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エピローグ 真相

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 カノーム公国公宮にて。
 アリスとミシェルは優雅に紅茶を飲みながら談笑している。そしてそこにミシェルの妹のイレーヌも加わった。
「お兄様、わたくしはこの場にいて本当に良いのでしょうか? アリスお義姉ねえ様と二人で夫婦水入らずの時間ですのに」
 イレーヌは少し困ったように、控えめで上品な笑みを浮かべている。
「あら、わたくしは公女殿下ともお話をしたいと存じておりますわ」
 上品でにこやかに口角を上げるアリス。
「公女殿下だなんて、イレーヌとお呼びください」
「あら、でしたら遠慮なくイレーヌ様とお呼びいたしますわ」
 アリスはふふっと微笑んだ。
「イレーヌは二年後ガーメニー王国の王家であるホーエンツォレルン家に嫁いで王妃となる。その前にアリスがルシヨン伯爵家でやったことを聞いておいた方がいいと思ったんだ」
 悪戯っぽく微笑むミシェル。
「それで、アリス。君の実のご両親が亡くなってデュドネ達叔父一家がやって来た後、色々なことをして彼らを困らせたと聞いているけれど……」
 そこでミシェルは意味ありげに口角を上げる。
「どこまでがなんだい?」
 するとアリスは上品に口角を上げる。
「全てでございますわ」
「なるほど……」
 ミシェルは満足そうにフッと笑った。
「アリスお義姉様がルシヨン伯爵家でやってきたこと……。もしかして、ドレスの珍妙な刺繍や自室の珍妙な絵、それから花壇にミントを植えて本来あった植物を駆逐してしまったことなど……あれらは全てアリスお義姉様が意図的になさったのですか?」
 イレーヌはアメジストの目を見開く。
「左様でございますわ。両親が亡くなり、叔父一家がやって来ると聞いた時、急いで対策しなくてはと存じましたの。生前の父から、叔父はルシヨン伯爵家を乗っ取ろうとしているとお聞きしておりましたので。それに、義叔母おば義妹いもうとも、人のものを奪おうとする性格だったので、事前に対策を打ちましたわ。元婚約者も昔から役に立っておりませんでしたし。悪気がないように見せることや、そそっかしいふりなどは中々難しかったので練習もしましたわ。特にぬいぐるみを猛毒を持つ蜂の巣に命中させるのは大変でしたわ」
 アリスは悪戯っぽく微笑んだ。アリスがルシヨン伯爵家で散々やらかしたことは全て故意であったのだ。
「悪意があったのでございますね」
 イレーヌは苦笑する。
「ええ、もちろんでございます。叔父一家の好きにさせることなど許せませんので。沸騰したお湯に入った時や、火傷で皮膚がめくれてしまった時の叔父の表情、傑作でございましたわ。義叔母と義妹が猛毒を持つ蜂に刺された時の姿や粗相をしたような元婚約者、いずれも傑作で笑いを堪えるのに必死でございました」
 思い出してクスクスと笑うアリス。
「段々叔父達も気力をなくしていましたので、敵意を削ぐことには成功しましたわ」
 自信ありげに美しく微笑むアリスである。
「アリスお義姉様はそうやって相手の敵意を削ぐのでございますね」
「イレーヌも勉強になるだろう?」
 楽しそうに笑うミシェル。
わたくしには到底真似出来ませんが、相手の敵意を削ぐ重要性は感じました。2年後、ガーメニー王国の王宮で潰されないよう頑張らないといけませんわね」
「イレーヌ様ならきっと大丈夫でございますわ」
 アリスは微笑んでイレーヌの手を握った。
「ありがとうございます、アリスお義姉様。お義姉様にそう言ってもらえると心強いです」
 イレーヌはふわりと微笑む。
「それは良かったですわ。……ルシヨン伯爵家がなくなってしまうのは残念ですが、ミシェル様とわたくしの間に生まれた子に継いでもらおうかと存じますわ」
 ルシヨン伯爵家の爵位は一旦公室に返上され、今は空席である。
「そうだね。アリスと俺の間に生まれた子なら、ルシヨン伯爵家の血も流れている」
 ミシェルは穏やかに微笑み、言葉を続ける。
「こんなに頼もしい妻を迎えることが出来て、俺はとても光栄に思うよ」
 ミシェルは面白いと言うかのようにアクアマリンの目を細めた。
「もったいないお言葉でございます、ミシェル様。それで……今度はどなたの敵意を削げばよろしいのでございますか?」
 アリスは上品に、そして意味ありげに微笑む。
「頼みたいのは……」
 ミシェルはアリスに耳打ちする。
「まあ、そのお方でございましたか。承知いたしました。また叔父一家と同じ方法で敵意を削いでみせますわ」
 アリスはワクワクした様子で楽しそうにアメジストの目を細めるのであった。
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