【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
上 下
6 / 59

誇り高き狼と花屋のうさぎ6

しおりを挟む
「リオネル様、終わりました」

 花を生けて部屋に配置すると、無骨だったお部屋は少し雰囲気が和らいだような気がした。と言っても部屋が広すぎるので、花を飾れたのなんてごく一部のスペースなのだけれど。
 自分の育てた可愛い花たちで、誰かの空間が華やぐのは嬉しい。飾られた花たちを見ていると、しみじみとそう思う。獣人の中でも『弱い』種族であるうさぎで、しかもオメガである自分でも、人にとって価値ある行動ができるのだと。この仕事をしている時は、そんな誇らしい気持ちになれるのだ。

「そうか。では支払いを……の前に。茶でも淹れよう」

 リオネル様はだいぶ少なくなった書類から顔を上げて、食器棚が置いてある一角へと向かった。そんな、侯爵様にお茶を淹れて頂くなんて恐れ多い!

「あの、リオネル様……!」
「疲れただろう。座っていなさい」

 有無を言わさぬ調子で言って僕を長椅子に座らせると、リオネル様はお茶の準備を始めた。魔法式の板のコンロの上に薬缶を乗せ、先ほどの球体を潰して水を入れ。魔法で温めたポットに茶葉を入れてから、沸騰したお湯を注ぐ。その流れるような一連の動作は、彼が普段からお茶を淹れ慣れていることを示していた。執務をしながら、いつもお飲みになられているのかもしれないな。

「ミルクと砂糖は?」
「えっと、ミルクをたくさん。入れてください……」

 僕は甘党である。ミルクと砂糖がたっぷり入った紅茶が好きだ。十八にもなって甘党というのも少し恥ずかしいが、こういう味覚の好みはこれから先も、きっと変わらないのだろう。

「……ミルクを、たくさん、入れる」

 カチャリ、とリオネル様の手からスプーンが落ちた。どうしたのだろうと思いながらリオネル様を見上げると、無表情でじっと見下ろされた。リオネル様は身を屈めると、こちらに手を伸ばす。その手は優しく頬に触れて、何度も何度も撫でられた。そうしながらも、リオネル様はやっぱり無表情だ。

 ……リオネル様が、わからない。

 絶世の美貌に無表情かつ無言で凝視されながら、頬を撫でられ続けるこの奇異な時間はなんなのだろう。僕はへたり、と白く長い耳を垂らしながら、視線を恐る恐るリオネル様に向けた。
 リオネル様のお顔は近くで見ても、一つたりとも欠点がない。肌は真っ白できめ細かく、鼻筋はまっすぐに通っている。唇は淡い紅を刷いたような美しい色で、薄くてとても綺麗だ。髪と同じ色の白金の睫毛は長く、それに縁取られた黄緑色の瞳は宝石のように輝いている。困惑しながらも、僕は間近で見るリオネル様の美貌に釘づけになってしまった。
 リオネル様の指がふと僕の唇に触れ、何度か指の腹で撫でられる。心臓がざわりと、直接その美しい指で撫でられたかのように震えた。

 ――これは、危険だ。

「リオネル様。紅茶、冷めちゃいます!」

 僕は必死で、声を絞り出した。この美しい生き物が、怖ろしい。発情期でもないのに捕食して欲しいと、自ら身を差し出してしまいそうな衝動に駆られてしまうから。
 この美しい狼の前にいると、僕はしょせん生贄のうさぎなのだと。そんな感覚に陥ってしまう。

「ああ、そうだな」

 リオネル様はさらに何度か唇を撫でてから、触れるのをやっとやめてくれた。遠ざかるその感触に、名残惜しさを感じ、追いすがりそうになる自分を必死で止める。
 怖い、怖い、怖い。あまりリオネル様に近づきすぎてはダメだ。この狼には、暴力的なくらいに、人を惹きつける力がある。近づきすぎると、うさぎのオメガなんてきっと一口で丸呑みだ。 

 リオネル様の淹れてくれた紅茶は驚くくらいに美味しかった。耳をぴんと立てて夢中でそれを飲んでいると、僕が気に入ったのを察したリオネル様が何杯もおかわりを淹れてくれる。

「もっと飲みなさい」

 四杯目の紅茶を飲んだ後、真顔でそう言われたけれど……リオネル様、僕のお腹はもうたぷたぷです。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

つまりそれは運命

える
BL
別サイトで公開した作品です。 以下登場人物 レオル 狼獣人 α 体長(獣型) 210cm 〃 (人型) 197cm 鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪 セラ 人間 Ω 身長176cm カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

ミルクの出ない牛獣人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「はぁ……」  リュートスは胸に手をおきながら溜息を吐く。服装を変えてなんとか隠してきたものの、五年も片思いを続けていれば膨らみも隠せぬほどになってきた。  最近では同僚に「牛獣人ってベータでもこんなに胸でかいのか?」と聞かれてしまうほど。周りに比較対象がいないのをいいことに「ああ大変なんだ」と流したが、年中胸が張っている牛獣人などほとんどいないだろう。そもそもリュートスのように成体になってもベータでいる者自体が稀だ。  通常、牛獣人は群れで生活するため、単独で王都に出てくることはほぼない。あっても買い出し程度で棲み着くことはない。そんな種族である牛獣人のリュートスが王都にいる理由はベータであることと関係していた。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

処理中です...