転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

文字の大きさ
上 下
12 / 26

12.マナーレッスン

しおりを挟む
 翌日。
 アルからプレゼントされたオレンジの花のネックレスを身に着けるマリナ。
(アルがくれたネックレス……)
 鏡の前で頬をほんのり赤く染めて、ふふっと微笑むマリナ。
(これを着けていたら、何だか力が湧いてくるわ)
 マリナは深呼吸をし、この日の授業の準備をして学園に向かうのであった。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


 女神アメジスト像の前にて。
「マリナ様!」
 エヴァンジェリンがワクワクした様子でマリナの元に駆け寄る。
 彼女の真紅の目はウキウキと輝いていた。
 ちなみに今日のエヴァンジェリンは艶やかな銀髪カールヘアを下ろしている。
「エヴァンジェリン様、どうしたのですか?」
 マリナはやや引き気味に後ずさりをする。
わたくし見たのよ! 昨日、アル様とデートをなさっているところを!」
「デートって……! たまたま同じ本屋に用があったから一緒に行っただけですよ」
 デートという言葉にドキリとするマリナ。
「いいえ、それをデートと言うのよ!」
 相変わらずワクワクとテンションが高めのエヴァンジェリンだった。そして彼女はマリナにそっと耳打ちをする。
「ねえ、マリナ様はアル様のことが異性として好きなのかしら?」
 小さいが、ボールが弾むような軽やかな声だ。
 マリナは頬を染めて無言で頷く。
「まあ! 素敵だわ!」
 これでもかというくらい嬉しそうなエヴァンジェリンに、マリナは少し引いてしまう。
「あの、エヴァンジェリン様、このことは内密に」
「ええ、もちろん! わたくしが協力するわ!」
 エヴァンジェリンはガシッとマリナの手を握っていた。
「ねえ、マリナ様。明日からしばらく放課後時間はあるかしら?」
 前のめりになっているエヴァンジェリン。
 そんな彼女に対し、苦笑するマリナ。
「ええ。放課後は基本的に暇ですから」
「分かったわ。では、明日の放課後、マリナ様を迎えに行くわね」
 ルンルンとした様子で校舎に入るエヴァンジェリン。
 マリナはすっかりエヴァンジェリンのペースに飲まれていた。
(エヴァンジェリン様、一体何をするつもりなのかしら?)
 マリナは軽やかな足取りのエヴァンジェリンの後ろ姿に妹を見守るかのような視線を送っていた。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


「おはよう、マリナ。今日は遅めだな」
 教室に入ると、アルがフッと笑っていた。
「おはよう、アル。エヴァンジェリン様と色々話をしていたのよ」
 先程のエヴァンジェリンとの賑やかなやり取りを思い出し、マリナはクスッと笑う。
「そっか。あ、そのネックレス……」
 アルは嬉しそうに眼鏡の奥のオレンジの目を細める。
「ええ。気に入ったから、毎日着けることにしたのよ」
 マリナは少しだけアルから目をそらし、頬をほんのり赤く染める。
「そうか。そんなに気に入ってもらえたら俺も嬉しい」
 アルもほんのり頬を赤く染めていた。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


 翌日の放課後。
「さあ、マリナ様、行きましょう」
 約束通りエヴァンジェリンがマリナのクラスまで迎えに来て、有無を言わさぬ様子でマリナは彼女に連れ去られた。
「あの、エヴァンジェリン様、どちらに行くのですか?」
わたくしの部屋よ」
 困惑するマリナをよそに、エヴァンジェリンはノリノリだ。

 魔法学園の寮はどの部屋も同じ家具が置いてあり、身分による扱いの差はなかった。エヴァンジェリンの寮の部屋の家具の配置はマリナの部屋とは左右が反対である。
 エヴァンジェリンの部屋には見知らぬ女性がいた。
「あの、エヴァンジェリン様、このお方はどなたでしょうか?」
 マリナは不思議そうに首を傾げた。
「こちらは上級貴族の家庭教師をなさっているカリスタ先生よ。わたくしもお世話になったの」
 ふふっと笑うエヴァンジェリン。
「貴女がマリナ様ですね。初めまして。カリスタと申します」
「初めまして。マリナ・ルベライトと申します」
 マリナは落ち着いて自己紹介をした。
「それで、エヴァンジェリン様、一体何をなさるつもりなのですか?」
 マリナは状況が読めず困惑していた。
「もちろん、マリナ様にはカリスタ先生から上級貴族の所作やマナーを学んでもらうのよ。ほら、その方がこの先有利になると思うわ」
 ウキウキとした様子のエヴァンジェリンだった。
(エヴァンジェリン様……私に上級貴族のマナーを学ばせて一体どうするつもりなのかしら?)
 疑問に思ったが、エヴァンジェリンがあまりにも楽しそうなので、何も聞かずに彼女の言う通りにしておこうと思うマリナであった。
 マリナの薄紫色の目は、まるで妹を見守るかのようにエヴァンジェリンを見ていた。

「マリナ様、カーテシーの時の腰の角度はこうした方が優雅に見えます」
「は、はい」

「マリナ様、歩き方はもっと滑らかに」
「えっと……こうでしょうか?」

「マリナ様、ナイフとフォークはもう少し角度はこうした方が上級貴族に引けを取らなくなります」
「これで合っていますか?」

 カリスタによるレッスンは二週間程続いた。
 ルベライト男爵家で習ったものよりは厳しく、マリナは四苦八苦しながら上級貴族レベルの所作を身につけた。
 公爵令嬢であるエヴァンジェリンは軽々とその動作をするので、改めてすごいなとマリナは感じていた。

「マリナ様、よく頑張りましたね」
「マリナ様、これで貴女も上級貴族から侮られてしまう所作ではないわ。胸を張ってちょうだい」
 カリスタとエヴァンジェリンに褒められたマリナ。特にエヴァンジェリンは満足そうな表情をしている。
「ありがとうございます」
 マリナは少し照れながら微笑んだ。
(エヴァンジェリン様の意図は分からないけれど、カリスタ先生から学んだことは確かに為になることばかりだったわ)
 厳しいレッスンではあったが、それなりに充実していたようだ。

「推しが尊い……! それにこのまま行けば……!」
 エヴァンジェリンが興奮気味に呟いたが、マリナはそれに気づかなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

処理中です...