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番外編
月と獣の蜜月2
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わたくしたちは屋敷を出立し、馬上の人となりのんびりとしたスピードで馬を走らせていた。
目的地は屋敷から少し離れた場所にある小高い景色のいい丘。家族で数度訪れた場所だけれど、二人で行くのは初めてだ。
わたくしは前方に乗せられ後ろからマクシミリアンに支えてもらっている。彼と馬の二人乗りをしたことは数度あるけれど……慣れない頃はマクシミリアンとの密着具合にドキドキしすぎてどうしていいのかわからなかった。
ううん、ドキドキしているのは今もね。……あんなに閨を共にしているのに、いつまで彼にときめけば気が済むのだろう。
「身体は、辛くないですか?」
気遣うようにマクシミリアンがこちらを覗き込んでくる。黒曜石の瞳が陽の光を反射してキラキラと光り、艶のある黒髪がさらりと揺れた。怜悧で美しいかんばせにふわりと優しい笑みが浮かぶ。……ああもう、素敵なお顔すぎる!
頬が熱くなって、彼から思わず目を逸らしてしまう。何年も一緒にいるのに……顔が良すぎるってずるいわ!
いいところは、お顔だけじゃないんだけど。優しいし、いつもわたくしのことばかり考えてくれる。最初は照れて少なかった愛の言葉も今では日々絶えない。子供たちにも甲斐甲斐しくて、愛情が溢れている人だと思うの。……束縛は少し強いけれど。
うちの旦那様は、とっても素敵だ。
「……大丈夫よ、マクシミリアン」
「ふふ、ならよかったです」
そう言いながらマクシミリアンはわたくしの頬にキスをする。……もっとして欲しい、なんて思うけど。馬上なのでお預けなのだ。
マクシミリアンの胸にこてりと頭を預けて、大事なお弁当のバスケットをぎゅっと抱きしめる。
もうすぐ丘が見えてくるはず。マクシミリアンのお弁当、楽しみだわ。
前方の目を向けると思っていた通り遠くに小さな丘が見えてきた。
「見えてきたわね、マクシミリアン」
彼の方を振り返ると綺麗なお顔が近づいてきて。……ふわりと、優しくキスをされた。
「マクシミリアン……」
「ビアンカ。……好きです」
薄く頬を染めて言われ、胸がぎゅっとなる。うちの旦那様はどれだけわたくしを、夢中にさせれば気が済むの……!!!
丘に着いたわたくしたちは馬を木に繫ぎ止め、美しい緑の草原に立った。
空は青く澄んでいて、太陽は眩しい。雲は少なく空に薄くたなびいている。
「天気が良くてよかったわ」
「そうですね、ビアンカ。ですが日に焼けてしまうと良くないので……」
そう言いながらマクシミリアンはわたくしの手を引き大きな木の方へと連れていく。そして木陰に入ると敷布を広げてバスケットを置いた。
彼が先に敷布の上に座り、ポンポンとお膝を叩かれる。上に座れってことね?
「じゃあ……失礼するわね?」
敷布の上にわたくしも上がり、マクシミリアンのお膝の上に腰かける。すると後ろから優しく抱きしめられ嬉しそうに頬をすり寄せられた。
マクシミリアンの体温に包まれて安心感を覚え、彼を見て微笑むと彼も微笑み返してくれる。
「ビアンカ……」
マクシミリアンは熱っぽい声でそう囁きながら頬に口づけをし、さわり、とお腹の辺りをやらしい手つきで撫でてきた。
……マクシミリアンさん……??
「マクシミリアン、手つきがやらしいわ?」
「……ダメですか? ビアンカ」
マクシミリアンに触られるのは、好きだけれど。……野外の上に、ご飯もまだ食べていないのよ!?
「ご……ごはん、食べてないから!」
「む……」
バスケットを指差しながらわたくしがそう叫ぶとマクシミリアンは不満そうなお顔をしつつも、胸に伸びそうになっていた手を止めてくれた。
「では、食事の後にいただきますね」
しかしちゅっと音を立て旋毛にキスをしながら発した彼の言葉に、わたくしは真っ赤になってしまう。
本日のデザートは、もう決定なのですね?? デザートはわたくしよ、を地で行くことになるなんて。
わたくしも二人きりで浮ついた気持ちになっているところがあるけれど、彼はもっと浮かれている気がするわ……。
「マクシミリアン、もしかしなくても浮かれてる?」
「はい、浮かれていますよ。貴女を数日とはいえ独り占めできるんですから。ああ、ローラとユールが大きくなったらすぐにでも隠居して二人で蜜月を過ごしましょうね……!」
マクシミリアン、それには最低でもあと十年と少しはかかると思うのよ……? 隠居の話が出るのはまだ早いわ。
「その頃には、貴方わたくしに飽きているかもしれないわよ?」
冗談っぽくそう言うと、彼に非常に剣呑な目で見られてしまった。
「飽きるわけがないでしょう……!! 私は、一生貴女に恋をしている自信がある!」
マクシミリアンは真剣な面差しできっぱりとそう言い切った。
……情熱的ね、旦那様。彼の熱烈な言葉に恥ずかしくなって、わたくしは彼の腕の中で頬を染めて背中を丸めてしまう。
「わたくしも、マクシミリアンにずっと恋をしている自信があるわ。今日もずっとドキドキしっ放しで……」
「……ビアンカ、抱いても?」
「ご飯を食べさせてよ!?」
……子供たちがいない三泊四日、体が持つのかしら。
バスケットに手を伸ばしながら、わたくしはそんなことを遠い目で思った。
目的地は屋敷から少し離れた場所にある小高い景色のいい丘。家族で数度訪れた場所だけれど、二人で行くのは初めてだ。
わたくしは前方に乗せられ後ろからマクシミリアンに支えてもらっている。彼と馬の二人乗りをしたことは数度あるけれど……慣れない頃はマクシミリアンとの密着具合にドキドキしすぎてどうしていいのかわからなかった。
ううん、ドキドキしているのは今もね。……あんなに閨を共にしているのに、いつまで彼にときめけば気が済むのだろう。
「身体は、辛くないですか?」
気遣うようにマクシミリアンがこちらを覗き込んでくる。黒曜石の瞳が陽の光を反射してキラキラと光り、艶のある黒髪がさらりと揺れた。怜悧で美しいかんばせにふわりと優しい笑みが浮かぶ。……ああもう、素敵なお顔すぎる!
頬が熱くなって、彼から思わず目を逸らしてしまう。何年も一緒にいるのに……顔が良すぎるってずるいわ!
いいところは、お顔だけじゃないんだけど。優しいし、いつもわたくしのことばかり考えてくれる。最初は照れて少なかった愛の言葉も今では日々絶えない。子供たちにも甲斐甲斐しくて、愛情が溢れている人だと思うの。……束縛は少し強いけれど。
うちの旦那様は、とっても素敵だ。
「……大丈夫よ、マクシミリアン」
「ふふ、ならよかったです」
そう言いながらマクシミリアンはわたくしの頬にキスをする。……もっとして欲しい、なんて思うけど。馬上なのでお預けなのだ。
マクシミリアンの胸にこてりと頭を預けて、大事なお弁当のバスケットをぎゅっと抱きしめる。
もうすぐ丘が見えてくるはず。マクシミリアンのお弁当、楽しみだわ。
前方の目を向けると思っていた通り遠くに小さな丘が見えてきた。
「見えてきたわね、マクシミリアン」
彼の方を振り返ると綺麗なお顔が近づいてきて。……ふわりと、優しくキスをされた。
「マクシミリアン……」
「ビアンカ。……好きです」
薄く頬を染めて言われ、胸がぎゅっとなる。うちの旦那様はどれだけわたくしを、夢中にさせれば気が済むの……!!!
丘に着いたわたくしたちは馬を木に繫ぎ止め、美しい緑の草原に立った。
空は青く澄んでいて、太陽は眩しい。雲は少なく空に薄くたなびいている。
「天気が良くてよかったわ」
「そうですね、ビアンカ。ですが日に焼けてしまうと良くないので……」
そう言いながらマクシミリアンはわたくしの手を引き大きな木の方へと連れていく。そして木陰に入ると敷布を広げてバスケットを置いた。
彼が先に敷布の上に座り、ポンポンとお膝を叩かれる。上に座れってことね?
「じゃあ……失礼するわね?」
敷布の上にわたくしも上がり、マクシミリアンのお膝の上に腰かける。すると後ろから優しく抱きしめられ嬉しそうに頬をすり寄せられた。
マクシミリアンの体温に包まれて安心感を覚え、彼を見て微笑むと彼も微笑み返してくれる。
「ビアンカ……」
マクシミリアンは熱っぽい声でそう囁きながら頬に口づけをし、さわり、とお腹の辺りをやらしい手つきで撫でてきた。
……マクシミリアンさん……??
「マクシミリアン、手つきがやらしいわ?」
「……ダメですか? ビアンカ」
マクシミリアンに触られるのは、好きだけれど。……野外の上に、ご飯もまだ食べていないのよ!?
「ご……ごはん、食べてないから!」
「む……」
バスケットを指差しながらわたくしがそう叫ぶとマクシミリアンは不満そうなお顔をしつつも、胸に伸びそうになっていた手を止めてくれた。
「では、食事の後にいただきますね」
しかしちゅっと音を立て旋毛にキスをしながら発した彼の言葉に、わたくしは真っ赤になってしまう。
本日のデザートは、もう決定なのですね?? デザートはわたくしよ、を地で行くことになるなんて。
わたくしも二人きりで浮ついた気持ちになっているところがあるけれど、彼はもっと浮かれている気がするわ……。
「マクシミリアン、もしかしなくても浮かれてる?」
「はい、浮かれていますよ。貴女を数日とはいえ独り占めできるんですから。ああ、ローラとユールが大きくなったらすぐにでも隠居して二人で蜜月を過ごしましょうね……!」
マクシミリアン、それには最低でもあと十年と少しはかかると思うのよ……? 隠居の話が出るのはまだ早いわ。
「その頃には、貴方わたくしに飽きているかもしれないわよ?」
冗談っぽくそう言うと、彼に非常に剣呑な目で見られてしまった。
「飽きるわけがないでしょう……!! 私は、一生貴女に恋をしている自信がある!」
マクシミリアンは真剣な面差しできっぱりとそう言い切った。
……情熱的ね、旦那様。彼の熱烈な言葉に恥ずかしくなって、わたくしは彼の腕の中で頬を染めて背中を丸めてしまう。
「わたくしも、マクシミリアンにずっと恋をしている自信があるわ。今日もずっとドキドキしっ放しで……」
「……ビアンカ、抱いても?」
「ご飯を食べさせてよ!?」
……子供たちがいない三泊四日、体が持つのかしら。
バスケットに手を伸ばしながら、わたくしはそんなことを遠い目で思った。
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