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確固たる信頼関係

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 ある日、ファルケンハウゼン男爵邸の書斎にて。
(そう言えば、ユリウスあの男はそろそろファルケンハウゼン男爵家を摘発するつもりらしいけれど……ティアナはどうなるのかしら?)
 そのことをふと思い出したマルグリットは、憂いを帯びた表情でため息をつく。
 そしてユリウスを想うティアナのはにかんだ表情を思い出す。
(ティアナが幸せになれるのなら、それで良いのだけれど……やっぱり釈然としない部分もあるわね。オズヴァルト様から言われた通り、ティアナが私から離れてしまうのが寂しいわ)
 苦笑しながら、マルグリットは一冊の本を取り出した。すると、その本から一枚の紙が落ちる。
(何かしら?)
 マルグリットは不思議に思い、落ちた紙を手に取る。
(この字、お父様の字だわ。お父様のメモね。何で本に挟んであるのかしら?)
 父アヒムのメモを読むマルグリット。
(何なのよこれは!?)
 ターコイズの目を大きく見開き驚愕した。そして次に湧き上がった感情は怒りである。
(ティアナを売り飛ばそうだなんて……絶対に許さない!)
 何とメモにはティアナを売り飛ばす計画が書かれていたのだ。
 アヒム、そして母メータ、兄エッカルトにとって、ティアナは売り飛ばしたくなる程邪魔な存在だったらしい。
(とにかく、この計画は私が阻止……)
 その時、ふとオズヴァルトの言葉を思い出す。

『俺はマルグリット嬢の力になりたいと思っている。それに、君にとっては不本意かもしれないが、ユリウスもかなり頼もしいぞ。あいつが抱く、君の妹君への想いは本物だ』

(そうね……。これは私一人で対処出来る範疇を超えているわ)
 マルグリットはオズヴァルトのお陰で冷静になることが出来た。
(焦ってどうにかしようとして失敗したらティアナを失うことになるわ。それだけは避けたい。お父様達がティアナを売り飛ばす日程はまだ少し先……)
 アヒムのメモを見て、マルグリットは冷静に考える。
(今の私に出来ることは……)
 マルグリットの脳裏にユリウスの姿が思い浮かんだ。ティアナに対して並々ではない独占欲を持ってはいるが、彼がティアナを見つめる表情はとても優しかった。
(ティアナを守る為にも、あの男に頼るしかなさそうね)
 諦めたようにため息をつき、マルグリットは自室に向かった。そして急いでユリウスに手紙を書く。父達がティアナを売り飛ばす計画を立てていること、ティアナを助けて欲しいということを伝える。
 するとすぐに返事が来た。ユリウスはティアナをランツベルク城で保護する準備が出来たとのこと。
(本当にティアナのことになると準備が早いのね)
 マルグリットはユリウスからの返事に苦笑した。

 そしてその次の日の夜。
「今日の夜中にわたくしがファルケンハウゼン邸から逃げる必要がある……。マルグリットお姉様、一体何が起こっておりますの?」
 不安そうな表情のティアナ。
 ティアナは自身が売り飛ばされることは聞かされていない。マルグリットから、この日の夜中にファルケンハウゼン邸から逃げ出す必要があるとだけ聞かされた。
「ごめんなさい、ティアナ。今は緊急事態だから言えないわ。落ち着いたら話すわね。……もしかしたら迎えに来たユリウスあの男が話すかもしれないけれど」
 マルグリットは申し訳なさそうな表情である。しかし、ターコイズの目は真剣にティアナを思っていることが分かる。
 その目を見たティアナは、安心したような表情になる。
「分かりましたわ、お姉様。お姉様のことを信じます。ファルケンハウゼン家で何かが起こっていることも、お姉様がその件を調べてユリウス様とお話されていることも知っています。具体的に何が起こっているのかは分かりませんが……。でも、お姉様はいつだってわたくしのことを大切に思ってくださるのですから」
 ティアナのムーンストーンの目は、真っ直ぐマルグリットを見ている。信頼している様子が全面に出ていた。
「ティアナ……」
 マルグリットは優しくティアナを抱き締める。
「マルグリットお姉様も、どうか危険な目には遭わないでくださいね」
 ティアナは少し小さな体でマルグリットを抱き返した。
「ええ。私は大丈夫よ」
 マルグリットは力強く微笑んだ。
 その時、小さめの馬車が二人の前に止まる。
 馬車の扉が開き、ユリウスが出て来た。
 ランツベルク家からの迎えの馬車である。人目を忍ぶ為、小さな馬車を使っているのだ。
「ティアナ嬢、迎えに来たよ」
 ユリウスはティアナに手を差し出す。アンバーの目は、真っ直ぐでこの上なく優しかった。
「ユリウス様……」
 ティアナは安心した様子でユリウスの手を取り、そのまま馬車に乗る。
「本当に連絡助かったよ」
 ユリウスはマルグリットを見てフッと笑う。
「可愛いティアナを守る為だもの。まあ、貴方を頼るのは不本意だったけど」
 軽く憎まれ口を叩くマルグリット。
「でもこの件については私の方がティアナ嬢を守る力がある」
 フッと勝ち誇ったような笑みのユリウス。
「ええ……」
 マルグリットは少し悔しそうである。そしてターコイズの目を真っ直ぐユリウスに向ける。
「ティアナを頼んだわよ。……
 それはユリウスを信頼している目であった。
 ユリウスは一瞬目を大きく見開くも、すぐにフッと満足そうに口角を上げる。
「ああ、君も頼もしかったよ。……
 アンバーの目は真っ直ぐマルグリットを映している。
 それはお互いを認め合った瞬間であった。
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