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悪役令嬢はヒロインに負けたくない
悪役令嬢はヒロインに負けたくない・19
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「お嬢様。爵位の件ですが……隣国の侯爵位をいただくこととなりましたので」
朝の支度をしている最中。わたくしの髪をブラシで梳きながらマクシミリアンがそんなことを報告してきた。
――爵位を得るという話が出てから、まだ数週間なのだけれど。
「……本当に?」
「ええ、本当ですよ。お嬢様」
マクシミリアン……貴方本当にどうやったの!? しかも侯爵位なんて普通はいただけるものじゃないのに!
わたくしが驚いた顔で彼を見ると彼は唇に指を当てて悪戯っぽく微笑む。うう……どうやったかは教えてくれないのね。
「週末にでも旦那様に婚約の許可を取りに行きましょうね」
髪を梳く手を止めて、マクシミリアンが頬にキスをしてくる。
その柔らかな感触にわたくしはうっとりと目を細めた。
本当に? どうしよう。彼が婚約者になるの?
わたくし、マクシミリアンのお嫁さんになるの!?
「どうしよう。嬉しすぎてどうしていいのかわからないのだけど……!」
涙目になって彼を見ると愛おしいという気持ちが溢れんばかりの表情で唇を重ねられた。
触れるだけのキスを数度交わしていると胸が熱くなるのを感じて。気がついたらわたくしは、涙を零していた。
「お嬢様……」
マクシミリアンに涙が伝う頬を優しく指で拭われる。……ああ、この手の感触が好き。ううん、マクシミリアンの全部が好き。
諦めないといけないと思っていた人と結ばれることができるなんて本当に幸せだ。
「それと……今日は誕生日ですよね」
そう言ってマクシミリアンが取り出したのは、小さな箱だった。
「開けてもいい?」
「もちろんです、お嬢様」
「……シュミナ嬢と選んだのだと思うと、妬けるけど……」
シュミナ嬢とマクシミリアンが出かける光景を思い出してしまい、わたくしは少し頬を膨らませた。
「お嬢様が私を襲った後、家出をするほどの悋気に駆られるとは思っていなかったもので。申し訳ありません」
マクシミリアンがくすくすと楽しそうに笑いながら言う。
もう……意地悪ね! そのことは忘れて欲しいのに。
「だって本当に、マクシミリアンが取られてしまうと思ったから……」
あの時胸に広がった苦い気持ちは、今でも忘れられない。
彼女はこの世界のヒロインで、わたくしは悪役令嬢だから……。マクシミリアンの気持ちがあちらに傾くのは当然のことだと思っていたから。
世界の強制力なんてものが、ありませんように。わたくしはこの幸せを手放したくないの。
「お嬢様、面白いことをお教えしましょうか」
「面白いこと……?」
マクシミリアンの言葉にわたくしはきょとん、と首を傾げてしまう。
「シュミナは、留学にきているパラディスコ王国の王子とお付き合いしているんですよ。ご婚約も間近だそうで。私が介入する余地はそもそもございませんよ」
「……えっ。えええええ!!!」
パラディスコ王国のメイカ王子は、攻略キャラの一人だ。
そのメイカ王子と……シュミナ嬢が一年もまだ半ばのうちから付き合ってる!? しかも婚約間近ですって!?
それはシナリオと大きく逸脱する。いや、シナリオなんてものは最初からなくてゲームの強制力なんてものも存在しないの?
……じゃあわたくしは、この幸せをなにも考えずに享受してもいいの……?
思わず、体から力が抜けた。
マクシミリアンからもらった箱を落としそうになって慌てて持ち直す。
「開けてください、お嬢様」
マクシミリアンに促されて箱を開けると、銀色の指輪が入っていた。
「指輪……! 素敵ね」
「実はお嬢様の誕生日にそれをお渡しして、お気持ちを訊こうと思っていたんです」
そう言いながらマクシミリアンはわたくしの手を取って指輪を嵌める。
この世界には左手の薬指に指輪をなんて習慣はないはずなのに、マクシミリアンは左手の薬指に指輪を着けてくれた。
偶然にしてもなんだか嬉しくなってしまう。
「そしてお嬢様の気持ちが私にあるのなら。私が爵位を得たら結婚してくれますかと……訊ねるつもりでした」
「マクシミリアン……!!」
ああ、どうしよう。マクシミリアンが告白とプロポーズをしてくれる気だったなんて。
それなのにわたくしは彼と一夜を過ごしたら逃げるつもりでいた……わたくし大きな幸せを自分から手放そうとしていたのね。
シュミナはシナリオと違う恋をして。わたくしもシナリオと違う恋をして。
ゲームとは全く違うエンディングへと進んでいる。
……つまりは、この世界はゲームに似た現実だったってことね。
――ということは。
フィリップ王子やノエル様は普通にわたくしに好意を寄せてくれていたってこと……? うん、あまり考えないようにしよう。
わたくし、ずっと一人で空回りしていたのね……。
「マクシミリアン。貴方と一緒にいていいのね?」
「そうですよ、お嬢様。お嬢様が嫌だと言っても……私が手放せません」
そっと両手を差し出すと、マクシミリアンの胸の中に閉じ込められた。ああ、なんて幸せなの。
「好きよ、マクシミリアン。ずっと貴方と一緒にいたい」
「お嬢様。そんな可愛いことを言われると、授業へ送り出せなくなってしまいます」
「……もう。そんなことを言われたら、わたくしも授業に行きたくなくなってしまうわ」
抱きあげられてそっと寝台に横たえられる。
マクシミリアンがネクタイを指で弛めながら妖艶に笑うのを見つめながら。
……今日の授業は、お休みね、なんてことをわたくしは考えていた。
--------------------------------------------------
このお話はここで一段落です。
お嬢様を開発するお話をちょこちょこと追加していく感じで…!
開発編やほかの番外の追加も頑張りますのでお付き合いいただけると嬉しいです(小声)
朝の支度をしている最中。わたくしの髪をブラシで梳きながらマクシミリアンがそんなことを報告してきた。
――爵位を得るという話が出てから、まだ数週間なのだけれど。
「……本当に?」
「ええ、本当ですよ。お嬢様」
マクシミリアン……貴方本当にどうやったの!? しかも侯爵位なんて普通はいただけるものじゃないのに!
わたくしが驚いた顔で彼を見ると彼は唇に指を当てて悪戯っぽく微笑む。うう……どうやったかは教えてくれないのね。
「週末にでも旦那様に婚約の許可を取りに行きましょうね」
髪を梳く手を止めて、マクシミリアンが頬にキスをしてくる。
その柔らかな感触にわたくしはうっとりと目を細めた。
本当に? どうしよう。彼が婚約者になるの?
わたくし、マクシミリアンのお嫁さんになるの!?
「どうしよう。嬉しすぎてどうしていいのかわからないのだけど……!」
涙目になって彼を見ると愛おしいという気持ちが溢れんばかりの表情で唇を重ねられた。
触れるだけのキスを数度交わしていると胸が熱くなるのを感じて。気がついたらわたくしは、涙を零していた。
「お嬢様……」
マクシミリアンに涙が伝う頬を優しく指で拭われる。……ああ、この手の感触が好き。ううん、マクシミリアンの全部が好き。
諦めないといけないと思っていた人と結ばれることができるなんて本当に幸せだ。
「それと……今日は誕生日ですよね」
そう言ってマクシミリアンが取り出したのは、小さな箱だった。
「開けてもいい?」
「もちろんです、お嬢様」
「……シュミナ嬢と選んだのだと思うと、妬けるけど……」
シュミナ嬢とマクシミリアンが出かける光景を思い出してしまい、わたくしは少し頬を膨らませた。
「お嬢様が私を襲った後、家出をするほどの悋気に駆られるとは思っていなかったもので。申し訳ありません」
マクシミリアンがくすくすと楽しそうに笑いながら言う。
もう……意地悪ね! そのことは忘れて欲しいのに。
「だって本当に、マクシミリアンが取られてしまうと思ったから……」
あの時胸に広がった苦い気持ちは、今でも忘れられない。
彼女はこの世界のヒロインで、わたくしは悪役令嬢だから……。マクシミリアンの気持ちがあちらに傾くのは当然のことだと思っていたから。
世界の強制力なんてものが、ありませんように。わたくしはこの幸せを手放したくないの。
「お嬢様、面白いことをお教えしましょうか」
「面白いこと……?」
マクシミリアンの言葉にわたくしはきょとん、と首を傾げてしまう。
「シュミナは、留学にきているパラディスコ王国の王子とお付き合いしているんですよ。ご婚約も間近だそうで。私が介入する余地はそもそもございませんよ」
「……えっ。えええええ!!!」
パラディスコ王国のメイカ王子は、攻略キャラの一人だ。
そのメイカ王子と……シュミナ嬢が一年もまだ半ばのうちから付き合ってる!? しかも婚約間近ですって!?
それはシナリオと大きく逸脱する。いや、シナリオなんてものは最初からなくてゲームの強制力なんてものも存在しないの?
……じゃあわたくしは、この幸せをなにも考えずに享受してもいいの……?
思わず、体から力が抜けた。
マクシミリアンからもらった箱を落としそうになって慌てて持ち直す。
「開けてください、お嬢様」
マクシミリアンに促されて箱を開けると、銀色の指輪が入っていた。
「指輪……! 素敵ね」
「実はお嬢様の誕生日にそれをお渡しして、お気持ちを訊こうと思っていたんです」
そう言いながらマクシミリアンはわたくしの手を取って指輪を嵌める。
この世界には左手の薬指に指輪をなんて習慣はないはずなのに、マクシミリアンは左手の薬指に指輪を着けてくれた。
偶然にしてもなんだか嬉しくなってしまう。
「そしてお嬢様の気持ちが私にあるのなら。私が爵位を得たら結婚してくれますかと……訊ねるつもりでした」
「マクシミリアン……!!」
ああ、どうしよう。マクシミリアンが告白とプロポーズをしてくれる気だったなんて。
それなのにわたくしは彼と一夜を過ごしたら逃げるつもりでいた……わたくし大きな幸せを自分から手放そうとしていたのね。
シュミナはシナリオと違う恋をして。わたくしもシナリオと違う恋をして。
ゲームとは全く違うエンディングへと進んでいる。
……つまりは、この世界はゲームに似た現実だったってことね。
――ということは。
フィリップ王子やノエル様は普通にわたくしに好意を寄せてくれていたってこと……? うん、あまり考えないようにしよう。
わたくし、ずっと一人で空回りしていたのね……。
「マクシミリアン。貴方と一緒にいていいのね?」
「そうですよ、お嬢様。お嬢様が嫌だと言っても……私が手放せません」
そっと両手を差し出すと、マクシミリアンの胸の中に閉じ込められた。ああ、なんて幸せなの。
「好きよ、マクシミリアン。ずっと貴方と一緒にいたい」
「お嬢様。そんな可愛いことを言われると、授業へ送り出せなくなってしまいます」
「……もう。そんなことを言われたら、わたくしも授業に行きたくなくなってしまうわ」
抱きあげられてそっと寝台に横たえられる。
マクシミリアンがネクタイを指で弛めながら妖艶に笑うのを見つめながら。
……今日の授業は、お休みね、なんてことをわたくしは考えていた。
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このお話はここで一段落です。
お嬢様を開発するお話をちょこちょこと追加していく感じで…!
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