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琴子の、新しい家族の形
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「エルゥ、ありがとう」
家に帰って食事の準備をしているエルゥにお礼を言うと、彼は照れくさそうな顔をした。
「大したことはしてないよ?」
「ううん。エルゥが居てくれて良かった」
鍋を見ているエルゥの背中にぎゅっと抱きつく。温かくて、いい香りがして、なんだかすごく落ち着く。
「め、めずらしいね。琴子から触ってくるなんて。どうしたの?」
エルゥから動揺する声が上がる。そしておたまがカシャンと床に落ちた。
私が触れるのもめずらしいけれど、エルゥがここまで動揺するのもめずらしい。ふだんの私は、どれだけ塩対応なんだ。
「……エルゥ。私、家族が居なくなった」
ぽつりと漏らした言葉は、針のような鋭さで自身の心を貫いた。
祖父母も、母も、最初から『家族』ではなかったけれど。だけどそれでも『血縁』だった。
『天涯孤独』なんて言葉が、じわりと胸に広がっていく。
あの人たちが居ても、私は『一人』で寂しかった。だけど居なくなるのは、もっと寂しい。
「琴子」
エルゥは振り向いて、じっと私を見つめた。私もその穏やかな瞳を見つめ返す。
「琴子の理想の家族って、どんなもの?」
「え……」
唐突なエルゥの問いに、私はあっけに取られる。
だけど彼の顔が真剣だったので……私は想像してみた。
私が欲しかった、幸せな家族のイメージを。
「帰ったらね『おかえりなさい』って言って欲しい。それで『美味しい』って言いながら、一緒にご飯を食べたい。病気の時には当たり前みたいに心配して欲しい。お休みの日には一緒に出かけて欲しい。肩を並べて一緒にテレビを見て、同じタイミングで笑いたい」
幼い頃、他の『家族』が羨ましくて仕方なかった。
そんな思いが溢れて、溢れて。言葉が止まらない。
「それでね。側に……ずっと居て欲しい。私、寂しいのは嫌……」
ポロポロと雫が頬を流れる。その雫を、エルゥの手が優しく拭ってくれた。
エルゥは、なぜか嬉しそうに笑う。そして……
「その条件だと、僕と琴子は理想の『家族』だね」
そう言いながら、優しく私を抱きしめた。
ああ……そうか。
エルゥとの日々は、今まで欲しかった『家族』の形そのものなんだ。
「私、エルゥの家族なの?」
「うん、僕はそのつもりだよ」
「そっか。エルゥが……私の家族なんだ」
悪魔とその飼い猫という、とても奇妙な家族構成だ。
だけどそれはそれで……悪くはない。
「ずっと一緒に居るって約束したしね」
エルゥはそう言うと、私を抱く腕に力を込める。その力強さが、私の不安を優しく撫でた。
「……約束、破らない?」
「破らない。一生一緒に居るし、幸せにするし、お腹も空かせないよ」
エルゥにそんな意図はないのだろうけど。
それはまるで、プロポーズの言葉のようだ。
いつかエルゥと、飼い主と猫以外の関係になったりするのかな。
そんなことを考えてしまい、私は慌ててその考えを打ち消した。
「琴子、一緒に幸せになろうね」
私の『家族』である『悪魔』は、そう言うと絶世の美貌に無邪気な笑みを浮かべた。
------------------------------------
エルゥと琴子のお話は、こちらで一旦一区切りとなります。
二人の関係がもっと進展するお話は公募関係の原稿が落ち着きましたら追加に参りますので、気長にお待ち頂けますと幸いです。
家に帰って食事の準備をしているエルゥにお礼を言うと、彼は照れくさそうな顔をした。
「大したことはしてないよ?」
「ううん。エルゥが居てくれて良かった」
鍋を見ているエルゥの背中にぎゅっと抱きつく。温かくて、いい香りがして、なんだかすごく落ち着く。
「め、めずらしいね。琴子から触ってくるなんて。どうしたの?」
エルゥから動揺する声が上がる。そしておたまがカシャンと床に落ちた。
私が触れるのもめずらしいけれど、エルゥがここまで動揺するのもめずらしい。ふだんの私は、どれだけ塩対応なんだ。
「……エルゥ。私、家族が居なくなった」
ぽつりと漏らした言葉は、針のような鋭さで自身の心を貫いた。
祖父母も、母も、最初から『家族』ではなかったけれど。だけどそれでも『血縁』だった。
『天涯孤独』なんて言葉が、じわりと胸に広がっていく。
あの人たちが居ても、私は『一人』で寂しかった。だけど居なくなるのは、もっと寂しい。
「琴子」
エルゥは振り向いて、じっと私を見つめた。私もその穏やかな瞳を見つめ返す。
「琴子の理想の家族って、どんなもの?」
「え……」
唐突なエルゥの問いに、私はあっけに取られる。
だけど彼の顔が真剣だったので……私は想像してみた。
私が欲しかった、幸せな家族のイメージを。
「帰ったらね『おかえりなさい』って言って欲しい。それで『美味しい』って言いながら、一緒にご飯を食べたい。病気の時には当たり前みたいに心配して欲しい。お休みの日には一緒に出かけて欲しい。肩を並べて一緒にテレビを見て、同じタイミングで笑いたい」
幼い頃、他の『家族』が羨ましくて仕方なかった。
そんな思いが溢れて、溢れて。言葉が止まらない。
「それでね。側に……ずっと居て欲しい。私、寂しいのは嫌……」
ポロポロと雫が頬を流れる。その雫を、エルゥの手が優しく拭ってくれた。
エルゥは、なぜか嬉しそうに笑う。そして……
「その条件だと、僕と琴子は理想の『家族』だね」
そう言いながら、優しく私を抱きしめた。
ああ……そうか。
エルゥとの日々は、今まで欲しかった『家族』の形そのものなんだ。
「私、エルゥの家族なの?」
「うん、僕はそのつもりだよ」
「そっか。エルゥが……私の家族なんだ」
悪魔とその飼い猫という、とても奇妙な家族構成だ。
だけどそれはそれで……悪くはない。
「ずっと一緒に居るって約束したしね」
エルゥはそう言うと、私を抱く腕に力を込める。その力強さが、私の不安を優しく撫でた。
「……約束、破らない?」
「破らない。一生一緒に居るし、幸せにするし、お腹も空かせないよ」
エルゥにそんな意図はないのだろうけど。
それはまるで、プロポーズの言葉のようだ。
いつかエルゥと、飼い主と猫以外の関係になったりするのかな。
そんなことを考えてしまい、私は慌ててその考えを打ち消した。
「琴子、一緒に幸せになろうね」
私の『家族』である『悪魔』は、そう言うと絶世の美貌に無邪気な笑みを浮かべた。
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エルゥと琴子のお話は、こちらで一旦一区切りとなります。
二人の関係がもっと進展するお話は公募関係の原稿が落ち着きましたら追加に参りますので、気長にお待ち頂けますと幸いです。
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