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ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・エフモント
マレイン対ラルス
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ヴィルヘルミナは一時的に南京錠付きの部屋から出されて、庭でマレインとラルスの対決を見守ることになった。
「ラルス様とマレイン様の対決ですか。お二人共何やら本気なご様子ですね」
二人の対決の審判はエフモント公爵家の執事が行う。
(お義兄様達……私の為に戦うのね……。だけど、結果がどうであれ私は……)
ヴィルヘルミナはギュッと拳を握る。
「両者構え!」
執事の声に、ラルスもマレインも剣を構える。
「手合わせ開始!」
戦いの火蓋は切られた。
ラルスとマレインは激しく剣を交える。キィンと大きな金属音が鳴り響く。両者引く気はないようだ。
「マレイン、お前はどういうつもりだ!? ミーナを解放!? お前はミーナを死にに行かせるつもりか!?」
凛々しくも険しい表情のラルス。ラピスラズリの目からは怒りが窺われる。ラルスは更に剣を振り上げ、マレインを攻めようとする。マレインはそれを防ぐ。再びキィンと大きな金属音が響く。
(ラルスお義兄様……)
ヴィルヘルミナは少し苦しそうな表情である。
「絶対にミーナを死なせませんよ! 兄上こそ、ミーナの自由を奪って、それで守っているつもりですか!?」
マレインも声を荒らげる。そして攻めの姿勢に入る。
(あんなマレインお義兄様……初めてだわ)
ミーナは普段の穏やかさからは想像がつかないほどの激昂っぷりのマレインに驚き、タンザナイトの目を大きく見開いていた。
「ああ! これが最善なんだよ! ミーナの為だ!」
「嘘だ!」
「なっ!」
ラルスはマレインの言葉に一瞬動揺する。
「兄上がしていることは、ミーナの為ではなく自分の為ですよ!」
マレインは強く剣を振るうが、何とかラルスに防がれる。
「お前に何が分かる!? 父上も母上もいつまでもいてくれるわけじゃない! そうなったら、ミーナを守れるのは俺しかいない! ミーナは俺の目の届く範囲にいるべきなんだ!」
ラルスは思いっ切り強く剣をマレイン目掛けて振り下ろす。鳴り響く金属音は激しい。
(ぐっ……! やっぱり兄上は強い。だけど、負けるわけには行かない!)
マレインは表情を歪める。
その時、ふと七年前、ヴィルヘルミナの出自が判明した時のことを思い出した。
マレインはラルスと共に逃げ出したヴィルヘルミナを見つけた時のこと。その時、マレインは当時のヴィルヘルミナ本心を聞いていた。
『違うの……』
『ん? ミーナ、何が違うんだい?』
『本当は……』
ヴィルヘルミナは震えながら言葉を続ける。
『私を助けたせいで、家族が殺されてしまうのかもしれないのが怖いの』
(そうだ! ミーナはそういう子だ! 自分が殺されるのが怖いからじゃなくて、僕達家族が殺されることを恐れて泣いていた! この国を変えたい理由も、きっと僕達が殺されずに安心して暮らせる為でもあるんだ! 僕は……そんなミーナを……好きになったんだ! 義妹としてではなく、一人の女性として!)
マレインは深呼吸をし、ラルスからの攻撃を防ぐ。
「兄上はミーナを人形扱いしているじゃないですか! ミーナは……ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・エフモントは意思を持った一人の人間だ! ミーナはただ守られるだけのお姫様じゃない! 自分の力で戦うことが出来ますよ!」
マレインはキッとクリソベリルの目を鋭くする。
(マレインお義兄様……!)
ヴィルヘルミナはマレインの言葉に、何だか泣きそうになった。悲しさではなく、認めてくれている嬉しさがじんわりと込み上げてくる。
(ラルスお義兄様が私のことを第一に考えてくださっていることはよく分かる。そして私はそれに何とか報いないとと思っていたわ。そして……それが少しだけ窮屈でもあった。だけど……私は……守られるだけではなく、自分で戦いたいわ!)
ラルスに感じていた胸の騒つきの正体がようやく分かったヴィルヘルミナである。そしてマレインに目を向ける。
(先程……部屋に閉じ込められていた時も、マレインお義兄様は私のことを信じてくださったわ。昔から、私を信じて寄り添ってくださっていた。私はマレインお義兄様が……好きなんだわ。……ずっと前から)
ヴィルヘルミナはマレインへの気持ちを自覚した。
マレインは攻めの構えになる。
「僕は、ミーナが進む道を信じて彼女の支えになりたいんだ!」
一直線にラルスを目掛けて剣を振り下ろす。
ギィィンと今までの中で一番強い金属音が鳴り響く。マレインの剣は嵐のような勢いでラルスの剣を飛ばしていた。
ラルスは膝から崩れ落ちる。
「そこまで!」
執事の声が響き、二人の勝負は終わる。
マレインが勝ったのだ。
ラルスとマレインは力尽きているようで、お互いその場で呆然としていた。
「マレインお義兄様、ラルスお義兄様」
ヴィルヘルミナは二人の元へ駆け寄る。
「ミーナ……」
マレインはクリソベリルの目を優しく細める。その表情を見て、ヴィルヘルミナの心臓はトクリと跳ねる。
その隣で「ぐっ」と呻き声を上げ、ラルスはゆっくりと立ち上がる。ヴィルヘルミナはハッとラルスの方を見る。
「ラルスお義兄様、お怪我は」
「ミーナ、良い。大丈夫だ」
ラルスは片手でヴィルヘルミナを制し、フッと乾いた笑みを浮かべる。
「ラルスお義兄様……お義兄様がずっと私を守る為に動いてくださっていたことは理解しています。私の為に、本当にありがとうございます」
ヴィルヘルミナはそっとラルスの手を握る。
「ですが今、民達が怯えて、苦しんで生活している中で、私だけ守られて苦しまずにいることが、心苦しいのです。私は、ドレンダレン王国を良い国に変えたいと思っております。お義父様、お義母様、そしてお義兄様達が安心して暮らせる国に。その為に王太子妃となり、ベンティンク家を潰したいと考えているのです」
ヴィルヘルミナのタンザナイトの目からは覚悟が見えた。
「ミーナは……そうだよな。……昔から、誰かの為に、正義感が強くて真っ直ぐ突っ走る。……すまない、ミーナ。俺は……俺のエゴでお前を縛りつけようとしていた」
ラルスはヴィルヘルミナの手をゆっくりと払い、力なく笑った。そしてマレインを見る。
「マレイン、俺の負けだ。昔は俺の後をひたすらついて来てた癖に、お前いつからそんな格好良い男になったんだよ?」
フッと笑うラルス。憑き物が落ちたような表情だ。
「兄上……」
マレインはクリソベリルの目を見開く。
「ミーナが進む道を信じて、お前がミーナを側で支えてやれ」
凛とした表情のラルス。ラピスラズリの目には力が込もっていた。
「はい!」
マレインは力強く頷いた。
こうして、本心をぶつけ合った三人の絆は更に深まるのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日の夜。
ラルスは王都の屋敷の自室で今までのこと、そして今日のことを思い出して物思いに耽っていた。
(俺は……ミーナのことを義妹ではなく、一人の女性として愛していた。愛する女性が他の男の元へ嫁ぐと言われて……正気を保てなくなっちまったんだよな……)
その結果、ラルスはヴィルヘルミナを監禁してしまった。
(でも、あんなことをしてしまって……俺にはもうミーナの隣に立つ権利はないも同然だな)
ラルスはフッと自嘲する。
(俺は臆病者だ。ミーナが俺の目の届く範囲からいなくなるのが怖かった。だから、俺の側に置いておくことで、守っているつもりになっていたんだ……)
ラルスは寂しげにため息をつく。
(マレインは凄いよな。俺と同じであいつもミーナのことを義妹じゃなくて女性として愛してるはずだ。ずっと見てきたからマレインのミーナに対する気持ちも分かる。あいつも、国を変える為とはいえミーナが王太子妃になるって聞いて、ショックだったに違いない。でも、あいつはミーナが進む道を信じて支える覚悟があった。多分、その時点で俺は既に負けてたんだよな……)
ラルスはフッと笑った。
「マレイン、ミーナを側で支えてやってくれ。俺は……離れた場所からミーナを見守ることにするから」
ポツリと呟いた言葉は、夜の闇にスッと消えていった。
その後、王都の屋敷に戻って来たテイメンとペトロネラはヴィルヘルミナの決意に驚いていた。特にペトロネラは大反対だったが、ラルスとマレインがヴィルヘルミナの援護射撃を行ったことで説得に成功した。
こうして、ヴィルヘルミナが王太子ヨドークスの婚約者となった、そして二年に渡る王太子妃教育の末、ヴィルヘルミナはヨドークスと結婚し、王太子妃になるのであった。
こうして、ヴィルヘルミナは革命への道へと進み始めた。
「ラルス様とマレイン様の対決ですか。お二人共何やら本気なご様子ですね」
二人の対決の審判はエフモント公爵家の執事が行う。
(お義兄様達……私の為に戦うのね……。だけど、結果がどうであれ私は……)
ヴィルヘルミナはギュッと拳を握る。
「両者構え!」
執事の声に、ラルスもマレインも剣を構える。
「手合わせ開始!」
戦いの火蓋は切られた。
ラルスとマレインは激しく剣を交える。キィンと大きな金属音が鳴り響く。両者引く気はないようだ。
「マレイン、お前はどういうつもりだ!? ミーナを解放!? お前はミーナを死にに行かせるつもりか!?」
凛々しくも険しい表情のラルス。ラピスラズリの目からは怒りが窺われる。ラルスは更に剣を振り上げ、マレインを攻めようとする。マレインはそれを防ぐ。再びキィンと大きな金属音が響く。
(ラルスお義兄様……)
ヴィルヘルミナは少し苦しそうな表情である。
「絶対にミーナを死なせませんよ! 兄上こそ、ミーナの自由を奪って、それで守っているつもりですか!?」
マレインも声を荒らげる。そして攻めの姿勢に入る。
(あんなマレインお義兄様……初めてだわ)
ミーナは普段の穏やかさからは想像がつかないほどの激昂っぷりのマレインに驚き、タンザナイトの目を大きく見開いていた。
「ああ! これが最善なんだよ! ミーナの為だ!」
「嘘だ!」
「なっ!」
ラルスはマレインの言葉に一瞬動揺する。
「兄上がしていることは、ミーナの為ではなく自分の為ですよ!」
マレインは強く剣を振るうが、何とかラルスに防がれる。
「お前に何が分かる!? 父上も母上もいつまでもいてくれるわけじゃない! そうなったら、ミーナを守れるのは俺しかいない! ミーナは俺の目の届く範囲にいるべきなんだ!」
ラルスは思いっ切り強く剣をマレイン目掛けて振り下ろす。鳴り響く金属音は激しい。
(ぐっ……! やっぱり兄上は強い。だけど、負けるわけには行かない!)
マレインは表情を歪める。
その時、ふと七年前、ヴィルヘルミナの出自が判明した時のことを思い出した。
マレインはラルスと共に逃げ出したヴィルヘルミナを見つけた時のこと。その時、マレインは当時のヴィルヘルミナ本心を聞いていた。
『違うの……』
『ん? ミーナ、何が違うんだい?』
『本当は……』
ヴィルヘルミナは震えながら言葉を続ける。
『私を助けたせいで、家族が殺されてしまうのかもしれないのが怖いの』
(そうだ! ミーナはそういう子だ! 自分が殺されるのが怖いからじゃなくて、僕達家族が殺されることを恐れて泣いていた! この国を変えたい理由も、きっと僕達が殺されずに安心して暮らせる為でもあるんだ! 僕は……そんなミーナを……好きになったんだ! 義妹としてではなく、一人の女性として!)
マレインは深呼吸をし、ラルスからの攻撃を防ぐ。
「兄上はミーナを人形扱いしているじゃないですか! ミーナは……ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・エフモントは意思を持った一人の人間だ! ミーナはただ守られるだけのお姫様じゃない! 自分の力で戦うことが出来ますよ!」
マレインはキッとクリソベリルの目を鋭くする。
(マレインお義兄様……!)
ヴィルヘルミナはマレインの言葉に、何だか泣きそうになった。悲しさではなく、認めてくれている嬉しさがじんわりと込み上げてくる。
(ラルスお義兄様が私のことを第一に考えてくださっていることはよく分かる。そして私はそれに何とか報いないとと思っていたわ。そして……それが少しだけ窮屈でもあった。だけど……私は……守られるだけではなく、自分で戦いたいわ!)
ラルスに感じていた胸の騒つきの正体がようやく分かったヴィルヘルミナである。そしてマレインに目を向ける。
(先程……部屋に閉じ込められていた時も、マレインお義兄様は私のことを信じてくださったわ。昔から、私を信じて寄り添ってくださっていた。私はマレインお義兄様が……好きなんだわ。……ずっと前から)
ヴィルヘルミナはマレインへの気持ちを自覚した。
マレインは攻めの構えになる。
「僕は、ミーナが進む道を信じて彼女の支えになりたいんだ!」
一直線にラルスを目掛けて剣を振り下ろす。
ギィィンと今までの中で一番強い金属音が鳴り響く。マレインの剣は嵐のような勢いでラルスの剣を飛ばしていた。
ラルスは膝から崩れ落ちる。
「そこまで!」
執事の声が響き、二人の勝負は終わる。
マレインが勝ったのだ。
ラルスとマレインは力尽きているようで、お互いその場で呆然としていた。
「マレインお義兄様、ラルスお義兄様」
ヴィルヘルミナは二人の元へ駆け寄る。
「ミーナ……」
マレインはクリソベリルの目を優しく細める。その表情を見て、ヴィルヘルミナの心臓はトクリと跳ねる。
その隣で「ぐっ」と呻き声を上げ、ラルスはゆっくりと立ち上がる。ヴィルヘルミナはハッとラルスの方を見る。
「ラルスお義兄様、お怪我は」
「ミーナ、良い。大丈夫だ」
ラルスは片手でヴィルヘルミナを制し、フッと乾いた笑みを浮かべる。
「ラルスお義兄様……お義兄様がずっと私を守る為に動いてくださっていたことは理解しています。私の為に、本当にありがとうございます」
ヴィルヘルミナはそっとラルスの手を握る。
「ですが今、民達が怯えて、苦しんで生活している中で、私だけ守られて苦しまずにいることが、心苦しいのです。私は、ドレンダレン王国を良い国に変えたいと思っております。お義父様、お義母様、そしてお義兄様達が安心して暮らせる国に。その為に王太子妃となり、ベンティンク家を潰したいと考えているのです」
ヴィルヘルミナのタンザナイトの目からは覚悟が見えた。
「ミーナは……そうだよな。……昔から、誰かの為に、正義感が強くて真っ直ぐ突っ走る。……すまない、ミーナ。俺は……俺のエゴでお前を縛りつけようとしていた」
ラルスはヴィルヘルミナの手をゆっくりと払い、力なく笑った。そしてマレインを見る。
「マレイン、俺の負けだ。昔は俺の後をひたすらついて来てた癖に、お前いつからそんな格好良い男になったんだよ?」
フッと笑うラルス。憑き物が落ちたような表情だ。
「兄上……」
マレインはクリソベリルの目を見開く。
「ミーナが進む道を信じて、お前がミーナを側で支えてやれ」
凛とした表情のラルス。ラピスラズリの目には力が込もっていた。
「はい!」
マレインは力強く頷いた。
こうして、本心をぶつけ合った三人の絆は更に深まるのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日の夜。
ラルスは王都の屋敷の自室で今までのこと、そして今日のことを思い出して物思いに耽っていた。
(俺は……ミーナのことを義妹ではなく、一人の女性として愛していた。愛する女性が他の男の元へ嫁ぐと言われて……正気を保てなくなっちまったんだよな……)
その結果、ラルスはヴィルヘルミナを監禁してしまった。
(でも、あんなことをしてしまって……俺にはもうミーナの隣に立つ権利はないも同然だな)
ラルスはフッと自嘲する。
(俺は臆病者だ。ミーナが俺の目の届く範囲からいなくなるのが怖かった。だから、俺の側に置いておくことで、守っているつもりになっていたんだ……)
ラルスは寂しげにため息をつく。
(マレインは凄いよな。俺と同じであいつもミーナのことを義妹じゃなくて女性として愛してるはずだ。ずっと見てきたからマレインのミーナに対する気持ちも分かる。あいつも、国を変える為とはいえミーナが王太子妃になるって聞いて、ショックだったに違いない。でも、あいつはミーナが進む道を信じて支える覚悟があった。多分、その時点で俺は既に負けてたんだよな……)
ラルスはフッと笑った。
「マレイン、ミーナを側で支えてやってくれ。俺は……離れた場所からミーナを見守ることにするから」
ポツリと呟いた言葉は、夜の闇にスッと消えていった。
その後、王都の屋敷に戻って来たテイメンとペトロネラはヴィルヘルミナの決意に驚いていた。特にペトロネラは大反対だったが、ラルスとマレインがヴィルヘルミナの援護射撃を行ったことで説得に成功した。
こうして、ヴィルヘルミナが王太子ヨドークスの婚約者となった、そして二年に渡る王太子妃教育の末、ヴィルヘルミナはヨドークスと結婚し、王太子妃になるのであった。
こうして、ヴィルヘルミナは革命への道へと進み始めた。
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