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公爵騎士様の部下がやってきました7
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「スヴァンテ様、このままでは話ができません!」
「……む」
必死に抗議をすると、スヴァンテ様は不服そうな顔をしながら身を離してくれる。
「……変わるもんですねぇ」
そんなスヴァンテ様の様子を目にして、ベンヤミン様が目を丸くしつつぽつりとつぶやいた。
そして私は……自身の知り得る範囲の『教会』のことを彼らに話した。
教会にひしめく聖女たちは、不正によって入ってきた偽物であること。
大神様は悪意のある嘘や不正を嫌うので、教会にいる聖女たちはこれから先も加護を得られないだろうこと。
教会内での聖女たちの生活は享楽的なもので、清廉とはかけ離れていること。
聖女アングスティアの登場で、私の存在が不要になったこと。
邪魔になった私は身に覚えのない罪を着せられ、追放されたこと。
現在持ち上げられている聖女アングスティアには、なんらかの力が備わっていることは事実だけれど……。それは大神様の力ではないこと。
それらを語るにつれて、スヴァンテ様は怒りの表情に、ベンヤミン様は苦いものを食べた時のようなお顔になっていく。
「つまりは教会にいる聖女たちの起こしている奇跡は……ぜんぶ紛い物ってことですか?」
ベンヤミン様が、呆然としながらつぶやく。すっかり蒼白なその顔を見ていると、胸に強い罪悪感が湧いてしまう。
うう……。私が悪いことをしてるわけじゃないんだけどな。
それに、わかっていたことじゃない。私の告発は、信仰という人々の寄る辺を取り上げるものだって。
「あれは……手品ですね」
「……手品」
そう言い添えると、ベンヤミン様はさらに顔を青ざめさせて天を仰ぐ。そして、ふうと大きく長い息を吐いた。
「その手品が、人々のつらい時の心の添え木になっていたことは事実です。だから、私はこのままでいいんじゃないかとも思うのですが」
「──いいわけがない」
私の言葉は、スヴァンテ様の鋭い言葉によって遮られた。それを訊いて、私は隣のスヴァンテ様に視線をやる。
彼の表情は──静かな怒りに満ちていた。
「信仰を捧げる人々をペテンで騙し、私腹を肥やすことなど。許されていいはずがない」
「……スヴァンテ様」
ああ、この人は。嘘も方便もないまっすぐな人なのだ。そんなことを、改めて思う。
そしてそんな、ある意味では不器用なスヴァンテ様のことが好きなのだとも。
「教会の腐敗のことは、一旦横に置いておくとして……。聖女アングスティアの力の源は、なんなのでしょうね」
気を取り直したらしいベンヤミン様が、眉根を寄せながら言う。
「それは私も知らなくて。大神様以外のお力、としか」
大神様は聖女アングスティアの力のことを、『なんらかの力』としか言わなかった。
だからその力の正体のことは、私も知らないのだ。
「では……悪魔か?」
スヴァンテ様は腕組みをして、考え込む。その横顔が綺麗だなぁなんて思ってしまう私の頭の中は、すっかりお花畑になってしまっているようだ。
悪魔は人々の悪意や欲望を源として、人ならざる力を振るう異形の存在だ。
人々にとっての脅威で、出現した際には騎士団総出で対処にあたることとなる。
「その可能性は……どうなのでしょう。教会には神器がありますし」
古の聖女が大神様によって与えられた、一見華奢な銀の細剣にしか見えない一振りの神器。それは悪魔を一瞬で消滅させることが可能で、教会の奥深くに安置されている。
自身を消滅させることができる神器の存在を悪魔は恐れているから、教会には近づかない。そのはず……である。
「大神様。聖女アングスティアの力の源は……悪魔なのでしょうか?」
わからないことは聞いてみればいいと、大神様に訊ねてみる。
『ふむ。力の源の気配が小さすぎて、私にはわからないな。邪魔なら、あの小娘ごと消滅──』
「わぁあああ! それは、それはなしで!」
大神様が物騒なことを言い出したので、私は慌ててそのお言葉を遮った。
「……む」
必死に抗議をすると、スヴァンテ様は不服そうな顔をしながら身を離してくれる。
「……変わるもんですねぇ」
そんなスヴァンテ様の様子を目にして、ベンヤミン様が目を丸くしつつぽつりとつぶやいた。
そして私は……自身の知り得る範囲の『教会』のことを彼らに話した。
教会にひしめく聖女たちは、不正によって入ってきた偽物であること。
大神様は悪意のある嘘や不正を嫌うので、教会にいる聖女たちはこれから先も加護を得られないだろうこと。
教会内での聖女たちの生活は享楽的なもので、清廉とはかけ離れていること。
聖女アングスティアの登場で、私の存在が不要になったこと。
邪魔になった私は身に覚えのない罪を着せられ、追放されたこと。
現在持ち上げられている聖女アングスティアには、なんらかの力が備わっていることは事実だけれど……。それは大神様の力ではないこと。
それらを語るにつれて、スヴァンテ様は怒りの表情に、ベンヤミン様は苦いものを食べた時のようなお顔になっていく。
「つまりは教会にいる聖女たちの起こしている奇跡は……ぜんぶ紛い物ってことですか?」
ベンヤミン様が、呆然としながらつぶやく。すっかり蒼白なその顔を見ていると、胸に強い罪悪感が湧いてしまう。
うう……。私が悪いことをしてるわけじゃないんだけどな。
それに、わかっていたことじゃない。私の告発は、信仰という人々の寄る辺を取り上げるものだって。
「あれは……手品ですね」
「……手品」
そう言い添えると、ベンヤミン様はさらに顔を青ざめさせて天を仰ぐ。そして、ふうと大きく長い息を吐いた。
「その手品が、人々のつらい時の心の添え木になっていたことは事実です。だから、私はこのままでいいんじゃないかとも思うのですが」
「──いいわけがない」
私の言葉は、スヴァンテ様の鋭い言葉によって遮られた。それを訊いて、私は隣のスヴァンテ様に視線をやる。
彼の表情は──静かな怒りに満ちていた。
「信仰を捧げる人々をペテンで騙し、私腹を肥やすことなど。許されていいはずがない」
「……スヴァンテ様」
ああ、この人は。嘘も方便もないまっすぐな人なのだ。そんなことを、改めて思う。
そしてそんな、ある意味では不器用なスヴァンテ様のことが好きなのだとも。
「教会の腐敗のことは、一旦横に置いておくとして……。聖女アングスティアの力の源は、なんなのでしょうね」
気を取り直したらしいベンヤミン様が、眉根を寄せながら言う。
「それは私も知らなくて。大神様以外のお力、としか」
大神様は聖女アングスティアの力のことを、『なんらかの力』としか言わなかった。
だからその力の正体のことは、私も知らないのだ。
「では……悪魔か?」
スヴァンテ様は腕組みをして、考え込む。その横顔が綺麗だなぁなんて思ってしまう私の頭の中は、すっかりお花畑になってしまっているようだ。
悪魔は人々の悪意や欲望を源として、人ならざる力を振るう異形の存在だ。
人々にとっての脅威で、出現した際には騎士団総出で対処にあたることとなる。
「その可能性は……どうなのでしょう。教会には神器がありますし」
古の聖女が大神様によって与えられた、一見華奢な銀の細剣にしか見えない一振りの神器。それは悪魔を一瞬で消滅させることが可能で、教会の奥深くに安置されている。
自身を消滅させることができる神器の存在を悪魔は恐れているから、教会には近づかない。そのはず……である。
「大神様。聖女アングスティアの力の源は……悪魔なのでしょうか?」
わからないことは聞いてみればいいと、大神様に訊ねてみる。
『ふむ。力の源の気配が小さすぎて、私にはわからないな。邪魔なら、あの小娘ごと消滅──』
「わぁあああ! それは、それはなしで!」
大神様が物騒なことを言い出したので、私は慌ててそのお言葉を遮った。
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