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公爵騎士様の部下がやってきました6

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「とにかく。そういう理由で、聖女アングスティアをうさん臭いと思ったわけです」

 ベンヤミン様はそんなふうに、話を締めた。

「……なるほど」

 教会にいた頃の、数少ない聖女アングスティアとの接触のことを思い返してみる。
 たしかに聖女アングスティアは……清廉潔白という雰囲気ではまったくなかった。
 八つ当たりを使用人やほかの聖女にしている場面にも、何度も遭遇したものである。
 ちなみに。私は聖女アングスティアと、まったく親しくなかった。むしろ、とても嫌われていた。
 彼女とすれ違うたびに、虫けらを見るような目で見られたものだ。懐かしいなぁ。

「……ニカナ」
「なんですか、スヴァンテ様」

 名前を呼ばれてそちらを見れば、真剣な表情のスヴァンテ様とばちりと視線が合った。

「知っていることをすべて、私に話す気にはならないか?」
「……う」

 スヴァンテ様に問われて、私は言葉に詰まる。

「できれば、話したくないのですけど」

 私がそう答えると、スヴァンテ様は眉尻を下げた。

「……どんな事実がつまびらかになろうと、君には迷惑をかけないようにする」

 たしかに、我が身は可愛い。だけど今は、それ以外にも話したくない理由ができてしまった。

「我が身可愛さで話したくないのも、もちろんあるんですけど。話す内容によっては……スヴァンテ様はなんらかの行動を起こそうとするでしょう?」

 スヴァンテ様は清廉潔白なお方だ。教会の腐敗を放置しようとは思わないはず。
 そして……。私には想像もつかないような、貴族同士の争いの渦中の人となるのだろう。

「それはそうだな。教会がなんらかの不正を働いているのなら、それを正さねばならない」

 予想していた通りのことを、スヴァンテ様が言う。なぁなぁにしない貴方が素敵です。素敵だけど、スヴァンテ様を危険に晒したくない私としてはちょっと困る。

「それは……危険がつきまとうことになるのでしょう?」
「危険だろうが、おめおめとやられるつもりもないぞ」

 そう言われても、心配は心配なんだよなぁ。

「うう」

 唸る私を、スヴァンテ様はじっと見つめる。そんな真剣な目で見つめられると、大きな隠し事をしている罪悪感が激しく刺激されてしまう。

 ……私はしばらく悩んだのちに、ため息をついてから口を開いた。

「約束を二つしてくださるなら、話します」
「二つ?」

 私の言葉を聞いて、スヴァンテ様は首を傾げた。手を伸ばして、スヴァンテ様の手をそっと両手で握る。その手は、大きくて逞しい。

「教会の真実を知ってなんらかの行動を起こすにしても、無茶はしないこと。そして、私を頼ることです。私にはスヴァンテ様をお助けできる力があります。正確に言えば、大神様にですけれど」

 正しい行いにならば、大神様は力を貸してくださる。そしてスヴァンテ様は……その正しい行いができる人だ。だから問題なく、お力を貸していただけるだろう。

「助けてもらえるのは、ありがたいことだ。しかし、頼ることで君の力のことが周囲にばれる可能性が生じてしまうだろう? 無理はしない方がいい」

 スヴァンテ様は、握られていない方の手で私の頬を優しく撫でる。私はその手のひらに、頬を擦り寄せた。
 ……うん、優しいこの手を私は失いたくない。

「スヴァンテ様を守るためにばれちゃうんなら、仕方がないです。スヴァンテ様になにかがある方が嫌ですし」

 私の心の天秤が、平穏な生活よりもスヴァンテ様を選んだのだ。だから、これは仕方ない。

「ニカナ……!」

 なにが琴線に触れたのやら。スヴァンテ様が感極まった声を上げながら、私に抱きついてくる。必死に剥がそうとはするけれど騎士の力には当然敵わなくて、私は彼に抱きしめられるままになるしかなかった。
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