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花屋のうさぎと銀狼の朝9
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「この花はなんだ? 綺麗な青だな」
「これは、ネモフィラですね」
「これは?」
「これは芝桜です」
訊かれるたびに、花の名前を答えながら市場を見て回る。
リオネル様と手を繋いで、花を見て回る日がくるなんて。人生なにがあるか、本当にわからない。
僕が花の説明をすると、リオネル様は小さく感嘆の声を上げながら真剣に聞いてくれる。
そのたびに、僕は嬉しくなってしまう。
「なんでも知っているな。レイラは偉いな」
「あ、ありがとうございます」
真剣な顔で褒めてくださるけれど、僕のどこかが偉いのかはちっともわからない。
それに……
「リオネル様の方が、その、当たり前ですけど……。ずっとずっと偉いと思います」
「私が?」
なぜかきょとんとするリオネル様に、僕は頷いてみせた。
「国の治安を守ってくださっています。お仕事の量もいつも多くて大変そうなのに、愚痴の一つも言わないですし。本当にすごいなって思っています」
リオネル様はいつも真剣にお仕事に取り組んでいる。配達に行くようになって、それを毎日目の当たりにすることとなった。『貴族は立場にあぐらをかいている』なんて言う人々も多いけれど、少なくともリオネル様はそうじゃない。うさぎフェチだったりと少し変わっているけれど、本当に真面目な人だと思う。
「……?」
反応がないのでリオネル様を見上げる。すると彼は――なぜか顔を真っ赤にしていた。
「リオネル様、どうされたのですか!?」
「いや、その。……嬉しくてな」
「嬉しい?」
「私をそんなふうに思ってくれていることが、とても嬉しい」
リオネル様の言葉に、僕は零れんばかりに目を瞠った。
こんな言葉……誰からだって言われているだろうに。どうして、そんなに喜んでくださるのだろう。
「君を守るために、もっと頑張らないといけないな」
「リオネル様……」
『君を』という響きが胸を打つ。
リオネル様は何気なく言った言葉なんだろうけど……嬉しくて泣きそうだ。
僕は滲んだ涙をごしごしと手で擦る。するとリオネル様が僕の前に屈み込み、心配そうに見つめてきた。
「どこか痛いのか?」
「いいえ、その。リオネル様にそんな言葉を頂けることが……嬉しくて」
そう言って僕は笑おうとした。
だけど涙を堪えているから、ふにゃりとした情けない泣き笑いになってしまう。
リオネル様は片膝をつくと繋いでいた手を、手を取る形に握り直す。そして僕の手の甲に……そっと口づけをした。
周囲から、どよめきが湧き上がる。
僕も呆然としながら、リオネル様を見つめてしまった。
アルファで、侯爵家の嫡男で、この国の騎士団長である気高き狼が。
平民のしがない花屋の前で……どうして膝なんてついているのだろう。
それは僕も含めたこの場のすべての人々が、皆思ったことだと思う。
「君が喜んでくれるのなら、いくらでも言おう。私に、君を守らせてくれ」
リオネル様はそう言うと、真剣な光を宿した瞳で僕を射抜いた。
「あの、リオネル様」
「なんだ?」
「たたた、立ってください! 僕なんかに膝をつくのは……!」
「なんの問題があるのだ?」
彼が首を傾げると、癖のない銀色の髪がさらりと揺れる。
問題はありまくりです、リオネル様! だけど……
「いろいろ問題はありますけど。それとは別に。その。守ってくださるなんて、嬉しい……です」
「レイラ……!」
目の前で花が咲いた……そんな錯覚を覚えてしまう。
リオネル様が、艶やかな花が咲き誇るような美しい笑顔を浮かべたのだ。
それを見た周囲からはまたどよめきが起こり、真正面からそんな破壊力のあるものを受け止めてしまった僕は、その場で卒倒しそうになってしまった。
「これは、ネモフィラですね」
「これは?」
「これは芝桜です」
訊かれるたびに、花の名前を答えながら市場を見て回る。
リオネル様と手を繋いで、花を見て回る日がくるなんて。人生なにがあるか、本当にわからない。
僕が花の説明をすると、リオネル様は小さく感嘆の声を上げながら真剣に聞いてくれる。
そのたびに、僕は嬉しくなってしまう。
「なんでも知っているな。レイラは偉いな」
「あ、ありがとうございます」
真剣な顔で褒めてくださるけれど、僕のどこかが偉いのかはちっともわからない。
それに……
「リオネル様の方が、その、当たり前ですけど……。ずっとずっと偉いと思います」
「私が?」
なぜかきょとんとするリオネル様に、僕は頷いてみせた。
「国の治安を守ってくださっています。お仕事の量もいつも多くて大変そうなのに、愚痴の一つも言わないですし。本当にすごいなって思っています」
リオネル様はいつも真剣にお仕事に取り組んでいる。配達に行くようになって、それを毎日目の当たりにすることとなった。『貴族は立場にあぐらをかいている』なんて言う人々も多いけれど、少なくともリオネル様はそうじゃない。うさぎフェチだったりと少し変わっているけれど、本当に真面目な人だと思う。
「……?」
反応がないのでリオネル様を見上げる。すると彼は――なぜか顔を真っ赤にしていた。
「リオネル様、どうされたのですか!?」
「いや、その。……嬉しくてな」
「嬉しい?」
「私をそんなふうに思ってくれていることが、とても嬉しい」
リオネル様の言葉に、僕は零れんばかりに目を瞠った。
こんな言葉……誰からだって言われているだろうに。どうして、そんなに喜んでくださるのだろう。
「君を守るために、もっと頑張らないといけないな」
「リオネル様……」
『君を』という響きが胸を打つ。
リオネル様は何気なく言った言葉なんだろうけど……嬉しくて泣きそうだ。
僕は滲んだ涙をごしごしと手で擦る。するとリオネル様が僕の前に屈み込み、心配そうに見つめてきた。
「どこか痛いのか?」
「いいえ、その。リオネル様にそんな言葉を頂けることが……嬉しくて」
そう言って僕は笑おうとした。
だけど涙を堪えているから、ふにゃりとした情けない泣き笑いになってしまう。
リオネル様は片膝をつくと繋いでいた手を、手を取る形に握り直す。そして僕の手の甲に……そっと口づけをした。
周囲から、どよめきが湧き上がる。
僕も呆然としながら、リオネル様を見つめてしまった。
アルファで、侯爵家の嫡男で、この国の騎士団長である気高き狼が。
平民のしがない花屋の前で……どうして膝なんてついているのだろう。
それは僕も含めたこの場のすべての人々が、皆思ったことだと思う。
「君が喜んでくれるのなら、いくらでも言おう。私に、君を守らせてくれ」
リオネル様はそう言うと、真剣な光を宿した瞳で僕を射抜いた。
「あの、リオネル様」
「なんだ?」
「たたた、立ってください! 僕なんかに膝をつくのは……!」
「なんの問題があるのだ?」
彼が首を傾げると、癖のない銀色の髪がさらりと揺れる。
問題はありまくりです、リオネル様! だけど……
「いろいろ問題はありますけど。それとは別に。その。守ってくださるなんて、嬉しい……です」
「レイラ……!」
目の前で花が咲いた……そんな錯覚を覚えてしまう。
リオネル様が、艶やかな花が咲き誇るような美しい笑顔を浮かべたのだ。
それを見た周囲からはまたどよめきが起こり、真正面からそんな破壊力のあるものを受け止めてしまった僕は、その場で卒倒しそうになってしまった。
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