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花屋のうさぎの困惑7
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「レイラ、落ち着いてくれ。なにも酷いことはしない」
リオネル様の大きな手が優しく頭や背中を撫でる。その手の感触を感じていると、少しずつ体の震えが収まっていく。
「薬は……効いたようだな」
リオネル様は僕の頭をすんと嗅ぐ。フェロモンが出ていないなの確認をしたのだろうけれど、なんだかとても気恥ずかしい。
体を支配していた熱は引いており、今はいつもより思考が静かなくらいだ。頂いたお薬はよく効くものだったらしい。
「失礼しますよ」
ノックの音がして、ニルス様が入ってくる。彼の手には温かな湯気の立つカップ、そして腕には着替えらしい衣服がかけられていた。
「はい、ココア。喉にいいかはわからないけど、そんなものしかなかったんだ。それと着替えを持ってきたけど……その前に風呂に入った方がいいかな。人払いはするから、宿舎のを風呂を使って?」
ニルス様は人様には言えないものでドロドロになっている僕を見て、気遣うように笑った。
「宿舎の、ものをですか」
狐族の男に襲われたことを思い出し、体がぶるりと震える。薬が効いてフェロモンはもう出ていないはずだ。だけどこのアルファだらけの宿舎で、一人裸になるのは抵抗がある。
手渡されたココアを飲みながら、どうしたものかと途方に暮れていると――
「不安なら、私も一緒に入ろう」
リオネル様が、そんなとんでもないことを言った。
「あの、一人で入ります!」
「私がここに呼んだせいでこんなことになったのだ。君を守らせてはくれないか?」
端整な顔に心底申し訳ないという表情を浮かべられ、眉尻を思い切り下げられる。いつもは無表情なのに、こんな時だけ表情が出るのはずるい。
リオネル様はフェロモンが出ている僕がどれだけねだっても、最後まではしなかった。……それだけ僕に興味がない、というだけのことかもしれないけれど。
そんなリオネル様なら――大丈夫かな。
それにリオネル様も、僕のもので汚れてしまっているし。
「じゃ、じゃあ。一緒に……お願いします」
ぺこりと頭を下げると、リオネル様はわずかに笑みを浮かべて頷いた。
「じゃ、これ着替えね。小さめのを買ってきたけど、サイズが合わなかったらごめん」
「買って!? 申し訳ありません!」
わざわざ買ってくださったなんて! ニルス様の言葉に僕は驚愕した。どうしよう、いくらするのだろう。長椅子もきっとたくさん汚している。近頃リオネル様のおかげで懐が潤い気味とはいえ、あんな高そうな長椅子弁償できるのかな。
「お洋服代と、長椅子の弁償を……」
「気にしなくていい」
リオネル様はさらりと言うと、僕を抱えて立ち上がる。
「あの、自分で歩きます」
「さっき、ふらついていただろう」
歩き出すリオネル様に、僕は慌ててしがみついた。
長い廊下には人の気配が一切ない。ニルス様は人払いをしたと言っていた。それは風呂場だけじゃなくて、宿舎全体のことだったのか。僕の不手際のせいでなんて迷惑をかけているのだろうと、暗澹たる気持ちになる。
リオネル様に連れられたのは、見たこともないくらいに広い風呂場だった。大きな脱衣所が手前にあり、硝子が嵌った扉を開くと大きな浴室になっている。リオネル様は僕に巻きつけていた上掛けを取り去り、浴室の床にそっと下ろす。そして「先に湯に浸かっているといい」と言って脱衣所に戻って行った。
僕は巨大な大理石の浴槽に向かうと備え付けの椅子に座り、手桶でかけ湯をし体を流す。こんなドロドロの体で湯船になんか入れない。
頭から湯を被って頭を振るとぴるぴると長い耳も揺れる。小さく息を吐くと、僕は明日からのことに思いを馳せた。
――もう、ここには来ない方だいいだろう。
リオネル様にあんなご迷惑をかけてしまったのだ。
それにまたあんなことがあったらと考えたら――やっぱり怖い。
狐族の男に襲われた時にことを思い出し、僕はぶるりと身を震わせる。そしてそれを振り払うように、また頭から湯を被った。
扉の開く音がして振り返ると……そこにはリオネル様が立っていた。
リオネル様の大きな手が優しく頭や背中を撫でる。その手の感触を感じていると、少しずつ体の震えが収まっていく。
「薬は……効いたようだな」
リオネル様は僕の頭をすんと嗅ぐ。フェロモンが出ていないなの確認をしたのだろうけれど、なんだかとても気恥ずかしい。
体を支配していた熱は引いており、今はいつもより思考が静かなくらいだ。頂いたお薬はよく効くものだったらしい。
「失礼しますよ」
ノックの音がして、ニルス様が入ってくる。彼の手には温かな湯気の立つカップ、そして腕には着替えらしい衣服がかけられていた。
「はい、ココア。喉にいいかはわからないけど、そんなものしかなかったんだ。それと着替えを持ってきたけど……その前に風呂に入った方がいいかな。人払いはするから、宿舎のを風呂を使って?」
ニルス様は人様には言えないものでドロドロになっている僕を見て、気遣うように笑った。
「宿舎の、ものをですか」
狐族の男に襲われたことを思い出し、体がぶるりと震える。薬が効いてフェロモンはもう出ていないはずだ。だけどこのアルファだらけの宿舎で、一人裸になるのは抵抗がある。
手渡されたココアを飲みながら、どうしたものかと途方に暮れていると――
「不安なら、私も一緒に入ろう」
リオネル様が、そんなとんでもないことを言った。
「あの、一人で入ります!」
「私がここに呼んだせいでこんなことになったのだ。君を守らせてはくれないか?」
端整な顔に心底申し訳ないという表情を浮かべられ、眉尻を思い切り下げられる。いつもは無表情なのに、こんな時だけ表情が出るのはずるい。
リオネル様はフェロモンが出ている僕がどれだけねだっても、最後まではしなかった。……それだけ僕に興味がない、というだけのことかもしれないけれど。
そんなリオネル様なら――大丈夫かな。
それにリオネル様も、僕のもので汚れてしまっているし。
「じゃ、じゃあ。一緒に……お願いします」
ぺこりと頭を下げると、リオネル様はわずかに笑みを浮かべて頷いた。
「じゃ、これ着替えね。小さめのを買ってきたけど、サイズが合わなかったらごめん」
「買って!? 申し訳ありません!」
わざわざ買ってくださったなんて! ニルス様の言葉に僕は驚愕した。どうしよう、いくらするのだろう。長椅子もきっとたくさん汚している。近頃リオネル様のおかげで懐が潤い気味とはいえ、あんな高そうな長椅子弁償できるのかな。
「お洋服代と、長椅子の弁償を……」
「気にしなくていい」
リオネル様はさらりと言うと、僕を抱えて立ち上がる。
「あの、自分で歩きます」
「さっき、ふらついていただろう」
歩き出すリオネル様に、僕は慌ててしがみついた。
長い廊下には人の気配が一切ない。ニルス様は人払いをしたと言っていた。それは風呂場だけじゃなくて、宿舎全体のことだったのか。僕の不手際のせいでなんて迷惑をかけているのだろうと、暗澹たる気持ちになる。
リオネル様に連れられたのは、見たこともないくらいに広い風呂場だった。大きな脱衣所が手前にあり、硝子が嵌った扉を開くと大きな浴室になっている。リオネル様は僕に巻きつけていた上掛けを取り去り、浴室の床にそっと下ろす。そして「先に湯に浸かっているといい」と言って脱衣所に戻って行った。
僕は巨大な大理石の浴槽に向かうと備え付けの椅子に座り、手桶でかけ湯をし体を流す。こんなドロドロの体で湯船になんか入れない。
頭から湯を被って頭を振るとぴるぴると長い耳も揺れる。小さく息を吐くと、僕は明日からのことに思いを馳せた。
――もう、ここには来ない方だいいだろう。
リオネル様にあんなご迷惑をかけてしまったのだ。
それにまたあんなことがあったらと考えたら――やっぱり怖い。
狐族の男に襲われた時にことを思い出し、僕はぶるりと身を震わせる。そしてそれを振り払うように、また頭から湯を被った。
扉の開く音がして振り返ると……そこにはリオネル様が立っていた。
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