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獅子の麗人と従者の口づけ
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少し屈むようにしてアウレールの華奢な首筋に顔を埋めると、ふわりといい香りがする。それを思わずふんふんと嗅いでいると、彼がくすぐったそうに笑った。
……アウレールは香りまでいいのか。本当にずるいな。
「アウレール」
「なんですか、エーファ様」
名前を呼ぶと、大きなくりくりとした瞳がこちらを見つめる。
「あの馬鹿を見ていたら『純血』を残すことなどどうでもよくなってしまってな。……その。『純血の獅子』よりも好いているお前の子が欲しいと思うのは……いけないことだろうか」
告げる声が震える。
いきなり『子』の話題だ。重いと思われるだろうか。
けれど私は当主で、跡継ぎ問題は切っても切れないものなのだ。
本当なら婿に来て欲しいと言いたいところだが、そこまで望むのは贅沢だろうし……
「いいえ! 嬉しいです!」
アウレールは間髪容れずに返事をしてくれた。私は身を離し、彼の表情を窺う。アウレールの可憐な美貌は本当に嬉しそうに甘く綻んでいて、それを見て私は泣きそうになった。しかしその顔は、次の瞬間には曇ってしまう。
「だけど本当に僕でいいのですか? 僕は脆弱な鼠です。そのせいで弱い子供が産まれたら……エーファ様のご迷惑では」
涙まじりの声音で告げられたその言葉。それを聞いた私は彼の前に跪き、その小さな手を取った。
「アウレールは勇敢だ。そんなお前の子供もきっと強い心の持ち主になる。私は……『純血の獅子』の子よりも、アウレールの子が欲しい」
手の甲に口づけて、じっと彼を見つめる。
アウレールの大きな瞳が潤んで頬に涙が零れていく。そして彼は私にすがるように抱きついた。
「お会いした頃から、お慕いしておりました。強く気高く、だけどいつも悲しそうな貴女を。そして貴女を守れない我が身を……疎んでいました」
耳元で嗚咽が聞こえる。華奢な背中を優しく撫でると、嗚咽はさらに大きくなる。
アウレールは仕えてからの三年間……そんなことを思いながら側に居てくれたのか。
なんて健気で、可愛くて。素敵な男性なのだろう。
「私を守りたいなんて言ってくれるのは、アウレールだけだ」
ふわふわの灰色の髪に頬を擦り寄せる。すると大きく愛らしい耳がピクピクと動いているのが目に入り、思わずそれを食んでしまう。耳は柔らかで繊細な感触をしている。私は傷を付けないように気をつけながら、その耳に軽く牙を立てた。
「ふぁっ! 悪戯は、ダメです」
アウレールは可愛らしい声を上げ、涙目で私を睨む。
彼のそんな愛らしい様子に私の顔はだらしないくらいに緩んでしまった。
……アウレールは本当に可愛い。
アウレールは頬を膨らませた後に、少し悪い顔になる。
そして首に手が回されたと思った瞬間、口づけをされた。
生温かい舌が唇を拭う。驚いて口を開けるとそれはゆるりと口中に侵入してきた。
「んっ……!」
これが、世間で言う恋人同士がする口づけというものなのだろうか。
アウレールの舌が口中を探り、私の舌を見つけると嬉しそうに絡みつく。
じゅっと舌を吸い上げられ、口内を探検するように小さな舌で舐め回されて。そうされながら頭を撫でられるとふにゃりと力が抜けてしまう。
私は床にぺたりと両膝を着き体を弛緩させた状態で、アウレールのされるがままになってしまった。
「ふぁ、あ」
「可愛い、エーファ様」
甘やかすような丁寧な口づけ、時折囁かれる甘い囁き。それらに思考も蕩けさせられ、私はついには自分から欲しがるように舌を絡めていた。
深い口づけは長い時間続き、慣れない私の呼吸は乱れていく。最後にアウレールがちゅっと音を立てながら唇を離した時には、私はアウレールの小さな体にもたれるようにしながら体を震わせることしかできなくなっていた。
お腹のあたりがじわりと熱く、疼いている。これが発情しているということなのだろうか。
「エーファ様、とろとろで可愛い。……これは悪戯をした、お仕置きですよ」
アウレールは妖艶に笑うと、また数度唇を合わせた。
待ってくれ、悪戯に対してお仕置きがひどくないか!? まるでつり合っていない!
その。き、気持ちよかったが……
「夜はもっとすごいことをしますから」
彼は楽しそうに笑うと唾液で光る唇をぺろりと舐めた。
……夜。私は彼になにをされてしまうんだろうか。
期待と不安が入り交じる目でアウレールを見つめると、また唇を合わせられる。
アウレールは、口づけが好きなのかもしれない。
私も嫌いではないが……いや、好きだな。正直なところ。
「今したくなるから、そんな可愛い顔しないでください」
こつりと額同士を合わせられ、蕩けるような声で囁かれる。私は今……どんな顔をしているのだろう。
たぶんみっともなくて、恥ずかしい顔をしているはずだ。
「か、可愛くはな……」
「世界一可愛いです。エーファ様が納得するまで毎日言いますよ」
「そ、それは止めてくれ!」
涙目になっていると、額に唇が押し当てられる。
「毎日、言います」
そして獅子の耳に甘い声音を吹き込まれた。ただでも砕けそうだった腰は、それで一気に砕けてしまう。
……私はアウレールに、一生敵う気がしない。
……アウレールは香りまでいいのか。本当にずるいな。
「アウレール」
「なんですか、エーファ様」
名前を呼ぶと、大きなくりくりとした瞳がこちらを見つめる。
「あの馬鹿を見ていたら『純血』を残すことなどどうでもよくなってしまってな。……その。『純血の獅子』よりも好いているお前の子が欲しいと思うのは……いけないことだろうか」
告げる声が震える。
いきなり『子』の話題だ。重いと思われるだろうか。
けれど私は当主で、跡継ぎ問題は切っても切れないものなのだ。
本当なら婿に来て欲しいと言いたいところだが、そこまで望むのは贅沢だろうし……
「いいえ! 嬉しいです!」
アウレールは間髪容れずに返事をしてくれた。私は身を離し、彼の表情を窺う。アウレールの可憐な美貌は本当に嬉しそうに甘く綻んでいて、それを見て私は泣きそうになった。しかしその顔は、次の瞬間には曇ってしまう。
「だけど本当に僕でいいのですか? 僕は脆弱な鼠です。そのせいで弱い子供が産まれたら……エーファ様のご迷惑では」
涙まじりの声音で告げられたその言葉。それを聞いた私は彼の前に跪き、その小さな手を取った。
「アウレールは勇敢だ。そんなお前の子供もきっと強い心の持ち主になる。私は……『純血の獅子』の子よりも、アウレールの子が欲しい」
手の甲に口づけて、じっと彼を見つめる。
アウレールの大きな瞳が潤んで頬に涙が零れていく。そして彼は私にすがるように抱きついた。
「お会いした頃から、お慕いしておりました。強く気高く、だけどいつも悲しそうな貴女を。そして貴女を守れない我が身を……疎んでいました」
耳元で嗚咽が聞こえる。華奢な背中を優しく撫でると、嗚咽はさらに大きくなる。
アウレールは仕えてからの三年間……そんなことを思いながら側に居てくれたのか。
なんて健気で、可愛くて。素敵な男性なのだろう。
「私を守りたいなんて言ってくれるのは、アウレールだけだ」
ふわふわの灰色の髪に頬を擦り寄せる。すると大きく愛らしい耳がピクピクと動いているのが目に入り、思わずそれを食んでしまう。耳は柔らかで繊細な感触をしている。私は傷を付けないように気をつけながら、その耳に軽く牙を立てた。
「ふぁっ! 悪戯は、ダメです」
アウレールは可愛らしい声を上げ、涙目で私を睨む。
彼のそんな愛らしい様子に私の顔はだらしないくらいに緩んでしまった。
……アウレールは本当に可愛い。
アウレールは頬を膨らませた後に、少し悪い顔になる。
そして首に手が回されたと思った瞬間、口づけをされた。
生温かい舌が唇を拭う。驚いて口を開けるとそれはゆるりと口中に侵入してきた。
「んっ……!」
これが、世間で言う恋人同士がする口づけというものなのだろうか。
アウレールの舌が口中を探り、私の舌を見つけると嬉しそうに絡みつく。
じゅっと舌を吸い上げられ、口内を探検するように小さな舌で舐め回されて。そうされながら頭を撫でられるとふにゃりと力が抜けてしまう。
私は床にぺたりと両膝を着き体を弛緩させた状態で、アウレールのされるがままになってしまった。
「ふぁ、あ」
「可愛い、エーファ様」
甘やかすような丁寧な口づけ、時折囁かれる甘い囁き。それらに思考も蕩けさせられ、私はついには自分から欲しがるように舌を絡めていた。
深い口づけは長い時間続き、慣れない私の呼吸は乱れていく。最後にアウレールがちゅっと音を立てながら唇を離した時には、私はアウレールの小さな体にもたれるようにしながら体を震わせることしかできなくなっていた。
お腹のあたりがじわりと熱く、疼いている。これが発情しているということなのだろうか。
「エーファ様、とろとろで可愛い。……これは悪戯をした、お仕置きですよ」
アウレールは妖艶に笑うと、また数度唇を合わせた。
待ってくれ、悪戯に対してお仕置きがひどくないか!? まるでつり合っていない!
その。き、気持ちよかったが……
「夜はもっとすごいことをしますから」
彼は楽しそうに笑うと唾液で光る唇をぺろりと舐めた。
……夜。私は彼になにをされてしまうんだろうか。
期待と不安が入り交じる目でアウレールを見つめると、また唇を合わせられる。
アウレールは、口づけが好きなのかもしれない。
私も嫌いではないが……いや、好きだな。正直なところ。
「今したくなるから、そんな可愛い顔しないでください」
こつりと額同士を合わせられ、蕩けるような声で囁かれる。私は今……どんな顔をしているのだろう。
たぶんみっともなくて、恥ずかしい顔をしているはずだ。
「か、可愛くはな……」
「世界一可愛いです。エーファ様が納得するまで毎日言いますよ」
「そ、それは止めてくれ!」
涙目になっていると、額に唇が押し当てられる。
「毎日、言います」
そして獅子の耳に甘い声音を吹き込まれた。ただでも砕けそうだった腰は、それで一気に砕けてしまう。
……私はアウレールに、一生敵う気がしない。
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