当然の事だ」
まずい。
わたしのほうから卒業式の事が、全部 嘘だと喋らせようとしているみたい。
それが狙いか。
という事は、この部屋には盗聴器の様な物が仕掛けられている。
卒業式の話をするのは危険だ。
話を変えよう。
「ところで、修道院での生活はどうですか? 聞いた話では厳しいそうですが」
「ああ、厳しいな。以前は王子という地位によって贅沢な暮しが保証されていた。
だが、それらは全てなくなり、今は質素の一言に尽きる暮らしだ。
自分が今まで どれほど王子という地位に甘えていたか、思い知らされたよ」
なんか、内心の不満がチラッと出たような。
この修道院は、貴族や王族を受け入れることで有名な修道院で、普通の修道院よりは、生活はそれほど厳しくない。
だけど、贅沢な生活をしていた王子にとって、たいした違いはないようだ。
ここは取引を持ちかけよう。
「もしよろしければ、わたしから国王様に、貴方を修道院から出しても問題はないと、進言いたしましょうか?
貴方が心から反省したと わたしから言えば、修道院を出る事ができるかもしれません。
もちろん、わたしとは今後 一切 関わり合いを持たないことが条件ですが」
つまり、復讐しないと約束すれば、修道院から出られるようにするということ。
「いや、その必要はない。俺は生涯 ここで暮らすと心に決めた。神に誓ったと言っても過言ではない」
え?
出るつもりはない?
どういうこと?
わたしから卒業式の日の事が全部 嘘だと白状させて、修道院を出て、わたしに復讐するつもりじゃないの?
王子は わたしの疑問に答えるように、
「ここの暮らしは厳しいが、多くの学びがある。学園にいた時よりも有意義に過ごしているんだ。
先輩の修道士たちや、俺の面倒を担当している修道士から、本当に多くを学んでいるんだ。
俺が多くを学び、そして目覚めたことを伝えたくて、君をここに呼んだんだ」
王子の瞳の奥に深い闇が見えた気がして、わたしは背筋が凍り付くほど慄然とした。
……わたし、ミスをした。
取り返しのつかないミスを。
この修道院は特別で、王族や貴族を入れることを専門的に行う。
ということは、食事などの生活面での優遇だけではなく、性的な事情も優遇されている。
この修道院、性処理させる女性を入れているんだ。
「フフフフフ」
王子が含み笑いしている。
わたしをもてあそぶのを楽しみにしているかのように。
違う。
ように、じゃない。
楽しみにしているんだ。
私をこの修道院に呼んだのは、わたしを陵辱するため。
卒業式の時に私がでっち上げた行為の全てを現実に行うため。
いえ、それどころか、他の修道士たちも一緒に。
護衛なんて二人だけじゃ意味ない。
この修道院にいる修道士全員が、武器を持って襲いかかってくれば、あっという間に殺されてしまう。
そして わたしを監禁する。
わたしが帰ってこないことを両親には、帰宅途中で野盗に襲われたとでも伝えておけばいい。
後は時間をかけてたっぷりと わたしを嬲る。
卒業式の時に わたしが言ったことを全て。
ここの修道士から学んだということも。
時間をかけて徹底的に。
わたしはここに来た時点で、罠にはまってしまっていた。
もう わたしはここから出ることができない。
逃げられない。
「……あ……あ……」
わたしは体が震えるのを止めることができなかった。
「どうしたんだい? 体が震えているよ」
愉悦の笑みを浮かべている王子に、私は質問しようとしてしまっている。
「……な、何に?……」
王子が何に目覚めたのか、聞いてはいけないのに、わたしの口から質問が出ようとしている。
「何に、とは?」
「……何に、目覚めたのですか?」
「フフフ……フフフフフ……
君には本当に感謝している。
君のおかげで俺はここに入る事ができて、そして目覚めることができたのだから。
俺が目覚めたもの。
それは……」
「そ、それは?」
「兄弟愛さ」
なんか変な言葉が出た。
王子はうっとりとした顔で、
「ああ、可愛い彼の大きな瞳。ふっくらとした唇。ふわふわした栗色の髪。
可愛い彼の全てが愛おしい。
君のおかげで俺は可愛い彼に出会うことができて、そして兄弟愛に目覚めたんだ」
王子の瞳は完全に恋していた。
「いやぁあああああ! 王子がイケない道に目覚めてしまいましたわー!」
「ハッハッハッ、君はなにを言っているんだい? イケない道なんかじゃない。イッてもイッてもおさまらないイキッぱなしの道だよ」
「すでにやってしまった後!」
「いやあ、兄弟愛がこんなにも素晴らしいとは」
「待ってください! 兄弟愛とは一体なんだと教わったんですか!?」
「修道院は禁欲的な生活を旨とする」
「それは存じておりますが」
「つまりシコるのも禁止されていてね」
「シコるって……」
「ようはオナニーのことだ」
「ハッキリ言わないでください」
「自慰の禁止は制限魔法をかけられるほど徹底されている」
「え、でも、男の人って女と違って溜まるんですよね。股間にある二つの玉にどんどん溜まっていくんですよね。それを出さないと大変なことになるって……」
「その通りだ。二十四時間アソコがギンギンになって大変なことになる。興奮状態がずっと続き、何日も一睡もできないほどだ。女性の君にこの苦しみは理解できないだろう。
しかし、それでも制限魔法によって自分でヌクことはできない。
だが他の兄弟にヌいてもらうことは認められている。いや、推奨されている。
この修道院ではその相手を見つけなくてはならない。
自分の溜まった白い欲望を他の兄弟によって優しく吐き出してもらう。
その相手を見つけ、そして その証としてロザリオを弟に贈る。
それがこの修道院で行われる、兄弟愛制度」
「なんですのよ! その 聖母さまが見てるBLバージョンアダルトオンリーみたいな話は!」
「いやあ、可愛い彼の優しい手。そして口。お尻の穴の時の感触はたまらない。
卒業式の時に、君がお尻の穴でもできるという話をしていた時から興味があったのだが、あんなにも良いものだとは」
「わたしのせい!? わたしのした話が原因なんですか!?
ダメです! いけません! 女性のアソコの方がもっと気持良いですから!
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「それは無理だよ。だって、女性の君には僕に入れてくれる太くてたくましいアレがないから」
「しかも入れてもらう方だったー!」
「可愛い彼はとてもテクニシャンで、僕は攻められっぱなしさ。いつも僕は可愛い彼に 可愛い声を上げさせられてしまうんだ」
「そんな高度なBLにはついていけませんわー!」
ドンドンドン!
廊下から扉を叩く音が聞こえた。
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まずい。
わたしが大声を上げてしまったから不審に思われた。
王子がイケない道にお目覚めになられたと知られたら、私に責任が追及されてしまうかもしれない。
ごまかさなくては。
とりあえず、扉を開けて廊下の護衛に、
「な、なんでもありませんの。ちょっと話が弾んで声が大きくなってしまっただけですわ」
「なにもないのですか? 悲鳴のような声でしたが」
「いえ、本当になにもありませんから」
「さようでございますか。ですが、なにかあったらすぐに声を上げてくださいませ、お嬢様」
「ええ、ありがとう」
とりあえず、護衛はごまかした。
再び王子と対面。
「いやぁ、君には本当に感謝しているよ。君のおかげで俺は兄弟愛に目覚めることができたのだから。
この事を君に知って欲しくて呼んだんだ」
「なんか、申し訳ありません」
「ハッハッハッ、謝る必要はないんだって」
「いやホント、マジでスンマセン」
「とにかく、皆にも言っておいてくれ。俺は生涯ここで兄弟たちと共に暮らしていくと」
「そ、そうですか。わかりました」
王子との面会が終わり、わたしは館に帰った。
「どうでした? あのゲス王子の様子は? なにかされたりしませんでしたか?」
ヒロインたちが王子はどうだったのか聞いてきたけど、
「なんというか、兄弟愛に目覚めたので、ずっと修道院の兄弟と一緒に暮らす決意をしたそうです。なんか幸せそうでした」
わたしは誤魔化して報告するしかなかった。
ヒロインはなにやら信じられないように、
「あのゲス王子が。そんなに素晴らしい指導を受けたというのですか」
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