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女湯

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「ああ、今日もいい湯だったな。」

 湯船から上がり村尾氏は言った。村尾氏はここ、◯▲銭湯の常連であった。常連というか2歳の時から銭湯が休みの日以外30年間毎日来ていた。そのためもはや村尾氏にとっては家のようなものであった。浴場の石畳模様はそらで正確に描くことができたし、休憩所の自動販売機の何段目の何列に何が何円で売っているか全て暗記しているほどだった。

 しかし、そんな村尾氏にも未知の場所があった。女湯である。村尾氏は女湯に入ったことがなかったのだ(男なので。)。村尾氏はずっと気になっていた。女湯はどんなところだろう。しかしなかなか女湯を見る機会に恵まれなかった村尾氏。ある日、我慢が限界を迎えた。なぜならカラスが、飛んでいたから。

 カーカーカー

 覗くなら夜、誰も浴場にいなくなった夜だ。村尾氏は思った。なぜなら中に女がいるときに覗いたらなにか別の意味の覗きであるように思われるし、なによりも邪魔である。女湯の一部が女の陰になって隠れてしまう。隅々まで観察できないに決まっているのである。ということで村尾氏は夜中、誰もいなくなった午前2時に◯▲銭湯の裏庭に侵入したのだった。

 バリーン

 窓を割る。ぽつりぽつりと水滴が垂れる音。街灯のぼんやりとしたあかりで外には微かな光があったが、中は真っ暗だ。懐中電灯で女湯を照らす。

 ふむふむ、ぱっと見、男湯と女湯に大した違いはない。石畳の模様も同じようなものだし、浴槽の深さも大して変わらない。腰を屈めると湯船から頭が出る程度だ。まあもっとも今は水が抜かれているが。今度はシャワーの方。それぞれ形式は男湯と同じ。鏡の前にシャンプーとリンスが綺麗に並べられている。シャンプーとリンスの種類も男湯と変わらないようだ。

 カチャリ

 浴場の隅で音が。誰かいるのか。電灯を向けるとシャワー用の椅子が積み重ねられていた。水滴にでも反応したのだろうか。観察を続ける。

 シャワーの数を数える。横一列に、1、2、3、4、5、縦に6、7、8、、、9!!男湯には8つしかシャワーがないのに。女湯には9もあるぞ。村尾氏は静かに興奮した。

 ガチャガチャガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャ

 再び音が。しかもさっきとは比較にならないほど大きい。なんだなんだ、なんだなんだ。

 電灯を向けるとシャワー用の椅子がガチャガチャ痙攣している。

 なんだこれは、なんだこれは。

 ジャーーーーーー!!

 今度は水の音。全てのシャワーから水が飛び出してきた

 これは怖い!!

 タタタタタッ!!

 村尾氏は帰りました。

 女湯をのぞいている時、女湯もこちらを覗いているのだ。


 めでたし、めでたし。

 完

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