地味令嬢と地味令息の変身

文字の大きさ
上 下
9 / 18
本編

変身・前編

しおりを挟む
 ナゼールの為に変わろうと決意したミラベル。中身はいきなりそう簡単に変わらないので、まず見た目から変わることにした。
「あの、お父様……」
「何だい? ミラベル」
 ミラベルの父セルジュは優しげな声だ。栗毛色の髪にムーンストーンのようなグレーの目の端正な顔立ちである。ミラベルもよく見たら少しセルジュに似ている。
「その、学園がお休みの日に、仕立て屋を呼んでいただけないでしょうか?」
 少し震える拳を握り締め、セルジュにそうお願いするミラベル。
「仕立て屋か。今までのドレスに何か問題が出たのかな?」
 セルジュは不思議そうに首を傾げる。
「いえ、そう言うわけではございませんが……今持っているものとは違ったデザインのドレスが欲しいと存じました。もちろん、無理にとは言いません」
 ミラベルは最後少し自信なさげになってしまう。そこへ母ロクサーヌが援軍を出す。
「セルジュ様、よろしいではありませんか。ミラベルもそういう年頃でございますわ。それに、ルテル家の資産ならば一人毎月十着ドレスを購入したとしても全く破産には陥りませんわ。仕立て屋をお呼びしてミラベルの新しいドレスを購入いたしましても大丈夫でございますわよ」
 ロクサーヌはふふっと微笑む。ブロンドの髪にタンザナイトのような紫の目で、可愛らしい顔立ちだ。
 こうして、ミラベルは新しいドレスを購入することになった。いつも着ているドレスはシンプルなものが多かったが、新調したドレスは地味過ぎず派手過ぎず丁度良い華やかさである。また、流行を取り入れたものを数着、流行に流されずいつでも着られるものを数着購入した。
 また、侍女ウラリーに頼んで髪型を整えてもらったり、化粧を施してもらった。それによりミラベルは野暮ったさがなくなり洗練された見た目になった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 一方ナゼールもミラベルの為に変わろうと決意をしていた。そしてミラベルと同じく外見から変わることにする。
 無造作長めの黒褐色の髪を切ってもらい、きちんと表情が見えるようにした。そしてダイエットを始めたナゼール。いきなりは効果が出ないが、少しずつ痩せ始めている。
「あら? ナゼールお兄様、少し見ないうちに爽やかになりましたわね」
 アリティー王国から帰国してナルフェック王国の王都に来ていた妹のアンナにそう言われた。
 アンナはナゼールと同じ黒褐色の髪にヘーゼルの目だが、顔立ちは母マリアンヌに似て甘めの顔立ちの美人だ。
「……そうかな?」
 ナゼールは少し微笑んだ。
「ええ、左様でございますわ。ねえ、お母様、ナゼールお兄様は爽やかになられましたよね?」
「そうね。アンナの言う通りだわ。それに、何だかクロヴィス様に似てきているわね」
 ふふっと嬉しそうに微笑むマリアンヌである。
 こざっぱりとしたナゼールは、美形とまではいかないが爽やかで好印象が持てる見た目になっていた。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 見た目に少し自信が持てたことで、仕草にも余裕が出てきたミラベルとナゼール。
 ラ・レーヌ学園の紳士淑女のマナー教育では、講師のユルシュル・ニネット・ド・リゴーに褒められた。
「ミラベルさん、そしてナゼールさん。お二人は以前よりも堂々として品が出ましたね。素晴らしいです」
 ミラベルとナゼールは顔を見合わせて喜ぶ。そしてユルシュルにお礼を言う。
「「ありがとうございます、リゴー先生」」
 ちなみに、ユルシュルはミラベルの父セルジュの妹である。つまりミラベルの叔母に当たる。
「お二人共、その調子で頑張るように」
 ユルシュルは満足げに微笑み、フォックスフレーム眼鏡を掛け直した。
 それだけでなく、ミラベルもナゼールも以前より積極的に他者とコミュニケーションが取れるようになった。
 昼休み、いつものようにナゼールが紡績機を電池で動くように改良している時、ミラベルがあることに気付く。
「ナゼール様は左利きでございますのね」
「ええ、物心ついた時には左手で文字を書くようになっていましたね。母方の祖母も左利きだったので、母上曰く遺伝の可能性があるみたいです」
 ナゼールは自身の左手を見てからミラベルを見て微笑む。
「利き手は遺伝するのでございますね」
 ミラベルはグレーの目を丸くした。
「あくまで可能性の話です。医務卿である義伯母おば上も、利き手と遺伝の関係はまだ解明されていないと言っていましたし」
 ナゼールはクスッと笑った。二人のコミュニケーションは以前よりスムーズになっていた。ミラベルもナゼールも、お互い目を見て話せるようになっている。
 そこへ、ラファエルがやって来た。どうやら機械について知りたいようだ。
「お取り込み中申し訳ないね」
「いえ、気にしないでください、ラファエル殿」
「ありがとう、ナゼール。この機械の作動のことなんだけどさ」
 ちなみに、ラファエルは興味の範疇が広く、乗馬クラブや化学実験室など様々な所に顔を出しているようだ。
「ああ、それならこの部分を緩めたら上手く動きますよ」
 ナゼールはしっかりとラファエルの目を見て受け答えをしていた。
「ありがとう、ナゼール。前に化学実験室でオレリアンも言ってたけど、君は機械の知識は専門的なところまで知っていて凄いね」
 ラファエルはペリドットの目をキラキラと輝かせていた。
「僕よりも詳しい人はもっといますが……ありがとうございます、ラファエル殿」
 ナゼールは嬉しそうに微笑んでいる。
「いえいえ。じゃあオレリアンを待たせているからそろそろ僕は化学実験室に行くよ。ありがとう」
 ラファエルは太陽のような笑みを浮かべ、技術室を後にした。
 ちなみに、オレリアンは化学系に興味を持っているようだ。
「ナゼール様の良さを分かってくださる方がいて嬉しいです」
 ミラベルは控え目だが嬉しそうに微笑んだ。
「僕の良さ…ですか。まだ少し自信はないですが、以前より卑屈にはならなくなりましたね。ずっと卑屈になっていては、ミラベル嬢やオレリアンやラファエル殿みたいに、僕を認めてくれている方に対して失礼になりますので」
 ナゼールはミラベルの目を見て、穏やかに微笑んだ。
 眼鏡越しに覗くヘーゼルの目を見て、ミラベルは少しドキドキしながらも微笑む。
(ナゼール様、以前より明るくなられたわ。それに、頑張っているのが伝わってくる。……わたくしも頑張らないと)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...