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公爵騎士様の部下がやってきました5

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 真っ青になっているとスヴァンテ様にぽんぽんと頭を撫でられ、慈愛に満ちた目を向けられる。
 うう、恥ずかしいからそんな目で見ないで……!

「ベンヤミン。お前は聖女アングスティアが、どういうふうにうさん臭いと思っているんだ? 彼女はニカナのように、大きな力の行使をできるのだろう?」

 眉を顰めながら、スヴァンテ様がそう訊ねる。ベンヤミン様はスヴァンテ様に視線をやったあとに、こちらに視線をやった。

「俺はスヴァンテ様に命じられ、調査をしていたうちの一人なんですが」

『調査をしていたうちの一人』ということは、スヴァンテ様にはほかにも腹心がいるのだろう。
 私の噂に関する裏取りや、教会のことを調べているのかな。

「俺は教会の実情を探るようにと、スヴァンテ様に命じられていて」
「……なるほど」
「俺の家は『教会派』に繋がりがないので、なかなか捗らなかったんですけどね。教会派貴族の数は少なくて、その上教会に関することになると口が重すぎるくらいで」

 教会派の貴族って、少数なんだ。貴族社会に詳しくない私なので、それは知らなかった。
 教会には貴族の子息子女が溢れている……ように思っていたけれど。あれは貴族の、ほんの一部なんだなぁ。
 数を増やし過ぎると、秘密が漏れる可能性が高くなるからかな。なんらかの『旨味』も減るのだろうし。

「調査しているうちに仲よくなった聖女もできたんですけど……。彼女に教会内部のことをあれこれ訊いても、やっぱり当たり障りのないことしか教えてくれなかったんですよね。聖女ニカナのことに関しても、公示で提示されていること以外は話したがらない様子でした。女性は噂話が大好きな生き物なのに、これって変ですよね?」

 ベンヤミン様はそう言うと腕組みをして、納得いかないという顔になる。
 ……教会の『深い』ことに関する話は、しなくて当然だろうな。きっと、固く口止めされているに違いない。
 私は平民で漏らすような場所も誰かが信じるような信用もないから、野放しになっている節がある。
 けれど彼女たちにはしがらみも、守らなければならないものもあるのだ。

「だけど、聖女アングスティアに関しては違った」

 ベンヤミン様の言葉に、私は首を傾げる。そんな私を一瞥してから、彼は言葉を続けた。

「聖女アングスティアのことに関しては、口が軽い軽い。こんな奇跡を起こせる、こんなに素敵なお方だ、こんなことを昨日はしてくださった……驚くほどにお綺麗な情報が出るわ出るわですよ」
「そう、なんですね?」
「それで、聖女アングスティアのことを語るその聖女の目が……まるで狂信者みたいで。言っちゃえば、薬とかで操られてるみたいというか。ほかの司祭や聖女とお話した時も、皆そんな調子で。それで、うさん臭いなって思ったんです」

 ベンヤミン様の話を訊いて、私は眉根を寄せる。
 私が教会にいた頃は……。ほかの聖女たちと聖女アングスティアは、まるで反りが合っていなかったように思う。
 聖女アングスティアは本当に『力』を行使できる聖女の上に、公爵家の出なのだ。表立って争う姿勢を見せる者は少なかったけれど、和やかな雰囲気だとはとても言いがたかった。もともといた聖女たちにも、意地やらがあったのだろう。
 それがどうして、そこまでの畏敬の念を集めるようなことになったのかな。

「聖女アングスティアは、社交界で評判がいいご令嬢ではなかった。我儘放題で癇癪持ちの、いかにも貴族の娘って令嬢だったんです。言い寄られていたスヴァンテ様なら、ご存じでしょうけれど」
「……余計なことを言うな」

 ベンヤミン様を睨みながら、スヴァンテ様がぴしゃりと言う。そんなスヴァンテ様を、私はじとりと睨めつけた。

「ふぅん。言い寄られてたんですか」

 聖女アングスティアは、見目麗しいご令嬢だ。そして、お胸がとても大きいのである。さすがのスヴァンテ様も、ちょっとくらい見惚れるようなことがあったかもしれない。

「な、なにもなかったからな?」

 スヴァンテ様はそう言いながら、必死さを感じさせる表情になる。

「……聖女アングスティアのお胸、大きいですよね」
「君はなんの話をしてるんだ。君の胸じゃない胸には、興味がない!」
「……痴話喧嘩はあとでしてもらうとして。そんな聖女アングスティアが完全無欠の聖女様に突然変貌するなんて、おかしいと思いませんか?」

 私たちの会話にベンヤミン様が割って入った。痴話喧嘩……と言われると、なんだか照れる。
 スヴァンテ様も恥ずかしそうに白い頬を赤く染め、こほんと小さく咳払いをした。
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