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第七巻 第五章 第一次世界大戦と日本
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〇三国同盟と三国協商の勢力図
N「大正三(一九一四)年のヨーロッパは、ロシア・フランス・イギリスの三国協商と、ドイツ・オーストリア・イタリアの三国同盟の対立を軸に、複雑な同盟関係を結び合って対立していた」
〇サラエボ、大通り
車に乗ったフランツ・フェルディナント(オーストリア=ハンガリー帝国皇太子、五十二歳)とゾフィー・ホテク(同皇太子妃、四十七歳)が、暗殺者に襲撃される。
N「六月二十八日にオーストリア=ハンガリー帝国皇太子・フランツ・フェルディナント夫妻が、セルビアのテロリストに暗殺されたことをきっかけに、オーストリアとセルビアが戦争を開始。両国と同盟関係の国々が次々に参戦し、世界大戦がはじまる」
〇国会議事堂
大隈重信(首相・七十七歳)、加藤高明(外相、五十五歳)らと、原敬(立憲政友会、五十九歳)・尾崎行雄(立憲同志会、五十七歳)らが議論している。
加藤「……従って英国との厚誼のためにも、我が国の国益のためにも、断固としてイギリスを助け、参戦すべきなのであります」
原「日露戦争の折、英国は一滴の血も流してくれなかった! ヨーロッパの戦争に、どうして日本が血を流さねばならぬのか!」
渋い顔の大隈。
N「反対意見も多かったが、大隈内閣は参戦を決定する」
〇山東半島・青島要塞
激しい砲撃戦を背景に、日独の複葉機が航空戦を繰り広げている。
N「日本は中国内のドイツ租借地である青島や、ドイツ領であった南洋諸島などをたちまち占領した」
〇製糸工場
激しく動く製糸器械。
N「大戦でヨーロッパからの輸出が途絶えたアジア・アフリカ市場に、日本製品がどっと流れ込んだ。日本は空前の好景気に沸く」
〇料亭・座敷(夜)
いかにも成金、という格好の商人が、芸者を大勢揚げてあそんでいる。と、停電で真っ暗になる。
芸者「あら、停電かしら」
成金「……心配するな」
ぽっと成金の手元が明るくなり、それを見た芸者が驚く。何と成金は、紙幣に火を点けているのである。
成金「(笑って)どうだ、明るくなったろう」
N「従来の財閥に加えて、『成金』と呼ばれる金持ちが続出した」
〇南京、中華民国政府
日置益(中国公使、四十五歳)が、袁世凱(中華民国総統、四十六歳)の部下に『対華二十一ヶ条要求』を手渡している。袁、一瞥して
袁「……世界大戦のドサクサに火事場泥棒のような真似をして、日本は恥ずかしくないのかね?」
鉄面皮を貫く日置。
N「日本は欧米の目が世界大戦に向いているスキに、中華民国に対し、日本の権益を大幅に増大させる、二十一ヶ条要求を突きつけた。袁世凱はやむを得ずこれらを飲んだが、中国には反日感情が蔓延した」
〇ロシア、モスクワ
翻る赤旗を前に、労働者たちが「ハラショー!」を叫んでいる。
N「大正六(一九一七)年、ロシアで二度の革命が起き、ロマノフ王朝が滅んで、世界初の社会主義政権であるソヴィエト連邦が成立する」
〇アメリカ・連邦議会
ウッドロウ・ウィルソン(米大統領、六十四歳)が立ち上がり、
ウィルソン「全ての民族には、自らの運命を自分の手で決定する権利がある!」
沸く議場。
N「この影響を受け、大正七(一九一八)年、アメリカ大統領・ウッドロウ・ウィルソンは、『民族自決』の原則を提唱した」
〇ソウル・パゴダ公園
集まった民衆たちに、崔南善(ジャーナリスト、二十九歳)が演説している。
崔南善「我らはここに、我が朝鮮が独立国であり、朝鮮人が自由民であることを宣言する!」
熱狂する民衆。取り押さえようとする憲兵隊との間に、激しい争いが起こる。
N「朝鮮では三一運動が起こり」
〇ヴェルサイユ条約
N「ヴェルサイユ条約が結ばれ、第一次世界大戦が終結すると」
〇北京・天安門広場
学生たちがデモ行進をしている。
学制「日本の権益を容認したヴェルサイユ条約は不当である!」
N「中国では五四運動が起こった」
〇シベリア
日本をはじめとする連合軍が進軍している。
N「ロシア革命が自国に波及することを恐れた、日本含む列強は、白軍(反革命勢力)を支援すべく出兵した」
〇富山・魚津湊
米俵が貨物船に積み込まれていく。
N「シベリア出兵のため、日本では米の需要が急増し、米価格の暴騰と米不足が起こった」
〇富山・中長江町
二百人ほどの貧民たちが市役所に押しかけている。その半分以上は女性である。杖を突いた年寄や子供の姿もある。いずれも貧しげな身なり。
貧民「おらたちの米を積み出すな!」
N「大正七(一九一八)年七月上旬、富山で米の安売りを求める運動が始まり」
〇富山市・米問屋町
大勢の農具を手にした貧民たちが、米倉をたたき壊し、米俵を次々に持ち去る。呆然と見ている店員に、金を渡して次の倉庫へと向かう。
N「八月には千人以上の規模による米騒動へ発展した。米は奪ったのではなく、暴騰以前の相場で代金が支払われたという」
〇東京・鈴木商店
焼き討ちに遭う鈴木商店。
N「米騒動は全国に飛び火し、東京では鈴木商店が焼き討ちに遭うなどした」
〇原敬(首相、六十歳)
N「この責任を取り総辞職した寺内内閣の後は、原敬が承けた。初の爵位を持たない首相の誕生は『平民宰相』と呼ばれ、歓迎された」
N「大正三(一九一四)年のヨーロッパは、ロシア・フランス・イギリスの三国協商と、ドイツ・オーストリア・イタリアの三国同盟の対立を軸に、複雑な同盟関係を結び合って対立していた」
〇サラエボ、大通り
車に乗ったフランツ・フェルディナント(オーストリア=ハンガリー帝国皇太子、五十二歳)とゾフィー・ホテク(同皇太子妃、四十七歳)が、暗殺者に襲撃される。
N「六月二十八日にオーストリア=ハンガリー帝国皇太子・フランツ・フェルディナント夫妻が、セルビアのテロリストに暗殺されたことをきっかけに、オーストリアとセルビアが戦争を開始。両国と同盟関係の国々が次々に参戦し、世界大戦がはじまる」
〇国会議事堂
大隈重信(首相・七十七歳)、加藤高明(外相、五十五歳)らと、原敬(立憲政友会、五十九歳)・尾崎行雄(立憲同志会、五十七歳)らが議論している。
加藤「……従って英国との厚誼のためにも、我が国の国益のためにも、断固としてイギリスを助け、参戦すべきなのであります」
原「日露戦争の折、英国は一滴の血も流してくれなかった! ヨーロッパの戦争に、どうして日本が血を流さねばならぬのか!」
渋い顔の大隈。
N「反対意見も多かったが、大隈内閣は参戦を決定する」
〇山東半島・青島要塞
激しい砲撃戦を背景に、日独の複葉機が航空戦を繰り広げている。
N「日本は中国内のドイツ租借地である青島や、ドイツ領であった南洋諸島などをたちまち占領した」
〇製糸工場
激しく動く製糸器械。
N「大戦でヨーロッパからの輸出が途絶えたアジア・アフリカ市場に、日本製品がどっと流れ込んだ。日本は空前の好景気に沸く」
〇料亭・座敷(夜)
いかにも成金、という格好の商人が、芸者を大勢揚げてあそんでいる。と、停電で真っ暗になる。
芸者「あら、停電かしら」
成金「……心配するな」
ぽっと成金の手元が明るくなり、それを見た芸者が驚く。何と成金は、紙幣に火を点けているのである。
成金「(笑って)どうだ、明るくなったろう」
N「従来の財閥に加えて、『成金』と呼ばれる金持ちが続出した」
〇南京、中華民国政府
日置益(中国公使、四十五歳)が、袁世凱(中華民国総統、四十六歳)の部下に『対華二十一ヶ条要求』を手渡している。袁、一瞥して
袁「……世界大戦のドサクサに火事場泥棒のような真似をして、日本は恥ずかしくないのかね?」
鉄面皮を貫く日置。
N「日本は欧米の目が世界大戦に向いているスキに、中華民国に対し、日本の権益を大幅に増大させる、二十一ヶ条要求を突きつけた。袁世凱はやむを得ずこれらを飲んだが、中国には反日感情が蔓延した」
〇ロシア、モスクワ
翻る赤旗を前に、労働者たちが「ハラショー!」を叫んでいる。
N「大正六(一九一七)年、ロシアで二度の革命が起き、ロマノフ王朝が滅んで、世界初の社会主義政権であるソヴィエト連邦が成立する」
〇アメリカ・連邦議会
ウッドロウ・ウィルソン(米大統領、六十四歳)が立ち上がり、
ウィルソン「全ての民族には、自らの運命を自分の手で決定する権利がある!」
沸く議場。
N「この影響を受け、大正七(一九一八)年、アメリカ大統領・ウッドロウ・ウィルソンは、『民族自決』の原則を提唱した」
〇ソウル・パゴダ公園
集まった民衆たちに、崔南善(ジャーナリスト、二十九歳)が演説している。
崔南善「我らはここに、我が朝鮮が独立国であり、朝鮮人が自由民であることを宣言する!」
熱狂する民衆。取り押さえようとする憲兵隊との間に、激しい争いが起こる。
N「朝鮮では三一運動が起こり」
〇ヴェルサイユ条約
N「ヴェルサイユ条約が結ばれ、第一次世界大戦が終結すると」
〇北京・天安門広場
学生たちがデモ行進をしている。
学制「日本の権益を容認したヴェルサイユ条約は不当である!」
N「中国では五四運動が起こった」
〇シベリア
日本をはじめとする連合軍が進軍している。
N「ロシア革命が自国に波及することを恐れた、日本含む列強は、白軍(反革命勢力)を支援すべく出兵した」
〇富山・魚津湊
米俵が貨物船に積み込まれていく。
N「シベリア出兵のため、日本では米の需要が急増し、米価格の暴騰と米不足が起こった」
〇富山・中長江町
二百人ほどの貧民たちが市役所に押しかけている。その半分以上は女性である。杖を突いた年寄や子供の姿もある。いずれも貧しげな身なり。
貧民「おらたちの米を積み出すな!」
N「大正七(一九一八)年七月上旬、富山で米の安売りを求める運動が始まり」
〇富山市・米問屋町
大勢の農具を手にした貧民たちが、米倉をたたき壊し、米俵を次々に持ち去る。呆然と見ている店員に、金を渡して次の倉庫へと向かう。
N「八月には千人以上の規模による米騒動へ発展した。米は奪ったのではなく、暴騰以前の相場で代金が支払われたという」
〇東京・鈴木商店
焼き討ちに遭う鈴木商店。
N「米騒動は全国に飛び火し、東京では鈴木商店が焼き討ちに遭うなどした」
〇原敬(首相、六十歳)
N「この責任を取り総辞職した寺内内閣の後は、原敬が承けた。初の爵位を持たない首相の誕生は『平民宰相』と呼ばれ、歓迎された」
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