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公爵騎士様の部下がやってきました4
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──そんなわけで、ゴタゴタがあったけれど朝食だ。
朝食の席にはベンヤミン様もついていて、にこにこしながらアマイモのパイを頬張っていらっしゃる。
「いやぁ! 美味しいですねぇ。さすが聖女ニカナの手作りだ」
「ソウデスカ」
満面の笑みをこちらに向けるベンヤミン様に、私はぎこちない笑みと言葉を返す。私の隣では、スヴァンテ様が腕組みをしながらじっとりとした目でベンヤミン様を見つめていた。
「聖女ニカナがあんなにすごい力を持つ聖女様だったなんて……。いやぁ、あんなに大神様に愛されている方が、淫婦なわけがないですよねぇ! うんうん」
ベンヤミン様はそう言うと、二切れ目のアマイモのパイを大皿から取る。この人、よく食べるなぁ。アマイモは倉庫いっぱいにあるから、構わないけど……。
「スヴァンテ様。ベンヤミン様って、もしかしてかなりのお調子者だったりします?」
「……ああ。かなりどころではないお調子者だな」
私の問いに、スヴァンテ様が辛辣な口調で答える。先ほどの態度との反転ぶりから見て、まぁそうだろうな。わかりきったことを聞いてしまった。
スヴァンテ様は力のことを知っても、私が『淫婦』でないかの判断を慎重にしようとした。しかしベンヤミン様は、一瞬で私の評価を変えてしまった。スヴァンテ様が慎重すぎるのか、ベンヤミン様の手のひら返しが早すぎるのか……。
そんなことを思いながら、私はお茶を啜る。
「ベンヤミンは……これでも口が固いし、仕事もできる」
気まずそうな表情でのスヴァンテ様の言葉に、私は少し目を瞠った。
「口が固い? 本当にですね?」
ベンヤミン様には私が今まで力の一部しか使っていなかったことと、教会に連れ戻されたくないので力のことは他言無用であることの説明をした。
すると彼は『内緒ってことですね! わかりました!』と安請け合い……いや、了承してくださったのだけれど。正直私の内心は、不安でいっぱいだった。
「……大丈夫かなぁ」
ついつい本音を漏らしながら、ベンヤミン様に懐疑的な目を向けてしまう。
「大丈夫ですよ。聖女ニカナの本来のお力に関することを、内緒にすればいいんですよね? 拷問官に指を三本落とされても、白状しない自信がありますから!」
ベンヤミン様はあどけなさが残る美貌に笑みを浮かべながら、とんでもないことを言った。
「うう……指ですか」
指が落ちる光景なんて、想像しただけで背筋が寒くなってしまう。そんなことにならないことを、祈っておこう。
「お望みなら、十本まで頑張ります!」
ベンヤミン様はいい笑顔で、さらに言い添えた。そんなおまけがつくよ! みたいに言われても困るのだけど!
「そうだ。ベンヤミン様、『聖女』なんてつけなくていいですよ。私、教会から追放されてる身ですし、平民なので。ベンヤミン様は、貴族様ですよね?」
「まぁ、一応伯爵家の次男ではありますね。では、ニカナと呼ばせて──」
「──呼び捨てていいわけないだろう」
ベンヤミン様の言葉を遮るように、スヴァンテ様が口を挟む。スヴァンテ様の険しい表情を目にしたベンヤミン様は、口の端をひくりと引き攣らせた。
「では、ニカナ嬢と」
ベンヤミン様がそう言うと、スヴァンテ様がこくりと頷く。どうして彼が許諾を出すのだろうとは思ったけれど、『ニカナ嬢』と呼ばれることに異議はないので突っ込まないでおく。
「ニカナ嬢。先ほどの非礼、本当に申し訳ありませんでした。スヴァンテ様が教会を放逐されるほどに奔放な淫婦に騙されていると思い込み、頭に血が昇ってしまいまして」
ベンヤミン様は三切れ目のアマイモパイを食べたあとに、居住まいを正して真剣な表情でそう言った。
「教会の公示を信じるのは、当然ですから」
苦笑いをしながら言えば、ベンヤミン様の表情がさらに引き締まる。
「ニカナ嬢が淫婦でないのだとしたら。どうして……教会を追放されたのですか?」
「う……。それは」
まっすぐに見つめられながら問いかけられ、私はどう答えていいのかわからなくなる。私の『濡れ衣』に関する事情はスヴァンテ様も知りたいところらしく、隣からの強い視線も感じた。うう、いたたまれない。
「もしかして……教会で持ち上げられてる『うさん臭い女』が原因でしょうか?」
「聖女アングスティアは、関係ないですよ」
ベンヤミン様の言葉に、私は反射的に答えてしまう。
しまったと思いながら口を押さえつつベンヤミン様を見れば、彼はにやりと笑っていた。
「俺、聖女アングスティアのことだって一言も言ってないんだけどなぁ」
「──!」
──誘導尋問にはめられた。
いや、誘導尋問未満だったな。私が間抜けなだけだ!
朝食の席にはベンヤミン様もついていて、にこにこしながらアマイモのパイを頬張っていらっしゃる。
「いやぁ! 美味しいですねぇ。さすが聖女ニカナの手作りだ」
「ソウデスカ」
満面の笑みをこちらに向けるベンヤミン様に、私はぎこちない笑みと言葉を返す。私の隣では、スヴァンテ様が腕組みをしながらじっとりとした目でベンヤミン様を見つめていた。
「聖女ニカナがあんなにすごい力を持つ聖女様だったなんて……。いやぁ、あんなに大神様に愛されている方が、淫婦なわけがないですよねぇ! うんうん」
ベンヤミン様はそう言うと、二切れ目のアマイモのパイを大皿から取る。この人、よく食べるなぁ。アマイモは倉庫いっぱいにあるから、構わないけど……。
「スヴァンテ様。ベンヤミン様って、もしかしてかなりのお調子者だったりします?」
「……ああ。かなりどころではないお調子者だな」
私の問いに、スヴァンテ様が辛辣な口調で答える。先ほどの態度との反転ぶりから見て、まぁそうだろうな。わかりきったことを聞いてしまった。
スヴァンテ様は力のことを知っても、私が『淫婦』でないかの判断を慎重にしようとした。しかしベンヤミン様は、一瞬で私の評価を変えてしまった。スヴァンテ様が慎重すぎるのか、ベンヤミン様の手のひら返しが早すぎるのか……。
そんなことを思いながら、私はお茶を啜る。
「ベンヤミンは……これでも口が固いし、仕事もできる」
気まずそうな表情でのスヴァンテ様の言葉に、私は少し目を瞠った。
「口が固い? 本当にですね?」
ベンヤミン様には私が今まで力の一部しか使っていなかったことと、教会に連れ戻されたくないので力のことは他言無用であることの説明をした。
すると彼は『内緒ってことですね! わかりました!』と安請け合い……いや、了承してくださったのだけれど。正直私の内心は、不安でいっぱいだった。
「……大丈夫かなぁ」
ついつい本音を漏らしながら、ベンヤミン様に懐疑的な目を向けてしまう。
「大丈夫ですよ。聖女ニカナの本来のお力に関することを、内緒にすればいいんですよね? 拷問官に指を三本落とされても、白状しない自信がありますから!」
ベンヤミン様はあどけなさが残る美貌に笑みを浮かべながら、とんでもないことを言った。
「うう……指ですか」
指が落ちる光景なんて、想像しただけで背筋が寒くなってしまう。そんなことにならないことを、祈っておこう。
「お望みなら、十本まで頑張ります!」
ベンヤミン様はいい笑顔で、さらに言い添えた。そんなおまけがつくよ! みたいに言われても困るのだけど!
「そうだ。ベンヤミン様、『聖女』なんてつけなくていいですよ。私、教会から追放されてる身ですし、平民なので。ベンヤミン様は、貴族様ですよね?」
「まぁ、一応伯爵家の次男ではありますね。では、ニカナと呼ばせて──」
「──呼び捨てていいわけないだろう」
ベンヤミン様の言葉を遮るように、スヴァンテ様が口を挟む。スヴァンテ様の険しい表情を目にしたベンヤミン様は、口の端をひくりと引き攣らせた。
「では、ニカナ嬢と」
ベンヤミン様がそう言うと、スヴァンテ様がこくりと頷く。どうして彼が許諾を出すのだろうとは思ったけれど、『ニカナ嬢』と呼ばれることに異議はないので突っ込まないでおく。
「ニカナ嬢。先ほどの非礼、本当に申し訳ありませんでした。スヴァンテ様が教会を放逐されるほどに奔放な淫婦に騙されていると思い込み、頭に血が昇ってしまいまして」
ベンヤミン様は三切れ目のアマイモパイを食べたあとに、居住まいを正して真剣な表情でそう言った。
「教会の公示を信じるのは、当然ですから」
苦笑いをしながら言えば、ベンヤミン様の表情がさらに引き締まる。
「ニカナ嬢が淫婦でないのだとしたら。どうして……教会を追放されたのですか?」
「う……。それは」
まっすぐに見つめられながら問いかけられ、私はどう答えていいのかわからなくなる。私の『濡れ衣』に関する事情はスヴァンテ様も知りたいところらしく、隣からの強い視線も感じた。うう、いたたまれない。
「もしかして……教会で持ち上げられてる『うさん臭い女』が原因でしょうか?」
「聖女アングスティアは、関係ないですよ」
ベンヤミン様の言葉に、私は反射的に答えてしまう。
しまったと思いながら口を押さえつつベンヤミン様を見れば、彼はにやりと笑っていた。
「俺、聖女アングスティアのことだって一言も言ってないんだけどなぁ」
「──!」
──誘導尋問にはめられた。
いや、誘導尋問未満だったな。私が間抜けなだけだ!
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