【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
上 下
51 / 59

花屋のうさぎと友人の恋人2

しおりを挟む
「じゃあ、行こうか」

 リーディさんに連れられて花屋を出ると、彼は人気のない裏道に入りどんどん先へと進んで行く。
 ……どうしてこんな道を行くんだろうか。日が出ている時間帯なのに、高い建物が密集した路地は闇は濃く凝っているように思える。ひたすら無言で足を動かすリーディさんの背中を見つめていると、背筋が少しずつ粟立っていった。
 ――なにかがおかしい。
 逃げることだけには長けている、うさぎ族の勘がそう叫ぶ。肌がピリピリと焼けるようで、喉がひどく渇く。全身が『危険』だとうるさいくらいに訴えている。

「……リーディさん、どうしてこの道を?」
「ああ、馬車を待たせていてね。その場所に行くのに、こちらの道を通ると近いんだ」
「そう、ですか」

 立ち止まり、後ずさろうとすると……リーディさんも歩みを止めてゆっくりと振り返った。その瞳にはどこか必死で、暗い光が宿っている。それに射抜かれて、僕はごくんと大きく唾を呑んだ。

「どうしたんだい? レイラ君」
「あの、忘れ物をしたので花屋に戻っても?」
「ダメだ!」

 恫喝が迸ると同時に、僕は駆け出していた。
 走れ、走れ。わずかな距離を逃げ切れば、人通りの多い道に戻ることができる。犬族は足が速いけれど、うさぎ族だって逃げ足なら早い。逃げ切ったら街の警備兵のところに……いや、リオネル様のところの方がいい?
 しかし――僕は忘れていた。
 僕はオメガで、彼はアルファだ。その二つの種には、大きな身体能力の差があるということを。
 首根っこを強く引かれ、僕は後ろにつんのめった。そのまま地面に引き倒されて、痛みに呼吸ができなくなる。
 なんで、どうして。そんな言葉を頭の中でぐるぐると巡らせながら視線を上げると、胸を衝かれるくらいに悲壮な表情のリーディさんが目に入った。耳はぺたりと垂れて、巻き尾は力なく落ちてしまっている。

「ごめん、仕方ないんだ。こうしないとロランが……」

 ロランが一体どうしたというのだろう。

「ロランが? ロランがどうかしたんですか?」
「本当に、ごめん」

 僕の問いに、リーディさんは答えを返してはくれなかった。
 体を引っ張り上げられ、口を手で塞がれる。暴れようとしても彼の力は強くて、僕の抵抗なんて意味を成さなかった。そのままずるずると路地を引きずられるようにして進んで行くと、行き止まりにたどり着く。いや、違う。黒塗りの馬車が二台、路地の出口を塞いでいるんだ。

「……約束通り、連れてきたぞ」

 憎々しさが滲む声で、牙を剥きながら馬車に声をかける。この拉致の黒幕が馬車の中にいるらしい。

「ご苦労様、よくやったね」

 驚くくらいに綺麗な声がその場に響く。
 ――アルファだ。
 声だけでそう確信するくらいほどの……圧倒的な支配力。リオネル様も存在するだけで周囲を圧倒するけれど、馬車の中の人物もそうなのだろう。口の中が乾いて、体が硬直する。馬車の扉が開くのを、僕は瞬きもできずに見つめていた。

「はじめまして、リオネル・ハルミニアのお気に入り」

 軽い靴音を鳴らしながら馬車から降り立ったのは、狼のアルファだった。燃え立つような真紅の髪に、肉食獣の輝きを湛えた金色の瞳。褐色の滑らかな肌。その野性味を感じさせる顔立ちは、非常時にも関わらず思わず見惚れそうになるくらいに整っている。
 男はつかつかとこちらに来ると……手にしていた杖でリーディさんを躊躇なく殴りつけた。

「ぐがっ……!」

 リーディさんが激しく地面に打ちつけられ、二台目の馬車から降りてきた男たちがその身柄を拘束する。僕はその光景を呆気に取られながら眺めることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

つまりそれは運命

える
BL
別サイトで公開した作品です。 以下登場人物 レオル 狼獣人 α 体長(獣型) 210cm 〃 (人型) 197cm 鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪 セラ 人間 Ω 身長176cm カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

ミルクの出ない牛獣人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「はぁ……」  リュートスは胸に手をおきながら溜息を吐く。服装を変えてなんとか隠してきたものの、五年も片思いを続けていれば膨らみも隠せぬほどになってきた。  最近では同僚に「牛獣人ってベータでもこんなに胸でかいのか?」と聞かれてしまうほど。周りに比較対象がいないのをいいことに「ああ大変なんだ」と流したが、年中胸が張っている牛獣人などほとんどいないだろう。そもそもリュートスのように成体になってもベータでいる者自体が稀だ。  通常、牛獣人は群れで生活するため、単独で王都に出てくることはほぼない。あっても買い出し程度で棲み着くことはない。そんな種族である牛獣人のリュートスが王都にいる理由はベータであることと関係していた。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...