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DENNY喜多川

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明日のアンパンマンは君だ!

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タイトルは「アンパンマンは君さ」(『アンパンマンたいそう』のサビ)と、『明日のエースは君だ!』(ウルトラマンA最終回サブタイトル)をかけた高度なギャグだが、内容はマジだ。

さて、幾原邦彦氏のアニメ『輪るピングドラム』が今年、劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』前後編としてリメイクされた。
その主題歌「僕の存在証明」(やくしまるえつこメトロオーケストラ)はこうはじまる。
「ねえ神様 僕を全部使って」

でも触れたが、我々には「自分を犠牲にしても、誰かの役に立ちたい」と言う欲望がある(メサイアコンプレックス)。しかしそれは、多くの場合、助ける物と助けられた者双方を破滅に導く、危険な欲望だ。
『少女革命ウテナ』では、「世界を救うために全てを捧げ尽くした王子様」は「世界の果て」になり、「魔女」から搾取し、さらにその魔女を使役して世界から搾取する存在になり果てた。

これはお伽噺ではない。
『ツレがうつになりまして。』で有名な漫画家の細川貂々さんは
「当事者研究」をテーマにした『生きづらいでしたか?』
の中で、アルコール依存症の治療に当たっている医師からこう言葉をかけられる。
「細川さん、ヒーローになって誰かを助けようとしちゃいけない。あなたがヒーローになって誰かを助けたら、その人は死ぬんだよ。僕はやってしまったから、はっきり言える」
ちなみに
「かつてヒーローに助けられて生きのびたが、その結果自分の人生を生きることができなくなった」
主人公たちの物語が『輪るピングドラム』である。
では我々はどうすべきなのか。「自分を犠牲にしてでも誰かを助けたい」欲望は、危険で邪悪なものとして否定されるべきなのか。
答えはすでに、『それいけ! アンパンマン』の中で、やなせたかし氏が出していた。
アンパンマンは、バイキンマンをあんパンチでやっつけるヒーローとして認識されているが、それはアンパンマンの本質ではない。アンパンマンは
「困っている人に自分の顔をちぎって与え、元気を出させる」
ヒーローなのである。
『アンパンマンの遺書』の中で、やなせたかし氏は自らの戦争体験について語っている。徴兵され、中国大陸で従軍したやなせ氏は、主に撫民活動(プロパガンダ)に従事し
「一発も撃つことも、撃たれることもなく終戦を迎えた」
が、氏の弟さんは特攻で亡くなっている。
戦争と戦後の急激な価値観の変化の中で、氏は「正義とは何か」について疑問を持ち、考え抜いた。そしてたどり着いた結論が
「お腹が空いて苦しんでいる人に、一切れのパンを与えることは、どんな状況で、相手が何者であろうとも、正義と呼んでいいのではなかろうか」
氏はさらに厳しい条件をつける。
「そのパンは、有り余っている物を恵むのではなく、自分の体をちぎって与えるような物でなくてはならない」
こうして「お腹が空いて困っている人に、自分の顔をちぎって与えるヒーロー」アンパンマンが生まれたのである。
ならば、我々のなすべきことはすでに明らかである。
「さあ、僕の顔(知識や経験や考え方、時には労力)をお食べ! でも、元気になったら、自分の足で歩いて行くんだ!」
我々はヒーローになるのではなく、アンパンマンにならねばならない。
さあ、明日のアンパンマンは君だ!
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