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王太女殿下は正論なのだけど色々と斜め上の方に話が進み大変です

本編

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 ウォーンリー王国王宮にて。
 この日は王太女ソニアが主催するお茶会が開かれていた。
 そんなお茶会の一画にて、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
「トーネ様、貴女のような地味な方がトレグデ公爵令息エルランド様の婚約者だなんてありえませんわ」
「身の程を弁えたらいかがですの?」
「貴女のような方にエルランド様の妻が務まるわけないですわ」
 三人の令嬢から責め立てられる一人の令嬢。
 彼女はトーネ・シグリッド・フリース。フリース伯爵家の次女である。
 栗毛色のふわふわとした髪にグレーの目。美形と言われる部類ではあるが、地味なのだ。
 トーネを責め立てる三人の令嬢––侯爵令嬢ユニス、伯爵令嬢ソルビョク、子爵令嬢ハルディスは、派手でいかにも気が強そうな顔立ちだ。
(この方々には何を言い返しても無駄。飽きるのを待ちましょう)
 トーネは諦めたように、嵐が通り過ぎるのを待つかのように俯いている。
 この日のユニス、ソルビョク、ハルディスはトーネに対して格段に大声で罵っている。
 当然お茶会参加者の目はトーネ達に向かう。
 その時、第三者の声が響き渡る。
「貴女達、一体何の騒ぎかしら?」
 凛としたソプラノの声だ。
 その声に全員ハッとする。

 太陽の光に染まったようなブロンドの真っ直ぐ伸びた髪、ターコイズのような青い目、神秘的な顔立ち。

「王太女殿下……」
 トーネがポツリと呟く。

 ソニア・アストリッド・ハルドラーダ。
 ウォーンリー王国ハルドラーダ王家に生まれた王太女ソニアである。

「王太女殿下主催のお茶会でこのような騒ぎになり申し訳ございません」
 トーネは真摯に謝罪する。するとソニアは優しい笑みを浮かべた。
「トーネ、貴女が謝罪する必要はないわ。貴女には非が全くないもの」
 そしてソニアのターコイズの目はずっと冷える。その冷えた眼差しはソニアを責め立てた三人に向かう。
 冷たい目で睨まれて三人はビクリと肩を震わせた。
「貴女達はトーネとエルランドの婚約が気に入らないみたいだけど、王家としてはこの婚約には大賛成よ。それに、トーネとエルランドは政略結婚ではあるけれどお互いに想い合っていることがわたくしにも分かるわ。それに、貴女達がエルランドから相手にされないのは貴女達に魅力がないからではなくて?」
 冷たく微笑むソニア。
「そんな……」
 ソニアから魅力がないと言われて深く傷付く三人。
「自分達の魅力がないことを棚に上げてトーネを責め立てるなんて、お門違いにも程があるわよ。そんなことも分からないなんて、生家でどんな教育をされたのかしらね? こんな恥ずかしい者達をわたくしのお茶会に来させるだなんて。どうして断りの返事をしなかったのかしら?」
 ターコイズの目は冷たく、それでいて純粋だったゆえ、トーネを責め立てた三人は何も言えなくなる。
(王太女殿下はいつも正論なのよね……。そんな風に言われると多分わたくしも傷付くわ。王太女殿下は優秀で合理的ではあるけれど)
 トーネは内心苦笑し、俯く三人に同情を寄せた。
「まあ貴女達の気持ちも生物学的本能としては真っ当なものであることは理解出来るわ。つまり、強い雄……要するに優秀な殿方の子を産みたいということでしょう」
「王太女殿下……! そういうわけでは……!」
 ソニアの爆弾発言に三人は顔を真っ赤にして絶句する。
「でもわざわざそれを大声で宣言するのは品がないとは思わないのかしら?」
 小首を傾げるソニア。王族らしい気品ある所作だ。
「そんな、わたくし達はそのようなことを大声で宣言はしておりませんわ」
「そうですわ、王太女殿下」
わたくし達は何もそこまで……」
 三人は顔を真っ赤にしたまま否定する。
わたくしには貴女達が優秀な殿方の子を産みたいと叫んでいるように聞こえましたわ。大丈夫、安心してちょうだい。貴女達の気持ちが聞けたのだから、国としてもそれを叶えてあげるべきよね」
 ふふっと悪戯っぽく微笑むソニア。
(王太女殿下、一体何をお考えなのかしら……?)
 雲行きがおかしな方に向かいそうになっており、内心不安になるトーネであった。

「ユニス、貴女はトヴェイト侯爵令息ビョルンと結婚しなさい」
「え……そんな、わたくしがトヴェイト侯爵令息と……!?」
 顔を青くして悲鳴をあげるユニス。
「ソルビョク、貴女の結婚相手はデール伯爵令息イェンスにしましょう」
「デール伯爵令息イェンスですって……!?」
 ショックで呼吸が浅くなるソルビョク。
「そしてハルディス、貴女にはヴォルデン子爵家当主ハーコンの後妻になってもらうわ」
「そんな……ヴォルデン子爵家の後妻だなんて……!?」
 力なく床に崩れ落ちるハルディス。
「あら? 優秀な殿方の子を産みたいと騒いでいたのだから喜ぶのが普通ではなくて? トヴェイト侯爵令息ビョルンは数多くの小説を書き、ウォーンリー王国だけでなく近隣諸国でも人気作を続々と出しているわ。デール伯爵令息イェンスは技術者として優秀よ。この前も王家が進める工業化プロジェクトで素晴らしい装置を開発していたわ。ヴォルデン子爵家当主ハーコンは化学分野で次々と特許を取得しているのよ。王家としても、まだ彼らの遺伝子を次代に遺せていないのは懸念事項なの。全員優秀な頭脳を持つのだから。きっと女王陛下お母様に彼らと貴女達の結婚を提案したら喜ぶでしょうね」
 得意げに微笑むソニア。その笑みはどこか恐ろしく見えた。

 トヴェイト侯爵令息ビョルンは優れた文学作品を発表するが、常に脂汗を垂らしている。
 デール伯爵令息イェンスは優れた工学技術を持つのだが、見た目が醜くて有名なのだ。
 ヴォルデン子爵家当主ハーコンは化学知識豊富でいくつもの特許を持つが、カエル顔。
 優秀な頭脳を持つ三人なのだがその見た目のせいで令嬢達から敬遠されているのだ。
 王家としても彼らの家が途絶えることを良しとしていない。

 その後、ユニス、ソルビョク、ハルディスの三人は王命でそれぞれトヴェイト侯爵令息ビョルン、デール伯爵令息イェンス、ヴォルデン子爵家当主ハーコンと婚約が決まった。
 更に王命の内容には必ず夫婦間で子を儲けること、白い結婚の禁止、令嬢側が他の男性と密通した場合厳しい処分があることが盛り込まれていた。

 王命による婚約が決まってしまった令嬢三人は大絶叫。しかし逃げることが出来ず絶望しながら過ごすしかないのであった。

「王太女殿下、いささかやり過ぎでは?」
 トーネは控えめに苦笑する。
わたくし、何の努力もせず何かを得ようとして他人を貶める方々が許せませんの。だからあの方々が最も嫌がることをしなければ反省しないと思いましたのよ。あの方々も、わたくし主催のお茶会で騒ぎを起こさなければこうはならなかったでしょうに」
 ソニアはふふっと冷たく微笑んだ。
(王太女殿下だけは敵に回してはいけないわね)
 トーネは気を引き締めるのであった。
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