38 / 38
公爵騎士様の部下がやってきました7
しおりを挟む
「スヴァンテ様、このままでは話ができません!」
「……む」
必死に抗議をすると、スヴァンテ様は不服そうな顔をしながら身を離してくれる。
「……変わるもんですねぇ」
そんなスヴァンテ様の様子を目にして、ベンヤミン様が目を丸くしつつぽつりとつぶやいた。
そして私は……自身の知り得る範囲の『教会』のことを彼らに話した。
教会にひしめく聖女たちは、不正によって入ってきた偽物であること。
大神様は悪意のある嘘や不正を嫌うので、教会にいる聖女たちはこれから先も加護を得られないだろうこと。
教会内での聖女たちの生活は享楽的なもので、清廉とはかけ離れていること。
聖女アングスティアの登場で、私の存在が不要になったこと。
邪魔になった私は身に覚えのない罪を着せられ、追放されたこと。
現在持ち上げられている聖女アングスティアには、なんらかの力が備わっていることは事実だけれど……。それは大神様の力ではないこと。
それらを語るにつれて、スヴァンテ様は怒りの表情に、ベンヤミン様は苦いものを食べた時のようなお顔になっていく。
「つまりは教会にいる聖女たちの起こしている奇跡は……ぜんぶ紛い物ってことですか?」
ベンヤミン様が、呆然としながらつぶやく。すっかり蒼白なその顔を見ていると、胸に強い罪悪感が湧いてしまう。
うう……。私が悪いことをしてるわけじゃないんだけどな。
それに、わかっていたことじゃない。私の告発は、信仰という人々の寄る辺を取り上げるものだって。
「あれは……手品ですね」
「……手品」
そう言い添えると、ベンヤミン様はさらに顔を青ざめさせて天を仰ぐ。そして、ふうと大きく長い息を吐いた。
「その手品が、人々のつらい時の心の添え木になっていたことは事実です。だから、私はこのままでいいんじゃないかとも思うのですが」
「──いいわけがない」
私の言葉は、スヴァンテ様の鋭い言葉によって遮られた。それを訊いて、私は隣のスヴァンテ様に視線をやる。
彼の表情は──静かな怒りに満ちていた。
「信仰を捧げる人々をペテンで騙し、私腹を肥やすことなど。許されていいはずがない」
「……スヴァンテ様」
ああ、この人は。嘘も方便もないまっすぐな人なのだ。そんなことを、改めて思う。
そしてそんな、ある意味では不器用なスヴァンテ様のことが好きなのだとも。
「教会の腐敗のことは、一旦横に置いておくとして……。聖女アングスティアの力の源は、なんなのでしょうね」
気を取り直したらしいベンヤミン様が、眉根を寄せながら言う。
「それは私も知らなくて。大神様以外のお力、としか」
大神様は聖女アングスティアの力のことを、『なんらかの力』としか言わなかった。
だからその力の正体のことは、私も知らないのだ。
「では……悪魔か?」
スヴァンテ様は腕組みをして、考え込む。その横顔が綺麗だなぁなんて思ってしまう私の頭の中は、すっかりお花畑になってしまっているようだ。
悪魔は人々の悪意や欲望を源として、人ならざる力を振るう異形の存在だ。
人々にとっての脅威で、出現した際には騎士団総出で対処にあたることとなる。
「その可能性は……どうなのでしょう。教会には神器がありますし」
古の聖女が大神様によって与えられた、一見華奢な銀の細剣にしか見えない一振りの神器。それは悪魔を一瞬で消滅させることが可能で、教会の奥深くに安置されている。
自身を消滅させることができる神器の存在を悪魔は恐れているから、教会には近づかない。そのはず……である。
「大神様。聖女アングスティアの力の源は……悪魔なのでしょうか?」
わからないことは聞いてみればいいと、大神様に訊ねてみる。
『ふむ。力の源の気配が小さすぎて、私にはわからないな。邪魔なら、あの小娘ごと消滅──』
「わぁあああ! それは、それはなしで!」
大神様が物騒なことを言い出したので、私は慌ててそのお言葉を遮った。
「……む」
必死に抗議をすると、スヴァンテ様は不服そうな顔をしながら身を離してくれる。
「……変わるもんですねぇ」
そんなスヴァンテ様の様子を目にして、ベンヤミン様が目を丸くしつつぽつりとつぶやいた。
そして私は……自身の知り得る範囲の『教会』のことを彼らに話した。
教会にひしめく聖女たちは、不正によって入ってきた偽物であること。
大神様は悪意のある嘘や不正を嫌うので、教会にいる聖女たちはこれから先も加護を得られないだろうこと。
教会内での聖女たちの生活は享楽的なもので、清廉とはかけ離れていること。
聖女アングスティアの登場で、私の存在が不要になったこと。
邪魔になった私は身に覚えのない罪を着せられ、追放されたこと。
現在持ち上げられている聖女アングスティアには、なんらかの力が備わっていることは事実だけれど……。それは大神様の力ではないこと。
それらを語るにつれて、スヴァンテ様は怒りの表情に、ベンヤミン様は苦いものを食べた時のようなお顔になっていく。
「つまりは教会にいる聖女たちの起こしている奇跡は……ぜんぶ紛い物ってことですか?」
ベンヤミン様が、呆然としながらつぶやく。すっかり蒼白なその顔を見ていると、胸に強い罪悪感が湧いてしまう。
うう……。私が悪いことをしてるわけじゃないんだけどな。
それに、わかっていたことじゃない。私の告発は、信仰という人々の寄る辺を取り上げるものだって。
「あれは……手品ですね」
「……手品」
そう言い添えると、ベンヤミン様はさらに顔を青ざめさせて天を仰ぐ。そして、ふうと大きく長い息を吐いた。
「その手品が、人々のつらい時の心の添え木になっていたことは事実です。だから、私はこのままでいいんじゃないかとも思うのですが」
「──いいわけがない」
私の言葉は、スヴァンテ様の鋭い言葉によって遮られた。それを訊いて、私は隣のスヴァンテ様に視線をやる。
彼の表情は──静かな怒りに満ちていた。
「信仰を捧げる人々をペテンで騙し、私腹を肥やすことなど。許されていいはずがない」
「……スヴァンテ様」
ああ、この人は。嘘も方便もないまっすぐな人なのだ。そんなことを、改めて思う。
そしてそんな、ある意味では不器用なスヴァンテ様のことが好きなのだとも。
「教会の腐敗のことは、一旦横に置いておくとして……。聖女アングスティアの力の源は、なんなのでしょうね」
気を取り直したらしいベンヤミン様が、眉根を寄せながら言う。
「それは私も知らなくて。大神様以外のお力、としか」
大神様は聖女アングスティアの力のことを、『なんらかの力』としか言わなかった。
だからその力の正体のことは、私も知らないのだ。
「では……悪魔か?」
スヴァンテ様は腕組みをして、考え込む。その横顔が綺麗だなぁなんて思ってしまう私の頭の中は、すっかりお花畑になってしまっているようだ。
悪魔は人々の悪意や欲望を源として、人ならざる力を振るう異形の存在だ。
人々にとっての脅威で、出現した際には騎士団総出で対処にあたることとなる。
「その可能性は……どうなのでしょう。教会には神器がありますし」
古の聖女が大神様によって与えられた、一見華奢な銀の細剣にしか見えない一振りの神器。それは悪魔を一瞬で消滅させることが可能で、教会の奥深くに安置されている。
自身を消滅させることができる神器の存在を悪魔は恐れているから、教会には近づかない。そのはず……である。
「大神様。聖女アングスティアの力の源は……悪魔なのでしょうか?」
わからないことは聞いてみればいいと、大神様に訊ねてみる。
『ふむ。力の源の気配が小さすぎて、私にはわからないな。邪魔なら、あの小娘ごと消滅──』
「わぁあああ! それは、それはなしで!」
大神様が物騒なことを言い出したので、私は慌ててそのお言葉を遮った。
5
お気に入りに追加
187
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
最狂公爵閣下のお気に入り
白乃いちじく
ファンタジー
「お姉さんなんだから、我慢しなさい」
そんな母親の一言で、楽しかった誕生会が一転、暗雲に包まれる。
今日15才になる伯爵令嬢のセレスティナには、一つ年下の妹がいる。妹のジーナはとてもかわいい。蜂蜜色の髪に愛らしい顔立ち。何より甘え上手で、両親だけでなく皆から可愛がられる。
どうして自分だけ? セレスティナの心からそんな鬱屈した思いが吹き出した。
どうしていつもいつも、自分だけが我慢しなさいって、そう言われるのか……。お姉さんなんだから……それはまるで呪いの言葉のよう。私と妹のどこが違うの? 年なんか一つしか違わない。私だってジーナと同じお父様とお母様の子供なのに……。叱られるのはいつも自分だけ。お決まりの言葉は「お姉さんなんだから……」
お姉さんなんて、なりたくてなったわけじゃない!
そんな叫びに応えてくれたのは、銀髪の紳士、オルモード公爵様だった。
***登場人物初期設定年齢変更のお知らせ***
セレスティナ 12才(変更前)→15才(変更後) シャーロット 13才(変更前)→16才(変更後)

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
…太神様は沈黙。
肉体言語で聖女を陥落。
何処が生真面目だ
(褒め言葉)
あっ、チョロイン爆誕の予感( ´∀` )
スヴァンテ様!
なんというナチュラルな手口…!(/∀\*))