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8.エヴァンジェリンの前世
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エヴァンジェリンとヴィクターの二人と知り合い、アルとも合流したマリナは四人で昼食を取ることにした。
場所はいつもの人気のない中庭のベンチ。
「つまりマリナ様は前世で『光の乙女、愛の魔法』は四人目のライアンルートの一つ目のハッピーエンドを見たところだったのね」
エヴァンジェリンは前世のマリナがどこまでゲームを進めていたのかを確認していた。
マリナとエヴァンジェリンが前世で夢中になっていたゲーム『光の乙女、愛の魔法』は攻略キャラに対してハッピーエンドが二つ用意されているのだ。
「はい。残念ながら二つ目にたどり着く前に死んでしまったようです。他の三人は二種類のハッピーエンドを見ることはできましたが」
マリナは前世を思い出し懐かしんでいる。
「そうなのね」
エヴァンジェリンは納得したようだ。
「女性二人で盛り上がっているようですね」
ヴィクターは男性陣そっちのけのマリナとエヴァンジェリンを見て苦笑する。
「いわゆる前世トークというやつですね」
アルは眼鏡の奥のオレンジの目を優しげに細めた。その目はマリナを見守っているかのようだ。
ちなみにマリナとエヴァンジェリンに前世の記憶があることはアルとヴィクターの前では大っぴらにしている。
「でもまあライアンルートの一つ目のハッピーエンドは大学の卒業旅行の国際線長時間フライトの時に見ることができてよかったかなとは思っています」
「まあ、マリナ様は前世で大学に行くことができたのね。羨ましいわ。きっと中学や高校にも通えたのでしょうね」
マリナの言葉にエヴァンジェリンは羨望の眼差しを向けていた。
「はい。卒業旅行から帰国した時に乗っていたバスが事故に遭ったみたいで、記憶がそこで途切れております。……エヴァンジェリン様は前世でもしかして大学に行かれる前に亡くなってしまわれたのですか?」
恐る恐る、少し遠慮がちなマリナだ。やはり死についてはデリケートな話題である、
「ええ。前世の私は昔から病気がちで、五歳くらいからは入院生活が基本よ。学校も通えず病院内の院内学級で勉強していたの。それまでは元気で時計や家の家電、前世の兄のゲーム機などを分解しては叱られていたわ」
懐かしげに語り始めるエヴァンジェリン。
「分解魔だったのですね」
マリナは苦笑する。
「ええ。機械とかが動く仕組みには興味があったのよ」
ふふっと笑うエヴァンジェリン。
(ああ、エヴァンジェリン様は前世で大学生になるまで生きていられたとしたらきっと工学部系の学部に進学していそうね)
マリナはそのまま黙ってエヴァンジェリンの話を聞く。
「入院してからも、病院にある機械を分解しようとしては叱られていたわ」
懐かしげに話すエヴァンジェリン。
「それはそうでしょうね」
マリナはまた苦笑した。
「入院生活は本当に退屈で、とりあえず九歳くらいの時にタブレットとゲーム機を買ってもらえたのよ。分解しないことを条件に。そこからは録画した深夜アニメをよく見ていた両親の影響でタブレット端末でアニメを見たりしていたわ。そのうち声優にも夢中になり、声優目当てで色々な乙女ゲームを買ってもらったの。そうしているうちに少し健康になったので中学からは学校に通えるかもしれないと診断されたのだけど……」
エヴァンジェリンは苦笑し、言葉を続ける。
「いざ中学入学になった時、新たな病気が判明してまた入院生活に戻ることになったわ」
「それはお気の毒に……」
マリナは同情するように心を痛めた。
「今まで以上に命に関わる状況になったのよ。治療により髪の毛も全て抜けてしまったわ。とにかく気を紛らわせるために、『光の乙女、愛の魔法』は何度もやり込んでいたの。Web小説やライトノベルもひたすら読んだ時期だったわね」
前世を懐かしむエヴァンジェリン。
「そうだったのですね」
前世の自分が健康体でいかに恵まれていたかを思い知るマリナである。
「そして十五歳になって少し経過した時に容体が急変して息を引き取ったわ。短い人生だったわね」
しんみりしないよう、おどけて見せたエヴァンジェリン。
「私も前世の世間一般で見たら若くして亡くなった方ですが、前世のエヴァンジェリン様はもっとお若くして亡くなられていたのですね」
「ええ。でも今世では十七歳を迎えることができたの。念願の学園生活もアステール帝国で送ることができたわ。今からはジュエル王国での学園生活よ。前世よりも人生充実しているわ」
したり顔のエヴァンジェリン。
「この先もエヴァンジェリン様が充実した人生を送れることを願っております」
マリナはまるで妹を見守るかのような気持ちになっていた。
「ええ、もちろん充実させてみせるわ。五歳の時熱を出して前世の記憶を思い出して、『光の乙女、愛の魔法』の悪役令嬢エヴァンジェリンだったことに気づいた時はどうしようかと焦ったけれど、まずは今世のお兄様が研究している魔道具を分解してみることにしたの。魔道具が動く仕組みが気になったので」
エヴァンジェリンは楽しそうな表情だ。
「分解魔なのは健在なのですね。叱られませんでした?」
苦笑するマリナ。
「ええ。お兄様からしこたま叱られたわ」
「やっぱり」
再びマリナは苦笑した。
「とにかく、十歳で王太子殿下の婚約者に選ばれる時まではまだ時間があったから、王太子殿下の婚約者になった時に色々と破滅回避の対策を立てようと思っていたのよ。それまでは魔道具を分解したり調べたりしていたわ。そうしているうちに、いつの間にかイーリス様という方が殿下の婚約者になっていたのよ。シナリオ改変されていることには驚いたけれど、改めて私はゲームの世界ではなくこの人生を生きているのだと思ったわね」
「そうでしたか。そういえば、そのイーリス様は半分優しさでできている痛み止めの薬やお湯を入れて三分待てば食べることができる麺なども開発していたそうですよ」
「ええ、その話は聞いたことがあるわ。間違いなく彼女も転生者でしょうね。シナリオ改変は私としては破滅を回避できるので助かったわ。でも、マリナ様を貶めるのは許せないわね。きっとゲームの強制力を恐れた彼女が王太子殿下に大勢の前で貴女に絶縁宣言するよう頼んだのでしょう。まだ何もしていない貴女に」
エヴァンジェリンは憤りを感じているようだ。
「イーリス様の入れ知恵かは分かりませんが、せめて個別で呼び出される方がまだ学園内で平和に過ごせましたわ」
マリナはクラスで孤立していることを思い出し、ため息をついた。
「ところで、エヴァンジェリン様にお聞きしたいことがあります。今のエヴァンジェリン様が毎日髪型を変える理由は、前世の治療で髪の毛が全て抜けてしまったことに関係しているのですか?」
マリナは切り替えて、素直に疑問に思ったことを聞いてみた。
「ええ、その通りよ。今世はこんなにも長い髪なのだから、アレンジが楽しくて仕方ないわ。明日はどんな髪型にするか毎日ワクワクですもの。まあ、毎日変えていたらそうしなければならない感じで引っ込みがつかなくなったというのもあるけれど。もちろん、魔道具研究も好きよ」
楽しそうに真紅の目を輝かせるエヴァンジェリンだ。
「そうでしたか。私もエヴァンジェリン様のように勉強を頑張って毎日充実させないといけませんね」
マリナの薄紫の目はまっすぐ前を向いていた。
「お二人さん、盛り上がっているところ申し訳ないけれど、そろそろ昼休みが終わってしまうよ」
そこへヴィクターがそう切り出し、マリナとエヴァンジェリンはハッとする。
「そうだったわ。マリナ様とつい話し込んでしまっていたわ」
「私も、エヴァンジェリン様とお話しできて楽しかったです」
マリナとエヴァンジェリンは完全に仲良くなっていた。
「マリナ、それはよかったな。でも、このままだと授業に遅れるぞ」
アルはフッと優しげに微笑んでいる。
「そうね、アル。教室に戻らないと」
ふふっと笑うマリナ。
そのままエヴァンジェリン達と別れ、アルと共に教室へ戻るマリナであった。
エヴァンジェリンと仲良くなったことで、マリナの気持ちは軽くなっていた。
場所はいつもの人気のない中庭のベンチ。
「つまりマリナ様は前世で『光の乙女、愛の魔法』は四人目のライアンルートの一つ目のハッピーエンドを見たところだったのね」
エヴァンジェリンは前世のマリナがどこまでゲームを進めていたのかを確認していた。
マリナとエヴァンジェリンが前世で夢中になっていたゲーム『光の乙女、愛の魔法』は攻略キャラに対してハッピーエンドが二つ用意されているのだ。
「はい。残念ながら二つ目にたどり着く前に死んでしまったようです。他の三人は二種類のハッピーエンドを見ることはできましたが」
マリナは前世を思い出し懐かしんでいる。
「そうなのね」
エヴァンジェリンは納得したようだ。
「女性二人で盛り上がっているようですね」
ヴィクターは男性陣そっちのけのマリナとエヴァンジェリンを見て苦笑する。
「いわゆる前世トークというやつですね」
アルは眼鏡の奥のオレンジの目を優しげに細めた。その目はマリナを見守っているかのようだ。
ちなみにマリナとエヴァンジェリンに前世の記憶があることはアルとヴィクターの前では大っぴらにしている。
「でもまあライアンルートの一つ目のハッピーエンドは大学の卒業旅行の国際線長時間フライトの時に見ることができてよかったかなとは思っています」
「まあ、マリナ様は前世で大学に行くことができたのね。羨ましいわ。きっと中学や高校にも通えたのでしょうね」
マリナの言葉にエヴァンジェリンは羨望の眼差しを向けていた。
「はい。卒業旅行から帰国した時に乗っていたバスが事故に遭ったみたいで、記憶がそこで途切れております。……エヴァンジェリン様は前世でもしかして大学に行かれる前に亡くなってしまわれたのですか?」
恐る恐る、少し遠慮がちなマリナだ。やはり死についてはデリケートな話題である、
「ええ。前世の私は昔から病気がちで、五歳くらいからは入院生活が基本よ。学校も通えず病院内の院内学級で勉強していたの。それまでは元気で時計や家の家電、前世の兄のゲーム機などを分解しては叱られていたわ」
懐かしげに語り始めるエヴァンジェリン。
「分解魔だったのですね」
マリナは苦笑する。
「ええ。機械とかが動く仕組みには興味があったのよ」
ふふっと笑うエヴァンジェリン。
(ああ、エヴァンジェリン様は前世で大学生になるまで生きていられたとしたらきっと工学部系の学部に進学していそうね)
マリナはそのまま黙ってエヴァンジェリンの話を聞く。
「入院してからも、病院にある機械を分解しようとしては叱られていたわ」
懐かしげに話すエヴァンジェリン。
「それはそうでしょうね」
マリナはまた苦笑した。
「入院生活は本当に退屈で、とりあえず九歳くらいの時にタブレットとゲーム機を買ってもらえたのよ。分解しないことを条件に。そこからは録画した深夜アニメをよく見ていた両親の影響でタブレット端末でアニメを見たりしていたわ。そのうち声優にも夢中になり、声優目当てで色々な乙女ゲームを買ってもらったの。そうしているうちに少し健康になったので中学からは学校に通えるかもしれないと診断されたのだけど……」
エヴァンジェリンは苦笑し、言葉を続ける。
「いざ中学入学になった時、新たな病気が判明してまた入院生活に戻ることになったわ」
「それはお気の毒に……」
マリナは同情するように心を痛めた。
「今まで以上に命に関わる状況になったのよ。治療により髪の毛も全て抜けてしまったわ。とにかく気を紛らわせるために、『光の乙女、愛の魔法』は何度もやり込んでいたの。Web小説やライトノベルもひたすら読んだ時期だったわね」
前世を懐かしむエヴァンジェリン。
「そうだったのですね」
前世の自分が健康体でいかに恵まれていたかを思い知るマリナである。
「そして十五歳になって少し経過した時に容体が急変して息を引き取ったわ。短い人生だったわね」
しんみりしないよう、おどけて見せたエヴァンジェリン。
「私も前世の世間一般で見たら若くして亡くなった方ですが、前世のエヴァンジェリン様はもっとお若くして亡くなられていたのですね」
「ええ。でも今世では十七歳を迎えることができたの。念願の学園生活もアステール帝国で送ることができたわ。今からはジュエル王国での学園生活よ。前世よりも人生充実しているわ」
したり顔のエヴァンジェリン。
「この先もエヴァンジェリン様が充実した人生を送れることを願っております」
マリナはまるで妹を見守るかのような気持ちになっていた。
「ええ、もちろん充実させてみせるわ。五歳の時熱を出して前世の記憶を思い出して、『光の乙女、愛の魔法』の悪役令嬢エヴァンジェリンだったことに気づいた時はどうしようかと焦ったけれど、まずは今世のお兄様が研究している魔道具を分解してみることにしたの。魔道具が動く仕組みが気になったので」
エヴァンジェリンは楽しそうな表情だ。
「分解魔なのは健在なのですね。叱られませんでした?」
苦笑するマリナ。
「ええ。お兄様からしこたま叱られたわ」
「やっぱり」
再びマリナは苦笑した。
「とにかく、十歳で王太子殿下の婚約者に選ばれる時まではまだ時間があったから、王太子殿下の婚約者になった時に色々と破滅回避の対策を立てようと思っていたのよ。それまでは魔道具を分解したり調べたりしていたわ。そうしているうちに、いつの間にかイーリス様という方が殿下の婚約者になっていたのよ。シナリオ改変されていることには驚いたけれど、改めて私はゲームの世界ではなくこの人生を生きているのだと思ったわね」
「そうでしたか。そういえば、そのイーリス様は半分優しさでできている痛み止めの薬やお湯を入れて三分待てば食べることができる麺なども開発していたそうですよ」
「ええ、その話は聞いたことがあるわ。間違いなく彼女も転生者でしょうね。シナリオ改変は私としては破滅を回避できるので助かったわ。でも、マリナ様を貶めるのは許せないわね。きっとゲームの強制力を恐れた彼女が王太子殿下に大勢の前で貴女に絶縁宣言するよう頼んだのでしょう。まだ何もしていない貴女に」
エヴァンジェリンは憤りを感じているようだ。
「イーリス様の入れ知恵かは分かりませんが、せめて個別で呼び出される方がまだ学園内で平和に過ごせましたわ」
マリナはクラスで孤立していることを思い出し、ため息をついた。
「ところで、エヴァンジェリン様にお聞きしたいことがあります。今のエヴァンジェリン様が毎日髪型を変える理由は、前世の治療で髪の毛が全て抜けてしまったことに関係しているのですか?」
マリナは切り替えて、素直に疑問に思ったことを聞いてみた。
「ええ、その通りよ。今世はこんなにも長い髪なのだから、アレンジが楽しくて仕方ないわ。明日はどんな髪型にするか毎日ワクワクですもの。まあ、毎日変えていたらそうしなければならない感じで引っ込みがつかなくなったというのもあるけれど。もちろん、魔道具研究も好きよ」
楽しそうに真紅の目を輝かせるエヴァンジェリンだ。
「そうでしたか。私もエヴァンジェリン様のように勉強を頑張って毎日充実させないといけませんね」
マリナの薄紫の目はまっすぐ前を向いていた。
「お二人さん、盛り上がっているところ申し訳ないけれど、そろそろ昼休みが終わってしまうよ」
そこへヴィクターがそう切り出し、マリナとエヴァンジェリンはハッとする。
「そうだったわ。マリナ様とつい話し込んでしまっていたわ」
「私も、エヴァンジェリン様とお話しできて楽しかったです」
マリナとエヴァンジェリンは完全に仲良くなっていた。
「マリナ、それはよかったな。でも、このままだと授業に遅れるぞ」
アルはフッと優しげに微笑んでいる。
「そうね、アル。教室に戻らないと」
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