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花屋のうさぎと銀狼の朝8
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「は……ふ」
リオネル様の腕の中で、僕はぐったりと脱力した。
また、リオネル様のお手で達してしまった。どうして、状況になったんだろう……?
額や頬には、リオネル様の口づけが降っている。それがくすぐったくて、僕は少しだけ笑ってしまった。
「あ、あの。リオネル様」
「なんだ? レイラ」
綺麗なハンカチで、リオネル様は僕の精の付いたお手を拭う。それを見ていると、僕は非常にいたたまれない気持ちになる。
『ごめんなさい』とか、いろいろ言いたいことはあるのだけれど。なかなか上手に言葉にならない。
するとなぜかリオネル様が、悲しそうに眉尻を下げた。
「……もしかして、不快だっただろうか」
「いえ、そんなことは! すごく気持ち良かったです!」
……悲しげな声音で言われて、僕は反射的にそう答えてしまう。
そしてそのはしたない内容に頬を熱くした。本当に……僕はなにを言っているんだ。
「そうか、それなら良かった」
「はは、は……」
リオネル様になんだか嬉しそうに言われて、僕は思わず苦笑いを漏らしてしまう。
そしてリオネル様のお膝から下りて、床に落ちた下履きとトラウザーズを拾ってそそくさと身に着けた。
「あの、ハンカチは洗って返しますので……」
「いや、大丈夫だ」
リオネル様はそう言うと、ポケットにハンカチを入れようとする。僕は慌ててそれを奪い取った。
そんな汚れ物を、高価な服のポケットに入れるなんてとんでもない!
「洗いますので!!」
僕が涙目になってそう叫ぶと、リオネル様は少し驚いた顔をしつつも頷いてくれた。
☆
「市場へは、どんな花を探しに行くのだ?」
「今日は小さな鉢植えと、種を探そうかと思っています。めずらしいものがあるといいんですけど……」
リオネル様とお話をしながら市場へと向かう。できるだけ気にしないようにはしているけれど、道行く人たちの視線が痛い。市場に近づくにつれて人は増えていき、視線の数も当然増えていく。
「人が多くなってきたな。レイラ、手を繋ごうか」
「えと、その……」
こんなに見られている中で……リオネル様と手を? 恨みを買ったりはなるべくしたくないんだけどなぁ。また店の前が汚されてしまいそうだ。それどころか、刺されたりして。
差し出された手を見つめながら躊躇していると、リオネル様のお耳がへにゃりと下がる。尻尾も、力なくだらりと垂れて地面に付きそうだ。ど、どうしてそんなに落ち込むんですか……!
その様子に耐えかねて、僕はリオネル様の大きな手に自分の手を重ねた。
「レイラの手は、小さいな」
「そ、そうですかね」
「そして柔らかだ」
「そんなことはないかと……毎日水を扱っていますし」
実際僕の手は、水仕事でかなり荒れている。リオネル様は僕の手をじっと見つめた後に口を開いた。
「では、手に良い軟膏を贈ろう。後でどこかの店に寄るか」
「あの、それは申し訳……」
「私が贈りたいのだ、気に病むことはない。この小さな手が傷ついているのを見るのは、心に堪える」
リオネル様はそう言うと、僕の指先に口づけをする。それを見た周囲の人々が大きなどよめきを上げた。
「――ッ! リオネル様!」
「すまない、つい。……嫌だったか?」
「いいいい、嫌ではありませんけれど……!」
「……そうか」
リオネル様がふっと口元を優しく笑ませる。その微笑みがあまりにも素敵すぎて、僕は呼吸困難になりかけた。
頭がくらくらする。僕は……夢でも見ているんじゃないだろうか。
リオネル様の腕の中で、僕はぐったりと脱力した。
また、リオネル様のお手で達してしまった。どうして、状況になったんだろう……?
額や頬には、リオネル様の口づけが降っている。それがくすぐったくて、僕は少しだけ笑ってしまった。
「あ、あの。リオネル様」
「なんだ? レイラ」
綺麗なハンカチで、リオネル様は僕の精の付いたお手を拭う。それを見ていると、僕は非常にいたたまれない気持ちになる。
『ごめんなさい』とか、いろいろ言いたいことはあるのだけれど。なかなか上手に言葉にならない。
するとなぜかリオネル様が、悲しそうに眉尻を下げた。
「……もしかして、不快だっただろうか」
「いえ、そんなことは! すごく気持ち良かったです!」
……悲しげな声音で言われて、僕は反射的にそう答えてしまう。
そしてそのはしたない内容に頬を熱くした。本当に……僕はなにを言っているんだ。
「そうか、それなら良かった」
「はは、は……」
リオネル様になんだか嬉しそうに言われて、僕は思わず苦笑いを漏らしてしまう。
そしてリオネル様のお膝から下りて、床に落ちた下履きとトラウザーズを拾ってそそくさと身に着けた。
「あの、ハンカチは洗って返しますので……」
「いや、大丈夫だ」
リオネル様はそう言うと、ポケットにハンカチを入れようとする。僕は慌ててそれを奪い取った。
そんな汚れ物を、高価な服のポケットに入れるなんてとんでもない!
「洗いますので!!」
僕が涙目になってそう叫ぶと、リオネル様は少し驚いた顔をしつつも頷いてくれた。
☆
「市場へは、どんな花を探しに行くのだ?」
「今日は小さな鉢植えと、種を探そうかと思っています。めずらしいものがあるといいんですけど……」
リオネル様とお話をしながら市場へと向かう。できるだけ気にしないようにはしているけれど、道行く人たちの視線が痛い。市場に近づくにつれて人は増えていき、視線の数も当然増えていく。
「人が多くなってきたな。レイラ、手を繋ごうか」
「えと、その……」
こんなに見られている中で……リオネル様と手を? 恨みを買ったりはなるべくしたくないんだけどなぁ。また店の前が汚されてしまいそうだ。それどころか、刺されたりして。
差し出された手を見つめながら躊躇していると、リオネル様のお耳がへにゃりと下がる。尻尾も、力なくだらりと垂れて地面に付きそうだ。ど、どうしてそんなに落ち込むんですか……!
その様子に耐えかねて、僕はリオネル様の大きな手に自分の手を重ねた。
「レイラの手は、小さいな」
「そ、そうですかね」
「そして柔らかだ」
「そんなことはないかと……毎日水を扱っていますし」
実際僕の手は、水仕事でかなり荒れている。リオネル様は僕の手をじっと見つめた後に口を開いた。
「では、手に良い軟膏を贈ろう。後でどこかの店に寄るか」
「あの、それは申し訳……」
「私が贈りたいのだ、気に病むことはない。この小さな手が傷ついているのを見るのは、心に堪える」
リオネル様はそう言うと、僕の指先に口づけをする。それを見た周囲の人々が大きなどよめきを上げた。
「――ッ! リオネル様!」
「すまない、つい。……嫌だったか?」
「いいいい、嫌ではありませんけれど……!」
「……そうか」
リオネル様がふっと口元を優しく笑ませる。その微笑みがあまりにも素敵すぎて、僕は呼吸困難になりかけた。
頭がくらくらする。僕は……夢でも見ているんじゃないだろうか。
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