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花屋のうさぎと赤狼の出会い4
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赤狼の話は続く。僕に聞かせるふうでもなく、まるで独り言のように。
「その発情の香りで父上を夢中にさせたのだと……存在自体が浅ましいと。母はいつも周囲に詰られていたよ。父上が勝手に惹かれて、無理やりに母を手に入れたのにね。母には想い合っている相手がいたのに」
ゆっくりと、シエル様の顔がこちらに向く。感情が抜け落ちたその表情を見ていると、背筋にぞわりと寒気が這い上がった。
この人の瞳の奥には――淀んだ憎しみの炎が燃えている。
それは彼の母を不幸の底へと落とした、『オメガ』という性に対してなのだろうか。それとも『オメガ』の母を不幸な身にした、『アルファ』に対してなのだろうか。
こくんと唾を飲むと、その音が思ったよりも大きく響く。それを聞いたシエル様は、ふっと表情を緩めた。
「……シエル、様」
艶美な笑みを浮かべたシエル様が、強めに僕の手を引いた。体がぐっと引き寄せられ、大きな体に抱き込まれる。
「なんだい?」
耳に……甘い毒のような声が吹き込まれた。その囁きで全身を撫でられたかのように、体中に淡い熱が走る。膝から崩れ落ちそうになるのを堪えながら、僕は口を開いた。
「貴方が――。近頃起きている、オメガの誘拐事件の犯人なのですか?」
震えながら口にした言葉。それはその場に重苦しい沈黙を齎した。
王族に向かって、こんな発言は不敬にもほどがある。首を刎ねられたっておかしくない。
だけど僕の唇は……嫌な『想像』を零してしまった。
「……なぜ、そう思うの?」
しばらくの沈黙の後に、静かにそう問われる。否定をしないことが婉曲な肯定のように思えて、そうではないことを祈りながら僕はさらに言葉を紡いだ。
「シエル様はオメガに対して強く思うことがあるようですし。リオネル様のような有能な方がなかなか尻尾を掴めない犯人なんて、よほど身分の高い……罪を隠せる方なのだろうと思ったので。例えば、貴方みたいな」
心臓が痛いくらいに鳴っている。後悔と恐怖が心の杯を満たして、冷や汗となって全身を伝う。
――怖い、言わなければよかった。そんな後悔は、もう遅いけれど。
「ふぅん。僕が犯人だったとして、攫ったオメガたちはどうなったと思う?」
「それは……」
そんなことを訊かれても、犯罪者の思考なんて想像できない。いや、考えたくないだけなのかもしれない。
だって――攫われたオメガたちは『帰ってきていない』のだから。
「……だ、誰かに売った、とか」
僕は『希望的観測』が過分に混じった想像を口にしてみた。実際に、容姿端麗なオメガが闇で売買されることがあるらしいのだ。
「本当に、そう思う?」
僕の首の後ろを撫でながら、金色の瞳を光らせて問い返される。
『希望的観測』なんてものは、存在しないらしい。
昏く光る金の瞳を見つめながら……僕は恐ろしい確信をしてしまった。
――攫われたオメガたちは殺されている。
「その発情の香りで父上を夢中にさせたのだと……存在自体が浅ましいと。母はいつも周囲に詰られていたよ。父上が勝手に惹かれて、無理やりに母を手に入れたのにね。母には想い合っている相手がいたのに」
ゆっくりと、シエル様の顔がこちらに向く。感情が抜け落ちたその表情を見ていると、背筋にぞわりと寒気が這い上がった。
この人の瞳の奥には――淀んだ憎しみの炎が燃えている。
それは彼の母を不幸の底へと落とした、『オメガ』という性に対してなのだろうか。それとも『オメガ』の母を不幸な身にした、『アルファ』に対してなのだろうか。
こくんと唾を飲むと、その音が思ったよりも大きく響く。それを聞いたシエル様は、ふっと表情を緩めた。
「……シエル、様」
艶美な笑みを浮かべたシエル様が、強めに僕の手を引いた。体がぐっと引き寄せられ、大きな体に抱き込まれる。
「なんだい?」
耳に……甘い毒のような声が吹き込まれた。その囁きで全身を撫でられたかのように、体中に淡い熱が走る。膝から崩れ落ちそうになるのを堪えながら、僕は口を開いた。
「貴方が――。近頃起きている、オメガの誘拐事件の犯人なのですか?」
震えながら口にした言葉。それはその場に重苦しい沈黙を齎した。
王族に向かって、こんな発言は不敬にもほどがある。首を刎ねられたっておかしくない。
だけど僕の唇は……嫌な『想像』を零してしまった。
「……なぜ、そう思うの?」
しばらくの沈黙の後に、静かにそう問われる。否定をしないことが婉曲な肯定のように思えて、そうではないことを祈りながら僕はさらに言葉を紡いだ。
「シエル様はオメガに対して強く思うことがあるようですし。リオネル様のような有能な方がなかなか尻尾を掴めない犯人なんて、よほど身分の高い……罪を隠せる方なのだろうと思ったので。例えば、貴方みたいな」
心臓が痛いくらいに鳴っている。後悔と恐怖が心の杯を満たして、冷や汗となって全身を伝う。
――怖い、言わなければよかった。そんな後悔は、もう遅いけれど。
「ふぅん。僕が犯人だったとして、攫ったオメガたちはどうなったと思う?」
「それは……」
そんなことを訊かれても、犯罪者の思考なんて想像できない。いや、考えたくないだけなのかもしれない。
だって――攫われたオメガたちは『帰ってきていない』のだから。
「……だ、誰かに売った、とか」
僕は『希望的観測』が過分に混じった想像を口にしてみた。実際に、容姿端麗なオメガが闇で売買されることがあるらしいのだ。
「本当に、そう思う?」
僕の首の後ろを撫でながら、金色の瞳を光らせて問い返される。
『希望的観測』なんてものは、存在しないらしい。
昏く光る金の瞳を見つめながら……僕は恐ろしい確信をしてしまった。
――攫われたオメガたちは殺されている。
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