上 下
9 / 71
本編

執事は好機を得る(マクシミリアン視点)

しおりを挟む
お嬢様が魔法学園に入学する年齢になり……。
私はお嬢様の身の回りの世話をする為に数人のメイドと共に学園へお供する事となった。
お嬢様の美しさは少女から女性への過程を歩んでいる最中で、可憐さに加え妖艶さが増し正に咲き誇らんとしていたのだが……性格の苛烈さも増すばかりだった。
そんなお嬢様であるものの、容貌だけでも価値がある、シュラット侯爵家と近付けるのであればあの性格を差し引いても余りある、とお嬢様に近付く男は多かった。

……全て私が排除したが。
多少非合法な手も使ったが仕方がない。

お嬢様の婚約者である王子も、お嬢様の性格は嫌いであれど容貌は好まれているらしく歩み寄りの機会を伺っていたが……。
お嬢様に関するある事ない事……ではなくある事のみ全てを吹き込んだらあっさりそんな気持ちは霧散したようだった。
私はある事しか吹き込んでいないので、完全にお嬢様の日頃の行いのせいだ。

学園で……私は一人の少女と出会った。
シュミナ・パピヨン男爵令嬢……ピンク色の髪の美しい容貌の少女に。
お嬢様の入学の日に彼女が転んだのを助け起こしたのが縁だった。
彼女は助け起こした私を見て頬を染めた……まるで三文芝居の恋の始まりのような場面で陳腐だと笑いたくなったのを覚えている。
シュミナはお嬢様の私に対する行いを見て……私を憐れんできた。

『マクシミリアンさんが、あんな扱いを受ける必要なんて無いのに』
『ビアンカ様は酷すぎます』
『私、ビアンカ様にマクシミリアンさんを解放するように言ってきます』
『マクシミリアンさん、可哀想』

知ったふうな口を利くな。
私のお嬢様に対する気持ちを捻じ曲げて勝手に解釈するな。
それに……お嬢様を愛している私が哀れなのは、私自身が分かっている事だ。
この常に付きまとう偽善的な少女に対する鬱憤は日々溜まる一方だった。
シュミナは天使のような言葉を吐きながら蝶のように花から花へと色々な男の傷を癒やそうと奮闘しているようだ。
要はただの、売女じゃないか。
……お綺麗な顔と上辺だけの綺麗な言葉に他の男はどんどん籠絡されていった。
……実に滑稽だな、と思う。
シュミナはその男達がいるのにも関わらず何故か私に執着した。
そしてお嬢様は……シュミナと私が近付くと、烈火のごとく怒った。

『貴方はわたくしの犬でしょう!?他の女に尻尾を振るなんて許さないわ!』
『あの牝犬とまた一緒にいたの!?』
『犬のくせに言う事をきけないの!あの女に近付くなと何度言えば…』

そんな言葉を吐きながら激怒し私の背中を鞭で打ち、更にその傷をヒールで抉る。
そして痛みに呻く私を見ては満足げに声を立てて笑う。
しかしお嬢様の憎しみが増すと分かっていて……私はシュミナに寄り添った。
お嬢様私はもう貴方の物ではないのです……とでも言うようにシュミナに愛の篭った視線を向け、お嬢様に見つかるような場所で口付けを交わし、お嬢様には見せない笑顔をシュミナに見せる。
それを目にする度にお嬢様が私に強い感情を向ける様を、存分に楽しんだ。
彼女が私に……『物』に対するものだとしてもこんなに強い執着を見せるのは初めてで嬉しい誤算だった。
今日も……シュミナを抱きしめる私をお嬢様が憎しみの篭った視線で見つめているのを感じ、私は愉悦に震えた。

誰かに唆されでもしたら……お嬢様は簡単に大きな間違いを犯してしまうだろう。
お嬢様の怒りをもっと掻き立て、私に執着させ、シュラット侯爵でも庇いきれない罪をお嬢様に犯して頂こう。

その時が……お嬢様が私の手に落ちてくる時だ。

私は腕の中でうっとりとした視線を投げてくる少女をまるで本当に愛しているかのように抱き寄せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

寵愛の檻

枳 雨那
恋愛
《R18作品のため、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。》 ――監禁、ヤンデレ、性的支配……バッドエンドは回避できる?  胡蝶(こちょう)、朧(おぼろ)、千里(せんり)の3人は幼い頃から仲の良い3人組。胡蝶は昔から千里に想いを寄せ、大学生になった今、思い切って告白しようとしていた。  しかし、そのことを朧に相談した矢先、突然監禁され、性的支配までされてしまう。優しくシャイだった朧の豹変に、翻弄されながらも彼を理解しようとする胡蝶。だんだんほだされていくようになる。  一方、胡蝶と朧の様子がおかしいと気付いた千里は、胡蝶を救うために動き出す。 *表紙イラストはまっする(仮)様よりお借りしております。

年上彼氏に気持ちよくなってほしいって 伝えたら実は絶倫で連続イキで泣いてもやめてもらえない話

ぴんく
恋愛
いつもえっちの時はイきすぎてバテちゃうのが密かな悩み。年上彼氏に思い切って、気持ちよくなって欲しいと伝えたら、実は絶倫で 泣いてもやめてくれなくて、連続イキ、潮吹き、クリ責め、が止まらなかったお話です。 愛菜まな 初めての相手は悠貴くん。付き合って一年の間にたくさん気持ちいい事を教わり、敏感な身体になってしまった。いつもイきすぎてバテちゃうのが悩み。 悠貴ゆうき 愛菜の事がだいすきで、どろどろに甘やかしたいと思う反面、愛菜の恥ずかしい事とか、イきすぎて泣いちゃう姿を見たいと思っている。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】

うすい
恋愛
【ストーリー】 幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。 そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。 3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。 さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。 【登場人物】 ・ななか 広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。 ・かつや 不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。 ・よしひこ 飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。 ・しんじ 工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。 【注意】 ※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。 そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。 フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。 ※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。 ※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。

処理中です...