上 下
17 / 38

公爵騎士様と友達になったらしいです?6

しおりを挟む
「……本当に、すまなかった」

 スヴァンテ様はそう言うと、ゆっくりと頭を下げた。

「え?」
「教会の公示を信じて疑わず、君に失礼なことばかりを言った。君と会話をし、君の人となりを知ってからはその公示への疑念も持ったが……。しばらくの間は、教会を信じたい気持ちと目の前の事実との間で揺れていた」
「……スヴァンテ様、それは仕方ないことですよ。平民の私と教会の言葉では、そもそもの重さが違います」

 教会の存在は、この国の大半の民にとっての心の支えだ。私だって、大神様の声が聞こえず、その実態を知ることがなければ、教会に対して皆と同じく畏敬の感情を抱いていただろう。

「けれど、すまない」

 スヴァンテ様は、謝罪をまた繰り返す。本当に、真面目な人だなぁ。
 自身の行いが間違いだと知った時。こんなにも潔く頭を下げることができる人は、この世にどれだけいるのだろう。
 しかも……スヴァンテ様は貴族で、私は平民なのだ。
 ほかの人間なら、大神様の怒りを恐れて表面上だけ謝っているということも考えられる。だけど、スヴァンテ様はそうじゃない。
 スヴァンテ様がこの一ヶ月で私の人となりを知ったように、私だってこの一ヶ月で彼のことを知ったのだ。そんな人ではないと、私自身がよく知っている。スヴァンテ様のそんなところは、非常に好感が持てる。

「私は怒ったりしていませんから。謝らないでください。今は私のことを……信じてくださっているのでしょう?」

 私が微笑むと、スヴァンテ様も安堵したように笑う。けれどすぐに、なんだか複雑な表情になった。

「しかし、だ。君が無実だとなると、教会が聖女に罪を着せたということになり……その裏にはなんらかの後ろ暗い事情があるいうことになる」
「そうかもしれませんね」
「その事情のことを、君は知ってるのではないか?」
「……そうかも、しれませんね」

 私は口元に苦い笑みを浮かべる。
 教会にいるのが裏金で入ってきた偽の聖女ばかりだなんてことを知ったら、スヴァンテ様は驚き悲しむだろうな。
 現状の教会の様相を是正するぞ! なんて思いは私にはない。面倒事に巻き込まれるのが御免だという理由もあるけれど……聖女たちが偽物だと公にすることが民草にとっていいことなのか、私には正直わからないのだ。
 偽の聖女たちの『手品』を目にして、狂喜乱舞していた民衆の顔を思い出す。奇跡があると信じることが、救いになることは多々あると思う。だからあの『手品』だって、世のためには必要なものなのだろう。
 ……今の教会には、奇跡の力を本当に行使できる聖女アングスティアだっている。彼女の奇跡は、大神様のお力によるものではないけれど……。その存在は教会への恨みと我が身可愛さで『力』の出し惜しみをしていた私と違って、人々の救いとなるはずだ。
 真面目なスヴァンテ様は、本当のことを知れば『教会を正しい有り様に戻す!』なんてことを言い出しかねない。それは教会派貴族との対立を意味することで、いくらスヴァンテ様でも危険なのではないだろうか。そういう意味でも、彼に真実を告げることが正解かはわからない。だけどこの方のお立場なら、そのうち『正解』にたどり着いちゃうのかもしれないなぁ。
 黙り込んでしまう私のところに、スヴァンテ様がやってくる。そして、大きな手に手が包まれた。

「ニカナ。私のことが信用できると思った時に、すべてを話してくれないか?」

 深い色合いの黒の瞳が、じっとこちらを見つめている。そんなふうに見つめられると、少しばかり落ち着かない。

「……スヴァンテ様。信用はもうしておりますよ。信用しているからこそ、話せないことがあるだけで」
「……そうか」

 スヴァンテ様はそうつぶやくと、どこか嬉しそうな顔になる。私は『話せない』と言っているのに、どうしてそんなお顔をするんだろう。

『……嵐がくるぞ』

 ふと、大神様のそんな声が耳に届いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...