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公爵騎士様と友達になったらしいです?7

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「大神様、嵐ですか?」

 私が天に向けて返事をすると、スヴァンテ様は目を丸くする。

『ああ。その男をここに数日留め置いた方がいいかもしれないな。天気が荒れる』
「まぁ」
「大神様はなんと言っているんだ?」

 大神様と会話をしていると、怪訝な表情のスヴァンテ様が質問してくる。

「嵐で天気が荒れるので、スヴァンテ様は数日ここにいた方がよいかもしれないと」
「なるほど。しかしの女性のところに、連日いていいものだろうか……?」

 スヴァンテ様はそう言いながら、頬を赤らめた。そんな頬を赤らめるような、色っぽいことは起きないと思う。私にはそんな色気はないもの。

「送り出して、スヴァンテ様がお怪我をするのは嫌ですし。ご都合が大丈夫ならぜひいてください。あ、でも……。公爵様が数日お留守にするのは、まずいのかな」

 スヴァンテ様は公爵様で、騎士団の偉い人なのだ。数日でもいなくなれば、きっと騒ぎになるよね。

「部下や屋敷の者には、今は単独での『任務』についていると説明している。数日程度帰らなくても、誰も気にしないだろう。事情を話している部下が、嵐が過ぎたらここに来るかもしれないがな」
「それなら、大丈夫ですかね?」

 そこまで会話をしてから、私は大事なことにはたと気づいた。

「でも、我が家って寝台がひとつしかないんですよね。私と一緒で、スヴァンテ様がちゃんと眠れるかな。いびきとか、寝相とかは大丈夫だと思うのですが。いや……寝相はちょっと悪いかも」

 うん。たまに寝台から落っこちているから、寝相はきっと悪いのだろう。申し訳ないけれど、それは我慢してもらおう。

「……は? 寝台が、ひとつ?」

 スヴァンテ様の目は大きく開かれ、丸くなる。そんな彼に、私はこくりと頷いてみせた。

「台所ともう一部屋しかない狭い山小屋ですし。一緒に寝るしかないですよね?」
「いや、婚姻前の娘と共寝はまずいだろう。私は台所で寝よう」
「大丈夫ですよ。私、一生結婚しないと思いますし」
「一生……結婚しない?」
「はい。教会から淫婦と名指しされた女ですし、そういうのは無理だろうなと」

 私がそう言うと、スヴァンテ様はなぜか苦しげな顔になった。
 教会に『淫婦』と言われて放逐された女を娶ろうなんて人は、きっと現れない。
 麓の村へ買い物に行った時に、石を投げられることもあるしなぁ。一応は聖女ということで、絵姿が売られていたことが災いしたんだよね。
『平民出の聖女』に親しみを覚えて絵姿を買ってくれた人々は案外いて、村に私の顔を知っている者がいたのだ。
『聖女だと思っていたのに』『この売女』なんて言われた時には、少しばかり傷ついた。
『売女を退治する』と山小屋を襲おうとした村人もいたらしいけれど、それは私がすやすやと寝ている間に大神様によって阻止された。
 ……大神様がどんな阻止の仕方をしたのかは知らないけれど、それから『魔女』というあだ名も追加されたから推して知るべしだな。死者が出なかったのは幸いだ。

「まぁ、仕方ないですよね」

 からりと笑ってみせても、スヴァンテ様は苦いお顔のままだ。うう、まずいことを言っちゃったかな。

「まぁ、そういうことなので! 共寝でもぜんぜん平気です」

 私は話を逸らすと、ことさら明るく笑ってみせた。

「いや、そんなわけには……」
「山の夜を舐めてはダメです。床なんかで寝たら、風邪をひきます。公爵様にお風邪をひかせるわけにはいきませんし、私も風邪をひきたくないです」
「むむ」

 スヴァンテ様は、眉間に深い皺を寄せて唸り声を上げる。そんなに、私と寝るのが嫌なのかな。毎日体を拭いているし、臭くないとは思うんだけど。大神様のおかげで水は出し放題だから、体を清潔に保てるのはとてもありがたい。

「あっ、我が家には厩がないので……。大神様にお願いして、馬には守護をもらいましょうね」
「それは助かる。いや、しかしな……」

 共寝をすることへのスヴァンテ様の抵抗感は、なかなか拭えないようだ。今日は念入りに体を拭こう。
 そんな話をしている間にも、天気は怪しくなっていく。
 ぽつりと一滴の雨粒が天から落ちて、それはすぐに激しい豪雨へと変わっていった。
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