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番外編
月と獣は幸せを孕む
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マクシミリアンと一緒に暮らし始めて2年がもうすぐ経とうとしている。
この2年は特に大きな事件もなく穏やかに過ぎようとしていた。
……マクシミリアンと一緒に優しい日々を過ごせて、わたくしは幸せだ。
「マクシミリアン、あの、あのね」
わたくしはソファーで仕事の資料を読んでいる彼の隣に腰をかけて彼の服をくいくいと引っ張った。
するとマクシミリアンはこちらに目をやって柔らかく微笑むと、わたくしの頬に手を添えて優しくキスをする。
「何か御用ですか?ビアンカ」
そして更に耳にキスをしながら囁いた。
わたくしはもじもじと胸の前で手を組んで言葉をどう紡ごうかと悩んだ。
「あ……あのね。……月のものが、来ていないの」
マクシミリアンはわたくしの言葉に目を丸くする。
「お医者さんにちゃんと診て頂かないと分からないけれど……子供が、出来たのかも」
……回数を考えると、遅すぎるくらいなのだ。
今でも彼は1日中わたくしを抱きたがる。幸せ、なのだけれど……体力がですね。
ああ、マクシミリアンは喜んでくれるかしら……妊娠初期はつわりで夜の生活が出来ない事も増えるだろうし、まさか嫌がられたりなんかは……。
「ビアンカ!本当ですか!?」
彼は心底嬉しそうに笑ってわたくしの体を抱きしめた。
『ああ……』と吐息混じりの歓喜の声を漏らす彼の反応に、わたくしは心底ほっとした。
「ふふ、気が早いわ?まだお医者様に聞いてみないと……」
「名前はどうしましょう?女の子だといいですね……男だったらビアンカの取り合いになってしまう……!!」
「き……気が早い!マクシミリアン!!」
それに女の子だったらマクシミリアンを取られてわたくしが焼き餅を焼いてしまうかもしれないわ……。
「ああ、お腹が大きくなってからでは大変ですし、すぐにでも隣国へ移住しましょう。王宮には明日にでも離職届を出して、隣国に移住の申し入れをしないと。移住をしたら……ようやく、ビアンカと夫婦になれるんですね」
マクシミリアンはそう言うと嬉しそうにわたくしの頬を撫でる。
ああ、やっとマクシミリアンの『妻』になるのね……そう思うとわたくしの心にも温かな気持ちが湧きあがった。
マクシミリアンはわたくしの顔を見つめながら、ふと真剣な顔をした。
「シュラット侯爵にも、結婚の事も含めてご報告をしたいですね……」
「父様……に。そうね」
そう……国外追放された(実際はマクシミリアンに囲われているのだけれど)わたくしは、父様に全く連絡を取っていない……親族への連絡は国によって禁止されているから当然なのだけど。
わたくしに過保護で優しかった父様とお兄様は、今でもわたくしの事を考えて心を痛めているに違いない。
マクシミリアンにお願いして連絡を取ろうかと何度も悩んだのだけれど……マクシミリアンとわたくしのこの関係の始まり方を考えると現状をどう伝えるべきか悩んでしまい今に至ってしまったのだ。
「父様には、その……。事実を告げるのは、避けてもいいかしら?わたくしマクシミリアンと父様が不仲になるのは嫌なの」
「……そうです、ね」
マクシミリアンがわたくしを手に入れる為に画策した事は、父様に知られる訳にはいかない。
というか知られたらマクシミリアンが殺されてしまう……わたくし、子供を抱えて未亡人になるのは嫌よ。
「隣国を訪ねた折に再会して恋人の関係になったと……ご説明しましょう」
「そうね、そうしましょう!ああ、わたくしがお手紙を送るとまずいから……マクシミリアン、お願いしてもいいかしら?」
――――手紙を送ってから数日後。
父様は滂沱の涙を流しながら、わたくし達の屋敷を訪ねてきた。
すぐに隣国に移住するのだから移住後に来て下さればいいのに……!
わたくしを訪ねたのがバレたら大変な事になるんじゃないかしら……!?
「ビアンカ……!よく無事で……!!まさかマクシミリアンと再会し結婚の約束をしたとは……しかも子供までっ……!!」
数年ぶりに会う父様は以前よりも少し痩せていて……心労をかけてしまったのだな、と心が酷く痛んだ。
お兄様は隣国への移住後に来て下さるみたい。お兄様が管轄しているシュラット侯爵家の領地は辺境にある為、王都で働く父様のようにすぐ来る事が出来ないのよね。
父様に抱きしめられて久々に感じる家族の温かさに目頭が熱くなり、父様の胸の中で子供のように声を上げて泣いてしまった。
マクシミリアンは父様に感謝の気持ちを伝えられ、引き攣った笑顔を浮かべていた。
父様からすると生死不明の娘を見つけ匿ってくれた恩人だものね……。
しかもマクシミリアン程の魔法師であればどこの国でもそのうち爵位を頂けるだろうに、過去の恋人を傷付けようとした犯罪者の上に平民のわたくしと婚姻関係を結んで孫の顔まで見せてくれるときたら……。
父様は涙を流しながらこれからの資金援助を激しく申し入れ、マクシミリアンは罪悪感で手酷く心にダメージを追った表情をして目が虚ろだった。
マクシミリアン、そんな顔をしていたら悪さがバレてしまうわよ?
この数日後……フィリップ王子が訪ねて来てわたくしの心臓が冷えたのは、また別の話。
この2年は特に大きな事件もなく穏やかに過ぎようとしていた。
……マクシミリアンと一緒に優しい日々を過ごせて、わたくしは幸せだ。
「マクシミリアン、あの、あのね」
わたくしはソファーで仕事の資料を読んでいる彼の隣に腰をかけて彼の服をくいくいと引っ張った。
するとマクシミリアンはこちらに目をやって柔らかく微笑むと、わたくしの頬に手を添えて優しくキスをする。
「何か御用ですか?ビアンカ」
そして更に耳にキスをしながら囁いた。
わたくしはもじもじと胸の前で手を組んで言葉をどう紡ごうかと悩んだ。
「あ……あのね。……月のものが、来ていないの」
マクシミリアンはわたくしの言葉に目を丸くする。
「お医者さんにちゃんと診て頂かないと分からないけれど……子供が、出来たのかも」
……回数を考えると、遅すぎるくらいなのだ。
今でも彼は1日中わたくしを抱きたがる。幸せ、なのだけれど……体力がですね。
ああ、マクシミリアンは喜んでくれるかしら……妊娠初期はつわりで夜の生活が出来ない事も増えるだろうし、まさか嫌がられたりなんかは……。
「ビアンカ!本当ですか!?」
彼は心底嬉しそうに笑ってわたくしの体を抱きしめた。
『ああ……』と吐息混じりの歓喜の声を漏らす彼の反応に、わたくしは心底ほっとした。
「ふふ、気が早いわ?まだお医者様に聞いてみないと……」
「名前はどうしましょう?女の子だといいですね……男だったらビアンカの取り合いになってしまう……!!」
「き……気が早い!マクシミリアン!!」
それに女の子だったらマクシミリアンを取られてわたくしが焼き餅を焼いてしまうかもしれないわ……。
「ああ、お腹が大きくなってからでは大変ですし、すぐにでも隣国へ移住しましょう。王宮には明日にでも離職届を出して、隣国に移住の申し入れをしないと。移住をしたら……ようやく、ビアンカと夫婦になれるんですね」
マクシミリアンはそう言うと嬉しそうにわたくしの頬を撫でる。
ああ、やっとマクシミリアンの『妻』になるのね……そう思うとわたくしの心にも温かな気持ちが湧きあがった。
マクシミリアンはわたくしの顔を見つめながら、ふと真剣な顔をした。
「シュラット侯爵にも、結婚の事も含めてご報告をしたいですね……」
「父様……に。そうね」
そう……国外追放された(実際はマクシミリアンに囲われているのだけれど)わたくしは、父様に全く連絡を取っていない……親族への連絡は国によって禁止されているから当然なのだけど。
わたくしに過保護で優しかった父様とお兄様は、今でもわたくしの事を考えて心を痛めているに違いない。
マクシミリアンにお願いして連絡を取ろうかと何度も悩んだのだけれど……マクシミリアンとわたくしのこの関係の始まり方を考えると現状をどう伝えるべきか悩んでしまい今に至ってしまったのだ。
「父様には、その……。事実を告げるのは、避けてもいいかしら?わたくしマクシミリアンと父様が不仲になるのは嫌なの」
「……そうです、ね」
マクシミリアンがわたくしを手に入れる為に画策した事は、父様に知られる訳にはいかない。
というか知られたらマクシミリアンが殺されてしまう……わたくし、子供を抱えて未亡人になるのは嫌よ。
「隣国を訪ねた折に再会して恋人の関係になったと……ご説明しましょう」
「そうね、そうしましょう!ああ、わたくしがお手紙を送るとまずいから……マクシミリアン、お願いしてもいいかしら?」
――――手紙を送ってから数日後。
父様は滂沱の涙を流しながら、わたくし達の屋敷を訪ねてきた。
すぐに隣国に移住するのだから移住後に来て下さればいいのに……!
わたくしを訪ねたのがバレたら大変な事になるんじゃないかしら……!?
「ビアンカ……!よく無事で……!!まさかマクシミリアンと再会し結婚の約束をしたとは……しかも子供までっ……!!」
数年ぶりに会う父様は以前よりも少し痩せていて……心労をかけてしまったのだな、と心が酷く痛んだ。
お兄様は隣国への移住後に来て下さるみたい。お兄様が管轄しているシュラット侯爵家の領地は辺境にある為、王都で働く父様のようにすぐ来る事が出来ないのよね。
父様に抱きしめられて久々に感じる家族の温かさに目頭が熱くなり、父様の胸の中で子供のように声を上げて泣いてしまった。
マクシミリアンは父様に感謝の気持ちを伝えられ、引き攣った笑顔を浮かべていた。
父様からすると生死不明の娘を見つけ匿ってくれた恩人だものね……。
しかもマクシミリアン程の魔法師であればどこの国でもそのうち爵位を頂けるだろうに、過去の恋人を傷付けようとした犯罪者の上に平民のわたくしと婚姻関係を結んで孫の顔まで見せてくれるときたら……。
父様は涙を流しながらこれからの資金援助を激しく申し入れ、マクシミリアンは罪悪感で手酷く心にダメージを追った表情をして目が虚ろだった。
マクシミリアン、そんな顔をしていたら悪さがバレてしまうわよ?
この数日後……フィリップ王子が訪ねて来てわたくしの心臓が冷えたのは、また別の話。
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