通史日本史

DENNY喜多川

文字の大きさ
上 下
46 / 49

第八巻 第四章 GHQの占領政策

しおりを挟む
〇満州
荒野を進撃するソ連軍戦車(T-34)に、塹壕に籠もった日本兵が立ち向かう。
N「日本本土では八月十五日に終わった戦争だが、ソ連は『休戦協定が結ばれるまでは戦争中である』という解釈で、満州国などの日本領に進撃を続けた。この時ソ連が獲得したのが、後に『北方領土』と呼ばれる千島四島である」

〇シベリア
氷と雪に閉ざされた大地で、木材の伐採などの作業に駆り出される旧日本兵。
N「捕虜になった日本兵は、シベリアで十年に渡る抑留生活を余儀なくされた」

〇厚木飛行場
『バターン号』(ダグラスC-54B)のタラップに立つダグラス・マッカーサー(米陸軍元帥、六十六歳)。
N「昭和二十(一九四五)年八月三十日、連合国軍最高司令官・ダグラス・マッカーサーが厚木の飛行場に到着」

〇ミズーリ号甲板
大勢の米兵たちが見守る中、マッカーサーと重光葵(日本側全権、五十九歳)が降伏文書に調印する。
N「九月二日、米軍艦・ミズーリ号の艦上にて降伏調印式が行われ、第二次世界大戦は正式に終結した。連合国側では、この九月二日を『対日戦勝記念日』としている」

〇第一生命館・マッカーサー執務室
コーンパイプをくわえ、書類仕事をしているマッカーサー。
と、ノックの音がして
マッカーサー「(英語)どうぞ」
米兵に護衛された、昭和天皇が入ってくる。米兵を下がらせるマッカーサー。
※以下、英語での会話。昭和天皇は留学経験があり、通訳は不要だった
マッカーサー、昭和天皇に椅子を勧める。ぎこちなく座る昭和天皇。
マッカーサー「あなたの扱いについては、連合国の間でも意見が割れている。『戦犯として裁くべきだ』という意見の国も多い」
昭和天皇「……私の扱いについて話すためにうかがったわけではありません」
マッカーサー「(意外そうに)では、何のために?」
昭和天皇「戦争の責任は私にあります。私は絞首刑で構いません。しかし、日本国民を罪に問うことはしないでいただきたい」
深々と頭を下げる昭和天皇に、驚いてコーンパイプを取り落とすマッカーサー。
マッカーサー(M)「ヒトラーはドイツ全国民を道連れに自殺を図り、ムッソリーニ(イタリア総統)は逃げようとして国民に殺害された。しかるにヒロヒトのこの振る舞いは……!」
N「ただし、この時の会談内容について、昭和天皇は生涯一言も語らなかった。以上の内容は、マッカーサーの一方的な証言を元に再現したものである」

〇地方の小さな町
昭和天皇(四十六歳)が、みすぼらしい背広姿で、わずかな供回りを連れて巡行している。大勢の貧しそうな庶民が、沿道でそれを歓迎する。昭和天皇はふと、痩せた子供に目を留めて
昭和天皇「(子の母親に)食料は足りているか」
母親「(本音をぐっとこらえて)……大丈夫です」
昭和天皇「(全てを察して)……ア、ソウ」
N「昭和二十一(一九四六)年一月一日に、自ら現人神(あらひとがみ)であることを否定する『人間宣言』を発した昭和天皇は、昭和二十九(一九五四)年までかけて、全国を巡行され、国民と触れ合った」

〇新宿・ヤミ市
多数のバラックが建ち並び、店を出している。
N「全国には多くのヤミ市が自然発生的に生まれ、不足する物資(主に食料)が高額で売買された」

〇第一生命館(連合国最高司令官総司令部、GHQ)
N「GHQは戦争犯罪人の逮捕、日本の武装解除、民主化、農政改革と財閥解体、教育改革などを矢継ぎ早に日本政府に指令する」

〇マッカーサー執務室
マッカーサー(六十七歳)が英字の書類をデスクに叩きつけ、秘書に怒鳴る。
N「さらに、憲法改正の草案提出を要請したマッカーサーだが……」
マッカーサー「何だ! この日本の憲法草案は! こんななまぬるい改正で、ソ連やオーストラリアが納得すると思うのか!」
首をすくめる秘書。
マッカーサー「全く、日本人は十二歳の子供だ……仕方ない、GHQ内に憲法草案起草チームを設けろ」
秘書「具体的に、どのような憲法になさりたいのですか?」
マッカーサー「・天皇は国家の元首とする。ただし、その職務及び権能は、あくまでも憲法に定められた範囲内でのみ行使される。
・日本は紛争解決手段としての戦争、及び自国防衛のための戦争を放棄する。日本は陸海空軍はもちろん、交戦権も持つことはない。
・日本の封建制度は廃止される。
この三つが大原則だ」
タイプする秘書。
N「こうして制作された『マッカーサー草案』に基づき、日本国憲法案が作成され、帝国議会での審議を経て、昭和二十一(一九四六)年十一月三日に公布され、翌年五月三日に施行された」

〇投票する和服姿の日本女性たち
N「民主化政策の一環として、婦人参政権が認められ、昭和二十一(一九四六)年四月十日の衆議院選挙では、日本初の女性議員三十九名が誕生した」

〇市ヶ谷・旧陸軍士官学校講堂
極東国際軍事裁判(東京裁判)が開かれている。
N「昭和二十一(一九四六)年五月、日本の戦争犯罪人を裁くための東京裁判がはじまる」
と、ラダ・ビノード・パール(インド法学者、連合国判事、六十一歳)が立ち上がって
パール「私は、この裁判そのものに反対する。彼らが『平和に対する罪』を犯した時、『平和に対する罪』を定めた法律は存在していなかった。その時存在していなかった法律で裁判を行うのは公正ではない! また、裁判官は全員、戦勝国民であり、公正な判決は期待できない!」
感銘を受ける被告・弁護士一同。苦虫を噛みつぶした顔の判事・検察官一同。
N「しかし裁判は滞りなく行われ、『平和に対する罪』を犯したとして、東条英機らA級戦犯七名が絞首刑、十六名が終身刑を宣告された。また、通常の戦争犯罪と人道に関する罪(捕虜の虐待や民間人の殺害など)人であるBC級戦犯も各国で裁かれ、約五千七百名が被告となり、約千人が死刑判決を受けた」

〇自由主義陣営と共産主義陣営の勢力図
N「日本が平和と民主化への足取りを進めている間にも、世界の情勢は激しく動いていた。
アメリカを中心とする自由主義陣営と、ソ連を中心とする共産主義陣営の間で、冷戦が発生したのである。どちらの陣営も多数の核兵器を保有し、世界を滅ぼす『最後の戦争』の準備を進めていた」

〇北緯三十八度線を越えて侵攻する北朝鮮軍
N「昭和二十五(一九五〇)年六月二十五日、北朝鮮軍が韓国に対して奇襲をかけ、朝鮮戦争がはじまる。アメリカが国連軍を編成して韓国を救援すると、ソ連の支援を受けた中華人民共和国(中国)が北朝鮮に援軍を送った」

〇造船所
大型船がドックで組み上げられていく。
N「この朝鮮戦争は、日本に大量の戦争需要をもたらし、好景気を呼んだ」

〇GHQ執務室
マッカーサー(六十七歳)と吉田茂(首相、七十三歳)が会談している。
マッカーサー「我々米軍は朝鮮戦争で忙しく、日本の防衛や治安維持に当たることができない。再軍備を許可するから、これからは自衛してくれたまえ」
吉田「(とぼけて)それは……憲法違反になりますな」
口をあんぐりと開けるマッカーサー。
吉田(M)「せっかく経済が軌道に乗ってきたのに再軍備では、防衛予算で破綻した戦前の二の舞だ。米軍に日本の防衛をさせて、日本は通商政策にまい進しよう」
N「結局、八月十日に『警察予備隊令』が公布され、警察予備隊が設立されたが、マッカーサーの期待する規模の物ではなかった。自衛隊の前身である」

〇サンフランシスコ・オペラハウス
日本の吉田茂(首相・全権、七十四歳)・池田勇人(蔵相、五十四歳)らと、五十一ヶ国の代表が集まっている。
N「昭和二十七(一九五二)年九月七日、サンフランシスコで連合国との平和条約が締結され、日本は占領状態を脱した。ただしソ連や中華人民共和国などは出席せず、全面講和とはならなかった」

〇厚木・米軍基地
N「同時に『日米安保条約』も締結され、アメリカが日本に基地を維持し、日米共同で日本の防衛に当たることも定められた」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

妖刀 益荒男

地辻夜行
歴史・時代
東西南北老若男女 お集まりいただきました皆様に 本日お聞きいただきますのは 一人の男の人生を狂わせた妖刀の話か はたまた一本の妖刀の剣生を狂わせた男の話か 蓋をあけて見なけりゃわからない 妖気に魅入られた少女にのっぺらぼう からかい上手の女に皮肉な忍び 個性豊かな面子に振り回され 妖刀は己の求める鞘に会えるのか 男は己の尊厳を取り戻せるのか 一人と一刀の冒険活劇 いまここに開幕、か~い~ま~く~

十字架の陰陽師―キリシタン陰陽師・賀茂在昌―

鳥位名久礼
歴史・時代
★戦国から桃山の世にかけて活躍した「キリシタン陰陽師」の一代記!★第一部:戦国大名大内義隆の支配する「西の都」山口に住む、朝廷陰陽師の落とし子である宇治丸少年(のちの賀茂在昌)。共に育てられた少女・広とともに伴天連来航を目の当たりにして興味を惹かれるも、時あたかも山口の乱に巻き込まれ、伴天連の助けによって命からがら難を逃れる。二人は父・勘解由小路在富の跡を嗣ぐために京の都へ上り、やがて結婚する。★第二部:長じて立派な「キリシタン陰陽師」となった賀茂在昌は、西洋天文学を学ぶため豊後へ出奔、多くを学び帰洛し、安土桃山の世で活躍する。九州に残り修道士となった長男メルショル、陰陽師を嗣いだ次男在信など、数奇な運命を辿る在昌一家。しかし、時代の波に翻弄され、キリシタン禁制とともに歴史の舞台から消えてゆく…。★「陰陽師」といっても、怪異・式神などファンタジー的な要素は絶無…暦造りに情熱を注ぐ「朝廷の天文学者」という、本来の陰陽師を描いたもので、ギリギリまで史実をベースにしています。一時期話題になった『天地明察』みたいな作品です。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

霧衣物語

水戸けい
歴史・時代
 竹井田晴信は、霧衣の国主であり父親の孝信の悪政を、民から訴えられた。家臣らからも勧められ、父を姉婿のいる茅野へと追放する。  父親が国内の里の郷士から人質を取っていたと知り、そこまでしなければ離反をされかねないほど、酷い事をしていたのかと胸を痛める。  人質は全て帰すと決めた晴信に、共に育った牟鍋克頼が、村杉の里の人質、栄は残せと進言する。村杉の里は、隣国の紀和と通じ、謀反を起こそうとしている気配があるからと。  国政に苦しむ民を助けるために逃がしているなら良いではないかと、晴信は思う、克頼が頑なに「帰してはならない」と言うので、晴信は栄と会う事にする。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...