【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
上 下
21 / 59

銀狼のアルファは心配性2(リオネル視点)

しおりを挟む
「リオネル様」

 ニルスは眉尻を下げて呆れたような顔をしている。
 いや……『呆れたような』ではなく、心底『呆れている』のだろうな。

「……なんだ?」
「貴方は王国一の美男子だと誰もが憧れ、王都中で絵姿も売られている『リオネル・ハルミニア』なんですよ。レイラちゃんを堂々と誘いに行けばいいだけでしょう。大抵の男女はそれで二つ返事です!」

 大げさな身振り手振りで言ってから、ニルスは大きなため息をついた。今日のニルスはため息ばかりだな。
 ……私が悪いのはわかっているのだが。
 しかし、誘えばいいなんて簡単に言ってくれるな。

「……断られたらどうするんだ」

 レイラに拒絶されるのが怖い。下心を察せられ、あの優しいうさぎに軽蔑されたらと想像しただけで――どうしていいのかわからなくなる。

「知りませんよ! いい年なんだから自分で考えてください!」
「ニルス。お前は冷たいな」

 この男は私の部下であるが、その前に友人のはずだ。だったらもっと親身に考えてくれてもいいと思うのだが。

「冷たくないですよ! 忙しい貴方の代わりに先日はレイラちゃんの様子を見に行ったし、今日も早番の前に彼に予定を聞きに行ってあげたでしょうが! レイラちゃんを騎士宿舎に連れてくるために『占い』という理由をでっちあげてやったのも俺でしょう!」

 ニルスは一気にそう叫んでから、ぜえぜえと激しく息を切らせた。
 オメガの連続誘拐事件が発生し、仕事が手に付かないくらいにレイラの身を案じていた私に『この店の花が必要だと占いで出たとでも言って、毎日騎士宿舎に連れてくればいいじゃないですか。ここならリオネル様もいますし、安全でしょう。ついでに距離も縮めればいいんです』と提案したのはニルスである。
 結果的には、レイラにとって騎士宿舎は危険だったわけだが。
 そして距離の方は……少しでも縮まっているのだろうか。

「天下のリオネル・ハルミニアが、一年間も片思いでうじうじうじうじと……」
「一年と半年、そして二日だ。日にちは正確に把握しておいた方がいい」
「ああ、そうでしたね!!」

 ニルスの尻尾が不機嫌そうにバフバフと振られる。その尻尾の先に――私は望ましくないものを見つけてしまった。

「ニルス、尻尾の先が少し禿げているぞ」
「……本当だ。絶対にリオネル様から受けてるストレスのせいですよ! いつか慰謝料を請求しますから!」

 禿げた尻尾の先を悲しそうに見つめてから、ニルスは私を睨みつけた。ストレスも多い仕事だから、私が原因だとは限らないだろうに……言いがかりというやつだな。
 連休明けにレイラに宿舎に来るのを断られたら……次はそんな手段を講じて側で守ればいいのだろう。いや、事件を解決すればよいだけか。

「早く、誘拐事件を解決しなければな」
「それは同意ですけど……なかなか相手の尻尾が掴めませんね」

 ニルスは少し苛立ったように片手で髪を乱す。
 そう――誘拐犯の手がかりを追っても、それはすぐにふつりと消えてしまう。それはもう、不自然なくらいに綺麗に。

「ここまで綺麗に手がかりを消せるのは――貴族が関わっている可能性が高いな」
「そうですね。こういう汚いことをしそうな派閥はどこだろうな……」
「なぁ、ニルス」
「なんです、リオネル様。なにかお気づきなことでも?」

 ニルスの真剣な瞳と視線がぶつかる。私は……静かに口を開いた。

「……それで、デートの話だがな」
「今はそれはどうでもいいですよ!!」

 ニルスの魂の底からの叫びが――騎士宿舎中に響き渡った。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

つまりそれは運命

える
BL
別サイトで公開した作品です。 以下登場人物 レオル 狼獣人 α 体長(獣型) 210cm 〃 (人型) 197cm 鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪 セラ 人間 Ω 身長176cm カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

ミルクの出ない牛獣人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「はぁ……」  リュートスは胸に手をおきながら溜息を吐く。服装を変えてなんとか隠してきたものの、五年も片思いを続けていれば膨らみも隠せぬほどになってきた。  最近では同僚に「牛獣人ってベータでもこんなに胸でかいのか?」と聞かれてしまうほど。周りに比較対象がいないのをいいことに「ああ大変なんだ」と流したが、年中胸が張っている牛獣人などほとんどいないだろう。そもそもリュートスのように成体になってもベータでいる者自体が稀だ。  通常、牛獣人は群れで生活するため、単独で王都に出てくることはほぼない。あっても買い出し程度で棲み着くことはない。そんな種族である牛獣人のリュートスが王都にいる理由はベータであることと関係していた。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...