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誇り高き狼と花屋のうさぎ4
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「怯えなくていい。新しい首輪をやると、約束しただろう」
首筋に金属の冷たさが伝わった。安心するその感触に、鼓動は少しずつ治まってくる。カチャカチャと小さな音を鳴らしながら、リオネル様は新しい首輪を着けてくれた。
「できた」
満足そうに言いながらリオネル様は、新しい首輪を撫でる。それに僕も触れてみると、前よりもしっかりとした金属の手触りが手に伝わった。昨日の今日でこんなに立派なものを用意できるなんて……貴族ってすごいんだな。
「あ、ありがとうございます」
安堵でふにゃっと気が抜けた声で言う僕の頭を、リオネル様は何度も撫でてくれる。
「気にするな。私がしたくてしたのだから。魔除け的な意味も込めて、うちの家紋も刻んである」
「ハルミニア侯爵家の家紋を?」
それはたしかに、最強の魔除けだ。リオネル様の関係者だから手を出すな、と周囲のアルファに知らしめることができるのだから。妙な輩は、これでほとんど寄ってこなくなるだろう。リオネル様はちょっと変わっているけれど、本当に親切な人だ。
「ありがとうございます、大事にします!」
振り返ってお礼を言ったタイミングで、馬車がまたガタリと揺れ、僕はリオネル様の胸に、抱きつくような格好で突っ伏してしまった。
「ご、ごめんなさ……」
「別に、いい」
リオネル様はそのまま僕を抱きしめた。温かな体温と、いい匂いに包まれる。フェロモンを出すのはオメガの方のはずなのに、リオネル様の香りに僕の脳は痺れたようにくらりとする。
「リオネル、さま」
「この方が、安定する」
綺麗なお顔に至近距離で微笑まれ、心を鷲掴みにされたような衝動が走った。心臓が、軽くて速い鼓動を刻む。顔が熱くて仕方がない。
こ、これがアルファの、求心力……!
無礼だとは思いつつも真っ赤になる顔を隠すために、僕はリオネル様の胸に顔をうずめた。するとぐりぐりと、頭を手のひららしきものが往復する。彼は本当に頭を撫でるのが、お好きらしい。というかリオネル様は、僕のことを撫ですぎじゃないですかね。
「もうすぐ、着いてしまうな」
リオネル様の言葉を聞いて、僕は顔を上げた。そして窓の外を見ると、街並みは庶民である僕の居住区とは打って変わり、立派な白壁や煉瓦の建物ばかりの高級住宅街に差し掛かっていた。
王宮が近づいているんだ。そう思うと緊張で体が震えてくる。アルファの巣窟である王宮になんて、一生近寄ることもないと思っていたのに。屈強なアルファが多いだろう王宮騎士団の宿舎に、これから毎日花を届けることになるのだ。
先ほど頂いた首輪に軽く指をかける。ハルミニア侯爵家の家紋が入ったこの首輪。これがあれば滅多な目に遭うことはないだろうけど……
「私が守るから、大丈夫だ」
優しくかけられたお声は、少しだけ高くて甘い。中性的な容姿もあって、リオネル様は時々女神のように見える。
「……リオネル様は、女神様みたいです」
思わず呟いた僕の言葉に、リオネル様はきょとりとした顔をした後に、ふっと目尻をゆるめた。
☆
王宮の立派な門を潜り抜け、ゆるやかな速度で馬車は敷地の中を走る。窓から顔を出してお城の方を見ると、普段は遠目にしか見たことがなかった白亜の城が聳えていて、僕は感嘆の息を漏らしてしまった。
しばらく進むと馬車は『貴族の邸宅です』と言われても納得してしまう、豪奢な建物の前で停まった。ここが、王宮騎士団の宿舎らしい。
花を運ばなければとリオネル様のお膝から下りたものの、多くの花束はリオネル様とニルス様が抱えてしまった。それでも馬車には、花束の残りと大量の鉢植えが残っているのだけれど。
「リオネル、様?」
お客様かつ貴族様に、荷物を持たせてしまうなんて。僕はオロオロとしながら、リオネル様を見つめた。
「レイラは小さいからな。私とニルスで多くを持った方が、要領がいいだろう」
無表情でそう言われてしまうと、どうすることもできず。僕も抱えられるだけの花束を抱えて、お二人の後ろをついて行った。馬車に残っているものは、後からニルスが運ぶから気にするなとリオネル様が言うと、ニルス様は盛大なため息をついた。
首筋に金属の冷たさが伝わった。安心するその感触に、鼓動は少しずつ治まってくる。カチャカチャと小さな音を鳴らしながら、リオネル様は新しい首輪を着けてくれた。
「できた」
満足そうに言いながらリオネル様は、新しい首輪を撫でる。それに僕も触れてみると、前よりもしっかりとした金属の手触りが手に伝わった。昨日の今日でこんなに立派なものを用意できるなんて……貴族ってすごいんだな。
「あ、ありがとうございます」
安堵でふにゃっと気が抜けた声で言う僕の頭を、リオネル様は何度も撫でてくれる。
「気にするな。私がしたくてしたのだから。魔除け的な意味も込めて、うちの家紋も刻んである」
「ハルミニア侯爵家の家紋を?」
それはたしかに、最強の魔除けだ。リオネル様の関係者だから手を出すな、と周囲のアルファに知らしめることができるのだから。妙な輩は、これでほとんど寄ってこなくなるだろう。リオネル様はちょっと変わっているけれど、本当に親切な人だ。
「ありがとうございます、大事にします!」
振り返ってお礼を言ったタイミングで、馬車がまたガタリと揺れ、僕はリオネル様の胸に、抱きつくような格好で突っ伏してしまった。
「ご、ごめんなさ……」
「別に、いい」
リオネル様はそのまま僕を抱きしめた。温かな体温と、いい匂いに包まれる。フェロモンを出すのはオメガの方のはずなのに、リオネル様の香りに僕の脳は痺れたようにくらりとする。
「リオネル、さま」
「この方が、安定する」
綺麗なお顔に至近距離で微笑まれ、心を鷲掴みにされたような衝動が走った。心臓が、軽くて速い鼓動を刻む。顔が熱くて仕方がない。
こ、これがアルファの、求心力……!
無礼だとは思いつつも真っ赤になる顔を隠すために、僕はリオネル様の胸に顔をうずめた。するとぐりぐりと、頭を手のひららしきものが往復する。彼は本当に頭を撫でるのが、お好きらしい。というかリオネル様は、僕のことを撫ですぎじゃないですかね。
「もうすぐ、着いてしまうな」
リオネル様の言葉を聞いて、僕は顔を上げた。そして窓の外を見ると、街並みは庶民である僕の居住区とは打って変わり、立派な白壁や煉瓦の建物ばかりの高級住宅街に差し掛かっていた。
王宮が近づいているんだ。そう思うと緊張で体が震えてくる。アルファの巣窟である王宮になんて、一生近寄ることもないと思っていたのに。屈強なアルファが多いだろう王宮騎士団の宿舎に、これから毎日花を届けることになるのだ。
先ほど頂いた首輪に軽く指をかける。ハルミニア侯爵家の家紋が入ったこの首輪。これがあれば滅多な目に遭うことはないだろうけど……
「私が守るから、大丈夫だ」
優しくかけられたお声は、少しだけ高くて甘い。中性的な容姿もあって、リオネル様は時々女神のように見える。
「……リオネル様は、女神様みたいです」
思わず呟いた僕の言葉に、リオネル様はきょとりとした顔をした後に、ふっと目尻をゆるめた。
☆
王宮の立派な門を潜り抜け、ゆるやかな速度で馬車は敷地の中を走る。窓から顔を出してお城の方を見ると、普段は遠目にしか見たことがなかった白亜の城が聳えていて、僕は感嘆の息を漏らしてしまった。
しばらく進むと馬車は『貴族の邸宅です』と言われても納得してしまう、豪奢な建物の前で停まった。ここが、王宮騎士団の宿舎らしい。
花を運ばなければとリオネル様のお膝から下りたものの、多くの花束はリオネル様とニルス様が抱えてしまった。それでも馬車には、花束の残りと大量の鉢植えが残っているのだけれど。
「リオネル、様?」
お客様かつ貴族様に、荷物を持たせてしまうなんて。僕はオロオロとしながら、リオネル様を見つめた。
「レイラは小さいからな。私とニルスで多くを持った方が、要領がいいだろう」
無表情でそう言われてしまうと、どうすることもできず。僕も抱えられるだけの花束を抱えて、お二人の後ろをついて行った。馬車に残っているものは、後からニルスが運ぶから気にするなとリオネル様が言うと、ニルス様は盛大なため息をついた。
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