24 / 59
花屋のうさぎとその友人3
しおりを挟む
『白熊亭』から、徒歩で約五分。
前方に見えてきたこぢんまりとした煉瓦の建物が、僕たちの行きつけのカフェである。
休みの日にはロランと、よくここで喋っているのだ。
白木の扉を開けると、ベルのカランカランという軽い音が響く。そして中から「いらっしゃぁい」という少し間延びした声がかけられた。
店に入ると、可愛らしい牛獣人の女性が机を拭いているのが目に入る。彼女はこの店の店主のモニーさんだ。
「あらぁ、お久しぶり。うふふ、噂のレイラちゃんじゃないの」
モニーさんはそう言うと、黒目がちな大きな瞳を楽しそうに煌めかせた。うう、ロランと同じような反応を! これは、リオネル様が有名人なのが悪いのだ。
「モニーさんまでやめてくださいよ。その、世間で噂になってる……お、お、お手付きとかぜんぶ誤解なんですから!」
「あらぁ? リオネル様となにもしてないの?」
「してません! なにもありませんか……ら?」
いや、あった。『なにか』はあったな。
リオネル様に性的な感じで、さんざん触られ……た。
発情の解消に関しては、ちゃんと理由があることだった。だからあれは仕方ない。
だけど馬車で触れられたり、お風呂で触られたりは……
「……ん?」
動機が『うさぎフェチ』であれ、僕がリオネル様の『お手付き』になったことには変わりないのでは? 今さらながらそんなことに気づいて、僕の顔は真っ赤になった。そんな僕を見て、モニーさんは好奇心剥き出しの笑顔を浮かべる。
……根掘り葉掘りと聞かれそうな予感に、僕は一歩後ろに下がった。
「モニーさん、それ以上はレイラをいじめないで」
僕とモニーさんの間にロランが割って入る。
「それと今日は個室を貸して。盗み聞きとかしちゃダメだからね?」
ロランは完熟トマトのような顔色の僕を自分の後ろに隠しながら、モニーさんにそう言った。
このカフェの二階にはテーブル一つしか置けない部屋……通称『個室』がある。下階がお客でいっぱいになった時用の部屋だけれど、こうやって内緒話に使われることも多い。
モニーさんは残念そうな顔で唇を尖らせた。
「ええ~。私には聞かせてくれないのぉ?」
「うん、聞かせない。大事な友人の悩み事だもん。聞き耳を立てようとしても、俺たちうさぎ族に気配はすぐにバレるからね?」
僕はロランの言葉に感動してしまう。『大事な友人』だなんて思われてたんだ、嬉しいなぁ。
「それと、珈琲二つと今日のケーキをくださいな!」
ロランは引き締めていた表情を緩めて、にぱっと笑った。
「ちぇ……。二人ともミルクとお砂糖はいっぱいだったよねぇ」
「うん、よろしくね」
がっくりと肩を落とすモニーさんを尻目に、僕とロランは二階に上がる。
ロランは頼りになるなぁ。僕だけだったら勢いに負けて洗いざらい話すはめになったと思うから、本当にありがたい。
『個室』に入り、モニーさんが珈琲とケーキを持ってくるのを僕らは待つ。注文の品をテーブルに置いた彼女が下階に行くのを見届け……というより耳で遠ざかる音を聞き届けてから、僕とロランは目を合わせた。
「さて、話を聞こうかぁ」
ロランの唇が悪戯っ子のような笑みを刻む。
僕は数度深呼吸をしてから――口を開いた。
前方に見えてきたこぢんまりとした煉瓦の建物が、僕たちの行きつけのカフェである。
休みの日にはロランと、よくここで喋っているのだ。
白木の扉を開けると、ベルのカランカランという軽い音が響く。そして中から「いらっしゃぁい」という少し間延びした声がかけられた。
店に入ると、可愛らしい牛獣人の女性が机を拭いているのが目に入る。彼女はこの店の店主のモニーさんだ。
「あらぁ、お久しぶり。うふふ、噂のレイラちゃんじゃないの」
モニーさんはそう言うと、黒目がちな大きな瞳を楽しそうに煌めかせた。うう、ロランと同じような反応を! これは、リオネル様が有名人なのが悪いのだ。
「モニーさんまでやめてくださいよ。その、世間で噂になってる……お、お、お手付きとかぜんぶ誤解なんですから!」
「あらぁ? リオネル様となにもしてないの?」
「してません! なにもありませんか……ら?」
いや、あった。『なにか』はあったな。
リオネル様に性的な感じで、さんざん触られ……た。
発情の解消に関しては、ちゃんと理由があることだった。だからあれは仕方ない。
だけど馬車で触れられたり、お風呂で触られたりは……
「……ん?」
動機が『うさぎフェチ』であれ、僕がリオネル様の『お手付き』になったことには変わりないのでは? 今さらながらそんなことに気づいて、僕の顔は真っ赤になった。そんな僕を見て、モニーさんは好奇心剥き出しの笑顔を浮かべる。
……根掘り葉掘りと聞かれそうな予感に、僕は一歩後ろに下がった。
「モニーさん、それ以上はレイラをいじめないで」
僕とモニーさんの間にロランが割って入る。
「それと今日は個室を貸して。盗み聞きとかしちゃダメだからね?」
ロランは完熟トマトのような顔色の僕を自分の後ろに隠しながら、モニーさんにそう言った。
このカフェの二階にはテーブル一つしか置けない部屋……通称『個室』がある。下階がお客でいっぱいになった時用の部屋だけれど、こうやって内緒話に使われることも多い。
モニーさんは残念そうな顔で唇を尖らせた。
「ええ~。私には聞かせてくれないのぉ?」
「うん、聞かせない。大事な友人の悩み事だもん。聞き耳を立てようとしても、俺たちうさぎ族に気配はすぐにバレるからね?」
僕はロランの言葉に感動してしまう。『大事な友人』だなんて思われてたんだ、嬉しいなぁ。
「それと、珈琲二つと今日のケーキをくださいな!」
ロランは引き締めていた表情を緩めて、にぱっと笑った。
「ちぇ……。二人ともミルクとお砂糖はいっぱいだったよねぇ」
「うん、よろしくね」
がっくりと肩を落とすモニーさんを尻目に、僕とロランは二階に上がる。
ロランは頼りになるなぁ。僕だけだったら勢いに負けて洗いざらい話すはめになったと思うから、本当にありがたい。
『個室』に入り、モニーさんが珈琲とケーキを持ってくるのを僕らは待つ。注文の品をテーブルに置いた彼女が下階に行くのを見届け……というより耳で遠ざかる音を聞き届けてから、僕とロランは目を合わせた。
「さて、話を聞こうかぁ」
ロランの唇が悪戯っ子のような笑みを刻む。
僕は数度深呼吸をしてから――口を開いた。
24
お気に入りに追加
3,843
あなたにおすすめの小説

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。


つまりそれは運命
える
BL
別サイトで公開した作品です。
以下登場人物
レオル
狼獣人 α
体長(獣型) 210cm
〃 (人型) 197cm
鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪
セラ
人間 Ω
身長176cm
カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

子を成せ
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。
「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」
リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

ミルクの出ない牛獣人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「はぁ……」
リュートスは胸に手をおきながら溜息を吐く。服装を変えてなんとか隠してきたものの、五年も片思いを続けていれば膨らみも隠せぬほどになってきた。
最近では同僚に「牛獣人ってベータでもこんなに胸でかいのか?」と聞かれてしまうほど。周りに比較対象がいないのをいいことに「ああ大変なんだ」と流したが、年中胸が張っている牛獣人などほとんどいないだろう。そもそもリュートスのように成体になってもベータでいる者自体が稀だ。
通常、牛獣人は群れで生活するため、単独で王都に出てくることはほぼない。あっても買い出し程度で棲み着くことはない。そんな種族である牛獣人のリュートスが王都にいる理由はベータであることと関係していた。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる