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公爵騎士様と友達になったらしいです?6
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「……本当に、すまなかった」
スヴァンテ様はそう言うと、ゆっくりと頭を下げた。
「え?」
「教会の公示を信じて疑わず、君に失礼なことばかりを言った。君と会話をし、君の人となりを知ってからはその公示への疑念も持ったが……。しばらくの間は、教会を信じたい気持ちと目の前の事実との間で揺れていた」
「……スヴァンテ様、それは仕方ないことですよ。平民の私と教会の言葉では、そもそもの重さが違います」
教会の存在は、この国の大半の民にとっての心の支えだ。私だって、大神様の声が聞こえず、その実態を知ることがなければ、教会に対して皆と同じく畏敬の感情を抱いていただろう。
「けれど、すまない」
スヴァンテ様は、謝罪をまた繰り返す。本当に、真面目な人だなぁ。
自身の行いが間違いだと知った時。こんなにも潔く頭を下げることができる人は、この世にどれだけいるのだろう。
しかも……スヴァンテ様は貴族で、私は平民なのだ。
ほかの人間なら、大神様の怒りを恐れて表面上だけ謝っているということも考えられる。だけど、スヴァンテ様はそうじゃない。
スヴァンテ様がこの一ヶ月で私の人となりを知ったように、私だってこの一ヶ月で彼のことを知ったのだ。そんな人ではないと、私自身がよく知っている。スヴァンテ様のそんなところは、非常に好感が持てる。
「私は怒ったりしていませんから。謝らないでください。今は私のことを……信じてくださっているのでしょう?」
私が微笑むと、スヴァンテ様も安堵したように笑う。けれどすぐに、なんだか複雑な表情になった。
「しかし、だ。君が無実だとなると、教会が聖女に罪を着せたということになり……その裏にはなんらかの後ろ暗い事情があるいうことになる」
「そうかもしれませんね」
「その事情のことを、君は知ってるのではないか?」
「……そうかも、しれませんね」
私は口元に苦い笑みを浮かべる。
教会にいるのが裏金で入ってきた偽の聖女ばかりだなんてことを知ったら、スヴァンテ様は驚き悲しむだろうな。
現状の教会の様相を是正するぞ! なんて思いは私にはない。面倒事に巻き込まれるのが御免だという理由もあるけれど……聖女たちが偽物だと公にすることが民草にとっていいことなのか、私には正直わからないのだ。
偽の聖女たちの『手品』を目にして、狂喜乱舞していた民衆の顔を思い出す。奇跡があると信じることが、救いになることは多々あると思う。だからあの『手品』だって、世のためには必要なものなのだろう。
……今の教会には、奇跡の力を本当に行使できる聖女アングスティアだっている。彼女の奇跡は、大神様のお力によるものではないけれど……。その存在は教会への恨みと我が身可愛さで『力』の出し惜しみをしていた私と違って、人々の救いとなるはずだ。
真面目なスヴァンテ様は、本当のことを知れば『教会を正しい有り様に戻す!』なんてことを言い出しかねない。それは教会派貴族との対立を意味することで、いくらスヴァンテ様でも危険なのではないだろうか。そういう意味でも、彼に真実を告げることが正解かはわからない。だけどこの方のお立場なら、そのうち『正解』にたどり着いちゃうのかもしれないなぁ。
黙り込んでしまう私のところに、スヴァンテ様がやってくる。そして、大きな手に手が包まれた。
「ニカナ。私のことが信用できると思った時に、すべてを話してくれないか?」
深い色合いの黒の瞳が、じっとこちらを見つめている。そんなふうに見つめられると、少しばかり落ち着かない。
「……スヴァンテ様。信用はもうしておりますよ。信用しているからこそ、話せないことがあるだけで」
「……そうか」
スヴァンテ様はそうつぶやくと、どこか嬉しそうな顔になる。私は『話せない』と言っているのに、どうしてそんなお顔をするんだろう。
『……嵐がくるぞ』
ふと、大神様のそんな声が耳に届いた。
スヴァンテ様はそう言うと、ゆっくりと頭を下げた。
「え?」
「教会の公示を信じて疑わず、君に失礼なことばかりを言った。君と会話をし、君の人となりを知ってからはその公示への疑念も持ったが……。しばらくの間は、教会を信じたい気持ちと目の前の事実との間で揺れていた」
「……スヴァンテ様、それは仕方ないことですよ。平民の私と教会の言葉では、そもそもの重さが違います」
教会の存在は、この国の大半の民にとっての心の支えだ。私だって、大神様の声が聞こえず、その実態を知ることがなければ、教会に対して皆と同じく畏敬の感情を抱いていただろう。
「けれど、すまない」
スヴァンテ様は、謝罪をまた繰り返す。本当に、真面目な人だなぁ。
自身の行いが間違いだと知った時。こんなにも潔く頭を下げることができる人は、この世にどれだけいるのだろう。
しかも……スヴァンテ様は貴族で、私は平民なのだ。
ほかの人間なら、大神様の怒りを恐れて表面上だけ謝っているということも考えられる。だけど、スヴァンテ様はそうじゃない。
スヴァンテ様がこの一ヶ月で私の人となりを知ったように、私だってこの一ヶ月で彼のことを知ったのだ。そんな人ではないと、私自身がよく知っている。スヴァンテ様のそんなところは、非常に好感が持てる。
「私は怒ったりしていませんから。謝らないでください。今は私のことを……信じてくださっているのでしょう?」
私が微笑むと、スヴァンテ様も安堵したように笑う。けれどすぐに、なんだか複雑な表情になった。
「しかし、だ。君が無実だとなると、教会が聖女に罪を着せたということになり……その裏にはなんらかの後ろ暗い事情があるいうことになる」
「そうかもしれませんね」
「その事情のことを、君は知ってるのではないか?」
「……そうかも、しれませんね」
私は口元に苦い笑みを浮かべる。
教会にいるのが裏金で入ってきた偽の聖女ばかりだなんてことを知ったら、スヴァンテ様は驚き悲しむだろうな。
現状の教会の様相を是正するぞ! なんて思いは私にはない。面倒事に巻き込まれるのが御免だという理由もあるけれど……聖女たちが偽物だと公にすることが民草にとっていいことなのか、私には正直わからないのだ。
偽の聖女たちの『手品』を目にして、狂喜乱舞していた民衆の顔を思い出す。奇跡があると信じることが、救いになることは多々あると思う。だからあの『手品』だって、世のためには必要なものなのだろう。
……今の教会には、奇跡の力を本当に行使できる聖女アングスティアだっている。彼女の奇跡は、大神様のお力によるものではないけれど……。その存在は教会への恨みと我が身可愛さで『力』の出し惜しみをしていた私と違って、人々の救いとなるはずだ。
真面目なスヴァンテ様は、本当のことを知れば『教会を正しい有り様に戻す!』なんてことを言い出しかねない。それは教会派貴族との対立を意味することで、いくらスヴァンテ様でも危険なのではないだろうか。そういう意味でも、彼に真実を告げることが正解かはわからない。だけどこの方のお立場なら、そのうち『正解』にたどり着いちゃうのかもしれないなぁ。
黙り込んでしまう私のところに、スヴァンテ様がやってくる。そして、大きな手に手が包まれた。
「ニカナ。私のことが信用できると思った時に、すべてを話してくれないか?」
深い色合いの黒の瞳が、じっとこちらを見つめている。そんなふうに見つめられると、少しばかり落ち着かない。
「……スヴァンテ様。信用はもうしておりますよ。信用しているからこそ、話せないことがあるだけで」
「……そうか」
スヴァンテ様はそうつぶやくと、どこか嬉しそうな顔になる。私は『話せない』と言っているのに、どうしてそんなお顔をするんだろう。
『……嵐がくるぞ』
ふと、大神様のそんな声が耳に届いた。
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