5 / 5
エピローグ 真相
しおりを挟む
カノーム公国公宮にて。
アリスとミシェルは優雅に紅茶を飲みながら談笑している。そしてそこにミシェルの妹のイレーヌも加わった。
「お兄様、私はこの場にいて本当に良いのでしょうか? アリスお義姉様と二人で夫婦水入らずの時間ですのに」
イレーヌは少し困ったように、控えめで上品な笑みを浮かべている。
「あら、私は公女殿下ともお話をしたいと存じておりますわ」
上品でにこやかに口角を上げるアリス。
「公女殿下だなんて、イレーヌとお呼びください」
「あら、でしたら遠慮なくイレーヌ様とお呼びいたしますわ」
アリスはふふっと微笑んだ。
「イレーヌは二年後ガーメニー王国の王家であるホーエンツォレルン家に嫁いで王妃となる。その前にアリスがルシヨン伯爵家でやったことを聞いておいた方がいいと思ったんだ」
悪戯っぽく微笑むミシェル。
「それで、アリス。君の実のご両親が亡くなってデュドネ達叔父一家がやって来た後、色々なことをして彼らを困らせたと聞いているけれど……」
そこでミシェルは意味ありげに口角を上げる。
「どこまでが演技なんだい?」
するとアリスは上品に口角を上げる。
「全てでございますわ」
「なるほど……」
ミシェルは満足そうにフッと笑った。
「アリスお義姉様がルシヨン伯爵家でやってきたこと……。もしかして、ドレスの珍妙な刺繍や自室の珍妙な絵、それから花壇にミントを植えて本来あった植物を駆逐してしまったことなど……あれらは全てアリスお義姉様が意図的になさったのですか?」
イレーヌはアメジストの目を見開く。
「左様でございますわ。両親が亡くなり、叔父一家がやって来ると聞いた時、急いで対策しなくてはと存じましたの。生前の父から、叔父はルシヨン伯爵家を乗っ取ろうとしているとお聞きしておりましたので。それに、義叔母や義妹も、人のものを奪おうとする性格だったので、事前に対策を打ちましたわ。元婚約者も昔から役に立っておりませんでしたし。悪気がないように見せることや、そそっかしいふりなどは中々難しかったので練習もしましたわ。特にぬいぐるみを猛毒を持つ蜂の巣に命中させるのは大変でしたわ」
アリスは悪戯っぽく微笑んだ。アリスがルシヨン伯爵家で散々やらかしたことは全て故意であったのだ。
「悪意があったのでございますね」
イレーヌは苦笑する。
「ええ、もちろんでございます。叔父一家の好きにさせることなど許せませんので。沸騰したお湯に入った時や、火傷で皮膚がめくれてしまった時の叔父の表情、傑作でございましたわ。義叔母と義妹が猛毒を持つ蜂に刺された時の姿や粗相をしたような元婚約者、いずれも傑作で笑いを堪えるのに必死でございました」
思い出してクスクスと笑うアリス。
「段々叔父達も気力をなくしていましたので、敵意を削ぐことには成功しましたわ」
自信ありげに美しく微笑むアリスである。
「アリスお義姉様はそうやって相手の敵意を削ぐのでございますね」
「イレーヌも勉強になるだろう?」
楽しそうに笑うミシェル。
「私には到底真似出来ませんが、相手の敵意を削ぐ重要性は感じました。2年後、ガーメニー王国の王宮で潰されないよう頑張らないといけませんわね」
「イレーヌ様ならきっと大丈夫でございますわ」
アリスは微笑んでイレーヌの手を握った。
「ありがとうございます、アリスお義姉様。お義姉様にそう言ってもらえると心強いです」
イレーヌはふわりと微笑む。
「それは良かったですわ。……ルシヨン伯爵家がなくなってしまうのは残念ですが、ミシェル様と私の間に生まれた子に継いでもらおうかと存じますわ」
ルシヨン伯爵家の爵位は一旦公室に返上され、今は空席である。
「そうだね。アリスと俺の間に生まれた子なら、ルシヨン伯爵家の血も流れている」
ミシェルは穏やかに微笑み、言葉を続ける。
「こんなに頼もしい妻を迎えることが出来て、俺はとても光栄に思うよ」
ミシェルは面白いと言うかのようにアクアマリンの目を細めた。
「もったいないお言葉でございます、ミシェル様。それで……今度はどなたの敵意を削げばよろしいのでございますか?」
アリスは上品に、そして意味ありげに微笑む。
「頼みたいのは……」
ミシェルはアリスに耳打ちする。
「まあ、そのお方でございましたか。承知いたしました。また叔父一家と同じ方法で敵意を削いでみせますわ」
アリスはワクワクした様子で楽しそうにアメジストの目を細めるのであった。
アリスとミシェルは優雅に紅茶を飲みながら談笑している。そしてそこにミシェルの妹のイレーヌも加わった。
「お兄様、私はこの場にいて本当に良いのでしょうか? アリスお義姉様と二人で夫婦水入らずの時間ですのに」
イレーヌは少し困ったように、控えめで上品な笑みを浮かべている。
「あら、私は公女殿下ともお話をしたいと存じておりますわ」
上品でにこやかに口角を上げるアリス。
「公女殿下だなんて、イレーヌとお呼びください」
「あら、でしたら遠慮なくイレーヌ様とお呼びいたしますわ」
アリスはふふっと微笑んだ。
「イレーヌは二年後ガーメニー王国の王家であるホーエンツォレルン家に嫁いで王妃となる。その前にアリスがルシヨン伯爵家でやったことを聞いておいた方がいいと思ったんだ」
悪戯っぽく微笑むミシェル。
「それで、アリス。君の実のご両親が亡くなってデュドネ達叔父一家がやって来た後、色々なことをして彼らを困らせたと聞いているけれど……」
そこでミシェルは意味ありげに口角を上げる。
「どこまでが演技なんだい?」
するとアリスは上品に口角を上げる。
「全てでございますわ」
「なるほど……」
ミシェルは満足そうにフッと笑った。
「アリスお義姉様がルシヨン伯爵家でやってきたこと……。もしかして、ドレスの珍妙な刺繍や自室の珍妙な絵、それから花壇にミントを植えて本来あった植物を駆逐してしまったことなど……あれらは全てアリスお義姉様が意図的になさったのですか?」
イレーヌはアメジストの目を見開く。
「左様でございますわ。両親が亡くなり、叔父一家がやって来ると聞いた時、急いで対策しなくてはと存じましたの。生前の父から、叔父はルシヨン伯爵家を乗っ取ろうとしているとお聞きしておりましたので。それに、義叔母や義妹も、人のものを奪おうとする性格だったので、事前に対策を打ちましたわ。元婚約者も昔から役に立っておりませんでしたし。悪気がないように見せることや、そそっかしいふりなどは中々難しかったので練習もしましたわ。特にぬいぐるみを猛毒を持つ蜂の巣に命中させるのは大変でしたわ」
アリスは悪戯っぽく微笑んだ。アリスがルシヨン伯爵家で散々やらかしたことは全て故意であったのだ。
「悪意があったのでございますね」
イレーヌは苦笑する。
「ええ、もちろんでございます。叔父一家の好きにさせることなど許せませんので。沸騰したお湯に入った時や、火傷で皮膚がめくれてしまった時の叔父の表情、傑作でございましたわ。義叔母と義妹が猛毒を持つ蜂に刺された時の姿や粗相をしたような元婚約者、いずれも傑作で笑いを堪えるのに必死でございました」
思い出してクスクスと笑うアリス。
「段々叔父達も気力をなくしていましたので、敵意を削ぐことには成功しましたわ」
自信ありげに美しく微笑むアリスである。
「アリスお義姉様はそうやって相手の敵意を削ぐのでございますね」
「イレーヌも勉強になるだろう?」
楽しそうに笑うミシェル。
「私には到底真似出来ませんが、相手の敵意を削ぐ重要性は感じました。2年後、ガーメニー王国の王宮で潰されないよう頑張らないといけませんわね」
「イレーヌ様ならきっと大丈夫でございますわ」
アリスは微笑んでイレーヌの手を握った。
「ありがとうございます、アリスお義姉様。お義姉様にそう言ってもらえると心強いです」
イレーヌはふわりと微笑む。
「それは良かったですわ。……ルシヨン伯爵家がなくなってしまうのは残念ですが、ミシェル様と私の間に生まれた子に継いでもらおうかと存じますわ」
ルシヨン伯爵家の爵位は一旦公室に返上され、今は空席である。
「そうだね。アリスと俺の間に生まれた子なら、ルシヨン伯爵家の血も流れている」
ミシェルは穏やかに微笑み、言葉を続ける。
「こんなに頼もしい妻を迎えることが出来て、俺はとても光栄に思うよ」
ミシェルは面白いと言うかのようにアクアマリンの目を細めた。
「もったいないお言葉でございます、ミシェル様。それで……今度はどなたの敵意を削げばよろしいのでございますか?」
アリスは上品に、そして意味ありげに微笑む。
「頼みたいのは……」
ミシェルはアリスに耳打ちする。
「まあ、そのお方でございましたか。承知いたしました。また叔父一家と同じ方法で敵意を削いでみせますわ」
アリスはワクワクした様子で楽しそうにアメジストの目を細めるのであった。
19
お気に入りに追加
102
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
記憶がないですけれども、聖女のパワーで解決します
アソビのココロ
恋愛
「やってられん、マジでやってられん」
聖女アリーチャは記憶を持たぬままいずこからかハモイロン王国に召喚され、魔王を倒し、そして悪女として追放された。王子の暴走があったため、また魔王のいない世界で聖女は不必要という理屈からだ。アリーチャは戦争奴隷一人を供とし、そしてハモイロンを去った。しかし聖女アリーチャの去ったハモイロンは、気候変動と再び現れた魔王に悩まされるのだった。
破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。
けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。
そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。
そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!!
これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥
―――――――
(なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
【完結】婚約破棄をされたが、私は聖女で悪役令嬢ではない。
夜空のかけら
ファンタジー
自称王子は、悪役令嬢に婚約破棄を宣言する。
悪役令嬢?
聖女??
婚約者とは何だ??
*
4話で完結
恋愛要素がないので、ファンタジーにカテゴリ変更しました。
タグも変更。書いているうちに変化してしまった。
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
追放済みの悪役令嬢に何故か元婚約者が求婚してきた。
見丘ユタ
恋愛
某有名乙女ゲームの悪役令嬢、イザベラに転生した主人公は、断罪イベントも終わり追放先で慎ましく暮らしていた。
そこへ元婚約者、クロードがやって来てイザベラに求婚したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる