転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

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25.日陰者になりたくなかったイーリス・後編

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 この国の未来を担う攻略対象達に囲まれ、周囲から尊敬と羨望の目で見られた学園生活はイーリスにとって満たされたものだった。
 悪役令嬢エヴァンジェリンが留学先から戻って来たとしても、何も変わらないと思っていた。
 しかし、エヴァンジェリンがマリナを庇い始めたことで楽しそうな表情をするマリナを見かけることが増えた。
 悪役令嬢エヴァンジェリン、その婚約者、そして地味な新興男爵令息と楽しそうに過ごすマリナを見て、非常に苛立った。
(負けたヒロインの癖に何で楽しそうなのよ? これはもう既に私の物語なのに)

 そしてマリナが前世の記憶を持っていることが分かり、イーリスはもしかしたらエヴァンジェリンと組んで正しいシナリオにしようとしているのではないかと不安になった。
 そこでイーリスはエドワード達にマリナを確実に排除して欲しいと頼んだ。

 それにより引き起こしたのが王家の家宝窃盗事件である。
 マリナに罪を着せて追放を企んでいた。
 しかし、エヴァンジェリン達の手によりマリナは救い出され、計画は失敗に終わる。
 エドワードが録画魔道具の証拠は捏造だと大々的に発表してくれたお陰でイーリス達は白い目で見られずに済んだ。
 イーリスはマリナだけでなくエヴァンジェリンも排除する次の手段を考えていた。

 その時、異常事態が発生した。闇の魔獣の襲撃だ。
(嘘……! 闇の魔獣襲来イベントは起こったとしてもまだ先のはずよ……!)
 イーリスは窓の外を見てカナリアイエローの目を大きく見開いた。
「魔獣か……!?」
「どうして学園に魔獣が……!?」
 驚愕するエドワード達。
「とりあえず、俺達は魔獣退治に」
「待ってください」
 イーリスは思わずエドワードを引き止めた。
「イーリス、どうした?」
 エドワードは優しい目でイーリスを見る。
 自分だけに向けてくれる目だ。
 それにより満たされる反面、もっと欲が出るイーリス。
「……行かないでください、エドワード様。私、魔獣が怖いです。だから、ここで私を守ってください。一人にしないで……」
 イーリスは自分の見た目の使い方をよく知っていた。ここで上目遣いをし、目を涙で潤ませればエドワード達はコロッと落ちる。
「そうか。……確かに、イーリスを不安がらせるわけにはいかないな。俺はイーリスと共に安全な場所へ行く。お前達はどうする?」
 エドワードがショーン、アンソニー、ライアンの三人に問いかけた。
 すると、三人も安全な場所でエドワードとイーリスを守ると宣言した。
 こうして、イーリス達は王族だけが知っている学園内の安全な場所に避難し、他の誰かが魔獣を倒してくれるのを待っていた。
(安全な場所でエドワード様達に囲まれて他の奴らが泣き喚いて苦労するのを高みの見物。やっぱりこういうのがいいのよ)
 エドワード達に守られながらイーリスはほくそ笑んだ。

 魔獣騒ぎが収束し、イーリス達は大勢がいる避難所に向かった。
 マリナ達と対峙した際、イーリスは衝撃的な人物を目にする。
 『光の乙女、愛の魔法』の隠しキャラ、アルジャノーン・アステールだ。
「嘘……! 隠しキャラ……! 何で……!?」
 イーリスは思わずそう呟いたが、周囲の騒めきにかき消された。

 前世のイーリスは『光の乙女、愛の魔法』の四人目の二つ目のハッピーエンドを目指している最中で、隠しキャラを解放できていなかった。しかし、前世のイーリスはチラッとアルジャノーンの姿のイラストと名前を見たことがあったのだ。その姿はプラチナブロンドの髪に紫の目であった。

 学園に本来の姿のアルジャノーンがいなかったため、隠しキャラを逆ハーレムに加えることを諦めていたイーリス。しかし、まさかアルジャノーンが変身魔道具で見た目を変えてマリナの近くにずっといただなんて思いもしなかった。
 悔しさが込み上げ、マリナに対して「全部、全部悪いのはマリナ・ルベライトよ……!」と言ってみたものの、マリナに一蹴されてしまう。
 おまけに光の魔力を持つマリナをアステール帝国に流出させた罪で投獄されてしまった。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


(こんなはずじゃなかったのに……)
 研究所にて、馬車馬のように働かされているイーリスは深くため息をつく。
 投獄後しばらくするとイーリスは地下牢から出され、ジュエル王国の研究所へ向かわされた。
 もしかしたらエドワード達に会えるかもと思ったが、そこで予想だにしなかったことを聞かされる。
 イーリスが開発したものの権利と利益は全てマリナの生家ルベライト男爵家のものになること。これから研究所でイーリスには開発をしてもらうがその権利は研究所持ち、利益も半分は研究所、半分はルベライト男爵家に入るようになり、イーリスには何の権利も利益も残らないのだ。おまけに不具合を生じさせた時だけ矢面に立たされて、その賠償金はイーリスが用意しなければならないということだ。
(そんなの……一生日の目を浴びない生活じゃない! そんなの嫌よ! 前世と一緒じゃない!)
 イーリスは絶望した。
 もしかしたらエドワード達なら助けてくれるかもしれないと手紙を書くが、エドワード達は毒杯により処刑されたことを知り、泣き叫んだ。
 家族からも切り捨てられ、自身を守ってくれる存在を全て失ったイーリス。
 早速不具合を出してその賠償金を体を売って稼がなければならなくなった。
 死にたくても不死の腕輪で自死できないようにしてあり、イーリスはこの先誰の日の目も浴びず暗い人生を送るしかなかったのである。
(どうして……? 私は特別な存在であるはずなのに……。どうして私がこんな目に……?)
 イーリスは死ぬまでそう思い続けるのであった。

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