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断罪・前編
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ローズが離宮で保護されて半年が経過した。この日、大公宮では大公家主催の夜会が開催される。この夜会では、大公世女エヴリーヌの婚礼についての発表と、もう一つ重大な発表があるそうだ。ユブルームグレックス大公国の全貴族が参加である。
「夜会なんて久しぶりだわ。とっても楽しみ! ドナシアン様、エスコートありがとうございます!」
派手に着飾りはしゃぐペネロープ。些か、というより完全に令嬢として相応しくない振る舞いだ。
「可愛いペネロープをエスコートするなんて当たり前のことじゃないか。ローズなんかよりずっといい」
ドナシアンは品のない軽薄な笑みである。
「ちょっとドナシアン様ぁ、お義姉様の名前を出さないでください。こんな晴れやかな場であんな見窄らしい人の話をしたら雰囲気が台無しです」
ペネロープはこの場にいないローズに対し侮蔑したような笑みである。
「ははは、ペネロープの言う通りだな」
ドナシアンも嫌な笑みである。
「正直、私もローズがいなくなってくれて助かった。これで堂々とペネロープをラ・トレモイユ侯爵家の後継者に出来る」
厭らしい笑みのオーバン。
「ええ、オーバン様の言う通りですわ。あんな子必要ないのよ」
そう笑うデジレ。心根の腐り具合が表情に現れている。
四人は下品に笑っていた。これから何が起こるかも知らずに。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「ベルナデット・オーギュスティーヌ・グレース女大公陛下及び、テオドール・ランベール大公配殿下のご入場です!」
宰相の声と共に、高らかなトランペットの音が鳴り響く。ベルナデットはテオドールにエスコートされ、優雅に会場に現れた。
男性はボウ・アンド・スクレープ、女性はカーテシーで礼を執る。
「皆様、楽にしてちょうだい」
ベルナデットの威厳あるソプラノの声が響き渡る。それにより、一度ゆっくりと頭を上げた。
「本日は皆様に発表したいことがありますの。まず、大公世女であるエヴリーヌと、リヒネットシュタイン公国の第三公子である、フェリクス・ギュスターヴ・ツー・リヒネットシュタイン公子の婚礼が来年の春に決定しました」
ベルナデットのその宣言に、会場は沸き出す。そしてそこへ、先程紹介されたフェリクスにエスコートされ、エヴリーヌが会場入りした。エヴリーヌとフェリクスはベルナデットとテオドールの元へやって来る。
フェリクスはブロンドの髪にタンザナイトのような紫の目で、端正な顔立ちをしている。
ちなみに、エヴリーヌとフェリクスの婚約は十年前、エヴリーヌが八歳、フェリクスが九歳の時に決まっていた。
「それから、もう一つ皆様に発表したいことがあります。大公子アルベールの婚約の発表ですわ」
ベルナデットのその言葉に、会場はどよめく。
「大公子殿下の婚約者も決まったのか!」
「一体どなたでございましょうか?」
皆、アルベールの婚約者が誰なのか興味津々な様子だ。
ベルナデットは言葉を続ける。
「アルベールはラ・トレモイユ侯爵当主であるローズ・セレスティーヌ・ド・ラ・トレモイユと婚約しました。よって、アルベールは臣籍降下しラ・トレモイユ侯爵配となります」
その発言に、会場は再びどよめく。
「ローズ嬢? いや、ラ・トレモイユ女侯爵閣下? 一体誰だ?」
「確か、成人の儀でずっと壁の花だった見窄らしい方では?」
「何故そのような方がアルベール殿下の?」
やや不満の声が多いが、会場入りしたローズとアルベールを見てその声も消える。
ローズは既に見窄らしい容姿から脱却していた。艶やかなプラチナブロンドの髪に、きめ細やかな肌。アメジストのような紫の目も生き生きとしている。まるで一輪の白い薔薇のようである。そしてあれから更に健康状態も良くなっていた。
「何と美しい女性なんだ……」
「あれがローズ様? それならどうして成人の儀ではあんなに見窄らしかったのかしら?」
「幼い頃、ローズ様が貴族令嬢の鑑だと言われてそうですが、本当だったのでございますね」
ローズはアルベールにエスコートされ、ベルナデットの元へ向かう。その歩き方、所作は大変優雅で寸分の狂いもなかった。
皆、ローズの美貌と所作の美しさに釘付けであった。
しかし、それを黙っていない者がいた。
「お、お待ちください! 女大公陛下! ローズがラ・トレモイユ女侯爵とはどういうことですか!? ラ・トレモイユ侯爵家の現当主は私で、ここにいるペネロープが、ラ・トレモイユ侯爵家の後継者ですぞ!」
オーバンである。彼はまるで信じられないものを見るかのような表情であった。彼の隣でデジレも憎悪を込めた目でローズを睨んでいた。そしてペネロープとドナシアンもローズの変貌に驚き目を見開いていた。
「発言を許可した覚えはありません。オーバン・グザヴィエ・ド・ラ・トレモイユ」
ベルナデットのサファイアの目はスッと冷たくなった。アルベールに至ってはローズを守るように立ち、オーバン達を睨みつけている。そしてベルナデットに申し出る。
「女大公陛下、僕に発言の許可をお願いします」
「良いでしょう、アルベール」
「ありがとうございます。……女大公陛下、本来ならめでたい場ではありますが、オーバンがあのように申し出ました。そこで、余興としてあの者達の罪をこの場で暴くのはいかがでしょうか?」
「……良いでしょう」
ベルナデットはフッと微笑んだ。
「罪!? 我々は何も悪いことなどしておりません! 女大公陛下も大公子殿下もローズに唆されているだけです!」
「ええ! オーバン様の仰る通りでございますわ!」
「そうですわ! 私達は何も悪いことなんかしてません! 悪いのは全てお義姉様なのだから! それに、お義姉様狡いわ! アルベール様の婚約者だなんて!」
「ローズ! お前は俺と婚約しておきながら大公子殿下と浮気をしていたのか!」
オーバン、デジレ、ペネロープ、ドナシアンは口々にそう言いローズを睨みつける。
「お黙りなさい! 愚か者共! 私は貴方達の発言の許可をしておりません」
威厳あるベルナデットの声に、オーバン達は怯んだ。それだけでなく、会場はしんと静まる。
「オーバン・グザヴィエ・ド・ラ・トレモイユ。お前は前ラ・トレモイユ女侯爵であったセレスティーヌ殿が事故で亡くなってからすぐにデジレと再婚をしたな。そして、ローズと同い年で腹違いの義妹ペネロープもラ・トレモイユ侯爵家に招き入れた。それだけならまだいい。お前達はそこからローズを虐げ始めた! オーバンはローズに侯爵家の仕事を押し付ける、デジレは難癖を付けてローズの頬を打つ、食事を抜くなどの虐待行為、そしてペネロープはローズのアクセサリーやドレスなどを奪っていった! そしてドナシアン! お前はローズの元婚約者であるにも関わらず、ローズを虐げペネロープと懇意にしていた! どれも決して許される行為ではない!」
アルベールはローズの為に怒りを露わにしていた。その様子を見てずっと黙っているエヴリーヌはクスッと微笑む。
(アルベール、本当にローズを愛しているのね)
「そ、それはきっとローズが嘘をついたのでしょう! 我々はそのようなことはしておりません! むしろローズがやりたい放題していて困っていたのです! 高価なドレスやアクセサリーを買い漁り、デジレやペネロープを虐げるなどを!」
オーバンは焦ったように言うが、それが嘘であることはアルベール達は分かっている。
「虚偽の発言だな、オーバン。前女侯爵であるセレスティーヌ殿が亡くなって以降、ラ・トレモイユ侯爵家でローズがどのような扱いを受けていたか大公家の影に既に調べさせてある」
アルベールが冷たい声で言い放った。そしてそこでベルナデットにバトンタッチをする。
ここからが本当の断罪の始まりである。
「夜会なんて久しぶりだわ。とっても楽しみ! ドナシアン様、エスコートありがとうございます!」
派手に着飾りはしゃぐペネロープ。些か、というより完全に令嬢として相応しくない振る舞いだ。
「可愛いペネロープをエスコートするなんて当たり前のことじゃないか。ローズなんかよりずっといい」
ドナシアンは品のない軽薄な笑みである。
「ちょっとドナシアン様ぁ、お義姉様の名前を出さないでください。こんな晴れやかな場であんな見窄らしい人の話をしたら雰囲気が台無しです」
ペネロープはこの場にいないローズに対し侮蔑したような笑みである。
「ははは、ペネロープの言う通りだな」
ドナシアンも嫌な笑みである。
「正直、私もローズがいなくなってくれて助かった。これで堂々とペネロープをラ・トレモイユ侯爵家の後継者に出来る」
厭らしい笑みのオーバン。
「ええ、オーバン様の言う通りですわ。あんな子必要ないのよ」
そう笑うデジレ。心根の腐り具合が表情に現れている。
四人は下品に笑っていた。これから何が起こるかも知らずに。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「ベルナデット・オーギュスティーヌ・グレース女大公陛下及び、テオドール・ランベール大公配殿下のご入場です!」
宰相の声と共に、高らかなトランペットの音が鳴り響く。ベルナデットはテオドールにエスコートされ、優雅に会場に現れた。
男性はボウ・アンド・スクレープ、女性はカーテシーで礼を執る。
「皆様、楽にしてちょうだい」
ベルナデットの威厳あるソプラノの声が響き渡る。それにより、一度ゆっくりと頭を上げた。
「本日は皆様に発表したいことがありますの。まず、大公世女であるエヴリーヌと、リヒネットシュタイン公国の第三公子である、フェリクス・ギュスターヴ・ツー・リヒネットシュタイン公子の婚礼が来年の春に決定しました」
ベルナデットのその宣言に、会場は沸き出す。そしてそこへ、先程紹介されたフェリクスにエスコートされ、エヴリーヌが会場入りした。エヴリーヌとフェリクスはベルナデットとテオドールの元へやって来る。
フェリクスはブロンドの髪にタンザナイトのような紫の目で、端正な顔立ちをしている。
ちなみに、エヴリーヌとフェリクスの婚約は十年前、エヴリーヌが八歳、フェリクスが九歳の時に決まっていた。
「それから、もう一つ皆様に発表したいことがあります。大公子アルベールの婚約の発表ですわ」
ベルナデットのその言葉に、会場はどよめく。
「大公子殿下の婚約者も決まったのか!」
「一体どなたでございましょうか?」
皆、アルベールの婚約者が誰なのか興味津々な様子だ。
ベルナデットは言葉を続ける。
「アルベールはラ・トレモイユ侯爵当主であるローズ・セレスティーヌ・ド・ラ・トレモイユと婚約しました。よって、アルベールは臣籍降下しラ・トレモイユ侯爵配となります」
その発言に、会場は再びどよめく。
「ローズ嬢? いや、ラ・トレモイユ女侯爵閣下? 一体誰だ?」
「確か、成人の儀でずっと壁の花だった見窄らしい方では?」
「何故そのような方がアルベール殿下の?」
やや不満の声が多いが、会場入りしたローズとアルベールを見てその声も消える。
ローズは既に見窄らしい容姿から脱却していた。艶やかなプラチナブロンドの髪に、きめ細やかな肌。アメジストのような紫の目も生き生きとしている。まるで一輪の白い薔薇のようである。そしてあれから更に健康状態も良くなっていた。
「何と美しい女性なんだ……」
「あれがローズ様? それならどうして成人の儀ではあんなに見窄らしかったのかしら?」
「幼い頃、ローズ様が貴族令嬢の鑑だと言われてそうですが、本当だったのでございますね」
ローズはアルベールにエスコートされ、ベルナデットの元へ向かう。その歩き方、所作は大変優雅で寸分の狂いもなかった。
皆、ローズの美貌と所作の美しさに釘付けであった。
しかし、それを黙っていない者がいた。
「お、お待ちください! 女大公陛下! ローズがラ・トレモイユ女侯爵とはどういうことですか!? ラ・トレモイユ侯爵家の現当主は私で、ここにいるペネロープが、ラ・トレモイユ侯爵家の後継者ですぞ!」
オーバンである。彼はまるで信じられないものを見るかのような表情であった。彼の隣でデジレも憎悪を込めた目でローズを睨んでいた。そしてペネロープとドナシアンもローズの変貌に驚き目を見開いていた。
「発言を許可した覚えはありません。オーバン・グザヴィエ・ド・ラ・トレモイユ」
ベルナデットのサファイアの目はスッと冷たくなった。アルベールに至ってはローズを守るように立ち、オーバン達を睨みつけている。そしてベルナデットに申し出る。
「女大公陛下、僕に発言の許可をお願いします」
「良いでしょう、アルベール」
「ありがとうございます。……女大公陛下、本来ならめでたい場ではありますが、オーバンがあのように申し出ました。そこで、余興としてあの者達の罪をこの場で暴くのはいかがでしょうか?」
「……良いでしょう」
ベルナデットはフッと微笑んだ。
「罪!? 我々は何も悪いことなどしておりません! 女大公陛下も大公子殿下もローズに唆されているだけです!」
「ええ! オーバン様の仰る通りでございますわ!」
「そうですわ! 私達は何も悪いことなんかしてません! 悪いのは全てお義姉様なのだから! それに、お義姉様狡いわ! アルベール様の婚約者だなんて!」
「ローズ! お前は俺と婚約しておきながら大公子殿下と浮気をしていたのか!」
オーバン、デジレ、ペネロープ、ドナシアンは口々にそう言いローズを睨みつける。
「お黙りなさい! 愚か者共! 私は貴方達の発言の許可をしておりません」
威厳あるベルナデットの声に、オーバン達は怯んだ。それだけでなく、会場はしんと静まる。
「オーバン・グザヴィエ・ド・ラ・トレモイユ。お前は前ラ・トレモイユ女侯爵であったセレスティーヌ殿が事故で亡くなってからすぐにデジレと再婚をしたな。そして、ローズと同い年で腹違いの義妹ペネロープもラ・トレモイユ侯爵家に招き入れた。それだけならまだいい。お前達はそこからローズを虐げ始めた! オーバンはローズに侯爵家の仕事を押し付ける、デジレは難癖を付けてローズの頬を打つ、食事を抜くなどの虐待行為、そしてペネロープはローズのアクセサリーやドレスなどを奪っていった! そしてドナシアン! お前はローズの元婚約者であるにも関わらず、ローズを虐げペネロープと懇意にしていた! どれも決して許される行為ではない!」
アルベールはローズの為に怒りを露わにしていた。その様子を見てずっと黙っているエヴリーヌはクスッと微笑む。
(アルベール、本当にローズを愛しているのね)
「そ、それはきっとローズが嘘をついたのでしょう! 我々はそのようなことはしておりません! むしろローズがやりたい放題していて困っていたのです! 高価なドレスやアクセサリーを買い漁り、デジレやペネロープを虐げるなどを!」
オーバンは焦ったように言うが、それが嘘であることはアルベール達は分かっている。
「虚偽の発言だな、オーバン。前女侯爵であるセレスティーヌ殿が亡くなって以降、ラ・トレモイユ侯爵家でローズがどのような扱いを受けていたか大公家の影に既に調べさせてある」
アルベールが冷たい声で言い放った。そしてそこでベルナデットにバトンタッチをする。
ここからが本当の断罪の始まりである。
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