45 / 59
花屋のうさぎと銀狼のデート2
しおりを挟む ルナたちが決意を固めた夜、詩音は競技に出ていた。
「今日のナイターは、最近連勝して勢い付いている右京! 対するは肉食動物最強、ジャイアントタイガー!! 今日は絶好の好カードだ! 見逃すなよ!!!」
詩音が入場した。会場は大歓声に包まれる。詩音への期待の歓声だ。
対してジャイアントタイガーが入ってきた。通常のトラの3倍はある図体で、恐らく競技まで何も餌を与えられなかったのだろう、飢えている様子で完全に獲物を見る目だった。
「あっ、ちょっと、まだ合図出してないぞ!!」
ジャイアントタイガーは鎖が解かれるなり詩音に飛びかかった。
詩音は突っ込んでくるジャイアントタイガーの下顎を蹴り上げた。舌を噛んでしまい、出血する。
しかしそんな事はお構いなしにシオンに覆い被さる。
すかさず右前足を掴みとり、
「島原流、風車」
投げた。
流石はネコ科。投げられながらも柔らかい体を捻り、うまく着地した。
しかし、その一瞬が勝負を決することになる。
着地した時には、詩音の飛び後ろ蹴りが眼前に迫ってきていたからだ。
蹴りが顔面にめり込む。衝撃は頭蓋骨を割り、脳にまで浸透した。
ジャイアントタイガーは倒れ伏す。しかし、まだ微かに息があるようで苦しんでいた。
詩音はジャイアントタイガーの頭を跨いで立ち、渾身の下段突きを放つ。
次は即死だった。
詩音は何も言わず立ち去る。残っているのは頭が陥没して死んでいるジャイアントタイガーと大歓声だった。
詩音が入場門へ戻ると、そこに壁が立っていた。
いや、壁じゃない。人だ。人が立っていた。壁に見間違えるほど巨大な筋肉を纏った男が立っていた。
「ミスターフリーダム、バルクさん、だっけ?」
「君の競技、見ていたよ。とてもよくやるようだ」
詩音は挑発的な態度で言う。
「それって、あんたよりも?」
バルクは発言が鼻につき、眉間に皺を寄せる。しかし詩音は続けた。
「おれもなれるかなぁ。ふりーだむ」
完全に挑発している詩音の発言に表面では動じず、返す。
「バカを言っちゃあいけない。私が特別なのだ。私だから自由なのだ」
そう言うとバルクは詩音に背を向け歩き出した。
詩音は強烈な殺気をバルクに向ける。
「この状況で俺に背を向けるか!!!」
「言ってる意味がわからないね。自室に戻る、だから君に背を向けて帰る。それだけじゃないか」
「俺は背を向けて無警戒でも大丈夫な奴だって言ってんのかって聞いてんだ!」
バルクはひとつ詩音に笑ってみせ、そのまま何も言わず去っていった。
数刻後、牢屋にて。
「お前バルクさんにあしらわれたんだってな。よかったぜ生きて帰ってきて」
「別に何もなかったよ。ただ話しただけ」
「バルクさんに喧嘩売るのはマジでやめとけ。命が幾つあっても足りねぇ」
「けど、俺はここで立ち止まってるわけにはいかないんだよ」
「本当か? 俺はそんなふうには見えねぇけどな」
「どういう風にみえる?」
「スッゲー楽しそうに見えるぜ」
一方で、数日後ルナは単身でコロッセオがある都市、ロマンヌに到着した。
大都市ロマンヌ。ここは大陸の砂漠地帯にあるオアシスを起点として発展してきた都市で、なんといってもギャンブルで有名である。特に罪人や奴隷を使った剣闘士同士の戦いを賭けるギャンブルが大人気だ。
「ここがロマンヌですか。…………よし、まず私がやる事は拠点の確保とコロッセオの調査。あとはこの通信魔法が書かれた巻物でクレアさんたちに報告と近況を聞く事でしたね。では適当な宿屋を探すとしますか」
ルナは宿を探して歩き出した。
「高すぎますよ!!」
とある宿屋で、ルナが店主に抗議していた。
「これがここの基本料金だ。文句があるなら他に行け! まあ、ここはギャンブルの街だ。俺とギャンブルして勝ったら考えてやる」
「言いましたね。では私が負けたら2倍の値段で泊まってやりますよ!」
「いや、3倍だ。そのかわり勝てたらただでスイートルームに泊めてやる」
「いいでしょう。ところで何の勝負をするんですか?」
店主は外を指さす。
「次に来る客が男か女か賭けるってのはどうだ? お前が選んでいいぞ」
ルナは外を見る。大通りにはアクセサリー等、女性向けの商品を扱う店が多く並んでおり、たくさんの客で賑わっていた。
「では、男性に賭けます」
「オーケー。なら俺は女性に賭けるぜ」
二人は入り口を凝視し、次に入ってくる客を待つ。
数刻後、一組のカップルがほぼ同時に入ってきた。しかし、一歩の差で男性が先だった。
「この勝負、私の勝ちですね」
「ぐっ…………ああ、お前の勝ちだ。だがなぜ男性に賭けたんだ? ここの通りはアクセサリーショップとかばっかりだろうに」
「確かに女性が来やすいとは思います。しかし、アクセサリーショップ等って、女性だけよりも恋人の男性と一緒に来ることの方が多いはずです。女性もショップを見に行きたいとデート中にねだる事もあるでしょうし、男性も何かプレゼントを買ってあげようと来店するはずですから。そしてどんな利用方法であれカップルがそのままこの宿へ宿泊ないし休憩するために来店し、その際大体は男性を先頭に入ってくることが多いだろうという根拠の予想です」
「なるほど、しっかりと根拠が裏付けされた予想だったってことか。アンタ、ここで結構やっていけるぜ。上手くいけば億万長者だぞ」
「え、遠慮しておきます……」
「まあいい。じゃあ約束通りスイートルームに案内してやる。ついてこい」
ルナと店主は店の奥の階段を昇る。そして4階の奥にひと際高級そうな扉の前まで案内された。
「ここがスイートルームだ。俺はアンタのことが気に入ったからな、何かこの街に用があったんだろ? だからそれが終わるまでここにタダで泊まっていいぜ」
「いいんですか!?」
「あんなギャンブラーは久しぶりに見るからな。予想の理論もそうだが結構なハイリスクだったこの賭けに物怖じせず突っ込んでくるその図太さが特に気に入った。遠慮せず泊まっていけ。そんでここでガンガンギャンブルやって見せてくれよ」
「か、考えておきます……でも、ありがとうございます!!」
ルナがお礼を言うと、店主はルナの肩を軽く叩いて返事をする。そして自分の仕事へ戻っていった。
「何はともあれ、無事拠点を確保できました。ちょっと豪華すぎますけど、まあいいでしょう。ボロボロよりは全然いいです。さて、後は詩音さんについての調査に参りましょうか」
ルナは荷物を部屋に置くと、早速調査に向かった。
「今日のナイターは、最近連勝して勢い付いている右京! 対するは肉食動物最強、ジャイアントタイガー!! 今日は絶好の好カードだ! 見逃すなよ!!!」
詩音が入場した。会場は大歓声に包まれる。詩音への期待の歓声だ。
対してジャイアントタイガーが入ってきた。通常のトラの3倍はある図体で、恐らく競技まで何も餌を与えられなかったのだろう、飢えている様子で完全に獲物を見る目だった。
「あっ、ちょっと、まだ合図出してないぞ!!」
ジャイアントタイガーは鎖が解かれるなり詩音に飛びかかった。
詩音は突っ込んでくるジャイアントタイガーの下顎を蹴り上げた。舌を噛んでしまい、出血する。
しかしそんな事はお構いなしにシオンに覆い被さる。
すかさず右前足を掴みとり、
「島原流、風車」
投げた。
流石はネコ科。投げられながらも柔らかい体を捻り、うまく着地した。
しかし、その一瞬が勝負を決することになる。
着地した時には、詩音の飛び後ろ蹴りが眼前に迫ってきていたからだ。
蹴りが顔面にめり込む。衝撃は頭蓋骨を割り、脳にまで浸透した。
ジャイアントタイガーは倒れ伏す。しかし、まだ微かに息があるようで苦しんでいた。
詩音はジャイアントタイガーの頭を跨いで立ち、渾身の下段突きを放つ。
次は即死だった。
詩音は何も言わず立ち去る。残っているのは頭が陥没して死んでいるジャイアントタイガーと大歓声だった。
詩音が入場門へ戻ると、そこに壁が立っていた。
いや、壁じゃない。人だ。人が立っていた。壁に見間違えるほど巨大な筋肉を纏った男が立っていた。
「ミスターフリーダム、バルクさん、だっけ?」
「君の競技、見ていたよ。とてもよくやるようだ」
詩音は挑発的な態度で言う。
「それって、あんたよりも?」
バルクは発言が鼻につき、眉間に皺を寄せる。しかし詩音は続けた。
「おれもなれるかなぁ。ふりーだむ」
完全に挑発している詩音の発言に表面では動じず、返す。
「バカを言っちゃあいけない。私が特別なのだ。私だから自由なのだ」
そう言うとバルクは詩音に背を向け歩き出した。
詩音は強烈な殺気をバルクに向ける。
「この状況で俺に背を向けるか!!!」
「言ってる意味がわからないね。自室に戻る、だから君に背を向けて帰る。それだけじゃないか」
「俺は背を向けて無警戒でも大丈夫な奴だって言ってんのかって聞いてんだ!」
バルクはひとつ詩音に笑ってみせ、そのまま何も言わず去っていった。
数刻後、牢屋にて。
「お前バルクさんにあしらわれたんだってな。よかったぜ生きて帰ってきて」
「別に何もなかったよ。ただ話しただけ」
「バルクさんに喧嘩売るのはマジでやめとけ。命が幾つあっても足りねぇ」
「けど、俺はここで立ち止まってるわけにはいかないんだよ」
「本当か? 俺はそんなふうには見えねぇけどな」
「どういう風にみえる?」
「スッゲー楽しそうに見えるぜ」
一方で、数日後ルナは単身でコロッセオがある都市、ロマンヌに到着した。
大都市ロマンヌ。ここは大陸の砂漠地帯にあるオアシスを起点として発展してきた都市で、なんといってもギャンブルで有名である。特に罪人や奴隷を使った剣闘士同士の戦いを賭けるギャンブルが大人気だ。
「ここがロマンヌですか。…………よし、まず私がやる事は拠点の確保とコロッセオの調査。あとはこの通信魔法が書かれた巻物でクレアさんたちに報告と近況を聞く事でしたね。では適当な宿屋を探すとしますか」
ルナは宿を探して歩き出した。
「高すぎますよ!!」
とある宿屋で、ルナが店主に抗議していた。
「これがここの基本料金だ。文句があるなら他に行け! まあ、ここはギャンブルの街だ。俺とギャンブルして勝ったら考えてやる」
「言いましたね。では私が負けたら2倍の値段で泊まってやりますよ!」
「いや、3倍だ。そのかわり勝てたらただでスイートルームに泊めてやる」
「いいでしょう。ところで何の勝負をするんですか?」
店主は外を指さす。
「次に来る客が男か女か賭けるってのはどうだ? お前が選んでいいぞ」
ルナは外を見る。大通りにはアクセサリー等、女性向けの商品を扱う店が多く並んでおり、たくさんの客で賑わっていた。
「では、男性に賭けます」
「オーケー。なら俺は女性に賭けるぜ」
二人は入り口を凝視し、次に入ってくる客を待つ。
数刻後、一組のカップルがほぼ同時に入ってきた。しかし、一歩の差で男性が先だった。
「この勝負、私の勝ちですね」
「ぐっ…………ああ、お前の勝ちだ。だがなぜ男性に賭けたんだ? ここの通りはアクセサリーショップとかばっかりだろうに」
「確かに女性が来やすいとは思います。しかし、アクセサリーショップ等って、女性だけよりも恋人の男性と一緒に来ることの方が多いはずです。女性もショップを見に行きたいとデート中にねだる事もあるでしょうし、男性も何かプレゼントを買ってあげようと来店するはずですから。そしてどんな利用方法であれカップルがそのままこの宿へ宿泊ないし休憩するために来店し、その際大体は男性を先頭に入ってくることが多いだろうという根拠の予想です」
「なるほど、しっかりと根拠が裏付けされた予想だったってことか。アンタ、ここで結構やっていけるぜ。上手くいけば億万長者だぞ」
「え、遠慮しておきます……」
「まあいい。じゃあ約束通りスイートルームに案内してやる。ついてこい」
ルナと店主は店の奥の階段を昇る。そして4階の奥にひと際高級そうな扉の前まで案内された。
「ここがスイートルームだ。俺はアンタのことが気に入ったからな、何かこの街に用があったんだろ? だからそれが終わるまでここにタダで泊まっていいぜ」
「いいんですか!?」
「あんなギャンブラーは久しぶりに見るからな。予想の理論もそうだが結構なハイリスクだったこの賭けに物怖じせず突っ込んでくるその図太さが特に気に入った。遠慮せず泊まっていけ。そんでここでガンガンギャンブルやって見せてくれよ」
「か、考えておきます……でも、ありがとうございます!!」
ルナがお礼を言うと、店主はルナの肩を軽く叩いて返事をする。そして自分の仕事へ戻っていった。
「何はともあれ、無事拠点を確保できました。ちょっと豪華すぎますけど、まあいいでしょう。ボロボロよりは全然いいです。さて、後は詩音さんについての調査に参りましょうか」
ルナは荷物を部屋に置くと、早速調査に向かった。
12
お気に入りに追加
3,843
あなたにおすすめの小説

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。


つまりそれは運命
える
BL
別サイトで公開した作品です。
以下登場人物
レオル
狼獣人 α
体長(獣型) 210cm
〃 (人型) 197cm
鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪
セラ
人間 Ω
身長176cm
カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

子を成せ
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。
「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」
リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

ミルクの出ない牛獣人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「はぁ……」
リュートスは胸に手をおきながら溜息を吐く。服装を変えてなんとか隠してきたものの、五年も片思いを続けていれば膨らみも隠せぬほどになってきた。
最近では同僚に「牛獣人ってベータでもこんなに胸でかいのか?」と聞かれてしまうほど。周りに比較対象がいないのをいいことに「ああ大変なんだ」と流したが、年中胸が張っている牛獣人などほとんどいないだろう。そもそもリュートスのように成体になってもベータでいる者自体が稀だ。
通常、牛獣人は群れで生活するため、単独で王都に出てくることはほぼない。あっても買い出し程度で棲み着くことはない。そんな種族である牛獣人のリュートスが王都にいる理由はベータであることと関係していた。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる