無関係の人から見たら、それは確かに美しい物語だけど……

宝月 蓮

文字の大きさ
1 / 2

前編

しおりを挟む
 アポロニア王国では十年程前からとある演劇が大流行している。
 それは隣国ルーナティウス王国のセレニスト村からアポロニア王国まで駆け落ちしたヴァイオレットとロバートの物語である。
 何とこの物語、実話なのだ。

 ルーナティウス王国のセレニスト村では毎年、豊穣の神に花嫁を捧げることで豊作を祈っていた。
 花嫁と言えば聞こえはいいが、実質生贄である。
 この年の花嫁に選ばれたのはヴァイオレットという十五歳の少女。ヴァイオレットは村の為に犠牲になることを受け入れた心優しい少女であった。
 村人達はヴァイオレットの優しさに心打たれ、豊穣の神に捧げられるその日までなるべく彼女の願いを叶えてあげようとした。
 ヴァイオレットが願ったのはただ一つ。恋人のロバートと共にいる時間が欲しいということ。
 ロバートはヴァイオレットより二つ年上の十七歳。村で一番剣術が強い少年である。
 豊穣の神に捧げられる日まで、ヴァイオレットはロバートと共に過ごしていた。残された時間を慈しむように。
 村人達は二人のことを切なくも温かく見守っていた。
 そしてヴァイオレットが豊穣の神に捧げられる日がやって来た。豊穣の神が祀られる神殿から迎えが来てヴァイオレットは村を旅立ってしまう。その際に、ロバートは自分もヴァイオレットを豊穣の神の元へ送り届けると申し出たのだ。
 愛し合う恋人同士、出来るだけ長く共にいたいのであろう。その思いを感じ取った村人達は、ヴァイオレットとロバートを神殿の使者達と共に送り出した。
 豊穣の神が祀られる神殿が近付くにつれ、ヴァイオレットは「まだ死にたくない、ロバートと一緒にいたい」という気持ちを涙ながらに吐露する。するとロバートは「俺も同じ気持ちだ」とヴァイオレットを抱きしめた。
 そしてロバートは神殿の使者を持っていた剣で攻撃し、ヴァイオレットを連れて逃げ出した。
 こうして二人が辿り着いたのが、このアポロニア王国。
 運命に抗った二人はこの国で幸せに暮らしたという。

「運命に抗ってまで貫いた愛、素敵だわ」
「ええ、そうね。私も憧れるわ」
 この演劇を見た者達はうっとりとした表情でヴァイオレットとロバートの話の余韻に浸っていた。
「ねえ、今もこの国にいるみたいよ。何でも、二人の間にはもう三人も子供がいるって話よ」
「それ私も知り合いから聞いたわ。その知り合い、ヴァイオレットとロバートの二人と仲が良いから本当の話よ」
「今でも幸せに暮らしているのね! 素敵だわ!」
 その後ヴァイオレットとロバートが幸せそうに暮らしていることが分かり、演劇を見た者達は更に盛り上がっていた。

 その様子を忌々しげに睨んでいる壮年の男がいた。
(何が運命に抗ってまで貫いた愛だ!? 二人が逃げたせいでセレニスト村の者達かどんな目に遭ったのか教えてやりたいくらいだ!)
 この男、名をブレンドンと言う。彼はセレニスト村出身なのだ。

 ブレンドンはヴァイオレットとロバートが逃げたことによる影響をもろに受けていたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トリスタン

下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。 彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。 小説家になろう様でも投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

悪夢がやっと覚めた

下菊みこと
恋愛
毎晩見る悪夢に、精神を本気で病んでしまって逃げることを選んだお嬢様のお話。 最後はハッピーエンド、ご都合主義のSS。 主人公がいわゆるドアマット系ヒロイン。とても可哀想。 主人公の周りは婚約者以外総じてゴミクズ。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

秘密の多い彼との関係を切れない私の話

下菊みこと
恋愛
秘密の多い彼と思ったより愛し愛されていたお話。 御都合主義のハッピーエンドのSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...