3 / 6
新たな婚約
しおりを挟む
「ローズ、離宮での暮らしには慣れたかい?」
ローズが離宮で保護されて少し経った頃、アルベールが優しげな表情でそう聞く。かなり親しくなったらしく、ローズ嬢ではなくローズと呼ぶアルベールだ。
「ええ、アルベール殿下。ここまで良くしていただいて、何とお礼を申し上げれば良いか」
ローズは控えめに微笑んだ。きちんとした食事と睡眠のお陰で、プラチナブロンドの髪は艶を取り戻し、アメジストの目の下の隈もすっかり消え、肌もきめ細かく滑らかになっている。アメジストの目にも輝きが戻り、まだ痩せているが不健康な程ではなく、ローズは以前の美しさを取り戻したのだ。
「それに、ラ・トレモイユ侯爵家が潰れないように大公家にお手伝いいただき、感謝してもしきれません」
「そんなのお安いご用だよ。ローズはオーバンから押し付けられた仕事を最初の一、二回以降はミスなく完璧にこなしていたではないか。それに、君だけでなくラ・トレモイユ侯爵家の使用人達は極めて優秀だから、今まで君を虐げてきた者達を排除出来れば後は安泰だ」
ローズが離宮で保護された後、ラ・トレモイユ侯爵家は混乱を極めていた。しかし、ローズが密かに家令ルノーだけには連絡しており、ルノーがこっそりと他の使用人達にローズが無事なことを伝えてくれた。そのお陰で使用人達は安心していつも通り仕事をすることが出来ていた。ちなみに、オーバンはローズに仕事を押し付けていた為、ローズがいなくなった時に苛立ちを露わにした。しかし、邪魔なローズがいないお陰でデジレとペネロープと3人で過ごせるようになったことから、次第に苛立ちも落ち着いていた。デジレは「あんな子いない方がいいわ」と蔑んだ笑みを浮かべており、ペネロープは勝手にローズの部屋に入ってアクセサリーや高価な物を全て奪っていたそうだ。
「あらアルベール、また離宮にいたのね」
そこへエヴリーヌがやって来た。クスクスと笑っている。
更に、その後ろにはユブルームグレックス大公国の現女大公であるベルナデット・オーギュスティーヌ・グレース・ド・ユブルームグレックスと、大公配であるテオドール・ランベール・ド・ユブルームグレックスがいた。
ローズは落ち着いて立ち上がり、優雅で完璧なカーテシーで礼を執る。
「相変わらずローズは完璧なカーテシーをするわね。淑女の鑑だわ」
エヴリーヌがクスッと笑う。
「ローズ、楽にしてちょうだい」
ベルナデットは優しげに微笑んでいた。ブロンドの髪にサファイアのような青い目の、威厳はあるがどこか可愛らしい顔立ちである。アルベールの顔立ちはベルナデット似なのである。
「そこまで堅苦しくなくても構わない。ローズ嬢」
テオドールが優しげに目を細める。黒褐色の髪にヘーゼルの目で、端正で気が強そうな顔立ちだ。エヴリーヌの顔立ちはテオドール似である。
「ありがとうございます、女大公陛下、大公配殿下」
ローズは品よく微笑んだ。
「ローズ、アルベール、例の件の書類にサインがされたわ。このまま手続きを進めるわね」
念の為に確認するようなベルナデットである。
「ええ、お願いいたします、女大公陛下」
「ありがとうございます、女大公陛下」
ローズとアルベールはそれに頷いた。
「良かったわね、アルベール」
エヴリーヌは悪戯っぽく微笑む。
「姉上、揶揄わないでください」
アルベールはほんのり頬を赤く染めていた。
「アルベールもローズも、分かってはいると思うけれど、二人の婚約はあくまで国の為よ。ラ・トレモイユ侯爵家及び侯爵領で採掘される希少金属の権利を守る為。そして、この国の面積は小さいから公爵家と侯爵家しか領地を持たない。だから、ラ・トレモイユ領を狙う伯爵家以下の貴族を牽制する為。恐らくローズは理解しているわね」
ベルナデットは苦笑しながらそう言う。
「ええ、十分承知しております。女大公陛下のご配慮、感謝いたします」
ローズは控えめに微笑む。
「ご安心ください、女大公陛下。僕も承知しております」
アルベールもそう答える。
ラ・トレモイユ侯爵家及び領地で採れる希少金属を守る為。そしてユブルームグレックス大公国内の貴族のパワーバランスを乱さない為に、ローズはドナシアンとの婚約を解消し、アルベールと婚約することになった。婚約解消、新たな婚約どちらも女大公命である。アルベールは臣籍降下してラ・トレモイユ侯爵家に婿入りするのだ。政略結婚ではあるのだが、ローズとアルベールは手紙で徐々に距離を縮め心を通わせていた。ローズが離宮で保護されてからは更に二人の距離が縮まっていたのだ。
「私としても、アルベールの相手は是非ともローズがいいと考えているわ」
ベルナデットはローズに優しく微笑んだ。
「もったいないお言葉、大変光栄でございます」
ローズは品良く微笑む。少し嬉しそうだ。
「ローズ嬢、くれぐれも健康には気を付けることだ。君は離宮に来たばかりの頃よりは健康的になったが、まだ細過ぎる。きちんと食事を摂ること」
「ありがとうございます、大公配殿下」
少し心配そうなテオドールに対し、ローズは微笑む。
「ローズ、貴女には私の下で国政に携わってもらう可能性もあるわ。色々と頼むわね」
エヴリーヌは少し意味深に微笑む。
「ええ、承知いたしました。大公世女殿下のお役に立てるよう精進するつもりでございます」
ローズはやはり品良く微笑んでいた。
「ローズ、この件について一段落ついたんだ。休憩がてら僕のお気に入りの場所を案内するよ」
アルベールはローズに手を差し出す。アンバーの目はキラキラと輝いていた。
「ええ、ありがとうございます。アルベール殿下」
ローズはふふっと控えめに微笑み、アルベールの手を取った。
そんな二人をエヴリーヌ、ベルナデット、テオドールの三人は微笑ましげに見守っていた。
ローズが離宮で保護されて少し経った頃、アルベールが優しげな表情でそう聞く。かなり親しくなったらしく、ローズ嬢ではなくローズと呼ぶアルベールだ。
「ええ、アルベール殿下。ここまで良くしていただいて、何とお礼を申し上げれば良いか」
ローズは控えめに微笑んだ。きちんとした食事と睡眠のお陰で、プラチナブロンドの髪は艶を取り戻し、アメジストの目の下の隈もすっかり消え、肌もきめ細かく滑らかになっている。アメジストの目にも輝きが戻り、まだ痩せているが不健康な程ではなく、ローズは以前の美しさを取り戻したのだ。
「それに、ラ・トレモイユ侯爵家が潰れないように大公家にお手伝いいただき、感謝してもしきれません」
「そんなのお安いご用だよ。ローズはオーバンから押し付けられた仕事を最初の一、二回以降はミスなく完璧にこなしていたではないか。それに、君だけでなくラ・トレモイユ侯爵家の使用人達は極めて優秀だから、今まで君を虐げてきた者達を排除出来れば後は安泰だ」
ローズが離宮で保護された後、ラ・トレモイユ侯爵家は混乱を極めていた。しかし、ローズが密かに家令ルノーだけには連絡しており、ルノーがこっそりと他の使用人達にローズが無事なことを伝えてくれた。そのお陰で使用人達は安心していつも通り仕事をすることが出来ていた。ちなみに、オーバンはローズに仕事を押し付けていた為、ローズがいなくなった時に苛立ちを露わにした。しかし、邪魔なローズがいないお陰でデジレとペネロープと3人で過ごせるようになったことから、次第に苛立ちも落ち着いていた。デジレは「あんな子いない方がいいわ」と蔑んだ笑みを浮かべており、ペネロープは勝手にローズの部屋に入ってアクセサリーや高価な物を全て奪っていたそうだ。
「あらアルベール、また離宮にいたのね」
そこへエヴリーヌがやって来た。クスクスと笑っている。
更に、その後ろにはユブルームグレックス大公国の現女大公であるベルナデット・オーギュスティーヌ・グレース・ド・ユブルームグレックスと、大公配であるテオドール・ランベール・ド・ユブルームグレックスがいた。
ローズは落ち着いて立ち上がり、優雅で完璧なカーテシーで礼を執る。
「相変わらずローズは完璧なカーテシーをするわね。淑女の鑑だわ」
エヴリーヌがクスッと笑う。
「ローズ、楽にしてちょうだい」
ベルナデットは優しげに微笑んでいた。ブロンドの髪にサファイアのような青い目の、威厳はあるがどこか可愛らしい顔立ちである。アルベールの顔立ちはベルナデット似なのである。
「そこまで堅苦しくなくても構わない。ローズ嬢」
テオドールが優しげに目を細める。黒褐色の髪にヘーゼルの目で、端正で気が強そうな顔立ちだ。エヴリーヌの顔立ちはテオドール似である。
「ありがとうございます、女大公陛下、大公配殿下」
ローズは品よく微笑んだ。
「ローズ、アルベール、例の件の書類にサインがされたわ。このまま手続きを進めるわね」
念の為に確認するようなベルナデットである。
「ええ、お願いいたします、女大公陛下」
「ありがとうございます、女大公陛下」
ローズとアルベールはそれに頷いた。
「良かったわね、アルベール」
エヴリーヌは悪戯っぽく微笑む。
「姉上、揶揄わないでください」
アルベールはほんのり頬を赤く染めていた。
「アルベールもローズも、分かってはいると思うけれど、二人の婚約はあくまで国の為よ。ラ・トレモイユ侯爵家及び侯爵領で採掘される希少金属の権利を守る為。そして、この国の面積は小さいから公爵家と侯爵家しか領地を持たない。だから、ラ・トレモイユ領を狙う伯爵家以下の貴族を牽制する為。恐らくローズは理解しているわね」
ベルナデットは苦笑しながらそう言う。
「ええ、十分承知しております。女大公陛下のご配慮、感謝いたします」
ローズは控えめに微笑む。
「ご安心ください、女大公陛下。僕も承知しております」
アルベールもそう答える。
ラ・トレモイユ侯爵家及び領地で採れる希少金属を守る為。そしてユブルームグレックス大公国内の貴族のパワーバランスを乱さない為に、ローズはドナシアンとの婚約を解消し、アルベールと婚約することになった。婚約解消、新たな婚約どちらも女大公命である。アルベールは臣籍降下してラ・トレモイユ侯爵家に婿入りするのだ。政略結婚ではあるのだが、ローズとアルベールは手紙で徐々に距離を縮め心を通わせていた。ローズが離宮で保護されてからは更に二人の距離が縮まっていたのだ。
「私としても、アルベールの相手は是非ともローズがいいと考えているわ」
ベルナデットはローズに優しく微笑んだ。
「もったいないお言葉、大変光栄でございます」
ローズは品良く微笑む。少し嬉しそうだ。
「ローズ嬢、くれぐれも健康には気を付けることだ。君は離宮に来たばかりの頃よりは健康的になったが、まだ細過ぎる。きちんと食事を摂ること」
「ありがとうございます、大公配殿下」
少し心配そうなテオドールに対し、ローズは微笑む。
「ローズ、貴女には私の下で国政に携わってもらう可能性もあるわ。色々と頼むわね」
エヴリーヌは少し意味深に微笑む。
「ええ、承知いたしました。大公世女殿下のお役に立てるよう精進するつもりでございます」
ローズはやはり品良く微笑んでいた。
「ローズ、この件について一段落ついたんだ。休憩がてら僕のお気に入りの場所を案内するよ」
アルベールはローズに手を差し出す。アンバーの目はキラキラと輝いていた。
「ええ、ありがとうございます。アルベール殿下」
ローズはふふっと控えめに微笑み、アルベールの手を取った。
そんな二人をエヴリーヌ、ベルナデット、テオドールの三人は微笑ましげに見守っていた。
28
同じ国が舞台の物語はこちら!『小公女ベルナデットの休日』
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
あなたの瞳に映る花火 〜異世界恋愛短編集〜
蓮
恋愛
中世ヨーロッパ風の架空の国で起こるヒストリカルラブロマンス。恋愛以外のジャンルもあります。
ほのぼの系、婚約破棄、姉妹格差、ワガママ義妹、職業ものなど、様々な物語を取り揃えております。
各作品繋がりがあったりします。
時系列はバラバラです。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙は結之志希様(@yuino_novel)からいただきました。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?
桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。
天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。
そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。
「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」
イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。
フローラは天使なのか小悪魔なのか…

ベルトラム王国物語~七歳で女王に立てられ、八歳で王位と国を譲らされ、十九歳で離縁された私ですが、恋をしてもいいですか~
平井敦史
恋愛
「パトリシア、お前を離縁する」
チャリオン朝ベルトラム王国の王妃パトリシア=プラムは、子供ができないからという理由で、十九歳にして国王カイン=チャリオンから離縁を言い渡される。
元々彼女はプラム朝ベルトラム王国の王女であり、権臣シュラウドにより幼くして女王に立てられ、彼の従兄の子であるカインと結婚させられて王位と国を譲らされ、父や一族も殺された身の上だ。
怒涛のように襲い来る理不尽に屈することなく、神殿に身を寄せて治癒術士としての研鑽を積む彼女の前に、かつての幼馴染、タリアン=レロイが現れる。
タリアンに好意を抱きつつも、シュラウドの目を憚り一歩踏み出すことができないパトリシア。
そして、彼女の人生を踏みつけて平和を謳歌するベルトラム王国に、世界征服を企むアンゴルモア帝国の魔の手が迫る!
ベルトラムの運命は、そしてパトリシアの恋の行方はいかに。
※本作はベトナム史上唯一の女帝・李昭皇こと李仏金(リ・パット・キム)の生涯を異世界恋愛物として脚色したものです。固有名詞は元ネタをもじったものですので、「ヨーロッパ諸言語として見たときに統一感が無さ過ぎる」といった苦情は受け付けません(笑)。
また、史実に寄せているため、作中で一気に時間が流れる描写があります。ご注意ください(それでも史実よりはイベント前倒ししたりしています)。
恋愛がメインでざまぁはおまけです。あしからず。
※「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!
奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。
その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる