【R18】執事と悪役令嬢の色々な世界線

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
29 / 45
執事のお嬢様開発日記

執事のお嬢様開発日記4

しおりを挟む
 授業がそろそろ終わる時間なのでお嬢様を教室までお迎えにいく。彼女の教室を訪れるとお嬢様は窓際でぼんやりと外を眺めていた。
 男たちの恋慕や欲情の視線が無数に向けられているが彼女は気づく気配もない。そのいつもの様子に私はため息をつきながら教室へと足を踏み入れた。
 私に気づいた男たちが恐怖の表情を浮かべお嬢様から一気に目を逸らす。……賢明な判断だな、もうお前たちの顔は覚えてしまったが。

「お嬢様」

 そっと声をかけると彼女はこちらを向き、嬉しそうに微笑んだ。

「マクシミリアン!」

 立ち上がりこちらに駆け寄ってくるお嬢様にそっと手を広げてみせると、彼女は戸惑ったように広げられた手を見つめていた。

「……マクシミリアン?」
「再会を喜ぶハグをしましょう」
「も……もう! お昼休みに会ったばかりでしょう!」

 そう言いながらも彼女はその小さな体をおずおずとこちらに預けてきた。引き寄せてぎゅっと抱きしめると、華奢で柔らかな体の感触が伝わり体中が喜びに震える。
 ――ああ、私の愛おしいお嬢様だ。
 教室にいる男たちからの羨望の視線が刺さる。それに優越感を覚えながら私は彼女の頬に口づけを落とした。

「……見せつけてくれるね」

 ノエル・ダウストリアが腕組みをしながら少し面白くない、という表情で話しかけてくる。私は鼻を少し鳴らし今度は唇にキスをした。

「マ……マクシミリアン!」

 可愛らしい抗議の声が上がるが私はそれを無視し、もう一度唇を合わせ軽く舌を入れる。するとお嬢様は大きく目を見開いて呆然としたお顔になった。

「……婚約者同士ですからね。羨ましいでしょう、ノエル・ダウストリア。貴方も早く可愛い婚約者を見つければいいじゃないですか」

 お嬢様の体を抱き上げると彼女は恥ずかしそうな顔で私の胸をぽかぽかと可愛い拳で叩く。まったく痛くもないな……むしろ可愛くて仕方ない。

「……では失礼。婚約者殿との時間を今からゆっくり過ごしますので」

 そう言ってお嬢様を抱えたまま立ち去る私の背中には主に男子生徒からの羨望の眼差しが向けられた。

「教室でキスするなんて酷いわ! マクシミリアン!」

 お嬢様は抱きあげられた腕の中で可愛らしく頬を膨らませる。ここは廊下なのだが……またキスしたいな。お嬢様の可愛らしさはいつでも私を狂わせるのだ。
 けれどこれ以上怒らせるのは得策ではない。少し前にお嬢様を怒らせて三日間口をきいてもらえなかったばかりなのだ。
 ――さすがにあれには参ってしまった。

「……お嬢様が可愛らしすぎて……申し訳ありません」

 私は謝罪の言葉を口にするとお嬢様を見つめ、こてりと首を傾げてみせた。お嬢様は私の顔がお好きらしいので、こういう時はそれを利用することにしている。自分の美醜には正直興味がないがお嬢様がお好きな顔なのは僥倖だな。
 予想通りお嬢様の顔は真っ赤になり『可愛い……ばか……!』と小さな愛らしい呟きが漏れた。

「……本当は反省してないでしょう」
「そんなことありませんよ?」

 そう言いながらお嬢様の額に口づけると『やっぱり反省してない!』と抗議の声が上がった。

「今日はどう過ごしましょうか?」

 また数度頬に口づけるとお嬢様は諦めたような顔をする。そして少し沈黙し思案しているようだった。

「……デート、したいわ。あのね手を繋いで一緒に歩きたいの」

 ――人には言えないことを一緒に沢山しているというのに、なんて可愛らしいことを。

 手くらいいくらでも繋いであげようじゃないか。

「マクシミリアンのしたいことは?」

 私なんかのことを気にかけてくださるのか。……私としてはこのまま寮の部屋に戻り一緒に湯に入って存分にお嬢様に触らせていただいた後に、寝台の上でまたお嬢様のお体を堪能したいのだが……。今日からは指を三本入れることに少しずつ慣れさせようと思っていたしな。
 数日前、健康に害のない媚薬を発するスライムとかいう半液体状の粘性生物も購入してはみたのだが……届いてみるとそれは存外にグロテスクなものだった。使うとお嬢様が泣いてしまいそうな気がしたので私はそっと学園の庭に放した。泣いているお嬢様も少し見たかったが、また三日口をきいてもらえないのは嫌だからな。
 基本的には害のない生物だし、なにかが起きることはないだろうと思っていたのだが……。
 ――今日。それと遭遇したお嬢様のご友人であらせられるミルカ王女が大変なことになったと、その執事であるハウンドが顔を真っ赤にして報告してきたのだ。……二人の間になにがあったかは、推して知るべしだな。
 私のせいではない、断じて。もちろん『大変だったな』と言って素知らぬフリをしておいた。
 ……まぁ二人は婚約するらしいし。私は恋のキューピットと呼ばれてもいいのではないかな。

「マクシミリアン、なにを考えてるの?」

 ぎゅっと頬を抓られそちらを見ると頬をぷくぷくと膨らませたお嬢様の可愛らしいお顔がそこにはあった。

「お嬢様とどこへ行こうかと考えておりました。公園には今綺麗な薔薇が咲いているそうですよ」

 私は考えていたことをおくびにも出さずお嬢様に微笑んでみせた。すると彼女の顔はパッと明るいものとなる。

「素敵ね! 行きたいわマクシミリアン!!」

 お嬢様が嬉しそうに笑う。その笑顔を見つめていると私は幸福感で蕩けそうになった。

 ……今日も、とてもいい日だな。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...