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数学科医

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 医学部5年の私は進路に迷っていた。元々成績が良かったから医学部に進んだだけで特にやりたいことがあるわけではなかった。内科医は患者に病気を移され死んでしまうかもしれないし、外科医は手術ミスをして訴えられるかもしれない、眼科医はふとした瞬間に患者の眼を抉り取ってしまうかもしれないし、耳鼻科医は人と話さなければいけない、精神科医も人と話さなければいけないし、整形外科医も人と話さなければいけない、皮膚科医も人と話さなければいけないし、小児科医も人と話さなければいけない。

 そんなことを考えながら大学からもらった資料を眺めていると、目にとまるものが。数学科、とある。説明欄には人と話さなくてよい、とだけ書いてある。決まりだ。私は数学科医になることに決めた。

 それから卒業するまで、私は数学をした。たくさん数学の勉強をした。たくさん数学の勉強をしたので、無事数学科医になることができた。

 待ちに待った開業日。さあ、どんな患者が来るのだろう。朝9時、いよいよオープンだ。

 ガラガラー

 早速患者がやってきた。3さんだ。ぴょんぴょん跳ねながらやってきた。

「すみません。最近視界に黒い靄がかかっているようで、なんか何もやる気が起きず、一日中ベッドから出る気がしません。」

 ははあ、これは鬱だ。3さんは鬱になっているようだ。俺の専門外だ。

「すみません。私の専門外です。是非精神科に行って下さい。」

「は、はいい。すみませんでした。精神科にいってきますぅ。」

 3さんは帰っていった。その日はもう患者はこなかった。私は数学をしていた。

 次の日、また3さんがやってきた。

「あの、昨日精神科に行ったら、数字は見れない、数学科に入ってくれ、と言われたものでして、、、、。」

「そんなこと言われましても、私にはどうしようもありません。」

「そんな、うぅっ、私を助けてくれる人なんて、どこにもいないんだ。しくしくしくしく。」

 3さんは泣き出してしまった。泣かれたって、どうしようもないもの。私は泣き声を無視しながら机に向かって数学をしていた。

 1+1=2、1+2=3、、、、、、

 ふと気づくと泣き声が聞こえない。どうしたんだ。見ると、3さんは上のくびれを吊って死んでいた。ああ、初めての患者が死んでしまったな。そう思いながら死亡時刻を確認しようと時計に目をやる。が、なにかおかしい。時計盤に違和感を感じる。1、2、4、5、6、7、8、9、11、12、14、という数字が並んでいる。3が無くなっているのだ。ははあ、3が死んだから、1、2、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、、、、、と数える世界になったのだ。

 それ以降数学科に患者が来ることはなかったので、潰れた。

 完

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