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公爵騎士様の部下がやってきました2
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「ベンヤミン。ニカナに無礼な態度を取るな。彼女は私の大事な恋人だ」
スヴァンテ様は迷うことなく、私のことを『恋人』だと言い切ってくださった。それを聞いた瞬間に、感じていた不安がふわりと和らぐ。
「はぁ? 恋人? それは淫婦ですよ!」
「ニカナが淫婦だという世間の噂は事実ではない。彼女は……清楚で愛らしい私の女神だ」
「その泥つき芋みたいな女が女神のはずないでしょう! 貴方は惑わされているんだ!」
最後の方はよくわからない方向へと話を進めるスヴァンテ様に、負けじとベンヤミン様も言い返す。
女神というのは言い過ぎだし、泥つき芋というのも言い過ぎだと思う。
『……消すか』
「大神様、ダメです!」
懲りない大神様がぽつりと言うので、私は小声で窘める。そんな私をベンヤミン様は胡乱な目で眺めた。
「淫婦の割には色気がないな。もっと美女で、凹凸がある女かと思っていたぞ」
「──ベンヤミン。ニカナに無礼な態度を取るなと、何回言わせればわかる」
スヴァンテ様の冷たい声とともにごつりと痛そうな音がしたと思ったら、ベンヤミン様は床に蹲っていた。スヴァンテ様の拳を、脳天にもらったらしい。
私はため息をついてから、蹲っているベンヤミン様を見下ろした。
「あの。ベンヤミン様が私を嫌うのは勝手です。でも、あまり騒がない方がいいと思いますよ」
大神様の怒りの波動を、頭上からひしひしと感じる。だからひとまず、お口を閉じていてほしい。
ほかでもない……ご自身の身の安全のために。
「は……?」
ベンヤミン様は、明らかに不快だという顔になる。彼がさらになにかを言い出す前に、私はそそくさと踵を返して台所へと向かった。
「お腹が空いたので、私ご飯の準備をしてきますね!」
「そうだな。ベンヤミン、話は朝食のあとにしよう」
スヴァンテ様も私のあとへと続き、ベンヤミン様はあっけに取られた様子でその場に取り残される。
「スヴァンテ様、チーズを載せたパンと野菜のスープでいいですか? ご希望があれば、デザートのアマイモのパイもつけちゃいますけど、朝からは多いですかね」
「ニカナの作るものならなんでも嬉しいし、ぺろりと食べる自信があるぞ。どれ、手伝おう。なにをすればいい?」
「では、野菜を切っていただいてもいいですか?」
調理をはじめた私は、ふとあることに気づいた。スープに入れる具材が、根菜ばかりなのだ。
「葉物が足りないので、外で野草を摘んだ方がいいですね。畑の側にココバコが生えてるので、ちょっと摘んできます」
「ああ、わかった」
スヴァンテ様に見送られつつ、私は外へと出ようと……したのだけれど。
「ひゃわっ!」
私はなにかに躓いて、つんのめってしまった。そのまま扉の外へと飛び出し、顔から地面へ倒れ込む。
「ふん。さっきのお返しだ」
ベンヤミン様のその言葉で、私は彼に足を引っ掛けられたことに気づいた。
貴方が扉で顔を打ちつけたのは、スヴァンテ様のせいなんだけどなぁ! 叩いたのも、スヴァンテ様だし! 逆恨み、反対です。
「あのですねぇ」
起き上がって文句を言おうとした私は、衣服にぽたりと血が垂れたことに気づき固まった。
うわ。打ちどころが悪かったのか、めちゃくちゃ鼻血が出てる。これは、恥ずかしいな。
「貴様……!」
スヴァンテ様が、怒声を上げるより早く。空の彼方がきらりと光った。続けて、光の矢がベンヤミン様目掛けて一直線に飛んでくるのが見える。
「お、お、お、お、大神様! ダメ!」
近頃、大神様の短気に拍車がかかっているような気が!
ここは人目がないから、その分感情の箍が外れやすいのかもしれないな!
ベンヤミン様を突き飛ばしたいけれど、それは間に合いそうにない。私は彼の前に立つと、ばっと両手を広げた。
「大神様! ダメですってば!」
私が、そう叫んだ瞬間。光の矢はかくんと進路を曲げて、少し離れた地面へと突き立った。
すると地面が、神の拳で殴られたかのように大きくへこんで抉れてしまう。そこ、畑なんですけどぉ!
スヴァンテ様は迷うことなく、私のことを『恋人』だと言い切ってくださった。それを聞いた瞬間に、感じていた不安がふわりと和らぐ。
「はぁ? 恋人? それは淫婦ですよ!」
「ニカナが淫婦だという世間の噂は事実ではない。彼女は……清楚で愛らしい私の女神だ」
「その泥つき芋みたいな女が女神のはずないでしょう! 貴方は惑わされているんだ!」
最後の方はよくわからない方向へと話を進めるスヴァンテ様に、負けじとベンヤミン様も言い返す。
女神というのは言い過ぎだし、泥つき芋というのも言い過ぎだと思う。
『……消すか』
「大神様、ダメです!」
懲りない大神様がぽつりと言うので、私は小声で窘める。そんな私をベンヤミン様は胡乱な目で眺めた。
「淫婦の割には色気がないな。もっと美女で、凹凸がある女かと思っていたぞ」
「──ベンヤミン。ニカナに無礼な態度を取るなと、何回言わせればわかる」
スヴァンテ様の冷たい声とともにごつりと痛そうな音がしたと思ったら、ベンヤミン様は床に蹲っていた。スヴァンテ様の拳を、脳天にもらったらしい。
私はため息をついてから、蹲っているベンヤミン様を見下ろした。
「あの。ベンヤミン様が私を嫌うのは勝手です。でも、あまり騒がない方がいいと思いますよ」
大神様の怒りの波動を、頭上からひしひしと感じる。だからひとまず、お口を閉じていてほしい。
ほかでもない……ご自身の身の安全のために。
「は……?」
ベンヤミン様は、明らかに不快だという顔になる。彼がさらになにかを言い出す前に、私はそそくさと踵を返して台所へと向かった。
「お腹が空いたので、私ご飯の準備をしてきますね!」
「そうだな。ベンヤミン、話は朝食のあとにしよう」
スヴァンテ様も私のあとへと続き、ベンヤミン様はあっけに取られた様子でその場に取り残される。
「スヴァンテ様、チーズを載せたパンと野菜のスープでいいですか? ご希望があれば、デザートのアマイモのパイもつけちゃいますけど、朝からは多いですかね」
「ニカナの作るものならなんでも嬉しいし、ぺろりと食べる自信があるぞ。どれ、手伝おう。なにをすればいい?」
「では、野菜を切っていただいてもいいですか?」
調理をはじめた私は、ふとあることに気づいた。スープに入れる具材が、根菜ばかりなのだ。
「葉物が足りないので、外で野草を摘んだ方がいいですね。畑の側にココバコが生えてるので、ちょっと摘んできます」
「ああ、わかった」
スヴァンテ様に見送られつつ、私は外へと出ようと……したのだけれど。
「ひゃわっ!」
私はなにかに躓いて、つんのめってしまった。そのまま扉の外へと飛び出し、顔から地面へ倒れ込む。
「ふん。さっきのお返しだ」
ベンヤミン様のその言葉で、私は彼に足を引っ掛けられたことに気づいた。
貴方が扉で顔を打ちつけたのは、スヴァンテ様のせいなんだけどなぁ! 叩いたのも、スヴァンテ様だし! 逆恨み、反対です。
「あのですねぇ」
起き上がって文句を言おうとした私は、衣服にぽたりと血が垂れたことに気づき固まった。
うわ。打ちどころが悪かったのか、めちゃくちゃ鼻血が出てる。これは、恥ずかしいな。
「貴様……!」
スヴァンテ様が、怒声を上げるより早く。空の彼方がきらりと光った。続けて、光の矢がベンヤミン様目掛けて一直線に飛んでくるのが見える。
「お、お、お、お、大神様! ダメ!」
近頃、大神様の短気に拍車がかかっているような気が!
ここは人目がないから、その分感情の箍が外れやすいのかもしれないな!
ベンヤミン様を突き飛ばしたいけれど、それは間に合いそうにない。私は彼の前に立つと、ばっと両手を広げた。
「大神様! ダメですってば!」
私が、そう叫んだ瞬間。光の矢はかくんと進路を曲げて、少し離れた地面へと突き立った。
すると地面が、神の拳で殴られたかのように大きくへこんで抉れてしまう。そこ、畑なんですけどぉ!
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