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看板、自己紹介
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これは看板だ、と、看板に書いてある。これは看板だ、とね。
看板、なにか知らせるためのものなのに、看板が自己紹介を書いては、それはまあ看板の看板になっているのだが、うーん、どうなのだろう。看板が存在すること自体、看板の看板なのではないかね。ここに看板があるので誰か何か宣伝しませんか、ということならわかるがそうでもないらしい。ただ、これは看板だ、と書いてあるのだ。これは恐らく、承認欲求?看板の承認欲求が肥大化した結果?いつも他人ばかりのっけていたもんだから、たまには自分をのっけてみてもいいだろう、そう思ったのか。そうだとしたら、可愛い。可愛い看板。
ああもしやこれが狙いか。看板が自己紹介することは無駄だと思っていたが、可愛いと思ってしまった。私の好感度を勝ち取ったのだ。可愛い看板。私は可愛くて舐めた。
ペロペロ、ペロペロ
仕事に向かった。
次の日、例の看板、これは蜜だ、と書いてある。ん、本当か、舐めてみる
ペロペロ、ペロペロ
全然甘くない。ただの看板だ。腹が立った。嘘つき看板め。昨日私が舐めたせいか?もっと舐められたいがために自分が蜜だと自己紹介し始めたのか?どちらにせよお前には幻滅した。さようなら。もう舐めることはないだろう。私は仕事に向かった。
その次の日。さようならと言っても通勤の途中にある。目に入るのは必然。相変わらず、これは蜜だ、と書いてある。しかし、昨日と違うことがあった。虫が群がっている。本当に看板が蜜だと信じたんだろうな。まあ、虫は馬鹿だからな。騙されてるのだ。その虫を取ろうと、子供達が群がり、子供達を取ろうと誘拐犯達が群がり、誘拐犯達を捕まえようとと警察官達が群がり、警察官達に助けを求めようと痴漢された女達が群がり、その隣には痴漢した男達が屈強な男達に捕まえられ群がっている。たくさんの人でごった返しているため、政治家達(数百名といったところか。)が群がり演説を始めている。しかし人が多すぎて何をいってるのかとても聞き取れない。あまりにも人が集まっているのでコンビニができ、遊園地ができ、駅が作られている。しかし子供達は虫達に必死で見向きもせず、誘拐犯達は子供達に必死で見向きもせず、警察官達は誘拐犯達に必死で見向きもせず、女達は警察官達に必死で見向きもせず、痴漢犯人達は屈強な男達に捕らえられ見向きもせず、政治家達は演説に必死なので見向きもしなかったので、客は入っていなかった。赤字、どんまい。みんな経営破綻した。それはさておき痴漢犯人達、冤罪かもしれない。冤罪だったら可哀想だ。いち早く逃げるべき。私は痴漢犯人の一人に声をかけた。
「あなたは本当に痴漢をしたのですか。」
「私は痴漢をした。」
私の目を真っ直ぐ見つめ、はっきりと彼は言った。ネズミを狩る鷹のような、強い、強い瞳。彼は、痴漢をしている。私は安心した。看板よ、嘘をついて人気者になれて、よかったな。私は仕事に向かった。
そのまた次の日、これは蜜だ、と、相変わらず書いてある。昨日の人混みは消え、虫の死骸のみ転がっている。餓死したのだ。蜜だと思って吸っていた看板、看板だったのだから。哀れだ。虫がいなくなったから、子供達がいなくなり、誘拐犯達もいなくなり、警察官達もいなくなり、痴漢された女達もいなくなり、痴漢した男達も、それを捕らえた屈強な男達も、政治家達もいなくなった。コンビニも遊園地も駅もなくなった。看板はぽつんと孤独に立っている。嘘をついた罰さ、そう思い仕事に向かった。
次の日も、その次の日も、看板は立っていた。これは蜜だ、と書きながら。周囲は閑散としている。嘘をついた罰、そう思った。次の日も、その次の日も、またその次の日も様子は変わらなかった。
ある日、役所の職員のような人物が看板の前で話をしている。なんだろう。聞いてみる。
「この看板は嘘をついている。嘘をついてるし、使いたいという人もいない。無駄じゃないか。撤去してしまおう。」
「そうだな。撤去してしまおう。」
そんなことを言っている。ふん、嘘つき看板、撤去されて当然だ。私は気にせず会社に向かった。なんとなく、後ろ髪を引かれながら。
集中できない。嘘つき看板が頭から離れないのだ。くそっ、嘘つきのくせに、嘘つきのくせに。思えば私が一番あいつを気にしていた。最初に舐めたときから。私はあいつの虜だったのかもしれない。結局私は仕事に集中できなかった。
「すみません、看板のことが頭から離れず仕事に集中できません。帰らせて下さい。」
「それは大変だ。早く看板のところに行きなさい。」
私は社長に挨拶し、看板のもとへ走った。
タッタッタッ、タッタッタッ
走った。息が切れ、腸はねじれた。いたたたた。そうこうしているうちに着いた。
役所の職員がはさみで看板を切り取ろうとしているがきれない。苦労している。はさみじゃアルミはきれないもの。
「きれない、どうして困ったな、困ったな。」
「待ってくれ。」
「なんですか、あなたは。」
「私が使う。私が使うぞ。」
「ああ、そうですか、それは良かった。」
私は買った。買って『これは看板です。』と看板に書いた。
ああ、愛しい。これこそ私が愛した看板。
私は夢中になって舐めた。
ペロペロペロペロペロペロペロペロペロ
舐めていくうちに、全てが愛おしくなって行く。だんだん甘くなってゆく、初恋の味、、、。愛しい、愛しい。蜜と偽っていたあの頃も、愛しい。ああ、私が間違っていた。己を偽ってまで愛されようとする醜さ、それこそ美しいではないか。看板よ、悪かった。私はずっと愛していたのだ。
ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ
ひたすら舐め続けた。日が暮れる。日が暮れても舐め続けた。ふと、後ろを振り向く。人集りが出来ていた。カシャカシャ、私を撮っているようだ。良かったな、看板、人気者になったぞ。
看板「なんだこいつ、きめえ。」
完
看板、なにか知らせるためのものなのに、看板が自己紹介を書いては、それはまあ看板の看板になっているのだが、うーん、どうなのだろう。看板が存在すること自体、看板の看板なのではないかね。ここに看板があるので誰か何か宣伝しませんか、ということならわかるがそうでもないらしい。ただ、これは看板だ、と書いてあるのだ。これは恐らく、承認欲求?看板の承認欲求が肥大化した結果?いつも他人ばかりのっけていたもんだから、たまには自分をのっけてみてもいいだろう、そう思ったのか。そうだとしたら、可愛い。可愛い看板。
ああもしやこれが狙いか。看板が自己紹介することは無駄だと思っていたが、可愛いと思ってしまった。私の好感度を勝ち取ったのだ。可愛い看板。私は可愛くて舐めた。
ペロペロ、ペロペロ
仕事に向かった。
次の日、例の看板、これは蜜だ、と書いてある。ん、本当か、舐めてみる
ペロペロ、ペロペロ
全然甘くない。ただの看板だ。腹が立った。嘘つき看板め。昨日私が舐めたせいか?もっと舐められたいがために自分が蜜だと自己紹介し始めたのか?どちらにせよお前には幻滅した。さようなら。もう舐めることはないだろう。私は仕事に向かった。
その次の日。さようならと言っても通勤の途中にある。目に入るのは必然。相変わらず、これは蜜だ、と書いてある。しかし、昨日と違うことがあった。虫が群がっている。本当に看板が蜜だと信じたんだろうな。まあ、虫は馬鹿だからな。騙されてるのだ。その虫を取ろうと、子供達が群がり、子供達を取ろうと誘拐犯達が群がり、誘拐犯達を捕まえようとと警察官達が群がり、警察官達に助けを求めようと痴漢された女達が群がり、その隣には痴漢した男達が屈強な男達に捕まえられ群がっている。たくさんの人でごった返しているため、政治家達(数百名といったところか。)が群がり演説を始めている。しかし人が多すぎて何をいってるのかとても聞き取れない。あまりにも人が集まっているのでコンビニができ、遊園地ができ、駅が作られている。しかし子供達は虫達に必死で見向きもせず、誘拐犯達は子供達に必死で見向きもせず、警察官達は誘拐犯達に必死で見向きもせず、女達は警察官達に必死で見向きもせず、痴漢犯人達は屈強な男達に捕らえられ見向きもせず、政治家達は演説に必死なので見向きもしなかったので、客は入っていなかった。赤字、どんまい。みんな経営破綻した。それはさておき痴漢犯人達、冤罪かもしれない。冤罪だったら可哀想だ。いち早く逃げるべき。私は痴漢犯人の一人に声をかけた。
「あなたは本当に痴漢をしたのですか。」
「私は痴漢をした。」
私の目を真っ直ぐ見つめ、はっきりと彼は言った。ネズミを狩る鷹のような、強い、強い瞳。彼は、痴漢をしている。私は安心した。看板よ、嘘をついて人気者になれて、よかったな。私は仕事に向かった。
そのまた次の日、これは蜜だ、と、相変わらず書いてある。昨日の人混みは消え、虫の死骸のみ転がっている。餓死したのだ。蜜だと思って吸っていた看板、看板だったのだから。哀れだ。虫がいなくなったから、子供達がいなくなり、誘拐犯達もいなくなり、警察官達もいなくなり、痴漢された女達もいなくなり、痴漢した男達も、それを捕らえた屈強な男達も、政治家達もいなくなった。コンビニも遊園地も駅もなくなった。看板はぽつんと孤独に立っている。嘘をついた罰さ、そう思い仕事に向かった。
次の日も、その次の日も、看板は立っていた。これは蜜だ、と書きながら。周囲は閑散としている。嘘をついた罰、そう思った。次の日も、その次の日も、またその次の日も様子は変わらなかった。
ある日、役所の職員のような人物が看板の前で話をしている。なんだろう。聞いてみる。
「この看板は嘘をついている。嘘をついてるし、使いたいという人もいない。無駄じゃないか。撤去してしまおう。」
「そうだな。撤去してしまおう。」
そんなことを言っている。ふん、嘘つき看板、撤去されて当然だ。私は気にせず会社に向かった。なんとなく、後ろ髪を引かれながら。
集中できない。嘘つき看板が頭から離れないのだ。くそっ、嘘つきのくせに、嘘つきのくせに。思えば私が一番あいつを気にしていた。最初に舐めたときから。私はあいつの虜だったのかもしれない。結局私は仕事に集中できなかった。
「すみません、看板のことが頭から離れず仕事に集中できません。帰らせて下さい。」
「それは大変だ。早く看板のところに行きなさい。」
私は社長に挨拶し、看板のもとへ走った。
タッタッタッ、タッタッタッ
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役所の職員がはさみで看板を切り取ろうとしているがきれない。苦労している。はさみじゃアルミはきれないもの。
「きれない、どうして困ったな、困ったな。」
「待ってくれ。」
「なんですか、あなたは。」
「私が使う。私が使うぞ。」
「ああ、そうですか、それは良かった。」
私は買った。買って『これは看板です。』と看板に書いた。
ああ、愛しい。これこそ私が愛した看板。
私は夢中になって舐めた。
ペロペロペロペロペロペロペロペロペロ
舐めていくうちに、全てが愛おしくなって行く。だんだん甘くなってゆく、初恋の味、、、。愛しい、愛しい。蜜と偽っていたあの頃も、愛しい。ああ、私が間違っていた。己を偽ってまで愛されようとする醜さ、それこそ美しいではないか。看板よ、悪かった。私はずっと愛していたのだ。
ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ
ひたすら舐め続けた。日が暮れる。日が暮れても舐め続けた。ふと、後ろを振り向く。人集りが出来ていた。カシャカシャ、私を撮っているようだ。良かったな、看板、人気者になったぞ。
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