通史日本史

DENNY喜多川

文字の大きさ
上 下
28 / 49

第五巻 第三章 元禄文化

しおりを挟む
〇家綱・綱吉・家宣・家継の肖像
N「文治政策を進めた、四代将軍家綱から七代将軍家継にかけての時代は、町人たちが力を伸ばした時代でもあった。この時期に花開いた文化を、年号を取って『元禄文化』と呼ぶ」

〇嵐の海を行く菱垣廻船
その舳先に仁王立ちの河村瑞賢(中年)。
N「河村瑞賢は東廻り航路・西廻り航路を開拓し」

〇東廻り航路・西廻り航路
N「物流ルートの開拓によって、商業が盛んになる基礎を作った」

〇明暦の大火
燃える江戸の町。
N「明暦三(一六五七)年の明暦の大火をはじめとして、江戸はおよそ十年おきに大火に見舞われる」

〇焼け跡の江戸
次々と材木が運び込まれ、再建がはじまる。それを指揮している紀伊国屋文左衛門(中年)。
N「それはたびたびの復興需要を呼び、大商人が生まれるきっかけとなった」

〇淀屋辰五郎の屋敷
淀屋辰五郎(中年)が大勢の客をもてなしている。客たちの前には豪勢な膳が置かれているが、しかし全員の目は天井に釘付けである。何と、天井がガラスになっていて、その上に金魚が泳いでいるのである。
辰五郎「いやあ、こう暑いと、こうでもしないと涼がとれませんでな。ははは……」
N「豪商の中には、贅沢を楽しむ者も少なくなかったが」

〇役人にしょっ引かれる辰五郎
N「度を越すと幕府に目をつけられ、取り締まられることもあった」

〇平泉・中尊寺
松尾芭蕉(中年)と河合曾良(芭蕉の弟子、中年)が中尊寺を眺めている。
芭蕉「『夏草や 兵どもが 夢の跡』」
深くうなずく曾良。
N「松尾芭蕉は俳諧の芸術性を高め、地(じ)発句(ほっく)と呼ばれる歌を数多く詠んだ。これらは明治時代の正岡子規により『俳句』として再構築される」

〇大坂・曾根崎村・露天神の森
はつ(女郎・美女)と徳兵衛(平野屋手代・青年)の心中死体。互いの手を帯で結んで倒れている。遺体は、互いの胸に刺し傷こそあるが、その表情は安らかである。
奉行所の役人が、野次馬を追い払っている。その野次馬の中に、近松門左衛門(五十一歳)の姿。
野次馬「醤油屋の手代と、堂島新地の女郎だってよ」
野次馬「お店に婿入りさせてもらえるって話だったのに、女郎に義理立てして心中か……」
野次馬たちのつぶやきを、鋭い目で書き取る門左衛門。

〇道頓堀・竹本座
大きくはなく薄暗い小屋に、男女の客がひしめきあっている。
舞台の上では、徳兵衛とはつの人形が、手を取り合って死出の道行きをしている。
舞台袖からすすり泣く観客たちを見て、得意げな顔になる門左衛門。
N「大坂では近松門左衛門が、実際の心中事件を元に『曽根崎心中』『心中天の網島』などの人形浄瑠璃の脚本を書き、心中ブームを起こした。浄瑠璃を真似て実際に心中する男女が大勢出るに至り、幕府は心中ものの上演を禁じ、心中ではなく『相対死』と呼び、心中に失敗した男女を厳罰に処した」

〇江戸・市村座
大きくはなく薄暗い小屋に、男女の客がひしめきあっている。
舞台の真ん中では、初代市川團(いちかわだん)十郎(じゅうろう)(二十五歳)が、派手な隈取りと衣装で、ポーズを決めている。
※『金平六条通』坂田金平役
観客「成田屋!」
見惚れている観客たち。
N「江戸では歌舞伎が流行し、初代・市川團十郎が荒事芸を完成させた」

〇菱川師宣の工房
菱川師宣(中年)が、数人の弟子たちと共に、いままさに『見返り美人図』を完成させようとしている。
N「絵画の世界では菱川師宣や」

〇屋敷の中
尾形光琳の『八橋図』の屏風を前に、文化人たちがうなっている。
N「尾形光琳が活躍した」

〇水戸城の一室
徳川光圀(中年)が朱舜水(明国の学者、初老)からラーメンを饗されている。
光圀「(麺をすすりながら)このような豊かな食文化を誇った明国が、北狄(満州族)に滅ぼされるとは、これも天命というものか……」
朱舜水「いたしかたございません。今や天命は、この日本にあると申せましょう」
光圀「何と!?」
朱舜水「北狄の国である清国は、中華とは呼べませぬ。今や万世一系の天皇をいただく日本こそが中華です」
光圀「日本こそが中華……」
朱舜水「南蛮や夷狄(ヨーロッパ人)に対して国を鎖したのは、まったくもって正しいご決断でありました……」
N「滅亡した明国の学者・朱舜水から強い影響を受け、光圀は日本の歴史をまとめた『大日本史』の編纂に取り組む。完成は何と、明治になってからであった」

〇正装の光圀(老年)
N「やがて光圀の思想を元に、異国は野蛮な国であり、神国日本は彼らと交際すべきではないとする『攘夷』、日本を中華、天皇を皇帝とみなし、幕府は大政を委任されているに過ぎないとする『尊皇』の思想が生まれ、幕末の水戸学へとつながっていく」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

妖刀 益荒男

地辻夜行
歴史・時代
東西南北老若男女 お集まりいただきました皆様に 本日お聞きいただきますのは 一人の男の人生を狂わせた妖刀の話か はたまた一本の妖刀の剣生を狂わせた男の話か 蓋をあけて見なけりゃわからない 妖気に魅入られた少女にのっぺらぼう からかい上手の女に皮肉な忍び 個性豊かな面子に振り回され 妖刀は己の求める鞘に会えるのか 男は己の尊厳を取り戻せるのか 一人と一刀の冒険活劇 いまここに開幕、か~い~ま~く~

十字架の陰陽師―キリシタン陰陽師・賀茂在昌―

鳥位名久礼
歴史・時代
★戦国から桃山の世にかけて活躍した「キリシタン陰陽師」の一代記!★第一部:戦国大名大内義隆の支配する「西の都」山口に住む、朝廷陰陽師の落とし子である宇治丸少年(のちの賀茂在昌)。共に育てられた少女・広とともに伴天連来航を目の当たりにして興味を惹かれるも、時あたかも山口の乱に巻き込まれ、伴天連の助けによって命からがら難を逃れる。二人は父・勘解由小路在富の跡を嗣ぐために京の都へ上り、やがて結婚する。★第二部:長じて立派な「キリシタン陰陽師」となった賀茂在昌は、西洋天文学を学ぶため豊後へ出奔、多くを学び帰洛し、安土桃山の世で活躍する。九州に残り修道士となった長男メルショル、陰陽師を嗣いだ次男在信など、数奇な運命を辿る在昌一家。しかし、時代の波に翻弄され、キリシタン禁制とともに歴史の舞台から消えてゆく…。★「陰陽師」といっても、怪異・式神などファンタジー的な要素は絶無…暦造りに情熱を注ぐ「朝廷の天文学者」という、本来の陰陽師を描いたもので、ギリギリまで史実をベースにしています。一時期話題になった『天地明察』みたいな作品です。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

霧衣物語

水戸けい
歴史・時代
 竹井田晴信は、霧衣の国主であり父親の孝信の悪政を、民から訴えられた。家臣らからも勧められ、父を姉婿のいる茅野へと追放する。  父親が国内の里の郷士から人質を取っていたと知り、そこまでしなければ離反をされかねないほど、酷い事をしていたのかと胸を痛める。  人質は全て帰すと決めた晴信に、共に育った牟鍋克頼が、村杉の里の人質、栄は残せと進言する。村杉の里は、隣国の紀和と通じ、謀反を起こそうとしている気配があるからと。  国政に苦しむ民を助けるために逃がしているなら良いではないかと、晴信は思う、克頼が頑なに「帰してはならない」と言うので、晴信は栄と会う事にする。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...