【R18】追放聖女は山小屋にいる~無愛想系騎士様に実は愛されているってどういうことでしょう!?~

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
上 下
38 / 38

公爵騎士様の部下がやってきました7

しおりを挟む
「スヴァンテ様、このままでは話ができません!」
「……む」

 必死に抗議をすると、スヴァンテ様は不服そうな顔をしながら身を離してくれる。

「……変わるもんですねぇ」

 そんなスヴァンテ様の様子を目にして、ベンヤミン様が目を丸くしつつぽつりとつぶやいた。
 そして私は……自身の知り得る範囲の『教会』のことを彼らに話した。
 教会にひしめく聖女たちは、不正によって入ってきた偽物であること。
 大神様は悪意のある嘘や不正を嫌うので、教会にいる聖女たちはこれから先も加護を得られないだろうこと。
 教会内での聖女たちの生活は享楽的なもので、清廉とはかけ離れていること。
 聖女アングスティアの登場で、私の存在が不要になったこと。
 邪魔になった私は身に覚えのない罪を着せられ、追放されたこと。
 現在持ち上げられている聖女アングスティアには、なんらかの力が備わっていることは事実だけれど……。それは大神様の力ではないこと。
 それらを語るにつれて、スヴァンテ様は怒りの表情に、ベンヤミン様は苦いものを食べた時のようなお顔になっていく。

「つまりは教会にいる聖女たちの起こしている奇跡は……ぜんぶ紛い物ってことですか?」

 ベンヤミン様が、呆然としながらつぶやく。すっかり蒼白なその顔を見ていると、胸に強い罪悪感が湧いてしまう。

 うう……。私が悪いことをしてるわけじゃないんだけどな。

 それに、わかっていたことじゃない。私の告発は、信仰という人々の寄る辺を取り上げるものだって。

「あれは……手品ですね」
「……手品」

 そう言い添えると、ベンヤミン様はさらに顔を青ざめさせて天を仰ぐ。そして、ふうと大きく長い息を吐いた。

「その手品が、人々のつらい時の心の添え木になっていたことは事実です。だから、私はこのままでいいんじゃないかとも思うのですが」
「──いいわけがない」

 私の言葉は、スヴァンテ様の鋭い言葉によって遮られた。それを訊いて、私は隣のスヴァンテ様に視線をやる。
 彼の表情は──静かな怒りに満ちていた。

「信仰を捧げる人々をペテンで騙し、私腹を肥やすことなど。許されていいはずがない」
「……スヴァンテ様」

 ああ、この人は。嘘も方便もないまっすぐな人なのだ。そんなことを、改めて思う。
 そしてそんな、ある意味では不器用なスヴァンテ様のことが好きなのだとも。

「教会の腐敗のことは、一旦横に置いておくとして……。聖女アングスティアの力の源は、なんなのでしょうね」

 気を取り直したらしいベンヤミン様が、眉根を寄せながら言う。

「それは私も知らなくて。大神様以外のお力、としか」

 大神様は聖女アングスティアの力のことを、『なんらかの力』としか言わなかった。
 だからその力の正体のことは、私も知らないのだ。

「では……悪魔か?」

 スヴァンテ様は腕組みをして、考え込む。その横顔が綺麗だなぁなんて思ってしまう私の頭の中は、すっかりお花畑になってしまっているようだ。
 悪魔は人々の悪意や欲望を源として、人ならざる力を振るう異形の存在だ。
 人々にとっての脅威で、出現した際には騎士団総出で対処にあたることとなる。

「その可能性は……どうなのでしょう。教会には神器がありますし」

 古の聖女が大神様によって与えられた、一見華奢な銀の細剣にしか見えない一振りの神器。それは悪魔を一瞬で消滅させることが可能で、教会の奥深くに安置されている。
 自身を消滅させることができる神器の存在を悪魔は恐れているから、教会には近づかない。そのはず……である。

「大神様。聖女アングスティアの力の源は……悪魔なのでしょうか?」

 わからないことは聞いてみればいいと、大神様に訊ねてみる。

『ふむ。力の源の気配が小さすぎて、私にはわからないな。邪魔なら、あの小娘ごと消滅──』
「わぁあああ! それは、それはなしで!」

 大神様が物騒なことを言い出したので、私は慌ててそのお言葉を遮った。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

みきざと瀬璃

…太神様は沈黙。

肉体言語で聖女を陥落。
何処が生真面目だ
(褒め言葉)

解除
Kimy
2024.02.10 Kimy

あっ、チョロイン爆誕の予感( ´∀` )

解除
まるる
2024.02.10 まるる

スヴァンテ様!
なんというナチュラルな手口…!(/∀\*))

解除

あなたにおすすめの小説

最狂公爵閣下のお気に入り

白乃いちじく
ファンタジー
「お姉さんなんだから、我慢しなさい」  そんな母親の一言で、楽しかった誕生会が一転、暗雲に包まれる。  今日15才になる伯爵令嬢のセレスティナには、一つ年下の妹がいる。妹のジーナはとてもかわいい。蜂蜜色の髪に愛らしい顔立ち。何より甘え上手で、両親だけでなく皆から可愛がられる。  どうして自分だけ? セレスティナの心からそんな鬱屈した思いが吹き出した。  どうしていつもいつも、自分だけが我慢しなさいって、そう言われるのか……。お姉さんなんだから……それはまるで呪いの言葉のよう。私と妹のどこが違うの? 年なんか一つしか違わない。私だってジーナと同じお父様とお母様の子供なのに……。叱られるのはいつも自分だけ。お決まりの言葉は「お姉さんなんだから……」  お姉さんなんて、なりたくてなったわけじゃない!  そんな叫びに応えてくれたのは、銀髪の紳士、オルモード公爵様だった。 ***登場人物初期設定年齢変更のお知らせ*** セレスティナ 12才(変更前)→15才(変更後) シャーロット 13才(変更前)→16才(変更後)

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。