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君がくれた魔法の言葉
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「僕の家ここなので。手伝ってくれてありがとうございました」
自宅に着くなりマリユスはそう言ってリシェから荷物を受け取った。
「マリユスの家っテここなンだネ」
リシェはマリユスの家をまじまじと見る。
「リシェさん……貴女の家まで送りますよ。……少し暗くなってきましたし……手伝ってもらったお礼も兼ねて」
マリユスは俯きながらもそう提案したが、リシェからは意外な答えが返ってくる。
「あリがとウ。だケど、私ノ家あそこなノ」
リシェが示した先は、マリユスの家のすぐ向かいだ。
それにはマリユスも驚く。
「僕の家の向かいじゃないですか!」
「私達、家ガ物凄ク近いネ」
リシェはクスッと笑った。
「じゃアまたネ、マリユス。次はちゃンと顔ガ見レたら嬉しイな」
リシェはニッコリ笑い、向かいの家に入っていった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
マリユスは自室で色々考えていた。
大半はリシェのことだ。
(リシェさん……明るくて……優しい人だった。もっとリシェさんと話してみたい……)
だがマリユスのネガティブな思考がストップをかける。
(いやいや、僕なんかとリシェさんが釣り合うわけがない! 僕はどうせ変な赤毛だしそばかすもあって醜いから……)
マリユスは鏡を見てため息をついた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
翌日。
「マリユス、おはヨう!」
ちょうどマリユスが両親の屋台を手伝いに行く際、リシェも向かいの家から出て来た。
「おはようございます、リシェさん」
「ねえ、今日モご両親ノお手伝イなんでショ? 私モ手伝っテいいかナ?」
「……え!?」
マリユスはリシェの言葉に驚く。
「私ノお父サんもお母サんもこノ国で仕事を始めルんだし、私も何か出来ルこと探しタいノ」
「……父さんと母さんに聞いてみます。とりあえずついて来てください」
少し考え、マリユスはそう答えた。
帽子を深くかぶり歩き始める。
「あリがとウ!」
リシェは嬉しそうにマリユスの隣に並んだ。
マリユスはそれが嬉しくもあり、不安でもあった。
(リシェさんの隣に並べるのも今だけだ。どうせ僕なんて釣り合わない)
マリユスはそう考えてしまうのであった。
屋台の場所まで到着するなり、マリユスはリシェの手伝いの件を両親に聞くと、すんなり了承された。
マリユスの父と母もリシェを気に入り喜んでいた。
マリユスは父親の作るタルトタタンに仕上げのキャラメリゼを施し、母親とリシェは集客だ。
溌剌としたリシェの声はよく通り、外国語訛りの喋り方もご愛嬌だ。
結果、先日より多くの客が来て、売上も絶好調だった。
これにより、リシェは女王陛下誕生祭の期間中、プランタード家の屋台を手伝うことになった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
女王陛下誕生祭が終了し、どの屋台も片付けに移り始めた。勿論、プランタード家の屋台もだ。
マリユスとリシェは一緒に荷物を少しずつプランタード家へ運んでいる最中だ。
「パレード、凄かったネ」
「ええ、そうですね」
「結局今日もマリユスは顔を隠シたままだったネ。残念」
「言ったでしょう。僕は人に顔を見せたくないんです」
マリユスは少し溜息を吐き、帽子を深くかぶろうとした瞬間、強い風が吹いた。
その風で帽子が飛ばされてしまう。
「マリユスの帽子ガ!」
リシェはマリユスの帽子を追いかけてキャッチした。
「よかっタ。マリユスの帽子、無事だネ」
「ありがとうございます」
マリユスはリシェから帽子を受け取ろうとした。
その時、再び強い風が吹く。
マリユスの長い前髪が風でふわりと舞い、隠していた顔が露わになる。
リシェのアンバーの目は、マリユスに釘付けになっていた。
風が止み、再び長い前髪によりマリユスの顔は隠される。
「見ましたよね? 僕の顔。貴女も醜いと思ったでしょう。こんな赤毛にそばかす」
マリユスはそっぽを向く。
「そんナことなイ」
リシェはマリユスの方に回り込む。
「いいですよ。同情なんていりません」
俯くマリユス。
「違ウ! とテも綺麗だっテ思っタ!」
リシェは力強く言った。
「……え?」
マリユスは恐る恐る顔を上げた。
「私、マリユスの髪の色凄ク好きだシ、そばかすモお星様ミたいで綺麗だト思っタ! そレに、グレーの目モ綺麗! もっト見セて!」
ニッコリ笑うリシェ。
マリユスの心にこびりついた呪いのような言葉が、リシェの言葉で全て溶けていく感じがした。
「……そんなこと、初めて言われました。僕、小さい頃に髪の色とそばかすを揶揄われて……それで、僕は醜いんだって思って……」
気付けばマリユスは涙を流していた。
「そっカ。酷イこと言わレたんダネ。でモ大丈夫。私は、今まデ会った人ノ中で一番マリユスが綺麗ダって思ウ! だかラ、私ノ言葉を信ジて! マリユスは綺麗だヨ!」
嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。
マリユスはようやく前を向く事ができた。
「リシェさん、ありがとうございます」
再び風が吹き、マリユスの顔が露わになる。
涙の跡は残っているが、マリユスは笑顔だった。
「そノ笑顔素敵!」
リシェは嬉しそうに笑った。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日以来、マリユスは長かった前髪を切り、帽子もかぶらなくなった。
マリユスは今日も顔を上げ、前を向いて歩く。
そしてその隣では、リシェが嬉しそうに笑っていた。
自宅に着くなりマリユスはそう言ってリシェから荷物を受け取った。
「マリユスの家っテここなンだネ」
リシェはマリユスの家をまじまじと見る。
「リシェさん……貴女の家まで送りますよ。……少し暗くなってきましたし……手伝ってもらったお礼も兼ねて」
マリユスは俯きながらもそう提案したが、リシェからは意外な答えが返ってくる。
「あリがとウ。だケど、私ノ家あそこなノ」
リシェが示した先は、マリユスの家のすぐ向かいだ。
それにはマリユスも驚く。
「僕の家の向かいじゃないですか!」
「私達、家ガ物凄ク近いネ」
リシェはクスッと笑った。
「じゃアまたネ、マリユス。次はちゃンと顔ガ見レたら嬉しイな」
リシェはニッコリ笑い、向かいの家に入っていった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
マリユスは自室で色々考えていた。
大半はリシェのことだ。
(リシェさん……明るくて……優しい人だった。もっとリシェさんと話してみたい……)
だがマリユスのネガティブな思考がストップをかける。
(いやいや、僕なんかとリシェさんが釣り合うわけがない! 僕はどうせ変な赤毛だしそばかすもあって醜いから……)
マリユスは鏡を見てため息をついた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
翌日。
「マリユス、おはヨう!」
ちょうどマリユスが両親の屋台を手伝いに行く際、リシェも向かいの家から出て来た。
「おはようございます、リシェさん」
「ねえ、今日モご両親ノお手伝イなんでショ? 私モ手伝っテいいかナ?」
「……え!?」
マリユスはリシェの言葉に驚く。
「私ノお父サんもお母サんもこノ国で仕事を始めルんだし、私も何か出来ルこと探しタいノ」
「……父さんと母さんに聞いてみます。とりあえずついて来てください」
少し考え、マリユスはそう答えた。
帽子を深くかぶり歩き始める。
「あリがとウ!」
リシェは嬉しそうにマリユスの隣に並んだ。
マリユスはそれが嬉しくもあり、不安でもあった。
(リシェさんの隣に並べるのも今だけだ。どうせ僕なんて釣り合わない)
マリユスはそう考えてしまうのであった。
屋台の場所まで到着するなり、マリユスはリシェの手伝いの件を両親に聞くと、すんなり了承された。
マリユスの父と母もリシェを気に入り喜んでいた。
マリユスは父親の作るタルトタタンに仕上げのキャラメリゼを施し、母親とリシェは集客だ。
溌剌としたリシェの声はよく通り、外国語訛りの喋り方もご愛嬌だ。
結果、先日より多くの客が来て、売上も絶好調だった。
これにより、リシェは女王陛下誕生祭の期間中、プランタード家の屋台を手伝うことになった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
女王陛下誕生祭が終了し、どの屋台も片付けに移り始めた。勿論、プランタード家の屋台もだ。
マリユスとリシェは一緒に荷物を少しずつプランタード家へ運んでいる最中だ。
「パレード、凄かったネ」
「ええ、そうですね」
「結局今日もマリユスは顔を隠シたままだったネ。残念」
「言ったでしょう。僕は人に顔を見せたくないんです」
マリユスは少し溜息を吐き、帽子を深くかぶろうとした瞬間、強い風が吹いた。
その風で帽子が飛ばされてしまう。
「マリユスの帽子ガ!」
リシェはマリユスの帽子を追いかけてキャッチした。
「よかっタ。マリユスの帽子、無事だネ」
「ありがとうございます」
マリユスはリシェから帽子を受け取ろうとした。
その時、再び強い風が吹く。
マリユスの長い前髪が風でふわりと舞い、隠していた顔が露わになる。
リシェのアンバーの目は、マリユスに釘付けになっていた。
風が止み、再び長い前髪によりマリユスの顔は隠される。
「見ましたよね? 僕の顔。貴女も醜いと思ったでしょう。こんな赤毛にそばかす」
マリユスはそっぽを向く。
「そんナことなイ」
リシェはマリユスの方に回り込む。
「いいですよ。同情なんていりません」
俯くマリユス。
「違ウ! とテも綺麗だっテ思っタ!」
リシェは力強く言った。
「……え?」
マリユスは恐る恐る顔を上げた。
「私、マリユスの髪の色凄ク好きだシ、そばかすモお星様ミたいで綺麗だト思っタ! そレに、グレーの目モ綺麗! もっト見セて!」
ニッコリ笑うリシェ。
マリユスの心にこびりついた呪いのような言葉が、リシェの言葉で全て溶けていく感じがした。
「……そんなこと、初めて言われました。僕、小さい頃に髪の色とそばかすを揶揄われて……それで、僕は醜いんだって思って……」
気付けばマリユスは涙を流していた。
「そっカ。酷イこと言わレたんダネ。でモ大丈夫。私は、今まデ会った人ノ中で一番マリユスが綺麗ダって思ウ! だかラ、私ノ言葉を信ジて! マリユスは綺麗だヨ!」
嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。
マリユスはようやく前を向く事ができた。
「リシェさん、ありがとうございます」
再び風が吹き、マリユスの顔が露わになる。
涙の跡は残っているが、マリユスは笑顔だった。
「そノ笑顔素敵!」
リシェは嬉しそうに笑った。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日以来、マリユスは長かった前髪を切り、帽子もかぶらなくなった。
マリユスは今日も顔を上げ、前を向いて歩く。
そしてその隣では、リシェが嬉しそうに笑っていた。
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